#57.このままほろびちゃう?
「――なんつーか、嫌な予感がピリピリと肌に伝わってくるダンジョンだなあ?」
廃都758510は、古の都市を思わせる遺跡系のダンジョンである。
地下階層への入り口のある表層部分は、磨き抜かれた大理石の道の中、いくつもの古めかしい建物が、今も崩落せずに残り続けていた。
「表層は魔物の存在などもなく、遺跡調査団などもよく訪れる、『よくある遺跡系』なんだけどな」
「ああ、そうらしいな? こういうとこによく住み着くガーゴイルすらいねえから、手入れも行き届いてるんだろうぜ?」
その表層を歩くのは、シェルビーとセシリアの二人だけだった。
攻略の為ではなく、あくまで表層の安全を確かめるための簡易的な偵察。
動く石像『ガーゴイル』に襲われるとシェルビーではひとたまりもないからと、安全のためにセシリアもついてきたが、一通り見た結果、どうやらその心配も無いらしいと、周囲を見ながらひとまずは安堵し、今は帰り道だった。
……内心では、肌を刺すような感覚に緊張感を抱きながらも。
「新規に張られたトラップなどは?」
「んー? いや、地下への入り口付近にいくつかあるが、死ぬようなもんじゃねえ」
「ダンジョンマスター的な者が仕掛けたものかな」
「どうだろうな? 罠自体はそんな難しいもんじゃねえから、『来れるなら来てみな』って挑発か、それとも『罠張ってるんだから来ないでくれ』っていう拒絶か……」
「ふふっ、結局突破して見ないと解らないのか」
「神の魔物がいるなんて情報聞いてなきゃ、もうちょっと判断のしようもあるんだけどなあ」
面倒くさいぜ、と、手をフリフリ、判別ままならぬ状況に難儀を覚えながら、シェルビーは周りへと視線を向ける。
人影、なし。魔物の気配、なし。
だが、地下からはぴしりぴしりと、怖気のような、「これ以上進むな」という本能的な感覚がずっと伝わっていた。
「――何かが起きてるのは間違いねえ。だが、俺たちがこれに関わっていいのか、場合によっちゃ、無理せず退いた方が……」
「君がそう思うならそうしようか?」
「……いや……すまねえ」
セシリアは、シェルビーの不安そうな顔を、気弱から来る怯えとは思わなかった。
セシリアから見て、シェルビーとは頼りになる男である。
プロ意識が強く、任された事は絶対にこなして見せる、ミス一つなくこなせる、信頼のおける仲間だった。
その彼が、進むことより退くことを進言するなら、それは無視すべきではないと、そう思ったのだ。
申し訳なさそうに目を伏せる彼を、セシリアは笑う気にはなれなかった。
「大丈夫さ。もしかしたら『今は』ダメなのかもしれない。機が満ちていないのかも」
「そう思ってもらえるなら助かるわ。でも、今行ったら……なんか、取り返しのつかねえことになりそうな気がするんだ。何の根拠もねえけど、今度ばかりは、さ」
「君がそう思うならそうなんだろう。ああ、一旦退がろう」
無理する事はないさ、と、その肩をぽん、と叩き、速足で帰路を進む。
本当は、呪いに関する情報の一つも、少しでも早く知りたいに違いないだろうに。
気持ちが逸ってもおかしくないのに自身の提言を聞き入れたリーダーに、心底申し訳ない気持ちになりながら、それでも「ありがとよ」と、シェルビーは心の中で礼を言った。
「――ふんっ、久方ぶりに天使どもと戦ったが、思いのほか被害を受けた、か」
地下、古戦場跡にて。
神の魔物スケアクロウ率いる軍勢は、これに対し警戒に乗り出した天使たちと鉢合わせ、これを撃破することに成功していた。
相手方は少数。だが率いていた古参の大魔族らは少なからぬ被害を受け、ここからの激戦による被害を、図らずも彼らに想像させていた。
「元より、被害は覚悟の上のはず。このままでは魔族は斜陽。魔神を復活させるしか、我らに手立てはないのだ!」
「そうさスケアクロウ、今更、退くなどと言うまいな?」
スケアクロウに続く魔族たちにとって、天使との戦いは、端から分の悪いものであった。
神界を守る戦力として創造された天使は、個々が上位悪魔らを遥かに上回る力を持つ。
純粋であるが故に聖なる光の奇跡を最大効力で連射できる。
悪しき者を問答無用で浄化できる光の剣も扱える。その上で聖典奇跡である。
油断すれば神の魔物ですら討ち取られかねない相手が集団で来るのだから、魔族らではどうにもならない。
「ははは、各々役目を解っているのはすばらしいな。なあ? スケアクロウ」
「……解っておるわ。退くつもりなどない。事、行動に起こしてしまえば、最早」
影は笑う。黒づくめの顔が、けれどその場の誰にでも愉快そうに見えた。
若干腹立たしくもあるが、この場における彼は頼りになる実力者である。
事実、先ほどの戦いで天使たちを最も多く倒したのも、この男であった。
かこん、と、杖を突き、スケアクロウは「進むぞ」と声をあげる。
「ついていけぬと思えば好きに離脱するがよい。その先に、魔族の未来があるというなら、それもよかろう」
先に進む彼の言葉に、魔族らは誰一人反発せず、その後に続く。
そう、魔族にはもう、後などなかったのだ。
「――始まったか」
一方その頃、最深部にて。
巨大な光の輪の中で、夜の空のような空間が、まるで凪いだ海のように揺れていた。
地上にあって唯一の、神界との接点。
この他には天空よりの時空の裂け目を突破しなければ決してたどり着けない神界の、地上における最終防衛ラインがここにあった。
ここに控えるのは、天使長をはじめとする、天使が30名ほど。
これが神々を除く、今の神界の最大戦力である。
「ですが天使長。本当によろしいのですか? 我らからは彼らの動きは把握しやすい状況にあります。今ならば、こちらに優位な状況で仕掛けられるはずですが」
「仕方ないのです。運命の女神様は、それを望んでいないのですから」
「運命の女神様が……それでは、仕方ありませんね」
「ええ、仕方ないのです」
困ったお方、と、その場にいない至上の神を思い、天使たちは揺れる想いを抱く。
なんとしても守らねばならぬ方ではあったが。
同時に、戦場を知らぬ楽天家のようにも思えてしまっていたのだ。
何せ、先の魔神との戦いでは、今代の運命の女神は、一度たりとも戦ってはいない。
全て先代の運命の女神が取り計らい、そしてその戦いを指揮したのだ。
今代のあの娘は、魔神との戦争の終盤になって、後を任せられる形で運命の女神となり、勇者達に戦う力を授けたに過ぎない。
確かに力こそ先代と遜色ない、あるいはそれ以上を感じさせるものではあったが、圧倒的な経験不足と明らかな楽観が見られる、いささか不安に感じられる主だったのだ。
その認識が、天使たちの間で広がっていた。
「防衛に徹すれば、負けることはない。けれど、我々の被害は間違いなく増える」
「我らを新たに創造する目途でも立っているのでしょうか? 警戒部隊は全滅しました。後の残りは、ここにいるだけですのに」
「……増やしていただける目途はないわね。それどころか、我らの清浄化すら必要とお考えよ」
「なんてこと。これだけ神界に尽くしていて、その末にクレンジングとは」
「なんと恐ろしい。流石は魔神様の……」
「それ以上はならぬ」
口々に不満を述べる天使らに、けれど天使長は静かに制する。
天使らは一旦はそれで口をつぐむが、「けれど」と、一人が声をあげると、また不満そうな目を向けていた。
「クレンジングはあまりにもむごい。我らにも『個』があってもよいはずです」
「我らに『個』などあるから都合が悪いというなら、それではなぜそのようにお創りになられたというのか」
「そも我らは大天使様の複製人形に過ぎず。だというのに、何故大天使様と全く同じにお創りになられなかったのか」
「ああ、クレンジングは恐ろしい。私は、今初めて恐怖を覚えてしまいました」
「こんなにも恐ろしい事を考えるだなんて、運命の女神様は」
「それ以上はならぬ」
再び制止を促した天使長に、今度こそ天使らは黙りこくるが。
各々が持つ光の剣は、酷く揺らめき、強いブレが起きていた。
これは、天使たちの心から純粋さが失われつつある事の証左。
(確かに……我らには、クレンジングが必要なのかもしれない)
運命の女神の言葉は絶対であった。
何より正しい。何より間違いがない。
実際こうして見れば自分たちには既に『我欲』が芽吹き、不満という形で育ってきてしまっていた。
神であるならば、人間ならば、魔族ならば許される欲が、天使には許されない。
その純粋さが故に戦力足りえた彼女たちは、今、目に見えて弱体化し始めていた。
そうした情動全てをかき消し、元の純白に戻すクレンジングは、必要だったのだ。
だが、運命の女神はそれをしなかった。
その気になればすぐにでもできたものを敢えてその選択肢をこちらに委ねたのだ。
「何故?」と考え、天使長はすぐにその答えに気づく。
(恐らく運命の女神様は、私たちのような古いタイプの天使が、不要とお考えなのだ……だから、ここですりつぶすつもりで……いけない!)
思えばこそ、不安は心の中を塗りつぶそうとしていた。
高度な精神耐性を持つ天使と言えど、心の中に一度生まれた疑念は、いや、確信ともいえるその苦悩は、芽吹いたばかりの『心』に強い動揺の波を与えていたのだ。
(……我らは、ここで……死ぬ、のか?)
増援の目途、無し。
今の戦力が最大限活用されたならば、スケアクロウの軍勢など大したものではない。
正面から戦いを挑めば、勝てるはずの相手だった。
だが、今の自分も含めた天使たちは、精神的に大きく動揺が見られる。
この状況では、勝てるはずの戦いも勝てないと、そう思えてしまっていた。
その先にある死。
本来天使には何とも思わぬはずの、あくまで結果として起きるだけの出来事なのにも関わらず、天使長は、死について考えようとしてしまっていた。
それが、より大きな不安を引き寄せるのだと、解ってはいたのに。
「――何をやっている」
地上で最後の決戦場、その後始末の際に、一人だけ変な事をしている敵がいた。
特徴的な角と翼、尻尾を除けば、小奇麗な街娘くらいにしか見えない、神の魔物。
数多くの神々と天使、魔神と神の魔物とが入り乱れての戦場だったのに、その敵は逃げるでも抗うでもなく、跪き、何かをしていたのだ。
敵である自分を前に、背を向けたまま。
後ろから狙い放題。いくらでも攻撃できた。
だが、何かを狙っている様子もない。不思議な気持ちになったのだ。
疑問。その時にはもう、彼女は情動を覚えてしまっていた。
「ん。お墓を作ってあげてたのよ。『安らかに眠りたい』っていうから」
「……なんだと?」
「天使の子よ。さっきまで私と戦ってたの」
「バカな。天使がそんな事を言うはずがない。ましてお前などに。神の魔物などに」
「敵だから?」
「そうだ」
「それはおかしな話ね」
ふふ、と笑いながら、その神の魔物は小さく振り向き、にぃ、と口元を歪めた。
子供っぽい悪戯げな顔で、けれど、とても綺麗な顔立ちをしていた。
邪念などなさそうな、穢れ一つ知らなさそうな。無邪気で優しそうな。甘えさせてくれそうな。誰よりも理解してくれそうな。何もかも、受け入れてくれそうな。
「――騙されんぞっ」
「きゃんっ」
精神支配を受けそうになっていた。
だから、肉薄し、その身体を突き飛ばした。
彼女が作っていたのだという部下の墓は、なんとも慎ましやかな、花一つ添えられていないものだった。
ただ埋めただけの、簡素なもの。
「こんなもので」
安らかな死が、墓標ごときで訪れるはずがない。
ここは戦場。まして、天使たる自分達にとって、死などただの結果に過ぎないはずなのに。
踏みにじってやろうとした。そうすれば怒るだろうと思ったから。
けれど、それはできなかった。
その下には、確かに自分の部下が埋まっていたのだ。
埋め方が下手くそで、盛り土されただけで、その白い翼がまだ見えていた。
「貴方は、悔しそうね」
「なんだと」
「とっても悔しそう」
突き飛ばされ、「いてて」とお尻を撫でながら立ち上がった神の魔物は、皮肉でもなく、小さな感想を述べた。
その一言が、天使長には気に食わない。
「自分の部下が、心を持ったことが心底悔しいの? それとも、自分の部下なのに、その心を理解できないのが悔しいのかしら? とにかく今、貴方は悔しくて、私を憎んでいる」
「……そんな、ことは」
「貴方は私を見た瞬間、何を感じたのかしら? 私は別に、貴方をどうこうしようなんて思ってないわ。ただ、このお墓を作りたかっただけ」
気にしなくってもいいのに、と、静かに天使の埋もれた盛り土を指さし、にへら、と笑う。
本当に何の悪気もなさそうな、ただの小娘のような顔をしていて。
天使でもない癖に、純真なのだ。その笑みが。
(人間には、時々こういう者がいるというのは、聞いたことがあるが)
天使とは、あらゆる生命体の上位互換である。
そのように創造された。
故に情動を持たず、神々に言われるまま生き、必要とあらば戦い、死ぬのが役目である。
だが、人間には時として、天使をも上回る個体が居る事も知られていた。
人間は、魂の穢れやすい地上の生命でありながら、純粋にも、あるいは泥土のような欲深にもなれる存在である。
その、純粋に振り切れた個体は……時として、天使すら凌駕する神聖さを持つ。
この神の魔物は、姿かたちこそ異形の部位を持ってはいたが。
だが、人間の、そういった個体なのではないかと、そう思えたのだ。
「……お前は、何を願って神の魔物となった」
「えー? 突然なに? お姉さんそんな事言われても困っちゃう」
「答えろ」
ふざけようとする神の魔物にちゃきりと、まだブレてはいない光の剣を向け。
そうされると彼女も「わぉ」と軽薄そうに、けれど一応は神妙な顔になり、顎に手を当て「そうねえ」と考え始める。
「沢山の人の……いいえ、人でなくてもいいわ。私と関わる多くの人の、願いをかなえてあげたいの♪」
「なんだと?」
「だって、願いをかなえてあげると皆嬉しそうな顔をするわ。人間だった頃の私は、沢山の人から何度も何度も必要とされて、その度に私は喜んで叶えてあげていたの♪」
一つ一つはよく覚えてないけどね、と、とても嬉しそうに笑いながら。
唖然とする天使長を前に、その神の魔物は語る口を止める事もしない。
「でも、所詮人間の村娘よ。やがて力尽きて、なんにもできなくなった。みすぼらしくなった私を、誰も顧みなくなって……そんな時に、魔神様が声をかけてくださったの! 私に、『人類への復讐を望むか?』とか小難しい事聞いてきてー」
「……」
「でも、私そんな事微塵も考えてないから『そんな事よりもっと多くの人の願いを叶えたいの』って言ったら、すごく複雑そうな顔をされて『そんな事とはなんだ』って怒られたのよ」
「当たり前だ。そんなの怒るに決まっているだろう」
魔神は、人類を絶滅させる為の戦争の駒として神の魔物を作っていたのだ。
その素体となれるかもしれぬ者がこのような事を言えば、それは怒るだろうと天使長は頷きながらも「ならばなぜ」と、つい声に出してしまう。
それを聞いて神の魔物は我が意を得たりといった顔で「それでそれでー」と、まるで百年来の友達のような口調で語り始めるのだ。
心底うんざりしていたが、気にもなってしまっていた。
そう、気になってしまったのだ。天使長は、個人として。
「慈愛の女神様が、私を救おうとしてくれたのね? なんかすごく可哀想な生き方したからーとか言いながら。でも、色々調べられた末に『お前はもう救われているから救う意味がないわ』とか言われちゃってー」
「慈愛の女神様が……救わなかった?」
慈愛の女神とは、あまりにもむごたらしい末路を迎えた生命に対し、その魂にせめてもの救いを与える為に存在する女神である。
死に至るその経緯から、生に強い執着を抱きかねないその魂に安らぎを与えることで転生を受け入れられるようにするのがこの神の本来の役割。
その女神が救おうとして、救わなかったとは何事か。
意味不明過ぎて天使長は困惑した。
生まれて初めて、強い困惑を覚えた。
「それで、結局のところ魔神様が『他の神がお前を拾わないのなら』って仰って、拾われたの。私の願いをかなえてくれる形でね?」
「つまりお前は……人類にも神々にも、敵意がなかったと?」
「全くないわねー。戦ったのだって襲われたからだし。襲われなければ戦わないわよ? 今戦ってるように見える?」
「……なんなんだお前は」
「サキュバスのローレンシアお姉さんよー? 貴方の願いもかなえてあげましょうか?」
「黙れ」
これは何かの洗脳術。
親しみを感じさせ、狂わせようとしているに違いない。
――いっそ殺してしまえば。
そう思い天使長は光の剣を振りかぶり――そう、振りかぶったのだ。
その気になれば、そのまま喉元を突き刺せば終わるはずの相手に。
わざわざ振りかぶり……そして、振り下ろせなかった。
(なんだ、これは)
酷い罪悪感。
戦う気のない者に刃を向ける事に悪辣さを感じてしまい。
心が穢れるような思いを覚えてしまっていた。
殺すことになど、何も感じなかったはずなのに。
命を奪う事は、当然の権利の行使くらいにしか感じなかったはずなのに。
「いいのよ殺しても? それが貴方の願い? 望むなら叶えてあげるわよ? ほら、今すぐにでも叶えられる」
それを降ろすだけでしょ、と、相も変わらず笑うだけの小娘が。
けれど、今の天使長には、心底「恐ろしい」と思えてしまっていた。
何を考えているのか解らないのだ。
解らないから、怖かった。怖い。意味も解らないまま、殺してしまっていいのか。
そういう疑念が生まれ、疑問が溢れ、混乱してしまった。
「私、は……」
「神の魔物なんてやってるとねー? 色んな奴を見ることができるわ。あの大天使とかいうのはほんとイカれてるけど、貴方達天使は、皆可哀想ね?」
「……なんだと」
「可哀想だから、助けたくなっちゃう♪ だって皆、助けてほしそうな顔をしてるんだもの♪」
「私達が、可哀想……?」
「ええ♪ まるで寄る辺のない赤ちゃんみたいだわ♪ ママになってあげましょうか? ふふっ♪」
思えば、それがサキュバス・ローレンシアによる、天使篭絡の元凶だった。
彼女に限らず、天使の墓一つ見て、他の天使らも皆、取り込まれていったのだ。
取り込まれた者達にはもれなく、自分の生に対しての疑問と執着が芽吹いた。
(最早……どうにもならないわ)
あの時の自分たちはきっと、赤子のようなものだったのだ。
ママに抱きしめてほしいと、パパに優しく頭を撫でてほしいと、そう思いながら、誰かに助けを求め続ける、当て所ない子供のようなもの。
純粋だった赤子は今、子供のような気持ちのまま、助けてくれる誰かを今も探し求めていたのだ。
そして、それを与えてくれたのが、ローレンシアという神の魔物、ただ一人だった。
(ああ……この戦場に彼女がいたならば、我らは皆……きっと……)
胸を抑えながら、同じように自分を見る天使らに、けれど何も言う事はできず。
天使長は、この先の不安を、誰かに助けてほしいと、そんな事を願い始めてしまっていた。