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だから私は!!  作者: 海蛇
第三章.悪鬼の監獄編
49/62

#49.つよい


 悪鬼の監獄は、上に登ればそれほどに複雑な構造になっていく迷宮(ラビリンス)だった。

山をくりぬく形で作り上げられたこのダンジョンは、土壁の細い通路で構成された大多数の部分と、石壁に覆われたいくつかのだだっ広いフロアとで構成されており、広いフロアは壁に松明が飾られ明るくなっているだけでなく、多数の宝物が無造作に転がっていた。


「――宝物が多いのはいいが、ミミックも多いのは面倒クセエなあ」

「箱型ならまだしも、壺の中に入ったものや金貨に偽装したものまで多種多様だな……」

「……ミミック怖いですわ」

「わ、コップの中にも居た」


 他の物体に擬態したり隠れ潜んだりする魔物は全部ミミック扱いではあるが、大小さまざま、宝箱や壺、(かめ)に入り込んで一撃で冒険者を殺しうる危険なものもいれば、金貨や宝石に擬態し毒で殺しに来るものもいて、中には小型の蜘蛛のような小さな、比較的無害な個体も混じっている始末で、まるでミミックの展覧会のような状況であった。

シャーリンドンなどは、これで死んだ元仲間やこれを警戒し過ぎて罠にかかって死んだ仲間を目にしてきたため、見かけるたびに苦虫を噛み潰したような顔で小さく首を振っていたが、逆に名無しは小さいミミックを手に取り、まるで子供に人気の虫でも見つけたかのように無邪気な笑みを見せていた。


「ま、明らかに金目のものでしかないものは後でいいだろう。財宝に目がくらんでミノスにケツを蹴られるのは洒落にならねえ」

「そうだな。目的の情報の有無が最優先だ。それ以外は余裕があればといった感じだな。シャーリンドンには悪いが……」

「いいえ、私もそれでいいと思いますわ。できれば、あまり長くここにはとどまりたくありません……」

「まだ、こっちにはきてないっぽい。下にいる」


 財宝に目をくらませこれらを回収しようとすれば、ミミックに手間取り、結果としてミノスの再来を許してしまう事にもつながりかねない。

その危険性を理解してか、PTの誰もが財宝には固執せず、セシリアの目的を最優先に考えていた。

気配に関しては、まだミノスが上に登ってきた様子はないので、今の内に必要な事は済ませたかったのだ。


「さっきから、振動は感じているんだがな……あいつ自身も、道に迷ったりするんかね?」

「そうだと助かるが。こうなってくると、ここの面倒くさい迷路じみた通路が役に立ってる、と言えるんだろうか」


 そのまま迷い続けてくれればいいんだが、と、床に視線を落とすセシリア。

ダンジョン内を揺るがす振動は、不定期感覚でずっと聞こえ続けていた。

それが何を意味するのかは、セシリアたちにはいまだ解らなかったが。

ただ、ミノスがまだ健在で、何かしている、という確認しようのない不気味な状況だけが継続しているのだけが肌で感じられ、気にしないではいられなかったのだ。


「とにかく、先があるなら急ごう。今のうちに全て踏破し、何があるのかだけでも確認しておくんだ」

「んだなあ。ここも外れっぽいし? んじゃ、とりあえずこれも後回し、と」

「待って、これだけ持っていく」

「うん? なんだそりゃ」


 襲い掛かってきたミミックに関してはすべて倒したものの、まだまだ金貨や宝石の山の中にはいくつもの擬態ミミックが混じっているだろうと思われる中、名無しが手にとったのは、赤銅色のブローチだった。

煌びやかな財宝の中にある、全く目立つことの無い地味なアクセサリー。

それそのものは違和感があるものの、シェルビーが「見せてみ」と手に取る。

細部を見てからそれがミミックではないのを確認できたが、モノの価値そのものは彼にも解らないままであった。

特に害はなさそうなので、名無しに返却する。


「なんなんこれ? お土産……って訳でもないよな?」

「前に見たことある。封印の欠片」

「封印の欠片? なんか、ミノスの封印に関係してそうな名前だな?」

「シェルビーよく解ってる。偉い。封印に使うの。3つあると一人封印できる」

「持って行って大丈夫なんですの? 封印に使うものなら、大変な事になるのでは……」


 神の魔物関連のアイテムというなら、それそのものが重要なポイントになる可能性があった。

場合によっては、ミノス討伐に役立つかもしれないのだ。

だが同時に、封印関係となると、迂闊に動かすとまずいかもしれないという危惧もあったのだ。

シャーリンドンのみならず、セシリアもシェルビーもその辺りは不安視し、名無しに「大丈夫?」と確認するが。

名無しはコクコク頷きながら「もう意味ないから」と、ブローチを見る。


「これは、封印すると効力をなくすの。多分、昔ミノスをここに封印した人が、これを使った」

「持っていって意味のあるものなのか? 効力は失われてるんだよな?」

「力を籠めればまた使えるの。でも、三つ無いと神の魔物は封印できないから、あと二つ見つけられたら見つけたい」


 無理にここじゃなくてもいいけど、と、そこまで言ってから、ブローチをポケットにしまい込み、「もういいよ」とシェルビーの顔を見る。

それ以上の問答のつもりもないらしいと解り、シェルビーも「あいよ」と頷き、そのフロアを後にした。




「ここが一番奥みたいだな。隠し通路の可能性もあるから全部の壁を調べるまで解らんが、とりあえず目に見えてる財宝はこれで全部か」

「それにしても本当に無造作に置かれてますわね……ミノスは、何のつもりでこんな……」


 振動と何かが壊れる音が聞こえる中、慎重に進んだ一行は、ある程度の地図の完成と共に、最奥のフロアにたどり着く。

例によってだだっ広い空間の中、他との違いと言えば、フロアの一角に赤い絨毯が敷かれている事と、財宝の山がひと際高いこと、そして、今しがた一行が来た道以外に通路がない事くらいである。


「財宝の種類は……今までよりちょっと種類が違う感じかね? 本とか剣とか鎧とか、金目のもんには違いないが、物欲から離れた感がするな?」

「本が気になるな。シェルビー、より分けられるか?」

「ああ。だが気を付けろよ? 本だってキラーブックが潜んでる事はあるんだ」

「ははは、仮に指をかじられても握力で潰せるさ」


 ミミックに関しては、セシリアは全く問題にしないくらいに力の差があるので、シェルビーの忠告に笑って答え、投げ渡されていく何冊かを受け取っていく。


「――ったく、モンスターじゃなくっても、呪いやなんかかけられることだってあるだろうに。俺ぁ昔、本を読んだ学者様が本の呪いで目をつぶされたのを見た事があるぜ?」


 気を付けろよな、と、呆れたように小さく息をつき、それ以外の財宝を見ていく。

量が多いので、ミミックの危険性があればセシリアの方に蹴り飛ばしながら。


「……ん? 王冠、か? 珍しいな。ミミックって訳でもねえな」

「討伐に出た王様とか、そういう方が昔いらっしゃったんでしょうか? 財宝になっているという事は、恐らく……」

「案外そうなのかもな。ま、ダンジョンに転がってる財宝なんて、ダンジョンマスターが仕込んだんでもなきゃ、大体は挑み敗れた奴の私物だろうからな」


 それそのものは、金でできた高価なものではあったが、魔法的な何がしかの力を持っているようにも見えず、名無しも反応しなかったので、さほど重要なものでもなさそうだったが。


「杖もあるな。なんだろうな? この赤い絨毯といい。何か引っかかる様な……うん? 足かせ? にしちゃやたらでかい気がするが」

「シェルビー、それ――」

「……ふむ」


 軽く流し見するように一冊目に目を通し、セシリアは「この本は全部持って帰ろう」と、名無しに差し出す。

一旦は宝物に目が向いていたシェルビーたちも、セシリアに向き直った。


「この本は、日記か歴史書か……そういった類のものだ。あの神の魔物……ミノスが、何者なのか、ちょっとだけ解った気がする」

「ミノスの正体が?」

「ああ。あいつは……いや、あの方(・・・)は――」


 何かに言及しようとしたセシリア。

しかし、まるでそれに合わせるかのように、床が、いや、ダンジョン全体がひと際激しく揺れ。


「なっ、うわっ」

「これは……いけないっ、シャーリンドン、脱出を!」

「はっ、はい――きゃぁっ!?」

「床がっ――みんな、にげて」


 ただ事ではない事が起きようとしていた。

それだけしか解らなかったが、撤退しなければならないと、そう感じ。

けれど、シャーリンドンがポータルを使う前に、床が崩れ落ち始めたのだ。

もう奇跡を使うどころではない。

フロアの奥からどんどんと崩落を始める壁に、地面に、一行は慌ててきた道を戻ろうとする――が。


「み、道がねえぞっ」

「そんなっ、いかんっ! ショックに備えろっ」

「そんな事言われてもっ、どうしたら――ふひゃっ!?」

「わうっ?」


 下がろうとした道が既に存在せず。

さりとて後ろからもどんどん床が落ちていき。

追い詰められる中、セシリアはシャーリンドンと名無しを抱きかかえた。


「落とされるより、落ちる方がマシってか? 先に行くぞ!」

「ああ、気を付けろ。落ちた先には、きっと()がいる」

「えっ、えっ、落ちるって!? セシリアさんっ? まさかっ――きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「うーわー」


 すぐにセシリアの意図を察し、真っ先に通路側から飛び降りるシェルビー。

セシリアも二人を抱えたままシェルビーに続き――3Fへと飛び降りた。





「――はーっ、はーっ、離れろっ! まだ瓦礫が落ちてくるぞっ」

「生きてたかシェルビー。ああ、そのつもりだ」

「よし、さっさと移動して脱出を――あ……」


 かなり高い位置から落ちた為、シェルビーは片足を引きずっていたが。

それでもその場から離れるのを優先したいと、先を行こうとして……そして、振り向いた先には、赤銅色に染まった、牛頭の化け物がいた。

まだ離れた位置。だが、3Fの大部分は破壊されていて、目に入ったのだ。

そして、向こうも気づいていた。


「ぶふーっ、ぶふぅっ! 見つけわよ、人間どもぉ……ぶふひぁははははははっ!!」


 狂気に染まり濁ったその目は、4Fで会敵した時の、まだ幾分理性的だった頃と比べ、それはそれは恐ろしい、不気味なものとなっていた。

左目は石片が突き刺さり潰れていたが、全く気にした様子はない。


「ミノス……貴方(・・)の事を、本で読んだ」


 最早逃げられるような距離ではない。

この上は、脱出できるまで時間稼ぎするか、倒しきるしかない。

その判断の元、シャーリンドンと名無しを下ろし、セシリアはミノスの前に対峙する。


「……人が、憎いのだな。私達が。人間の所業が」

「なぁによぉ。アテクシの事を、本で読んだ程度で知った気になったのぉ? それで、同情ごっこかしらぁ? ブフフフェフェフェフェフェッ!!」

「同情などは覚えてないさ。だが……貴方がそうなった(・・・・・)理由は解る」

「そう、なら……ここで死んで頂戴。アテクシに、人が壊れるところを見せて頂戴? 神々の下らぬプライドで化け物を産まされた我が妻のように、人間のつまらない感傷で殺された、我が息子のように」


――そして人ならぬ化け物となり果てた、自分のように。


「いいや、違うな。いずれは倒さなくてはならないと、そう思わさせられたよ!」


《ズドォンッ》


 不敵な笑みのセシリアが返答するや、最早言葉で返す気も無いとばかりにオリハルコンの槌を叩きつける。

直撃こそしないが、その振動のみで床面が抉れ、クレーターの底が崩落し、下の階層への穴となってしまう。


「――くっ」

「かわし続けてもいいわよぉ? アテクシは、どれだけ床が壊れて落下しても、死にはしない。でも、あんたたちはどうかしらねえ? あんたは大丈夫でも、他の仲間達は? ブヒャハハハハハハハハ!!!」


 壊れるのは、何もインパクトの直下点のみに限らない。

崩落でダンジョンそのものにダメージが続いている今、この階層の床面とて、安全とは限らないのだ。

何せ、今の今まで、壊し続けていたのだから。このミノスが。3Fを。


「だが、冷静さを失っているようだぜ?」

「なんですっ――うあああああっ!? お前ぇぇぇぇぇぇっ!!」


 さっきまで離れた位置にいたシェルビーが、ミノスの足元に入り込んでいた。

まるで4Fの時の焼き直し。片足を引きずっていたのはただのブラフ。

ミノスがそう気付いた時にはすでに遅く、ミノスの足にはかち、と、足かせがハメられる。

巨大な錠のついた、人間の胴が丸々入り込めそうな足かせである。


「あぁっ、それはっ、それは、アテクシがようやく解いたっ、千年かけて解いた錠なのにぃっ!?」

「うんじゃ後千年頑張んなっ、あばよっ――うげっ」


 足早に離脱しようとして、ずきん、と足に痛みが走り、もたれ、転げてしまう。


「――まずはあんた一人ね?」


 ふざけたことしてくれちゃって、と、怒りに満ちた目で転んだシェルビーを見下ろしながら、ハンマーを振り降ろす。


「死ぬなら、あんたの目も貰っていくぜ!!」

「なっ――」


《がきぃんっ》

《ぶしゅっ》


 ミノスのハンマーは、シェルビーの前に躍り出たセシリアによって防がれ。

そしてミノスの右目は、仰向けになってシェルビーが投げつけたナイフが突き刺さっていた。


「ぐぎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


 身の毛もよだつ叫び声がダンジョンに響き、その重低音が壁面すらも崩落させてゆく。

耳奥に残るぐわんぐわんとした音の()に、シャーリンドンは「うぐ」と、強烈な吐き気を覚え、その場にうずくまってしまった。


「とりあえず、助かったぜ、セシリア」

「無茶はしないでくれ。両眼を潰せても、君が死ぬのを見るのは嫌だからな」


 それでは意味がないんだ、と、き、と見つめてくるセシリアに、シェルビーも「すまねえ」と謝り、後方へと下がる。

とはいえ、距離はとってもすぐに追いつかれる程度の、遮蔽物のない地形である。


「すぐに脱出を……シャーリンドン?」

「す、すみませ……これ、きもち、わるくって……」


 しゃがみ込んだままのシャーリンドンは、身体をふるふると震わせながら、涙目になって必死になって手で嘔吐を抑えようとしているようだった。


「あー、すげえ音だもんな……俺も気持ち悪ぃとは思ってたけど」

「これ、人間のメンタルと平衡(へいこう)感覚にダメージを与える、叫び(クライ)

「クライ? これがか? 大型モンスターでもここまでやばいのは見たことねえぜ……」

「私には、何も感じられないが……」


 シャーリンドンには絶大な効果が、そしてシェルビーにも相応のダメージが掛かっているようだった。

実質、奇跡が封じられ、シェルビーのすぐの回復もままならない状況。


「シャーリンドンが復帰してくれないとどうにもならないな。シェルビーに回復薬を。とにかく今はシャーリンドンを連れて、一刻も早くミノスから距離、を……?」


 武器を構えミノスに向き直ろうとして――強烈なぐらつきを覚える。

振動のせいではない。視界が揺らいだのだ。


《とさっ》


「あ、れ……?」

「馬鹿野郎っ、平衡感覚が死んでるなら、まともに立てるはずないだろっ!! 油断するんじゃねえっ」


 自分だけは大丈夫。クライの影響は受けていない。

そういう思い込みが、確かにセシリアにはあった。

だが、実際にはそうではなく、セシリアにも間違いなくダメージがあったのだ。

セシリアには、自分がどう動こうとしていたのか、理解できていなかったのだ。

今彼女は……まっすぐ立っているつもりで、自分から横向きに倒れ込もうとしていた。

それを、シェルビーに抱きかかえられる。

が、支え切れずに二人して倒れていた。


「ごめんなさ……すぐに、回復を……っ」

「シャーリンドン」

「は、はい……」

「吐け」

「……えっ」

「吐け。少しはマシになるから」


 今シャーリンドンが苦しそうにしているのは、メンタルダメージと平衡感覚のずれからくる強烈な嘔吐感によるものだった。

だが、吐き気に関しては、一度吐いてしまえば幾分楽になる、というのは飲酒で泥酔した時と変わりなく、だからこそ、シェルビーは解っていた。

吐くものがなければ、それ以上にきつくはならないのだ。

ともかく、ミノスが足かせでまともに動けず、目を抑え動かずに叫び続けている今、今しか、逃げるチャンスはなかった。

急がなくてはならないのだ。


「で、でも……でもっ」

「見なかったことにするから。忘れるから」


 いいから、やれ、と、自分の口の中に指を突っ込むポーズを見せる。

こうしろ、と。こうやれ、と。

涙目になって首をふるふるするシャーリンドンに、シェルビーは肩を掴んで、なんとか立ち上がり、じ、と顔を見る。


「できねえなら、俺がお前の口に指を突っ込む」

「えぇっ、そ、そんな……」

「……ああもういいや、文句は後で聞くから」

「何言ってま――んぐっ!?」


 有無を言わさず口の中に指を突っ込む。

突然の事でつい歯を閉じてしまい、指を噛んでしまうが、それでも構わず。

無理やりに捻じ込まれた指が、シャーリンドンの喉奥に触れようとした、が。


「――ヴモォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!!!」


 がきん、と、何かが壊れる音がして、その手は止まった。

タイムリミットが終わってしまったのだ。

恐る恐るシェルビーがそちらを見ると……ミノスの足にはめられた枷は破壊され、その両目は、元の濁った、無傷のものに修復されてしまっていた。


「なんとか、私が時間を稼ぐ……シェルビー、シャーリンドンを頼む。名無し、とにかく今は、二人に回復を、優先、して」

「セシリア様、ダメ。そんな状態じゃ」

「急げっ!」


 まだフラフラのまま、なんとか立ち上がったセシリアが、頭を振りながら剣を構える。

だが、ミノスは既にタックルの姿勢に入っていた。

そのまま突っ込んでくるのは目に見えている。

しかも、かわせば後ろにシェルビーたちがいるのだ。

逃げられない。かわせない。押さえつけるしかない。


「エネルギーチャージャー――」

「壊れなさぁい――ぶもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

「――クラッシュ!!」


 ミノスのタックルとセシリアの斬撃。

正面からのぶつかり合いで勝ったのは――ミノスだった。


《どがぁっ》

「ぐはぁっ!」

「まだ死なせてやらないわよぉ? アテクシのタックルはねえ……連撃の初手なんだからぁ!!」


 ミノス自身、斬撃で片角をへし折られ、少なからずダメージを受けてはいた。

だが、それで消し去れる程度の勢いではなく、そのまま突き抜け、セシリアは真上へと吹っ飛ばされる。

それに合わせるように、オリハルコンのハンマーが横向きに構えられ。

ぐぐ、と、ミノスが力を籠めると、ただでさえ太いミノスの両腕に血管が浮かび上がり、筋肉がぎちり、躍動した。


「受けるがいいわぁ――我が息子、ミノタウロスの、名も無き奥義」


 臨界にまで高められた力が、腕の動きと共に一気に放たれ。

どっ、と、鈍い音と共に、セシリアの身体が天井へ叩きつけられ、返す三撃目で地面へと叩きつけられ、バウンドする。


「あっ――」


 終わった。一瞬である。

シャーリンドンが短い声を発する間に、セシリアの身体はぐったり、横たわり。

指先がわずかに震えるだけになってしまっていた。


「……ポーターちゃんよ」

「ん」

「悪いが、後頼むわ」

「解った」


 何ができたものか。

だが、他に前に立てる者などいないので、そうするしかなかった。

彼一人逃げることはできたかもしれないが。

サブリーダーになどなってしまったのだから。


(ああ、これダメな奴だ。ったく、シャーリンドンの奴め)


――だからさっさと吐けと言ったのに。


 苦笑いを浮かべながら、シェルビーはミノスの前に立つ。

全身から蒸気を発し、荒い息でなおもこちらを見ている、この化け物の前に。


「もう、油断してやらないわよぉ?」

「そりゃありがてえ」


 どうしたものか、と、辺りを見ても利用できそうなものなんて何もなかった。

罠にかけるにも、油断してくれなくては難しい。

そも、近づけもしないだろう、と。

腹から口を膨らませ、ブレスを吐き出そうとするミノスを見て、思ったのだ。


――これもう終わったわ。

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