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だから私は!!  作者: 海蛇
第二章.ビャクレンの園編

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#28.なんいどきゅうじょーしょー


「――ふぅ、ひとまずは助かったぜ、ありがとうよ」


 傷が完治し、ようやく一心地ついたのか、立ち上がりながらダナンが礼を告げた。

腕や肩口、足なんかを持ち上げて調子を確認しながら、にかりと笑うその顔は、コワモテで。


「どういたしまして。間に合って良かったよ」

「ポーターちゃんの知り合いだったとはな」

「ギルドの同期」

「ど、同期なんですの? すごく先輩みたいに見えますわ……」


 大柄で筋肉質、ポーターでなければ戦士か格闘家でもやってそうな大男が、仲間の小柄な少女と同期とは、聞かされて尚理解が及ばないのも不思議ではなかった。


「私はこのPTのリーダー、セシリアだ。ダナン……と言ったか。君は私達より先に入ったクローヴェルPTについていたんだったな」

「ああ、そうだよ。クローヴェルの旦那には良くしてもらってな……」


 肩をクルクルと回しながら、セシリアの問いに答えてゆく。

やがて、辺りに散らばった荷物を、手際よくまとめ始める。


「……だが、このダンジョンはやべえな。とんでもねえモンスターが潜んでやがった」


 先ほどまでの明るい口調とは異なる、嫌な事を思い出すかのような低い声。

一同も、緊張気味に頬を引き締めた。


「とんでもないモンスターって、何?」

「解らねえ……ドッペルゲンガーか、幻術遣いか……ミストドラゴンか、いや、どれとも違う気がする」

「模倣系、あるいは幻覚系のモンスターか」

「恐らくは、な。俺もこの界隈は割と長いからな、やばそうなモンスターとはなんだかんだ一通り遭遇してる。だけど……今回のはちょっとどころじゃなくやべえ」


 散らばった荷物はほどなくまとめ終え、そうすると「よいしょ」と、またセシリアたちの前に座り込み、あぐらをかく。

セシリアたちも合わせて腰かけた。シェルビー以外は。


「ここから先には、至る所に鏡が付いてるフロアがあるんだ」

「そのようだな」

「おっ、なんだ? 攻略情報でも持ってるのか? お前ら」

「多少は。だが、全て知ってる訳ではないんだ。今は少しでも情報が欲しい」


 そのまま続けてくれ、と、セシリアが促すと、ダナンも「そういう事なら」と、思い出すようにこめかみに指をあてがい「あのな」と続ける。


一時(いっとき)も進んだ頃だった。突然、それまで誰もいなかったはずの背後から、仲間の姿をしたモンスターに襲われたんだ」

「……仲間の」

「ああ。それもそいつらは、見た目が全く同じだけじゃなく、意思もあるようで……同じ声で俺たちを指して『偽物』と叫んで、攻撃してきやがった」

「知らずに紛れてたら、だいこんらん」

「そうだな……私達でも、間違いなく混乱する」


 概ね、その『仲間の姿をしたモンスター』の情報は、セシリアの父親が残してくれた情報通りだった。

ただ、ダナンの語るそれは、より直近の出来事としてより解像度が高かった。


「まず最初の襲撃で、仲間のプリーストが負傷した。そうなるとプリーストは自分の身を守るために回復せざるを得ねえ」

「ああ。プリーストが倒れるというのは、多くの場合、PTの瓦解につながるからな」

「……その所為で、他の仲間への回復が遅れることになった。そんな時に、旦那の姿をした偽物が、フロアごと焼き尽くすような大規模魔法をぶっぱなしてきやがって……」


 洒落にならねえぜ、と、頭を揺すりながらその時の事を思い出し、呟く。

バックアタックでのプリーストの負傷。

体勢を立て直す前に不意打ちで放たれた大規模魔法。

……とても解りやすい、PT壊滅の危機だった。


「幸い、旦那がプリーストとメイドを優先して守っててな……メイドなんて守っても仕方ねえだろと思うけど、まあ、お気に入りなんだろうよ」

「クリスタルメイド装備のメイド……?」

「そうだよ! なんかよく解らねえけど、全身きらっきらのメイド服着てやがったぜ。至る所にクリスタルがついた超高級品な!」


 訳解んねえよ、と、笑いそうになりながら答え、また真面目な表情に戻る。

メイドに関しては思う所もあるが、それ以上に言及する気はないらしい、と、セシリアは考え、「それで?」と先を促す。

ダナンも「ああ」と、素直に話してくれるようだった。


「旦那のマジックバリアのおかげでプリーストの完治が間に合って、そのプリーストの全体回復のおかげで瀕死だった俺は回復できたんだが……間に合わなかった奴も結構いてな」

「じゃあ、そのまま壊滅を?」

「いや、曲がりなりにもプロフェッショナルに挑むようなPTだ。そんなもんで壊滅するほど脆くはねえ。一人二人死んだって、生き延びた剣士や戦士が旦那の偽物を殺して、その襲撃はしのいだんだが」


 そこまで語ると、「ふぅ」と深い息をつき、俯いてしまう。

何か嫌な事があったのか、とその場の誰もが察するが、彼の語るに任せていた。


「――襲撃は、何度も続いたんだ」

「偽物が、何度も?」

「ああ……最初の襲撃では、旦那と三人いた剣士のうち二人、それから二人いた戦士の片割れが襲撃してきたんだ。二度目の襲撃では、剣士の残り一人と戦士のもう片方、それから俺が襲撃してきた」

「……被りはなしか?」

「ないな。三度目では、プリーストとメイド、それから旦那じゃねえ方のメイジが襲撃してきたな。メイジ以外、戦う事もできなかったからこいつらはあっさり蹴散らせたが」


 問題はそこからなんだ、と、奥歯を噛みながらじ、と、セシリアたちを見つめる。

恐らく、ここからが伝えたい情報なのだろう、というのが解り、セシリアらはごくり、唾を飲み下した。


「四度目の襲撃は――見知らぬ、壮齢の剣士だった。たった一人、正面から」

「……壮齢の剣士、か」

「俺たちはそれまでの襲撃を退ける度、プリーストが死んだ奴を復活させ、ほぼ全快まで回復してから進んでいた。休憩だってちゃんと挟んでたんだ……なのに」


 苦しげに胸を抑えながら。

それでも言わねばならないのだと自分に言い聞かせるようにこぶしを握り締め。

その時を思い出すように肩を震わせながら……そう、豪傑にしか見えぬこの巨漢が、恐怖に震えていたのだ。


「たった一人のその剣士相手に、PTは壊滅した。凄まじい遣い手だったんだ。剣を十字に振るったのを見た瞬間、斬撃が突然発生して、先頭に立ってた戦士が二人、それで即死した」

鳳凰十字斬(フェニックスストラッシュ)……」

「解るのかセシリア?」

「父上の日記にあったムッド卿の技だ。確か、竜の防御耐性崩しの為の初手としてよく使ったとか……昔、本人が竜狩りの話で聞かせてくれたよ」

「初手の一撃で防御担当即死したのかよ、二人も」

「あの……プロフェッショナルに挑むようなPTの方、なんですよね……?」

「嘘だろ、あんなの熟練の剣士だってそうそうできねえよ。飛ぶ斬撃だけならともかく、空間ごと切り刻んでくるとか見たことねえぞ」


 とんでもねえ化け物だったんだぞ、と、苛立ちも込めた言葉で反論しようとするダナンだったが、すぐに頭を振りながら「いやでも、そうか」と、それを飲み込むようになんとか落ち着く。

それだけの現実を目の当たりにしたのだ、彼は。


「……プリーストと旦那、それからメイドだけが生き延びた。ぎりぎりだった。ぎりぎり、旦那の魔法が間に合って殺せた、らしい」

「ムッド卿の偽物を……クローヴェルも、中々やり手のようだな」

「どんな風に殺せたのかはわからねえよ? でも、結果的に勝てたんだから大したもんだよ。おかげで俺たちは復活できたんだが……五度目の襲撃。これで終わった」

「五度目は、誰が?」

「……あんたと似たような雰囲気の、やはり壮年の、隻眼(せきがん)の剣士だった」

「父上か……」

「あんたの父親か。なるほどなあ」


 納得だぜ、と、しみじみ語りながら、セシリアの顔をじ、と見つめる。

語りながらの恐怖こそは薄れたようだが、それでも尚、恐ろしいものをみた、といった疲労感の滲んだ表情だった。


「……あの街の冒険者ギルドで、騎士団の副団長様のやってるPTを知らねえ奴なんざそうはいねえ。あんたが凄腕だって事くらいは誰だって噂で知ってる」

「私は知りませんでしたわ……」

「今はだまってな」

「はぅ」


 こんなところで世間知らずが前に出てしまい、シェルビーに窘められしょんぼりしてしまうシャーリンドン。

だが、それがいい感じに空気を薄めるのに貢献したのか、ダナンはいくばくか軽い心持で「強い訳だぜ」と、もう一度呟いた。


「俺たちが戦ってたのは、この国のかつての副団長様だった訳だ。勝てる訳がねえ」

「ああ。そうだろうな」

「解るか? 何もない所でシールドバッシュしたと思ったら一番後ろにいたプリーストが吹っ飛ばされて壁に叩きつけられてるんだぜ?」

「なにそれ怖ぇ」

「後衛崩しの『バッククラッシャー』だ。父上の得意技だった」

「旦那はすぐに逃げの判断を選んだよ。ただ、道中に後ろからの襲撃もあった以上、入り口に戻れる保証なんてねえ。プリーストも死んじまった以上、復活の手段もねえし、な」


 ここにこれたのは俺だけだぜ、と、ゆっくりと立ち上がり、尻を叩いた。

同じように立ち上がるセシリアに「それでな」と、道の先を見つめる。


「いくつかの分岐を戻ってるうちに……皆と途中ではぐれちまった。俺だけが、生き延びたのかもしれねえ。ここまで戻ってこれて……だけど、逃げる途中に飛んできた攻撃で、深手を負っちまっててな」


 おかげでこのざまだ、と、まとめた荷物を再び背負う。


「そのでかいバッグに、回復剤だっていくつもあったんだろ? 使えば――」

「シェルビー、それはできない」

「いや、それでも……」

「それは、ダメ。絶対」


――ポーターとしての矜持というものがあった。

預かった荷物は、許可なしに絶対に自分の為に使ってはいけない。

その荷物の中に入っていて、自分で勝手に使っていいのは、ポーター自身が入れたものだけなのだ。

それが、彼ら彼女らの仕事をする上での、決して破ってはいけない鋼の掟であった。


「自分の分は、とっくに使い切っちまってたからな。それでも回復しきれなかったんだ。客の荷物に手を付けるのは、ポーターとしては絶対にできなかった」

「えらい、それでいい、ただしい」

「……ルールは絶対ってのは、ギルドごとの決め事だから仕方ねえけどよ。命がかかわってる時にまでそれってのは、厳し過ぎるんじゃねえか?」


 シェルビーの言い分も尤もだろうとセシリアたちも思ったが、名無しもダナンも首を振ってそれを否定していた。


「ポーターは、信用商売」

「客の荷物に手を付けたポーターがいる、なんて知れたら、俺だけじゃねえ、他のこの仕事で食いつないでる奴らまで、信用を失っちまう。『こいつらの誰か一人でも客の荷物を盗むんじゃないか』なんて疑われちまったら、俺たちは仕事ができねえんだ」


 誰も預けてくれなくなるぜ、と、名無しと二人してしきりに頷く。

その様に、シェルビーもプロフェッショナルなりの矜持を感じ取り頭を掻きながら「そりゃ悪かったな」と、素直に謝った。


「馬鹿にした訳じゃねえんだ。ただ、俺は死んじまったら元も子もねえと思っちまったから、さ」

「解ってくれりゃいいのさ。兄ちゃんの思う所も解る。実際、それで死にかけてた訳だしな」


 言いたいこともわかるんだ、と、いくばくかの許容も含めながら。

それでも、まだ視線の先の道に意識を向け続けていた。


「――まだ、生き残りがいるかもしれねえ。クローヴェルの旦那は、簡単に死ぬようなタマじゃねえかもしれねえ。だから、可能なら助け出してえ」

「報酬は貰ってる?」

「先払いでたんまりと。だからこそ、俺も命を賭けなきゃいけねえ。荷物を、客の元に」


 それが俺たちの仕事だからな、と、名無しに答えながら。

セシリアの方を向いてじ、と、改めてその顔を見た。


「俺が解る範囲はこの通りだ。この先には、間違いなくあんたの父親の偽物がいる。そして……多分、進めばあんたらの偽物も、出てくるだろうな」

「そしてその力は、恐らく本物と大差ない……」

「殺せるから、とりあえず絶対に死なない化け物とかじゃあねえだろうが、な」

「いや、情報としてこれだけ精微な話を聞けたのはありがたかった。感謝するよ、ダナン」

「そうかい? そりゃよかった。ついでと言っちゃなんだが――俺を、旦那達のところまで連れてってくんな。道なら案内できるぜ」


 どうせ進むんだろ、と、セシリアに笑いかけ。

セシリアもまた「もちろんだ」と、口元を緩める。


「いいだろう。ただし、生き延びられる保証はないぞ? 何せ、私の偽物がいるかもしれない」

「自分の親父の方がやばくねえのか?」

「ははは、そうだな、十年前までなら、父上は間違いなく私より強かったが」


 ダナンの手を取り、ぎゅ、と握手しながら。

それでもわずかばかり不安を感じたような表情のダナンに、にかりと笑みを向け。


「――今は、私の方がずっと強い」



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