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だから私は!!  作者: 海蛇
第一章.グラフチヌスの揺り籠編
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#8.てきはぜったいゆるさない


 ダンジョン最深層。

細道を抜けた先は、それまでとは明らかに異なる広いフロアの連続。

そうしてそこには、強大な悪魔(アークデーモン)死神(デス)などが待ち受け、たどり着いたPTメンバーらの魂を無慈悲に刈り取ろうとしていた。


……刈り取ろうとしていたが、狩られた。


「お前ほんと強ぇのな」

「ふふん! 私にかかれば上級悪魔だろうと死神だろうと路傍(ろぼう)の石ころだ!」


 どのような強大な敵であろうと、セシリアは容赦なく蹴散らしていった。

大体の敵は一撃、たまにしぶとさを見せるゴーレムなどが現れても数発叩きこめば沈む。

一応シェルビーもダガーで注意そらしくらいは貢献していたが、ほとんどセシリアが単独で撃破していた。


「普通のダンジョンでもPT一つが壊滅的な被害受けるって言われてるような敵もいますのに……」

「セシリア様はつよいからもんだいない」


 自慢げに胸を張るセシリアと、その真似をして同じポーズを取る名無し。

まるで姉妹のごとき同じポーズに、シェルビーとシャーリンドンは顔を見合わせ「気にしないようにしよう」と互いに頷き合った。


「……この国の騎士ってのは、皆あんたみたいな感じなのか?」

「いいや? 私と互角に戦える者はいるが、私より強い者はいないな」

「マジか、同じくらい強いのがまだいるのか……」

「同じ貴族出身とは思えませんわ……」


 呆れたように「やれやれ」と手を振るシェルビーに対し、シャーリンドンは悲しみに満ちたような表情になっていた。


「まあ、私の家は代々騎士の家系だからな。門外不出の鍛錬方法もあるし、門外不出の剣術もあるから強いのは当たり前だ」

「お前の家の人、皆お前みたいな感じなん?」

「いいや? 亡き父以外は皆非力な女性だな。私には妹がいるが、これも腕力より頭脳担当だからな」

「ふーん……」


 そうはいってもゴリラが如きパワータイプのセシリアと比較してなので、シェルビーはうわべだけ頷きながら「でもそいつもどうせ準ゴリラなんだろ」と心の中で突っ込むことにしていた。


「そんな事よりシェルビー、この辺りには罠らしい罠はないのか? ずっと止められることなく前に進んでるが、これでいいのか?」


 細道を抜けここにたどり着くまでの間、一行は戦闘時以外ほとんど止まることなく歩き続けていた。

合間合間で小休憩を挟み、その際に仮眠という形で交代で休息していたが、ここに至るまで罠関連で足を止めた事はほとんどない。

セシリアの疑問も仕方ない事で、他のメンバーも皆、シェルビーを見ていた。

だが、当の本人は手をひらひら、「いんだよ」とこともなげに突き放す。


「罠らしい形跡、なし。俺の勘も全く働かねえ。経験上、こういう場所には罠は置かれ難いし、な」

「どういう事だ?」

「ここにたどり着くまで、お前は何回モンスターと戦ったよ?」

「細道を抜けてからか? 10回から先は覚えてないな」

「いやそれくらいは覚えろよ……まあ、つまり、だ。戦闘回数がめっちゃ増えてる」


 指を一つ二つと次々折って伸ばしし、三十を超えたあたりで指を止めた。


「今ので33回目だ。多分、普通のダンジョンならとっくに終わってるか、全滅してるくらい潜ってこれだぜ?」

「何が言いたいんだ?」

「このモンスターとの戦闘回数そのものが、入り込んだPT殲滅する為の仕掛けみたいなもんなんだよ。モンスターハウスってほどじゃあないが、進めば進むだけ苦戦して疲弊して徐々に戦力が削られやがて全滅する……っていうな」

「確かに、セシリアさんが一瞬で蹴散らしてるから今一実感が湧きませんでしたけれど、数えてみるとかなりの戦闘回数でしたのね」


 唇に指を当てながら、思い出すようにして頷きだすシャーリンドンに「そうだろ?」とシェルビーもにやりと口元を歪める。


「経験上、こういう場所に罠なんか仕掛けねえ。ダンジョンの罠はモンスターも引っかかるようにできてるのがほとんどだからな」

「ジャングルパークのように、罠にかけてからモンスターにとどめを刺させるという思考にはならないのか?」

「ならねえみたいだな。少なくともダンジョン作る奴らはそういう風に考えるらしい。今までの俺の経験通りなら、だが」


 実際今まで罠なんてなかっただろ、と付け加えられると、セシリアも「確かにな」と頷かざるを得ない。


「勿論、経験にない事も起こるだろうから警戒するに越したことはねえ。だから周りの警戒はしてるんだ。だが、今のところそれらしいもんは何もねえ」

「現状、今のスピードで前に進んでしまって構わないという事か」

「そういうこったな。ほんとにやばかったら止めるけど、お前なら多少の罠はノーダメで突っ切れるだろ? 俺は後ろのメンバー守りながら、複数湧いた時やバックアタックの警戒しとく方がいいだろうからな」


 多くのPTが苦戦するであろう相手を一撃で葬り、相手の攻撃をものともせず、かつ自動で回復していくセシリアは、恐らく斬首や爆発などの致死級のトラップや、シイタケや石化の呪いなどの呪い以外は気になるまい、というのがシェルビーの判断だった。

注意すべきポイントが変わった、という事でセシリアも納得し「そういう事なら」と微笑み、また前を向く。


「……終わりが近いのかもしれないな」

「ああ、俺もそんな感じがするぜ。それも、今までと違った感じの、な」


 何が起きるのか解らない。

けれど、何かが起きようとしているのを、彼も感じ取っていたのだ。


「ま、適度に恐れながら、適度に警戒しながら、お前さんのペースで進むといいさ」


 最強の前衛がいる。

これほどの安心感はないのだと、彼は思っていた。

自分が仕事に専念出来て、役目を全うできる状況が用意されていることは、とても幸運な事なのだから。

ただ、周りを警戒し、後ろの奴らを守ればいい。

彼にしてみれば、やることが解り切った実に解りやすい仕事だった。


「ああ、そうさせてもらうとしよう」


 難しいことなど考える必要はない。

ただ、前に進み、踏破する。

その役目を果たすという意味では、セシリアは最良の前衛だった。

モンスターが何するものぞ。

ただ前に進み、蹴散らしていけばいいのだから。

そしてその足元に、PTに危険を及ぼす罠が、存在しないのだから。





 そうしてPTは、ドアの前にたどり着いた。

広いフロアの終着点。分岐一つない一本道の最後の最後。

妙に飾り気のある、可愛らしいデザインのドアが、洞窟の終わりにあったのだ。


「……シェルビー」

「ああ。触るなよ。俺に任せろ」


 何か危険な気配が漂い、セシリアもシャーリンドンも、名無しすらもが息を呑む中、シェルビーは指をこきりこきりと鳴らし、ドアへと慎重に触れてゆく。


「触感、よし。本物だな。罠らしい罠は……感じられねえ。でも、近くに立っているだけで、妙な感覚を覚えるぜ。これは……」


 ううむ、と、小さく低い唸り声をあげながらドアノブの周りを指でさするようにして……やがて、軽く撫でてからそっと離れる。


「……」

「……?」

「どうかしましたの……?」


 一瞬、ここに来る前に見たドアと同じ罠かと身構えたセシリアとシャーリンドンは、しかし、何事も無く、そして黙り込むシェルビーに不思議そうに首をかしげていた。


「解らん」

「なに……?」

「えっ?」

「何か妙な気配はするんだが、何があるのかが解らん」


 自身も首をひねりながら、不可解な感覚に眉を下げ、苦そうな面持ちになっていた。


「こんなことは経験にねえ。話にも聞いたことがねえ。だから、何が起きるのか全く解らん」

「君がそんな事を言うなんて、意外だな」


 呟くように吐いた弱音とも受け取れる言動。

セシリアが返すと「だーっ」と、恨みがましそうに睨みつける。


「仕方ねえだろ! 俺にだって解らねえもんはある! こうなったら後はもう……」

「もう?」

「蹴破るしかねえな!!」

「力技ですの!?」


 まさかのパワープレイであった。

これにはセシリアもシャーリンドンも驚きを隠せない。


「だって解んねーもんよ。最善を考えるなら、セシリアが蹴っ飛ばして即回避に入るのが一番安全だと思うぜ? 俺だと俺の回避が間に合わないと死ぬかもしれねえし、傷の手当てでシャーリンドンがヒール使っちまったら、復活や帰還はもう使えなくなっちまうしな」


 自動回復があるセシリアが開けるのが一番、という考えらしい。

ここまでの彼らしからぬ大雑把な意見ではあるが、セシリアは「なるほど解りやすい」と、ドアの前に立って片足をあげる。


「あっ、ちょっ待っ……俺らが退避してからっ」

「うらぁぁっ!!」

「ばっ、早ぇよ!?」

《どごぉんっ》


 本来ならば全員安全な場所に立ってからセシリアに任せるところだったが、一言足りなかった。


『きゃーっ、突然なによぉっ!?』


 そしてドアが吹っ飛んでいった先から、女の悲鳴のようなものが響いた。


「何かがいるようだぞ?」

「マジかよ。セシリア流索敵術はすげえなあ」

「いいなそれ、採用しよう」

「新しい技ができたね」


 皮肉でつけた変技名が即採用され、シェルビーは疲れを感じながら「そうかよ」と受け流す。


「あの、ドアの先に居るのって……」


 そうして皆でそっとドアの先を(うかが)い、様子を見ると……吹っ飛んだドアが足元に転がり、困惑する女の姿が見えたのだ。


「頭に角、背中に翼の生えた女……サキュバス、か?」

「あれって実在する奴だったん?」

「サキュバスってその……物語の中の悪魔とかですわよね?」

「天から落とされた神の魔物の1柱」


 即座にその正体にあたり(・・・)を付けるセシリアもだが、サキュバスについて即把握できている名無しには、シェルビーもシャーリンドンも「おお」と驚きの声をあげた。


「よく知ってるなあポーターちゃん」

「物知りですのねえ」

「ふふん! ボク物知り☆」


 二人から褒められ、名無しは大層ご満悦な様子だった。

目からはシイタケの如き光を湛えている。


『あのー……そんなところでわいのわいのやってないで、入って来てくれないかしら? 吹っ飛ばされたドア見てるだけなの結構つらいんだけど?』


 そうして、中に居る女――サキュバスから声を掛けられ、一同は顔を見合わせてからそろそろと入っていった。




「よくここまでたどり着いたわねえ! すごいわ! 今回は何人で挑んだの? 何人死んだ?」


 中に入ってからの第一声がこれであった。

緊張感、まるでなし。

街娘のごとききゃいきゃいとした甲高い声に、耳のいいシェルビーは耳が痛くなるのを感じた。

先ほどまでとさほど変わらぬ広いフロアである。声はよく響いた。


「最初は三人、途中からこの子が入って四人だ。一人も死んでないぞ」

「おおー、すごい! やるわねえ! 結構途中で即死しちゃうような罠も仕掛けたのに!」

「罠はこの……斥候の彼が優秀だったからな。おかげでここまでこれた」

「シイタケは?」

「それはこのプリーストの娘が……リカバリーで治せたからな」


 物語上の魔物かどうかはともかく、ダンジョン最深層の一番最後で待ち受けていたのがあまりにもフレンドリーすぎて、一行は警戒心が抜けそうになってしまっていた。

服装も時代がかってはいるもののちょっと小奇麗な街娘くらいにしか見えないし、口調も緩いしで、まるで街に戻ったかのような、酒場で酒の一杯もひっかけながら興味津々に聞いてくる街娘の質問に答えているかのような気分にさせられるのだ。

だが、「リカバリーで」と聞いて、サキュバスも「うん?」と首をかしげる。


「なんでリカバリー? あんなもので治せるはずないじゃない。だってシイタケよ?」

「いやだって、それで治ったし」

「実際助かったしなあ」

「きっと神様に私の祈りが届いたんですわ!」


 懐疑的なサキュバスに、名無し以外の三人はそれぞれ反論するが、サキュバスは今一釈然としない様子で「まあ、それならそれでいいわ」と雑に放り投げる。

あくまで話題の一つ程度でしかないらしく、深く気にするような事でもないらしい。



「――こほん、ま、前振りは置いといて」


 それまでのきゃいきゃいとしたミーハーな雰囲気はさておき、サキュバスは咳をつき、話をスライドさせてゆく。


「知ってるか知らないけど、私はサキュバス。名はローレンシアと言うわ。かつて運命の女神と対立せし魔神様に仕えた、神の魔物の1柱よ」

「本当にサキュバスだったのか」

「実はそうと名乗ってるだけの可哀想な街娘だったりしねえ……?」

「運命の女神さまと対立した、神の魔物……!!」

「むん……」


 その正体を知り、その名を聞き、PTメンバーらの反応もさまざまであった。

先につけたあたりが正しかったのだと認識し、警戒するセシリア。

冗談であってほしいと、やや現実から目を背けながらも警戒するシェルビー。

物語の中の魔物を思い出し、かたかたと震え涙目になりながら杖を前に名無しをかばおうとするシャーリンドン。

そして名無しはというと……妙にやる気に満ち溢れていた。

その眼は闘志に満ちている。


「おー、一応私の事知ってる人多いのねえ。私ってば意外と有名人?」

「我が家の伝記にも残っているからな、サキュバスがいかに危険な魔物なのか、というのは」

「ふーん、そう。でも安心していいわよ? 私は戦う気なんてないの。魔神様と共に反乱を起こした際に勇者にボコボコにされて、とことんまで力削られた上に天から落とされて。もう戦う事なんて無理無理~」


 もういやんなっちゃう、と、手をフリフリ、頭をフリフリ、フリルの多めについたスカートから垂れている尻尾もフリフリする。

なよなよしい、なんともか弱そうな仕草で、ダンジョン深層にでもいなければ思わず見逃してしまいそうな、そんな様相であった。


「お前がこのダンジョンを作ったのか?」

「そうよー? この世にいくつもあるダンジョンの内、半分くらいは私達神の魔物が産み出したものだわ。目的は様々でしょうけど~」

「あんたがこのダンジョン作った目的って?」

「入り込んだ人の精力をかすめ取って日々の食料にするくらいかしら~」

「き、危険な事を企んでたりとかは……」

「そんな事目論んでないわ~、私はもう、毎日のご飯食べられればそれで十分だもの~」

「嘘をつくな淫魔」

「……」


 のらりくらりとメンバーの問いに答えていったローレンシアだったが、名無しの言葉にはぴく、と耳をこわばらせる。


「なあにこの子~? お姉さん可愛い女の子は好きだけど、辛辣が過ぎない? 嘘なんてついてないんですけど? ご飯欲しくてちょっとずつかすめ取ってるだけなんですけど?」

「でも危険な事は目論んでる」

「……証拠は~?」

「お前がサキュバスっていうだけで危険」


 いつになく雄弁で強引な論調だった。

けれど、それだけで不思議と、緩んでいた緊張感が引き締められていくように感じられ、他の三人も武器に力がこもる。


「ま、この子がそう言うなら……その通りなんじゃって気はするわな」

「ああ、出会ってばかりのサキュバスよりは、ずっといる仲間の言う事の方が信頼できる」

「ポーターちゃんが嘘をつくはずありませんもの! それに、女神様に歯向かった貴方が安全なはずがありませんわ!!」


 覚悟しろ、と、警戒心をあらわにするPTメンバーたち。

ローレンシアは「あーもう!」と目をぎゅっと閉じながら翼を拡大させ、宙に舞った。


「ほんとに戦うのキツイんだけど! 地上に落とされてから数万年経つのに全然回復してなくてキツイんですけど! 戦う気満々じゃ話が進まないじゃないもーっ!!」

「そうか死ね」

「こいつがラスボスなら余力残す必要はねえな。俺も援護するぜ」

「ポーターちゃんは私が守りますわっ」

「みんながんばれ」


 相手も戦う気を見せた。

ならば敵である。

瞬時にスイッチを入れたセシリアは宙を舞ったローレンシアに斬撃を飛ばし、シェルビーも翼に向けダガーを投げつける。


「ぴぃっ!?」

《ばーん、どさっ》

「ひぎぃっ!? 痛い痛い痛いぃぃぃぃっ!!!」

「弱っ!?」

「なんだこれは……どういうことだ」


 一撃で沈んだ。

正確にはダガーと斬撃の同時ヒットで転落し床に叩きつけられ、涙目になって悶えていた。

これには緊張感に身を浸していたメンバーらも困惑を隠せない。

ダンジョンの最奥に潜んでいた神の魔物などという大仰な相手が、物語の中の凶悪な魔物が、こうまで容易く(たお)れたのだ。


「うぅ、痛いよぉ。なんでこんな話聞かない奴らばっかりなの……戦う気なんてないのにぃ……」


 なんとか起き上がるも、涙目になり目をぐしぐしと撫でつけながら抗議するローレンシアに、セシリアはなんだか申し訳ない事をした気分になってしまっていた。


「すまない……本当に戦う気がなかったとは思わなかった」

「ていうか神の魔物とか名乗っといてこれって……下手したらシャーリンドンより弱いじゃねえか」

「私基準ですのっ!?」

「確かにシャーリンドンより弱い」

「ポーターちゃんっ!?」


※シャーリンドンはセシリアの斬撃を耐えられません。


「だから、力の大半削られちゃってるんだってー……えぐっ、企んでたは企んでたけど、そんな人の命削る様なものじゃないしぃ……」


 被害者仕草はとても上手なサキュバスだった。


「大体、精力だって活動に支障ないレベルしか吸い取ってないもの……冒険中に性欲が湧かないようにするくらいしかやってないもの……誤解よぉ! サキュバス差別よぉ!」


 大変人畜無害なサキュバスだった。


「サキュバスは信頼できない」

「ポーターちゃんが言うなら間違いないな」

「やはり殲滅すべき敵……!!」

「泣いて嘘をついてましたのね……!」

「なんでその子の言う事は無条件で信じちゃうの!? 貴方達ちょっと怖くない!?」


 すぐに再び武器を取り出す三人に、ローレンシアはぶわっと泣きながら抗議する。

その様に、また毒気が抜かれてしまう三人。


「ふえぇぇぇんっ、私まだ悪い事何もしてないのにっ! そりゃ死んだ冒険者の魂とか奪いつくして滋養にしたりしてたけど生きてる冒険者に直接何かしたりしてないのにっ! そこそこお金になるような宝だって道中沢山用意してあげたのにーっ」

「確かに宝箱の中身はまあまあいいものもあったな。外れも多かったが」

「こんなに清算が楽しみなダンジョンは生まれて初めてでしたわ」

「そうでしょっ? そうでしょっ? 美味しい思いだってさせてあげたのに、あんまりじゃなーいっ」


 ひどいわひどいわ、と、被害者仕草を続行するローレンシアに、メンバーらも囲み合って「どうするんだこれ」と悩み始めてしまう。

名無しも今はもう謎の戦闘モードを解除し、面倒くさくなり始めて地面にお絵描きを始めていた。


「うっわえぐいの描いてる……これまずいわ、早く用事言わないと殺される奴だわ」

「……?」

「用事ってなんなん?」


 そしてローレンシアはそれを見てか泣くのをやめ、謎の独り言を呟きだし、泣くのをやめていた。

つまりウソ泣きである。



「こほん……ともかく! 私は戦う気なんてないの! 私がここにいるのは、ここまでたどり着いた人たちにご褒美をあげるためなんだから!!」

「ご褒美、だと?」

「ダンジョンを踏破すると、ごく稀に願いを叶えてもらえる謎の装置があったり、そういう神様だとか悪魔だとかがいるって話は聞いたことがないかしら?」

「それは、まさか……」


――当たりのダンジョン。

ローレンシアの言葉からメンバーらが連想するのは、まさしくそのワードだった。

そして彼女が「その通りよ」と、ウィンクしながら服についた汚れやほこりをぽんぽんと払い落してゆく。尻尾も使って器用に後ろもはたく。


「神の魔物としての私が司る分野は『欲望』。人間の持つ欲を、私は叶えることができるの」

「つまり、願いを叶えられるとか、そういう事か?」

「そうなるわね。勿論、欲望を介したものでなくては無理だから、世界平和とか願われても無理ーってなるけれど」


 手をひらひらさせ、ゆがて人差し指を立てて見せる。


「例えば、『絶対に届かないと思っていた夢を叶えたい』でも、内容によっては叶うわ」

「……ほう」

「または、『平凡だけれど慎ましやかな願望』も、おおよそ叶えられるでしょうね」

「ふぅん、そうなのか。俺は違ぇけど」

「あるいは……そうねえ。『素敵な殿方と結ばれて幸せな結婚生活を送りたい』とかでも叶うわよ? それなら今すぐ叶えられるわ」

「えっ!? な、なんで……いやっ、あのっ、あわわわ……」


 一つ例を出される度に増えてゆく指。

その度にセシリアが、シェルビーが、シャーリンドンが、思い思いの反応を見せてゆく。


「勿論お嬢さんの夢も、ね?」

「……信用できない」

「だからー、なんでそんなにサキュバス敵視するのよぉ! ほんとだってー! 私ならそれくらいできるってー!!」


 もう彼女にとっては名無しは恐怖の対象のようになっているらしく、敵視をやめてくれない名無しに怯える様な表情を見せながら「そんなだからー」と、無理やり話を進めてゆく。


「貴方達の、叶えたい願い、お姉さんに聞かせてみなさい?」


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