11章:我がひとりぼっちだと!?
さて、ぼんやりしていたら試験当日になったわけだが…まぁ、我の力があればスバリオたちに力の差を見せつけるのも容易いだろう。
我ながら楽観的だとは思うが、所詮は試験だろう。貴族が試験の対象である以上、死の危険などないはずだ。
と、なれば、我にとっては楽勝な試験内容になるに違いない。むしろ、退屈に終わってしまわないかを心配するべきだ。
「あらフォルク、あくびなんかして随分と余裕ではありませんか?」
スバリオが挑発するように笑いかけた。
「ふん、貴様らとは話してやらん」
「あらまぁ、自分から勝負を言い出したのにいじけるなんて子供ですわね。別に仲間はずれにしたくてしたわけじゃありませんことよ?」
後ろからシデルがやって来て、言葉を続ける。
「そうですよ師匠、今回は師匠との戦いですから、せめて良い戦いになるようにいっぱい勉強したんです!」
「ふんだ、こっちは1週間ヒマで仕方なかったのだぞ!?」
ウィケとトレンもやって来た。
「ヒマなのはーこっちも同じー。フォルクと剣術稽古したいのーすっごく我慢したんだよー?」
「で、でも、トレンさんの指導のおかげで、弱い私でも、少しは戦えるようになりました」
トレンはしかめっ面だ。剣術稽古、本当にガマンしたのだろうな。
ウィケの方はいつもより自信ありげだ。トレンの奴、相当真面目に指導したな。
なんだなんだ、我を差し置いて充実しやがって。
だが、やはり、この5人が落ち着くな。ぜひにとも四天王に任命したいところだ。
そのためにも、こやつらの練習の成果とやらを真正面から打ち砕き、力の差をわからせなければな。
先生から声がかかる。
「皆さん揃いましたので、ダンジョンへと向かいたいと思います。」
果たしてダンジョンは、魔法学校のはずれにあった。
周りに木がうっそうと茂っている。舗装されていない獣道を進むと、巨大は洞穴が顔を出した。
「この洞窟は、王城の地下に繋がっています。王城地下は特別な魔法結界が貼られていまして、非常に頑丈であり、また入るたびに構造が変わります」
先生は続ける。
「今回は王宮の魔法使いたちの協力のもと、ダンジョンの構造を皆さんにあった形に変更しています。命の危険がない程度に魔物も配置されています。万が一のことがあれば救助の準備もできています。安心して、しかし油断せず取り組んでください」
先生の説明が終わると、王宮魔導士のデイスが皆の前に立ち、話を続けた。
こうして見るのは入学式以来か。
いかにも魔術師然とした格好に長く白い髭が目立つ。
帽子はツバが大きく、デイスの体に影を落としている。しかしその奥で光る目は強い生気に溢れていて、老いを感じさせない。
胸には不思議な造形のアクセサリーをつけている。時計をねじったかのような、いや、ねじれた時計を正しい形に戻そうとしているかのような不思議な形だ。
「この度の試験準備を指揮しましたデイスです。皆さんとは入学式以来ですね。」
デイスは生徒を見回す。ふと、その視線に哀れみに似た感情を感じた。何故だ?
「この試験では、2人1組となり、5分毎に1組ずつダンジョンに入ってもらいます。ダンジョンは5分ごとに構造が変化する仕組みですので、組ごとに違った試験を受けることになります。とは言っても、難易度に差はないように作っていますので安心してください」
さらにデイスは続ける。
「ダンジョンに魔物が配置されておりますが、魔物よりダメージを受けてしまうと減点なので気をつけましょう。ダンジョンを踏破すれば、転送魔法により入り口に戻されます。説明はこんなところにしましょうか。」
デイスは帽子を取り、頭を下げながら宣言した。
「これより試験を開始します。皆に良き運命があらんことを」
かくして試験がスタートしたが、問題が起きた。生徒の人数は奇数。すなわち1人だけ組が組めないのだ。
さてどうしたものかと考えていると、周りが次々とペアを決めるではないか!
これはいけない、また我だけひとりぼっちになってしまう!
スバリオの方を向いてみる。
「シデル、よろしくお願いしますわね」
「任せてください王女様」
なんということだ、すでにシデルとペアを決めているではないか!
ならばとトレンの方を向いてみる。
「よ、よろしくおねがいします!」
「きんちょーしないでー、気楽にいこー」
トレンのやつ、ウィケとペアを組んでいる!
ふとトレンたちと目が合った。
あっ。
そう、聞こえた気がした。
トレンたちは目線を逸らした。
おのれおのれ!確かに感じたぞ、哀れみの目線を!
どうすればいい、これでは我はまた1人になってしまう!
周りを見合わしてみる。
皆ペアを組んで、1人で立っている我の方を見ていた。泣きそうだ。
「見ているがいい!僕、フォルクは、このダンジョンに1人で挑戦するぞ!」
思わず強がってしまう。
周りが感嘆の声を上げるなか、スバリオだけが笑いをこらえ、トレンたちはなんとも言えない表情をしていた。
スバリオ…あいつめ、許さんぞ…
かくして、我は1人でダンジョンに潜るハメになったのだった。