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だから私は!!  作者: 海蛇
第四章.廃都758510編
54/62

#54.ろーれんしあのゆりかご


「――それで、また私のところまで来てくれたって訳ぇ?」


 アルテの話を聞いてすぐの事。

セシリアPTは、再び『グラフチヌスの揺り籠』に潜り、最奥のサキュバス・ローレンシアと対面していた。

ただし、5名(・・)で。


「この方が、姉様が話してらっしゃった神の魔物の一人……」

「知らない子がいるかと思ったけど、貴方の妹さん? なんだか魔神様みたいなまがまがしいオーラ背負ってるけどぉ……?」

「ははは、私の妹がそんなまがまがしい訳がないだろう。いつもニコニコと可愛らしく私にとっては太陽のような存在だぞ!」


 その場についてきていたアルテを見て、ローレンシアは「えぇぇ」と、一行に似つかわしくないものを感じていた。

そのローレンシアの反応はむしろ同行していたシェルビーや名無しにしてみれば納得のいくものだったのだが……セシリアは全く意に介していなかった。


「そ、そうなんだ……ごめん。えーっと、それで。ミー君殺したのが貴方達だったのは割とビックリだったんだけどぉ、残りの神の魔物についてとか聞かれても、ちょっと困るというかぁ?」

「ミー君……ってのはミノスの事か? あんた、そんな呼び方するくらい親しい奴だったのか?」

「かたきうち、する? たたかう?」


 呼び方ひとつでその関係性がある程度察せてしまい、シェルビーはうっすらと「もしかして戦闘になっちまうか?」と、ローレンシアが怒りだす可能性を考えていたが。

名無しは既に臨戦態勢に入ろうとしていた。


「ちょっ、まっ――違うから! 別に仇討ちとか考えてないし! 私とミー君方向性全然違うから仲良しって程でもなかったし!!」


 焦ったのはローレンシアである。

即座にまた地面に何やら描き始めた名無しに「待って待ってタンマ!!」と手をわたわたと前に出しながらいやいやするように制止を促す。

これが初対面なら止まらなかっただろうが、名無しも周りを見て「む」と、つまらなさそうにそっぽを向いて手が止まる。

ほっと一安心し、ローレンシアは再び、セシリアたちを見た。


「あのね、私は神の魔物の中でも、かなり人間寄りというか……ああ、そもそも神の魔物って何なのか、貴方達解ってる?」

「人類の敵」

「人類の敵だろ」

「かつて魔神に使役された神々と人類の敵ですわよね」

「まあ皆が言うように、敵なんだろうな、きっと」

「私も、深く調べるまではそういう認識でしたわ」


 5人が5人とも大体同じ方向性で認識していたので、ローレンシアも「そうよねえ」と、ぐんにゃりした顔で頷く。

まあ、人間の認識などこんなもの、というのが神の魔物(ローレンシア)視点での扱われ方なのだ。

なので、彼女はそれに沿って説明しなくてはならなかった。


「大体あってる……というか、まあ、見かけたら敵対して戦うか、逃げる。それで正しい認識よ。私みたいなのは珍しいかなあ? 弱体化しているとはいえ」

「そんなに弱ってたのか?」

「かなりねー。遥か昔に勇者たちに負けた時に受けたダメージも大きいし、その後地上世界に隠れてた時に大天使から追撃受けたおかげで今の私の力はー……貴方達が前戦って解るでしょ? 今更語る必要ないわよね?」


 あれだけボコボコにされたしー、と、端正な顔をアンニュイな心持ちのままぐにゃらせ、小さくため息をつく。


「私の強さとかはいいの。そんな事より今は、貴方達は神の魔物についてもうちょーっと詳しくなった方がいいわねえ? 多分、それについても知りたくて来たんじゃないの?」

「これについては我々だけで調べても手詰まりになりそうだったからな。解る人がいるなら、と思ったんだ」


 廃都758510にいる神の魔物が、複数である可能性。

そしてミノス戦での激戦を踏まえ、セシリアたちは万全を期すため、少しでも情報が欲しいと考えていた。

自分たちに対してのミノスの態度は、明らかに憎しみと怒りを抱いてのもの。

しかし、彼女たちにはミノスにそのような態度で接せられる理由が解らなかったのだ。

だから、アルテの調べた情報から「神の魔物の人間に対しての態度にはブレ幅がある」という一つの可能性を感じ、こうしてローレンシアに確認に来たのだ。

勿論、挑む先に待ち構える神の魔物について正体が解るなら、それを聞ければとも思っていたが。

幸いにして語る気になってくれていたので、セシリア達は頷きながら「教えてくれるか?」と、一様にローレンシアの顔を見つめていた。

好奇心というよりは、必要あっての、真剣な表情。

ローレンシアとしても悪い気はしなかった。


「むふふ……♪ いいわ、お姉さんが教えてあげる♪」


 満面の笑みで「久しぶりのお願いだわ♪」とご機嫌になり。

翼をぱたぱた前後させながら椅子に腰かけ、前と同じく小奇麗な街娘のようなサキュバスは「まずは何をー」と、視線を上向ける。


「あのね、一口に神の魔物と言っても、いくらかの種類があるのよ」

「種類? それは種族的な意味でか?」

「ええ、それもあるわね。出身種族、ないし在り方、みたいなのもあるわね」


 セシリアの問いにふんふん頷き返しながら、手を前に、指を立てる。


「まずは人間出身。ミー君や私はこれだわ。人間出身の神の魔物は、何かしらの願いを魔神様に叶えてもらう事で、本来在った人間の姿から大分変わった外見になってるわ」

「ミノスは……人間の王だったものな。君もどこかの?」

「ああいえいえ、私は別にそんな高貴な存在でも……どこにでもいる、若い娘さんよ♪」


 ほんとに地味だったから、と、ニコニコ顔のまま、そうとは思えない美しい顔で言う。

指が一本折られた。


「次は魔族出身。まあ、これは当たり前よね。人間や神々の敵対者だもの。これは魔神様からスカウトされて神の魔物となったパターン。神の魔物のうち半分がこのパターンだわ」

「魔族というと、アークデーモンや死神みたいな?」

「あれらよりもより上等な奴らよ。それこそ今の魔族の世界の神とか始祖とか言われてたような奴ら」


 古代だからねえ、と、にへらぁ、と笑いながら説明は続く。


「魔族出身の神の魔物は、多くの場合魔神様が勝利した後の地上世界の支配権を獲得しようとして配下に加わったのよ。だから、明確に人類の敵よね」

「なるほどな……そいつらが居た場合、敵に回る可能性が高いと」

「人類と仲良しこよしでいきましょーなんて微塵も考えてないでしょうからね。ただ、頭は回る奴らだから、最初から対立しようとかせず、相手の実力次第ではとりこもうとしたり、利用しようとするくらいはするかもね?」


 とっても優しい口調でフレンドリーに語り掛けながら、と。

それを聞いたシャーリンドンは恐怖で背筋が(あわ)立ってしまい、震えていた。

また指が折られた。


「三つ目。これは獣や魔物といった、そんなに精神性が上等でもない奴ら。これら出身の神の魔物は……まあ、魔物の名に相応しく、とんでもない化け物じみた外見をしていて、それでいて人間並に賢いわ」

「今残ってる中では、どんなのがいるんだ? そういうのと対立する事もあるんだろう?」

「そうねえ。今生き残ってる中だと……フーレちゃんが印象深いわねえ」

「フーレちゃん? 女の子か?」

「ええそうよ。大怪鳥フレースベルグ。竜をも一飲みにする、神の魔物で一番大きな子よ」

「それは……すごいな」


 竜にも様々あるだろうが、いずれにしても人より遥かに大きな生物である。

これを一飲みにすると言われ、そのサイズ感が、セシリアとシェルビーにはなんとなくでも想像できてしまい、思わず息を呑んだ。


「フーレちゃんはね、とっても可哀想な子なの。元は力のない小鳥だったのだけれど、住んでいた森を人間たちに焼き払われ、大切な卵を卵焼きにされてしまって。怒りの余り人間たちに復讐を願って、魔神様がその願いを聞き届けて神の魔物にしてもらったのよ」

「……人間の業がそのまま跳ね返ってきたみたいな存在だな」

「ああ、多分その焼いちまった人間たちも悪気とかはなかったんだろうから余計にな……」


 森を焼き払うのは、開拓での一般的な方法である。

今ですらそうなのだから、今より至る所に森があったであろう古代ならば尚の事、それは当たり前のように行われていたのだろうと、セシリアたちはため息する。


「まあ、そんな感じで、人間のやらかしが原因で不幸になった子が大半ね。正確には人間だけでなく、魔族もやらかしてたり、それでいて救ってはくれなかった・やらかした相手に神罰を下してくれなかった神々に対しての怒り、みたいなのを抱いてる子が多いわ」

「これも敵対するかもしれない、という事か」

「そうねー」


 短く答え、三つ目の指が折られる。


「四つ目。これは簡単よ。神々の中から、離反者が現れた」

「神の離反者……!? え、神様が?」

「……むー」


 シャーリンドンにとっては驚きの事実で。

そして、名無しにしてみれば、面白くない話のようであった。


「魔神様は、かつてとても強い力を持った神様だったわ。だから、神々の間でも敬われていたし、『あの方が言うならば』と、それに従った神様もいたのよ。神様が他の神様に降って魔物になるだなんてものすごく屈辱的な事のはずなんだけどね。それを飲んででも、魔神様についていきたいと思ってた神様もいたらしいわ」

「そこまで敬われていて、なんでそんな、闇になんて……」

「魔神様にもいろいろあるんじゃないのー? そんな事より今は神の魔物の話」


 酷くショックを受けた様子のシャーリンドンを気遣ってか、魔神については細かく明言せず、話を進めてしまう。

名無しも黙りこくり、他にその流れを止める者はいなかった。


「神々からの神の魔物は……現存していないわ。全滅してる。全員、倒されるか封印された末に、存在が完全消滅してるわ」


 だからこれは問題なしね、と無機質に笑いながら。

そして、四本目の指を折った。


「最後よ。これは一番簡単。『神の魔物に操られてる天使』」

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