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だから私は!!  作者: 海蛇
第三章.悪鬼の監獄編
47/62

#47.ぶりてりはおいしい


「――とにかく! 私が言いたいのはだな、はまブリは塩焼きが一番だという事だ!」

「何言ってやがる! はまブリならはまブリ大根が一番だろうが!!」

「はまブリはフライで」

「皆さん! 解っていませんわ!!」


 かくして4F、ミノスのいる階層まで、PTは留まる事無くたどり着いてしまった。

相も変わらず魚の話題で喧嘩をしながら。


「はまブリは! 照り焼きに限りますのよ!!」

「どうせそれも婆やさんの受け売りだろ?」

「そんなことありません! 私も、私もそう思っています!!」

「はっ、どうだかな?」

「シャーリンドンには悪いが、これに関してだけは引く事は出来ないんだ」

「ビネガーかけてポテトと一緒に食べる方がいい」

「なんで皆さんそんなに強情ですの!?」


 当然セシリアPTはその階層にミノスがいるなどと思いもせず、そして、なんとなく3Fを突破してしまった事もさほど意識しないままに、その会話を続けるのだが。


『ちょっとぉ――』

「強情って言うのは今のお前みたいな奴を指すんだよ。照り焼きなんて甘ったるいだけじゃないか」

「その甘さがいいのです! シェルビーは解らないのですかっ?」

「俺は甘いのよりしょっぱい方が好きだし……」

「なんでそんなにこだわるんだ? 私は騎士団の伝統メニューだからこそ塩焼きを推したいが」


 会話に一人、PT外の声が混ざっていることなどお構いなしに、PTは突き進んでゆく。

4Fともなればトラップなども存在し、歩くだけで危険な通路もあるのだが、そこはシェルビーが会話しながらで解除していくのだ。

最早立ち止まりすらしなかった。


「うぅっ……はまブリの照り焼きは、私が両親に初めて作ってあげたお料理ですのよ。婆やに教わって、一人で作った……」

「やっぱり婆やさん絡みじゃないか」

「思い出の料理ですのっ! シェルビーだってムーンライトパイを推してましたでしょ!!」

「む……それを言われると、文句が付けにくいな……」

「家族での思い出か……私にも、そういう事があった……」

「……家族とか、よくわかんないけど、大切なのは知ってる」


 ここにきて、ようやくにしてメンバーたちの怒りのボルテージが抑え気味になっていた。

3Fから抜けて怒りの精霊に触れなくなったからというのもあるのだが、シャーリンドンの『思い出』の一言に、全員がぴた、と、文句を言うのをやめたのだ。

こんな事は、このダンジョンに入って初めての事だった。


「――まあ、そういう事なら仕方ねえな。はまブリは照り焼きでいいか」

「そうだな。照り焼きも、食べてみれば美味しいしな」

「甘いから照り焼きも好き」

「皆さん……!」


 これにて感動的な和解が成った。

喧嘩していた一行は、ようやくにして一つにまとまれたのだ。


「それはそうと――」


 そして、落ち着けたなら、と、シェルビーはその場にぴた、と止まり。

それに合わせ、セシリアたちも足を止める。

彼が意識するのは、さっき一瞬聞こえた、聞き慣れぬ『声』。

狭い通路である。左右の土壁に手を触れ、感覚を研ぎ澄ませる。

さっきまでとは明らかに異なる、緊張感を以ての警戒。

仲間達もごくり、息を呑みシェルビーを見た。


『あんたたちぃ、アテクシの話を――』

「セシリア、この声……覚えは?」

「いいや――知らないな。離れろっ!!」

「ちぃっ、やっぱりかっ!! 来るぞっ」

『――聞きなさぁい!!』


《――ドゴォンッ》


「ふやぁっ!?」

「わぅ……かべからきたっ!?」


 突如右側の壁を破壊しながら、牛頭身人の化け物が現れた事で、PTは前後に寸断されてしまった。


「あらぁ? うまくかわしたわねえ? 今ので一人は持っていくつもりだったのにぃ」

「ちぃっ、足をやられたか……それにしても、なんてでかさだよおぃ」

「魔族か? いや、この気配は……」


 この化け物・ミノスの前方で構えるセシリア・シェルビー組と――


「あわわわ……は、はやく、はやく退避しないと……ポーターちゃんっ?」

「かみのまもの……」


――後方に飛びのいたおかげで無事だったものの、直近から逃げ損ねたシャーリンドンと名無しであった。


「うふふふっ、そうよぉ! アテクシは怒りと憎悪を司る神の魔物『ミノス』!!」

「ミノス……こいつが」

「神の魔物というなら、ローレンシアの時のように、話し合いでなんとかならないものか。どうなんだ、戦わなければならないのか? ミノス!!」


 天井ばかりは高いダンジョン。

けれどその天井ぎりぎりにまで届くほどの巨躯を誇るミノスは、セシリアの問いににぃ、と、大きく裂けた口を歪ませた。


(この娘――アテクシにびびり散らしてる訳でもないし、戦えない理由がある訳でもなさそうねえ……後ろに分断された子達、非戦闘員かしらぁ? この子達を逃がすための方便かしら、ねえ?)


 ミノスとしては、ローレンシアの名そのものには覚えもあり、そちらも気にはなっていたが。

目の前のこの女騎士の目的を察し、左手に持った巨大なハンマーをぶわり、高く掲げた。


「――別に戦いたくなかったら戦わなくてもいいわよぉ?」

「……っ」

「その代わり――後ろの子達が死ぬことになるけどねぇ!!」


 戦わずに済むはずがない。

それくらいの事、セシリアにだって解っていた。

そんな紳士的な態度で臨むような相手なら、最初から壁を破壊して登場なんてことはしてこないだろう、と。

だが、残念ながら時間稼ぎ一つできず、未だシャーリンドン達は離れられずにいた。


「ポーターちゃんっ、早くっ、離れないとっ」

「離して。ダメ。あいつはここで倒さないと」

「倒す為にも、離れないと駄目なんですぅっ」


 見れば、地面に何か落書きしようとしている名無しを、シャーリンドンが必死になって引っ張ろうとしていた。

だが、名無しは変に踏ん張っているのか、シャーリンドンだけでは簡単に動かせそうになかった。

そんな二人に向かって――ミノスは、ハンマーを振り降ろそうとしていたのだ。


「――させるかっ!!」

「でしょうねえ!!」


《ガキィンッ》


「ぐっ……」


 解り切っていた前振り(・・)だった。

二人を攻撃しようと見せかけて、それを止めさせようと自分の元に突っ込んでくる所まで読んだ上での、それを叩き潰す為の右の拳。

上から剣に向け叩きつけられ、その強烈な重圧に、セシリアの軸足がズキリと痛む。


「あらぁ? これくらいじゃ死んでくれないのぉ? 大した膂力(りょりょく)ねえ? 大体の人はこれで、即死するのにねえ?」

「こんな程度で、私を倒せると思われては、困るな……っ」


 にやり、口元を引くつかせながら耐えて見せ、押し返す。

それに対してもミノスは「あらあら」と驚いたように一歩下がるが、すぐにまた口元をにやつかせていた。


「――バケモンが」


 一歩離れた場所に退避し、一連のぶつかり合いを見ていたシェルビーは、悪態をつきながら腰を落とし、片膝をついていた。

壁が破壊された時に飛びのき直撃を受けるのは避けられたものの、破片が足にぶつかり、座り込んでしまっていた。


(……あの斥候はもう動けないかしらねえ? なら、一番警戒しなきゃなのは、この女騎士……)


 最高の餌場をつまらない色に染めたこのPTは、潰してやらなきゃ気が済まないと思ったミノスだったが。

どうやら面倒くさそうな男は真っ先にダメになったらしいと、すぐに興味を失い、セシリアを見ていた。


(この女騎士くらいなら、正面から力押しでもいけそうねえ? パワー対決を楽しむのも悪くないわねえ?)


 勝つのはアテクシだけど、と、口元をますます大きく歪め。

ミノスは――突した。

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