幕間3:昏い森の獣
わたしはねー、勇者一行の戦士バルトーと、僧侶のレリーの間に生まれたんだー。
名前はトレンって言うんだよー。
2人の間に生まれたこと、そのことはねー、すごく誇りに思ってるんだよー?
2人とも私のことをねー、とっーても愛してくれているしねー。
けれど、けれどねー?
だから満足するってわけじゃーないんだよねー。
わたしはー、平民の生まれなんだけどー、友達と遊んだりー、近所のおばさんたちと会話したりー、お家に帰ってお母さんと一緒にお料理したりー。
そういうの、ぜーんぶつまらないんだー。
いや、楽しいよー。楽しいんだよーそういうのもねー。
なんだろうなー?
わたしがー森だとするとねー、そのいちばーん深い場所のー、昏いくらーい獣がねー、暴れたくてしょうがないんだってー。
ちっさな頃から自覚があるんだー。
わたしはねー、きっと酷いことをしてしまうーって。それが怖くてたまらなかったんだー。
でもねー。あの人との出会いがねーわたしを変えたんだー。
あれは7歳の時だったかなー。
お父さんとーお母さんにー連れられてねー、貴族たちが住んでいる区画にーお邪魔しすることになったんだー。
そこで出会ったのー、夜空のようにうつくしーい、フォルクにねー。
なんでも勇者の息子だってことで、お友達になれないかなーってことで会わせたみたいー。
わたしの両親もー、わたしのおかしいところになんとなーく気づいていてー、普段の友達と違う何かがあればー、そういうのが治るかもーって期待してたみたいー。
「貴様がトレンか、噂はかねがね聞いているぞ?」
「よろしくーフォルクー。噂ってどんな噂かなー?」
「ふん、とろけた話し方しよってからに。貴様の剣術の腕だ。すでに大人に勝てるくらいには強いらしいじゃないか。さすがは、勇者一行の娘ということか」
「お褒めあずかりーありがとー。でもー、お父さんにはまだ勝てないなー」
「同年代相手に力試ししたかったところだ。早速、稽古と行かないか」
「いいねー、わたしも遊びや勉強よりーそっちの方が好きー」
そうしてねー剣術稽古で遊ぶことになったんだけどー、フォルクってばー、とーっても強いんだー。ぜーんぜん勝てなくってさー。
「トレン、貴様、手を抜いているな?」
「そんなことないよー」
「嘘だな、貴様の奥底の獣は暴れてたがっている」
「っ…どういうことかなー?」
「とぼけるな、我…じゃなくて僕は人を見る目には自信があるんだ。貴様は実力を隠している」
はじめて、そう、はじめてー他人に気づかれたんだー。わたしの中の獣のことー。
「…いいのかなー?」
「いいに決まっている。つまらないぞ?、自分を抑えて生きるのはな?」
「…実感こもってるねー」
「なに、勇者の息子は大変なのさ」
本当にいいのかなー?
お父さんにも、お母さんにも、隠してきたことー、フォルクにむけてしまっていいのかなー
いいに決まってるよー、だってー、ずっとずっーと我慢してきたもんねー?
いいって言ってるんだよー、相手が、ね?
「こい、トレン」
「ありがとー、フォルクー」
一瞬目の前が暗くなったなーっておもったらさー、次の瞬間にはフォルクが血を流して倒れていたんだー。
あーあー、やっちゃったーって思ったよー。
いつかやるーって思ってましたー。
悲しいなー、ほんとの自分を出していいって思えたのに、それで人を傷つけちゃったー。
あー、お父さんお母さんが走ってくるー。
フォルクのお父さんたちも一緒だー。
もういっそ、処刑になったりしないかなー。貴族を傷つけた罪とかでさー?
「待て!父上!」
フォルクが立ち上がって叫んだ。
血を舐めながら不敵に笑う。
「素晴らしいぞ!トレン!そうとも!勇者一行の娘ならそうじゃなくてはな!
ははは、最高だ!僕は勇者に稽古つけてもらってるんだぞ?それを!虚をついたとはいえ一瞬で倒した!素晴らしいぞ!」
なんて楽しそうなんだろー、そう思ってぼけっとしてたら、剣を構えてフォルクが突撃してきたー。
思わず受けると、顔が真正面に来てねー。すーっごく近くだよー?
フォルクがこう言ったんだー。
「貴様の獣、実に美しい!」
「えっ…」
「もっと見せろ!」
そこで剣術稽古はおしまーい。
大人たちに止められたからねー。
お父さんとお母さんがいろいろ謝っている間、わたしはねーポーッとしてたよー。
だってねーすっごい美少年がねー、目の前で美しい!、だっていうんだよー!
これがー、恋に落ちちゃったってやつー?
怪我させちゃったのは、フォルクが許したからことなきを得たよー。
それどころか、フォルクがわたしのこと気に入っちゃってー、定期的にこいだってー!
それからねー、定期的に遊びに来てるのー。
そんな中でスバリオとも知り合ってー、お友達になったんだー。
スバリオはいい子だよー?
でもさー、私の心の獣が囁くんだー、倒せーって?
本能でわかっているんだー。中の良い友達になれても、本質は敵同士だってー。
ライバルに差はつけられたくないよねー。
だから頑張ったんだよー?
フォルクと一緒にいたくてさー、魔法学園の試験もパスしたんだー。
なんとか試験合格した時の、お父さんとお母さんの喜びようったら、すごかったなー。
これでようやくフォルクと一緒だーって思ってたのにさー、フォルクのやつー、新しい友達を作ってるんだよー?しかも2人もー。
しかもしかもー、どっちも女の子でーす。
しかもしかもー、どちらも可愛いでーす。
ふーざーけーるーなー!!
わたしにー美しいってーいったじゃーん!?
新しい友達が増えるのはー、とーっても嬉しいことだよー?
けれど、けれどねー?
ライバルが増えるなんて聞いてないよー!?