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だから私は!!  作者: 海蛇
第二章.ビャクレンの園編
31/62

#31.しゃーりんどんしごとした


「――協力関係を結びたい、と言ったのはね、仲間達を、復活させてほしいからなの。そちらにはプリーストがいるでしょう?」

「事情は分かったが、それを先に頼むことだってできただろう? 何故事情を先に?」

「私はできれば、彼らの前ではメイドのままでありたいのよ。というより、クローヴェルがそうしろとうるさいから」

「当然だ。テレサの身に危険があれば、何のために護衛についているのか――」


 説明している間は隣で見守っていたクローヴェルだったが、こればかりは我慢もできないのか口を挟む。

テレサも「こんなだから」と、小さく息をつきながらセシリアを見た。


「なるほど。あくまで仲間達の前では、クローヴェルのお付きのメイドという扱いのままにしたいのか」

「ええ。優秀な仲間達だったもの。可能なら、今後も彼らと協力しながら冒険をしたいところだからね」


 その為には正体がばれるのは不都合。

そういう理由があるならば、セシリアたちも納得がいくというものだった。


「だがちょっと待てよ。ここでこいつらの内誰かを蘇らせたとしたら、うちのプリーストが何もできなくなっちまう」

「そんなにSPが消耗してたの?」

「う……単に、SPそのものが少ないだけですわ」


 シェルビーからの意見もあってテレサも首をかしげるが、シャーリンドンは視線を逸らしながら、それでも嫌々ながら自分の能力を説明する。


「復活そのものは使えるが、一度使うと数日の間使えなくなるらしい。だから、こちらにとって君達の仲間を復活させるのは、かなりリスキーになってしまう」

「SPが少ないというなら、こちらのアイテムでその問題は解消できるわ」

「というと?」

「SP回復薬を大量に持ち込んでいるの。だから、いくらでも復活させられるわ」


 寝かされているダナンの近くに置かれていたリュックに視線を向けながら、「どう?」と問う。


「勿論、それだけでは貴方達にメリットはないでしょうから、この冒険の間中は、貴方達への支援を惜しみなくすることを約束するわ。私達の目的はさっきも言った通り、魂の追及のための調査。一階部分は先に済ませたけれど、このフロアはまだ半分も終わってないの」

「死体の鮮度から見ても、確かにそんな感じだな。一週間先に進んでた分は、一階の探索で潰れた感じか」


 実質、この地下フロアに関してはほとんど時間差が無い状態で入り込んだ形になっていた。

シェルビーの補足に、テレサも「そういう事よ」と頷き、セシリアを再び見る。


「ここで手に入る全てのものは貴方達にあげるわ。攻略に成功すれば、その栄誉も。とはいえ、まだ貴方達の目的も聞いてないけれど、ね」

「私達の目的は、私と一族にまつわる『呪い』についての情報収集と、その解除の方法を探す、というものだが、ほとんど当てのないものだ」

「ふぅん……何か曰くでもありそうね。騎士団の副団長様が何故こんなところにと思ったけれど」


 流石に貴族としてのセシリアの名は知れ渡っているのか、同じ貴族のテレサはその辺り、気にはしても深くは追及する気も無いらしく「それはいいけどね」と一旦話を切ってしまう。

セシリアも気にした様子はなかった。

大切なのは、組むか組まないか、である。


「組むことはやぶさかではないよ。だが、先にもう一つ教えてほしい」

「何かしら?」

「私達は、さっき倒した偽ダナンから、君達が倒した偽物たちの情報を聞いた。彼が偽物だった以上、その情報は全て嘘の可能性があると思ってね」

「少なくともダナンの偽物は生きてた訳だからな。あんたらが倒した偽物と、遭遇したけど倒せなかった偽物の情報は欲しいよな」

「そういう事だ」


 仲間達を蘇らせた後では、ややこしいことになるかもしれなかった。

復活の為に急がなければならないとはいえ、確実に知っておかなければならない事でもある。


「――クローヴェル」

「俺たちが倒したのは、さっき倒した偽ダナン以外の全ての仲間の偽物と、壮齢の男の剣士だ。隻眼の騎士とも戦ったが、プリーストが殺され、撤退中に俺とテレサ以外の全員が死んだ」

「情報としては、ほとんど偽ダナンと同じ感じみたいだな」

「ああ……少なくとも、ムッド卿の偽物は確実に倒れているらしい。良かった」


 ほっと一息、という気分にもなれなかったが、それでもセシリア的には幾分気楽に思えたのだ。

偽物とはいえ父親と同じ姿をした、父と同じ声で同じことを話す相手を切り伏せた後である。

同じような事は、できれば少ない方が良かった。


「シャーリンドン、復活を頼めるかい」

「解りましたわ……でも、SP回復ができたとしても、私多分、一度使うと失神してしまうと……」

「それは困ったわね……本当にギリギリの発動なのね」


 SPは、精神力と呼ばれるだけあり、その消耗は精神に大きく影響する。

当然使い過ぎれば精神的な摩耗も激しくなり、酷ければ失神、最悪精神崩壊を引き起こすことにもなりかねない危険な状況に陥る。

神々に祈り奇跡を願うという事は、それだけ人の身には大それたことなのだ。

流石に失神するのは問題か、と、テレサも困ったように眉を下げるが、名無しが「だいじょぶ」と、こういった場面では珍しく声をあげる。


「ポーターちゃん……?」

「ニンニクジュース、沢山持ってきた」

「マジかよ」

「これがあればすぐ起き上がれる」

「……まあ、確かにそうね」


 ニンニクジュース。それは古来より様々な使い方ができるとされている便利なアイテムである。

食事に混ぜれば活力や精力が増し、料理の下味に使えば肉の臭みを消すこともできる。

そして何より、気絶している人間の口に流し込むことで、意識を強制的に引き戻すことができるとされていた(効果は個人差があります)。


「え、いえ、あの……ポーターちゃん……?」

「シャーリンドン、安心して。ボクが流し込むから」


 こう、ぐっと、と、傾けるようなジェスチャーを見せながら、手に持った容器の封を切る。

むわっとした、ニンニクの何とも言えぬ臭いにおいが空間に漂った。


「う……すまない、私はどうも、この臭いが子供の頃から……」

「俺も料理に使われるくらいならいいけど、ニンニクジュースはちょっとな……」

「便利なアイテムなのは認めるが、正直これを作った奴の正気は疑う」

「……消臭用の洗口剤でも消えないのよね、この臭い」


 その場にいた名無し以外の全員が「うぷ」と、口と鼻を抑える中で、名無しはキラキラとした目で「大丈夫だから」とシャーリンドンに迫る。


「あっ、あっ……」

「まあ……SP回復剤とそれがあれば、いくらでも復活はできるわ」

「シャーリンドン、頼んだ」

「がんばれよ。いやマジで」

「その、なんだ……頑張ってくれ」

「ふっかつ! ふっかつ!」


 いつの間にか絶体絶命になったシャーリンドンは、涙目になりながら周りを見渡し。

そして、仲間が誰一人自分を助けてくれない事を理解し、「でも、あの」と、必死の様子で寝かされていた死体へと向いた。


「あ、あの……プリーストの方、いるんですよね? この中に」

「ああ、その右端の奴がそうだが……そいつの復活は、どうだろうな、できるか?」

「うぐ……潰れてる……」

「隻眼の騎士に突然吹っ飛ばされて、壁に激突したんだ」


 偽ダナンから聞いた死因そのままであった。

人としての形だけは残しているが、形がそれなだけで、見た目はミンチに等しい。

ニンニクの臭いで既にこみ上げるものを感じていたシャーリンドンは、胃の中がチリチリするのを感じ、必死になってこらえていたが。

それでも、このプリーストを復活させられれば、と、少しでも死体を崩さないよう、服の部分を抱きしめる様にして背中側に手を回し、目を閉じる。


「――復活を願います(リザレクティア)


 蘇りの奇跡はしかし、発動せず。

見守っていたテレサも「やっぱり無理だったようね」と、溜息をついた。


「恐らく吹き飛ばされた時点で死んでしまっていたのだろう。その上で、叩きつけられたから」

「運命の女神様の宗派では、復活とは、死の直前の負傷や病気に陥る運命を捻じ曲げ、なかったことにするもの、と定義されていますから……」

「じゃあ、死因以外で肉体がぶっ壊されちまったら無理って事か。死んだ後に首が離れちまうとか、そういうのは」

「復活の奇跡によって死の運命から免れることができなければ、蘇ることはできませんわ」


 この方は残念ですが……と、ボロボロに崩れてゆく身体を可能な限り丁寧に床に降ろし……そして「ごめんなさい」と謝る。

何の非もない事ながら、救えない命というのは想うところが大きいのだろうと、仲間達は考えたが。


「では、やはり貴方に頼るしかないようね。 SP剤は大量にあるわ。とても不味いけれど」

「ニンニクジュースもおかわり沢山ある」

「うっ……あっ、あっ……シェルビーっ」

「なんで俺の方見るん? 頑張れよ」


 しんみりとしている場合ではなかったのだ。

シャーリンドンは未だかつてない危機を感じていた。

年頃の若い娘としては絶対にあってはならない事の上位に入りそうなくらいの危機である。

そしてそれは、目の前にまで迫っていた。


「さあ、頑張って頂戴」

「ふっかつ! ふっかつ! ふっかつ!!」

「ひっ、あっ、あっ……」


 迫りくるSP剤とニンニクジュースの魔の手。

シャーリンドンは再び涙目になり、身を震わせ、首をいやいやするように振り乱し――退路を失った。





「~~~~~~~~~~~~~~~~~っっっっっっっ!!!!!!」




 それは、地獄のような光景だった。

一人復活させては気絶し。口の中にニンニクジュースを流し込まれ、無理やり意識を取り戻させられ。

そうかと思えば苦くねばつく不味いSP回復剤を飲まされ無理やりSPを回復させられ。

それを人数分繰り返したのだ。

セシリア曰く「まるで罪人に対して行う拷問のよう」で、ほとんど関りがないはずのクローヴェルですら「なんて非道な」と直視に堪えない光景となっていた。


 終わる頃には、部屋中にえもいえぬ酷いニンニク臭が漂い、涙すら乾いてしまった虚ろな目で「リザレクティア、リザレクティア」と呟くかわいそうなシャーリンドンが居た。




 こうして、クローヴェルPTは一名除き全員復活した。

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― 新着の感想 ―
むごい…これはむごい。可哀想に…。 それはそれとして、ポンコツプリーストの涙目と、ハイライトの消えた虚な目からしか摂取できない栄養素もあるんです。ごめんよ、シャーリンドン。がんばれ、シャーリンドン。
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