幕間4:談義、魔王を倒すのは誰か?
「フォルク、今日の予定は空いていまして?」
「なんだスバリオ、談義の誘いか?」
「ええ、シデルやウィケ、トレンも誘って、いかがかしら?」
わたくし、フォルクと語らうのが大好きですの。
フォルクはまるで勇者の息子とは思えない貪欲さで、様々な知識を欲しますの。
その貪欲さは、勇者というより...そう、むしろ魔王なのでは、そう思う時があるくらいですのよ。
新しい知識を披露すると、フォルクは驚き、眉をひそめ、意見を披露し、知識を自身の血肉とする。
フォルクから貰った祝福に、何かを返せているようで…わたくしにとって談義の場は幸せのひとときなのです。
そんな談義の場に、わたくしがフォルク以外の人を招くことは滅多にありません。
たまに民間の知識が欲しくてトレンを招く、くらいですわね。
そうそう、少し前にフォルクに頼まれて、シデルを場に招待したことがありましたわね。
そんな場にみんなをお誘いするのは、理由がありますの。
ーーー
「スバリオが談義に来て欲しいそうだ。午後2時、空いているか?」
「おー!珍しいねー、いつものスバリオなら、フォルクとの談義を邪魔すると怒るのにー?」
スバリオがみんなを談義に誘うーって、とーっても珍しいー、どうしたんだろー?
そう思いながらー、フォルクに抱きついてみるー。
フォルクはー眉をひそめながらーわたしをはらったー。
つれないなー、フォルクはー。
スバリオもーわたしもー、お互いに伝えたことないけどー、けれども両方が知ってるー。たぶんねー?
2人ともフォルクのことがー、大好きなんだってー。たぶんだよー?
なんでたぶんだってー?
だって聞けないじゃーん!
聞いちゃったら後にはひけないじゃーん!
まあねー。
フォルクってー粗暴なとこがあるけどーいいやつだからさー、1回惚れたら抜けられないよねー。
そんなスバリオにとってのー幸せひとときが談義だよー、みんなを誘うなんてほんとーめずらしー。
ーーー
「…今日の談義はフォルク様も参加なさるのですよね?」
「もちろんだ」
「わかりました、参加させていただきます」
「僕も参加します!師匠と王女様の談義、今度こそついてきて見せます!」
「その意気や良し。だが、今日の談義は多分大した内容ではあるまいよ」
「そう、なのですか?」
シデルさんと一緒にお食事をしていたところに、フォルク様があらわれて、談義へのお誘いを受けました。
スバリオ様は王女様、語らいなんておそれおおい、そう思いつつもフォルク様もいらっしゃるならと、参加の意を伝えました。
シデルは楽しそうにいいます。
「王女様と師匠の談話はすごいんだよ!知識の洪水って感じなんだ!この前は王国の財政問題について話していて、ボク目が回っちゃった!」
「えと、そうなのですか?では私たち、相応の準備をした方が良いのでしょうか?」
「どうかな?前参加した時はボク飛び入りだったからね。師匠も常に難しい話なわけじゃないって言っていたし、準備は不要だと思うよ?」
シデルさんの提案のもと、準備をせずにスバリオ様の部屋に向かうことにしました。
ーーー
「構わぬが、他の皆はどうする、もう午後2時開始だと伝えているぞ?」
「今から私が伝えに行きますわ、だからフォルクは自室でゆっくり待っていてくださいまし」
フォルクに嘘を伝える。おそらくフォルクのことだ、わたくしの嘘に勘付いているでしょう。
果たしてフォルクは、わたくしの嘘を飲み込んで去っていきましたわ。
これで、1時間はフォルクのいない時間ができますわね。
そうしてわたくしの姿はゆらめき、影へと消えた。
自室でわたくしは目を覚ます。
今のは分身。わたくしが密かに研究している闇魔法。
魔法学校を卒業してしまえば、わたくしはただのスバリオではなくなってしまいますわ。
王女として立場がある。昔から自由には過ごせなかったし、卒業すれば元に戻る。だから、お城の中にいたって、誰かと会うことができるように。
大切な誰かと会う時間を作るために、わたくし研鑽は惜しみませんのよ。
コンコン、ドアをノックする音が聞こえる。
「どうぞ、はいってらして」
「きたよースバリオー」
「王女様!まいりました!」
「スバリオ様、ごきげんうるわしゅう」
トレン、シデル、ウィケが入ってくる。
「好きなようにお座りくださいな。わたくしはお茶とお菓子を用意いたしますわ」
「わーい、お茶菓子ー」
「王女様いけません、ボクに任せてください!」
「どうか構わず座っていてくださいな。魔法学校は自立心を養う施設なのですから、これくらいは当然ですのよ」
「あの、ではお言葉に甘えさせていただきます」
お茶菓子を用意して皆の前に置く。
ウィケは恐縮しっぱなしですわね。もっと遠慮しなくてもいいのに。
シデルは落ち着きがありませんわね。椅子に座ったと思ったら、周りを見回して本の山に感嘆としていますわ。ふふ、まるで子供のよう。
おっといけない。わたくしたちはまだ子供でしたわね。
トレンはいつも通り…いえ、少し緊張しているようですわ。わたくしが何を話したいか、わかっているようですわね。
わたくしは話し始める。
「このたび、わたくし宣戦布告いたします」
「宣戦布告?」
シデルが不思議そうに返した。ウィケは体が強張る。トレンは目を細めた。
「わたくし、フォルクをお慕いしておりますわ」
ーーー
あーあーあー、スバリオが言っちゃったー。
いや、スバリオの性格上は言わなきゃ気が済まないだろうねー。
王女特権フルに活用すればいいのになーって、そう思うんだけどさー、スバリオはー実直だからねー。正々堂々勝負したいんだよねー。そういうところがー素敵なんだけどねー。
「せ、宣戦布告とは、一体どういうことでしょうか?」
あらー、ウィケったらとぼけちゃってー。
気付いてるよー、フォルクに憧れの目線を向けてることー。あの目は、恋に変わるにはそう遠くないーってわかるよー。
「正々堂々、戦うという意味ですわ。立場や権力に頼らず、フォルクを射止める戦いを」
スバリオは、ズバッと言うねー。すごいよー本当にー。
けれど、けれどね?
気付いてるかなー。宣戦布告以上に大切なことにさー?
ーーー
宣戦布告。スバリオ様は確かにそういいました。
私、ウィケは…フォルク様に憧れていました。
勇者の息子にして公爵様、そしてその美貌。
外側だけを見て憧れていました。
でも、魔法学校で共に歩んで知りました。
少し粗暴な面があること。
優しいことと、誰かのために怒れること。
私を、対等の友人として見てくれること。
短い時間でしたが、憧れが恋情に変わるには十分でした。
でも、私なんかがフォルク様に釣り合う存在なのでしょうか?慕い思うだけでも迷惑なのではないでしょうか。
スバリオ様は私の心を見透かすようにおっしゃった。
「ここに呼んだのは、フォルクが意識を向けた異性ですわ。」
フォルク様が、私に意識を向けている?
「幼い頃からの付き合いですもの。フォルクは簡単に人に興味を持ちませんわ。すなわちフォルクの友たるあなたを、フォルクはとても気に入っていますのよ」
フォルク様が…。
ああ、フォルク様。
私は、頬が熱を持つのを感じて、思わず顔を抑えた。
私、ウィケは、あなたを、お慕いしております。お慕いしております。お慕いしております。お慕いしております。お慕いしております。お慕いしております。お慕いしておりま…
ああ、いけません。感動で想いが溢れてしまいました。
ーーー
ウィケちゃんの雰囲気が重く変わってボクはびっくりした。
というか、ここにきてずっとびっくりしっぱなしだ。
師匠を、お慕いしている?宣戦布告?
ボクにはよくわからない。
でもボクはこの場に呼ばれている。きっと王女様は、ボクにも宣戦布告している。
ボクは、師匠をどう思っているのだろう?
もちろん、尊敬しているよ?
ボクの失礼な決闘に付き合ってくれたり、先生たちの手伝いをしていたり。
ウィケちゃんや王女様、トレンを見ればわかる。師匠は尊敬に値する存在だし、ボク自身もそう思っている。
正直、恋だの愛だのはよくわからない。でも、わかることが1つある。
師匠に、フォルクに言われた言葉だ。
「貴様の瞳と髪の毛、まるで風のようだ。なびく様は実に美しい」
あの時、ボクは心によくわからない気持ちを感じた。
あの気持ちが、恋とか愛ってこと?
わからない。わからない。
でも、宣戦布告ってことは、勝てれば師匠を、フォルクを独り占めできる?
だったら、ボクだって戦う!
「ボクだって…ボクだって師匠を独り占め、したいです…!」
ーーー
「では、この宣戦布告を受けてくれたと言うことでよろしいですわね?」
「は、はい!」
「王女様、負けるつもりはありません!」
仲間意識ー、少しの緊張ー、そんなものが空間に溢れてるー。
けれど、けれどね
「みんなさーだいじなこと、忘れてないかなー?」
「あらトレン、なにかありまして?」
すがすがしい顔したスバリオー。まあーそうだよねー。
わたしはー、立ち上がって両手を広げてみるー。
「わたしさースタイルに自信あり!って感じなんだよねー」
「そ、それは、そう、ですね」
ウィケは真っ赤な顔をー、これ以上真っ赤になるのっ!?ってくらい真っ赤にしてるー。
おもしろーい。
「でねー、抱きついてみたんだよーフォルクにさー」
「な、なな、なんてハレンチな!?」
シデルにはこういう話は早いかなー?
さっきの独り占め宣言ー、1人だけ場違いな感情って気付いているかなー?
恋!って年にはまだ早いかもー?
「フォルクー、無反応だったなー。眉をしかめたくらいかなー?」
重い沈黙が走るー。
この後に続く言葉を理解したんだろーねー。スバリオが冷や汗かいてるー。
珍しー。
「こんなこと言いたくないけどー、今のフォルクはー女性に興味ないのかもー?」
わたしはー深ぁい溜息をついたー。
だってさー、自分でもこんなこと言いたくないよー。
「誰もフォルクに選ばれない可能性ーってやつも考えないとねー」
かくしてースバリオの宣戦布告はー幕を閉じたのだったー。
めでたくなし、めでたくなし。