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07章:決闘?実に面倒だ!

ウィケの派閥ができてからしばらく。

授業が終わったのち、特に予定のない暇な午後のことだった。

たまにはゆっくりしようかと、学園の庭でぼんやりしていると、声をかけられた。


「勇者の息子フォルク」


鬱陶しく思いつつ声をかけられた方を見ると、シデルが立っていた。

空色の瞳と髪。片目は隠れて見えないが、その視線には、変わらず強い敵意が見てとれる。

髪は足まで届かんとするほど長く、風になびいていた。


「お前に決闘を申し込む」

「はあ?」

「決闘だといっている」

「いきなり何を。大体、決闘がなんなのかわかっているのか?」

「言われなくてもわかっているよ!」


イライラした様子でシデルは叫んだ。

ゆっくりしたいときに面倒が過ぎる。イライラしたいのは我の方だ。


シデルとやら、我に対抗意識を燃やすのはいい。だが決闘はいただけない。

決闘とは、貴族間の揉め事を解決する制度だ。互いの誇りとメンツにかけて引けない時、戦いによって雌雄を決する。

敗北は貴族によって最大の恥辱であり、現在では決闘が行われることなどほとんどない。


シデルは平民であり、我は公爵だ。

決闘の性質上、「平民からの決闘の申し込み」そのものが侮辱とも受け取られかねない。


周りで聞いている人がいると、シデルの立場が非常に不味くなる。

急いで周りを見回すと誰もいないようだ。

これで少しは安心だな。


「助けは来ないよ、この時間帯にこの庭に来るのは君くらいだ」

「助けなど不要だ、しかし…」

「しかし…なに?、公爵の立場を利用して、侮辱だなんだといって決闘から逃げるの?ボクがそんなこともわからないと思ってるわけ?」


我が逃げる?

なんだその言い草は。貴様の立場を気にしてやったのだというのに…

面倒も過ぎに過ぎてどうでもよくなってきた。こいつが話すままに任せようか。


「勇者の息子フォルク。入学式の挨拶を王女様から奪って出しゃばったな?

魔法の授業では、王女様を踏み台にして恥をかかせた挙句、適当な出まかせでズルしたな?

最近ウィケちゃんを盾にして、派閥を広げようともしている」


ポケッと聞き流す。

なるほどなるほど。我の行動は、何も知らぬものから見ればシデルの言うように見えるかもしれない。


「ボクは君みたいな、権力をかさにきるやつが大嫌いだ。」

「それが決闘の理由か?」

「そうだ、ボクの力で君と言う人間を更生させてやる」


シデルから見た我の行動は、全て悪い方に取られているみたいだな。

こうも悪く取られるとそれはそれで面白いが、いつまでも誤解されても面倒だ。


「いいだろう、決闘を受けようシデルよ」

「ようやく覚悟を決めたか、勇者の息子」

「くだらない誤解は解かねばな、我の...僕の覇道の邪魔になる」

「くだらない誤解だと!?、これだけのことをやって悪びれもしないなんて、君は魔王みたいなやつだな!」


ふん、魔王がなんたるかも知らぬ小娘が、我が正体を言い当てるとは面白い。偶然だろうが。

ならば、もっとも心折られるであろう方法で相手してやろう。


我は立ち上がり、シデルと向かい合う。

シデルは汗をかきつつ、後ろへ下がった。


「決闘の内容は魔法対決だ。勇者の息子、引くなら今のうちだぞ!」

「引くものか、さぁ撃ってみるがいい」

「っ…後悔するなよ!」


シデルが手をかざし、力を込める。


「創世の天、高き旋風、風よ、全てを切り裂く風よ、中級風魔法ウィンラ!」


逆巻く風が我に襲いかかる。

我はそれを...何もせずに受けた。

肉を裂く烈風は、しかし皮膚を撫で切る程度にとどまり、消えた。

シデルは驚愕し、怯えた表情で叫んだ。


「何をやっているんだ!、どうして反撃しない。ボクが本気で魔法を使ってたらどうするつもりだ!」

「貴様のような度胸なしが、人に向けて魔法を撃てるはずがあるまいて」

「どど、度胸がないだと!?、ボクは…」

「ほうら、だっだら全力で撃ってみろ」

「くっ…卑怯だぞ勇者の息子フォルク!」

「何が卑怯なのだ?、ほれほれ撃ってみろ」


シデルは歯軋りして手をかざすが、震えたかと思うと力無くうなだれた。


「何もしないなら、こちらから行くぞ」


そう言って我はシデルの方に歩を進める。

シデルはそれに気づくと、小さく悲鳴を上げた。


「っ!、ひっ!?」

「…闇魔法…」


そう言って我は右腕に力をこめる。逆巻く闇の奔流が、我が腕に走る。

シデルはとうとう涙目になって、後ずさった。


「わ、あ、いやだ」

「…げんこつ!」


我はシデルの頭に、そこそこ強めのげんこつをみまってやった。

げんこつを喰らったシデルは、何が何だか分からずクラクラしているようだ。


闇魔法、げんこつ。

魔力を腕にまとって、相手をビビらせつつ普通にたたく。

四天王同士の諍いを治めるために我が編み出した必殺技よ。


「貴様の負けだ…シデル」

「う…」

「よって、我...僕の言うことをなんでも聞いてもらう!」

「なっ、そんなこと!?」

「僕の行動を変えるつもりだったのだろう?、敗北の代償はこれくらいでなければな。」

「く、何をさせる気だ、悪行の手伝いはできないぞ!」


くく、今度は悪行と来た。

どうやらシデルとやらの心の中では、我のイメージがとんでもない膨らみ方しているな。


「まぁ聞け、これから1週間、僕に付き従え」

「…それだけ?」

「貴様も馬鹿ではあるまい、僕の行動を近くで見れば、くだらぬ誤解も取れるだろう」

「誤解だと!王女様を愚弄しウィケちゃんを…」

「だまれ敗北者」

「う…」


こうしてシデルが、我らが派閥に体験加入することになった。


「よ、よろしくお願いいたします!王女様!」

「シデル、かしこまらなくて良くてよ」

「フォルクも大変だねー、シデルもこれを機に誤解が解けるといいねー」


スバリオとトレンは、顛末を聞いて笑ってシデルを歓迎した。

ウィケだけはちょっと不服そうだ。


「シデル様、フォルク様はシデル様が思うような人ではありませんよ」

「しかし、彼は勇者の息子の威光を…」

「それが誤解なのです、近くで見ればきっとわかります」


シデルが付き従って1日目。


今日の授業は実に退屈だったが、いつも通りスバリオが突っかかってきたおかげで寝ずに済んだ。


「勇者の息子フォルク」

「なんだ、シデル」

「王女様はいつもああなのか?、フォルクの前ではまるで、気安い友達のように振る舞っていらっしゃる」

「いつもああだぞ?」

「…」

「ははーん、自分の誤解に気付いたな?、王女を侮辱しているーとかいっていたものな」

「!?、いや!、それは」

「良い良い、理解が早くて助かるぞ」


シデルは付き従って2日目。


シデルがポカンもしている。それもそうか。我とトレンの剣術稽古を見たなら、そのレベルの高さにほうけるのも当然と言うもの。

我もトレンも、5才になるころには周りの大人が相手にならなかった。

剣術において越えられない壁が父親だという共通点もあり、互いにライバル視するまでそう時間はかからなかったな。


「今日も楽しかったーフォルクありがとー」

「貴様はその集中力を授業でも活かせ、寝てばかりじゃないか。先生方が困っているぞ」

「あははー、どうしても眠くなっちゃうんだー」


おずおずとシデルが手を挙げる。


「あのートレンさん」

「トレンでいいよー?何かなー?」

「今のは、もしかして決闘なのでしょうか?」


トレンは目をぱちくりさせた後、笑って答えた。


「違うよー、稽古稽古。あーでも、決闘でもいいかもねー、わたしもーフォルクになんでも言うこと聞いてほしいなー」

「やめろ、貴様の獣はまだ僕の手には余る」

「どうかなー案外余裕かもよー?」


シデルの顔が赤くなっている。それもそうだろう。


トレンの剣の一振りは、もはや魔法と言っていい威力だ。

我がトレンの剣戟を受け流すと、後ろの木々が倒れたりもする。

余りに危険すぎて、学校側から観客なし・場所指定の指示が出るほどだ。


シデルは自分の申し出た決闘が、その決闘の内容が、我らの稽古にすら満たない子供の遊びだと気がついてしまったようだな。


「そう縮こまるな、貴様の才能も大したものだ。僕らより3つも年下なのに、よくやっている」


そう励ますと逆効果だったようで、キッと睨まれてしまった。

その様子を見て、トレンはけらけらと笑っていた。


シデルが付き従って3日目。


「フォルクくん、いつも悪いわね」

「先生、お気になさらず」

「シデルさんも。先生とっても助かっちゃうわ」

「いえボクは…」


今日は授業の準備が忙しそうだったので、先生に手伝いを申し出た。

シデルは何故か申し訳なさそうにしているな。


「申し訳ありません、先生。このように生徒たちのために準備しているのも気付かず、ボクは自分のことばかりしていました」

「いいのよ。それが普通なのだから。本当は先生もフォルクくんに甘えるの、良くないんだけどね」

「先生は気になさらず。僕が好きでやっていることです」


シデルに担いでいる的を見せて説明した。


「目を凝らしてよくみろシデル。このマトには魔法陣が刻まれているのがわかるだろう」

「そのようだけど…」

「これは光魔法による、マトの強度を上げるための魔法陣だ。生徒の攻撃で簡単に傷がつかないようになっており、軽い修理を施せば何度でも使える」

「へぇー、そんなことが」

「僕もただ手伝っているわけではない。全ては己が力を高めるためなり、だ」


先生がうんうんと頷いた。

シデルの目つきから、敵意がなくなってきてるのがわかる。

これで少しは誤解も解けたか。


シデルが付き従って4日目。


ウィケと一緒に他派閥との交流会に参加した。

ウィケの目標である、「仲間たちと共に歩む」は案外早く達成できそうだ。

何せ派閥にスバリオとトレンが入ったのだからな。我も含めて、あらゆる生徒が無視できない存在になっている。

そんな派閥が歩み寄るのだ。対立ではなく融和を選ぶのは当然だろう。少なくとも表向きはな。


「あの、今日はありがとうございました、フォルク様にシデル様も」

「何、気にすることはないさ」

「シデル様、お分かりになりましたでしょう?フォルク様は素晴らしい方だと」

「...様はいらない。シデルでいいよ」


素晴らしい方か。なかなかむず痒いが、まぁ悪い気はしないな。

シデルは続けて、バツ悪そうに答える。


「そう、かもしれない。ボクが色眼鏡で見ていたのかも…」

「うふふ、誤解がとけたようでウィケはうれしいです」


遠くから、ウィケといさかいのあった娘、ダリアの呼ぶ声が聞こえる。

すっかり友達に戻れたようだな。我も安心だ。


「申し訳ありません、これからダリア様と少し用事がありますので...シデルさん、是非これからも、私たちの派閥をよろしくお願いしますね」

「あ、考えとく…」


シデルが付き従って5日目。


今日はスバリオとの談義の日だ。魔法学校に入学して距離が近くなってからと言うもの、スバリオは我をよく談義に誘うようになった。

スバリオと知識量はずば抜けている。この王国の地理に歴史、果てはどこのパン屋が美味しい、あそこの家族は新しく子供が生まれた、など。

勉強漬けだった我でも太刀打ちできない。学べる知識はともかく、どうやったら井戸端会議で出るような話まで覚えていられるのか、全く訳が分からない。


だからこそスバリオとの談義は楽しい。

いずれ魔王として覇道を歩むうえで庶民のことも知っておかねばならないし、実に有意義な時間なのだ。


肝心のシデルは目を回しているようだ。

まぁ、本気のスバリオの知識には、勉強漬けの我ですらついていくのが困難だ。仕方あるまいよ。


「…今日の談義は以上にいたしましょうか」

「む、今日はいつもより短いな、どうした?」

「あなたのお弟子さんが目を回していますから」

「は…はひ…いちゃみいりましゅ…」


シデルのやつ舌も回ってない。ついていこうと躍起になって、知恵熱を起こしたと言うところか。


シデルが付き従って6日目。


今日は特に予定がない。

シデルに決闘を申し込まれた時のようにぼーっとする。


「フォルク…は今日は何もしないのかい?」


シデルが不思議そうに聞いてきた。


「我...僕は常にセコセコ動くのが嫌いだ。たまにはのんびり休憩するのも良いだろう」


全く、勇者の息子に期待をかける馬鹿者どものおかげで子供の頃は勉強漬けだったが、今はそのおかげで、こうしたおだやかな時間が手にはいる。

なにせ、周りの生徒のように宿題などに追われる心配がない。

感謝…はしたくないが、無駄ではなかったな。


「いいじゃないか。風を感じてゆるりと過ごす。そんな自由があってもよい」


ふと、シデルを見る


「な…なんだ!?」

「貴様の瞳と髪の毛、まるで風のようだ。なびく様は実に美しい」

「な、ほ、褒めても何も出ない!です!?よ!」


はは、動揺しているな、面白い。


シデルが付き従う最終日。


「さて、今日で最後だが誤解は解けたかな?」

「ボクが間違っていた...あなたは勇者の息子にして公爵に恥じない立派な方だった」

「そこまで言うか?」


ウィケに褒められた時のように、なんだか居心地が悪い。

考えたら我は、家族以外の人間には、ろくに褒められたことなかったな。

勇者の息子だから当然だと見られていた。


生まれ変わる前は物心ついた時から一人だった。

四天王に出会ってからは色々言われたが、彼女らが我の家族のようなものだった。

そう思うと対等な友達を持つ今の我は、あの頃より恵まれているのかもしれないな。


「...ではな、シデル」


感傷に浸ってしまって居心地が悪くなった我は、さっさと去ろうと足早にその場を後にした...しようとした。


「待ってください!」


シデルが大声で我を呼び止める。

なんだ?、今は周りに人もいる。騒ぎは避けたいのだが。


「…フォルク様、ぼ、僕を弟子にしてください!」


…はぁ!?今なんて言った?


「フォルク様と過ごして自分の弱さと浅さに気がつきました。あなたのもとで魔法学校に恥じない人物になりたいのです!お願いします!」


なんと、こいつ本気らしい。

敵意を折るつもりが、折りすぎて反転してしまったようだ。


「お願いします!どうかこの通り!」

「まて、ここは周りが見ている!、土下座はやめろ!?」

「やめません!弟子入りさせてください!」

「いいからやめろ!」

「やめません、はいと言ってくれるまでずっと付き従います!」


シデルは頭をこすりつけんばかりに、いや実際にこすりつけて懇願した。

こんなところを先生に見られたらエライことになる。

というか、周りに生徒がいる以上確実に噂は広まる。


「わかった、わかったから。弟子にするから頭を上げろ!」

「...っ、やったー!」


シデルは両腕を空に突き出し、大声で喜んだ。

それとは対照的に、我はうなだれることになった。


全く、余計面倒なことになったぞ!

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