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だから私は!!  作者: 海蛇
第一章.グラフチヌスの揺り籠編
14/62

#14.いちにちじょーしゅけん

 謁見の間。

それはその国の、最も豪華絢爛(ごうかけんらん)で、権威が表に出る場である。


「ほほ、良く戻ったのうセシリアと、その仲間達よ」


 御多分に漏れずキラキラとした黄金の玉座に、真っ赤な絨毯が敷かれていて。

幾人もの兵隊が控える中、正面中心の玉座には、人のよさそうな老爺が掛けていた。

この国の国王である。


「はっ……お久しぶりにございます。陛下。お日頃もよく――」

「うむうむ。よい。仲間達も一緒であろう? ほれほれこっちにこい」


 先頭に立つセシリアが、騎士らしく作法に則った礼儀を見せようとするも、「はよ、はよこい」と、王自らに手招きされ、すぐに「解りました」と他の仲間達に目くばせした。


「――ああ、ポーターちゃんはワシの傍に来るのじゃ」


 そして、前に出たセシリア達に更に一言。

言われるまま、名無しが王様の前に立つ。


「おうさま」

「おーおー、元気じゃったかポーターちゃん! 久しいのう、元気にやっとったか? うん?」

「ちょーげんきだった。セシリア様のにもつ、めちゃ運んだ」

「ほほほ、そうなのか、偉いのう! ほんにポーターちゃんは偉いのう!」


 どれ、と、傍に控えていた法衣の壮年を手で呼び寄せる。


「褒美に、街一つくれてやろうか」

「いやそいつに甘過ぎねえっ!? 孫かよっ!」

「相変わらずやかましい男じゃのう。シェルビー」

「う……しまった、またしても……」

「……相変わらずって、シェルビー、貴方まさか……」


 ついうっかりで王様に突っ込んでしまうシェルビー。

王もまた、小さく息をつきながら視線を向ける。

シャーリンドンも疑惑の視線を向ける中、セシリアは「ははは」と笑いだすのだ。


「陛下は名無しを可愛がってるからな。前に連れてきた時もシェルビーは突っ込んでしまったんだ」

「あの時は、うっかりで周りの兵隊達に囲まれて斬首されかけたぜ……」

「まあ……どこに行っても斬首されそうになりますのね、貴方って」

「なあに、ただの王宮ジョークじゃよ」

「笑えねえのは冗談にならねえですって!?」


 とはいえツッコミ体質は簡単には変えられなかった。

突っ込めるなら王様相手でも突っ込んでしまうのがシェルビーという男であった。


「うぅ、なんで俺こんなキャラになっちゃったんだろう……」

「いえ、貴方っていつもそんな感じだったような……」

「マジで!? 寡黙な斥候の兄貴って感じじゃなかったか!?」

「いえ、あんまり……」

「どこにいってもツッコミ担当?」

「どうもそんな感じらしいな。シェルビーらしい!」


 ははは、と笑いだすセシリア。

ポーターも王様も一緒になって笑いだすから困る。


「「ははははははは!!!」」


 そして周りの兵隊までもが一斉に笑い出すのだ。

城が揺れる笑いだった。


「そこ、笑いどころなん……?」

「いやまあ、場を和ませる的な?」

「笑いも時には必要なんじゃよ? いつも真面目な事ばかりしておるとな、ボケやすくなっていかん」


 年配と言える国王が言うと嫌な説得力があって、シェルビーは「そうっすか」と、それ以上突っ込む気にはなれなかった。

嫌な方向にリアリティがありすぎると、笑いにもできないのだ。


「――ま、冗談はともかくとして」


 場は和んだ。

シェルビーやシャーリンドンの緊張感は確かに薄れた。

けれど、王の醸し出す雰囲気は、この時からがらりと、全く異なるものとなっていた。


「セシリアよ。こうして戻ったという事は、ダンジョンの探索任務、無事終えたという事かの?」

「仰せの通りでございます、陛下。(くだん)の『グラフチネスの揺り籠』は、願いの叶えられるダンジョンでした」

「ほう、当たり(・・・)のダンジョンであったか」


 厳格なる王。

そんな雰囲気を漂わせ始めていた支配者に、シェルビーもシャーリンドンも黙りこくり、下を向いてセシリアの報告を聞いていたが。

王は感心したように頷き、そして周りの兵らも「おお」と、驚きの声をあげる。


「……して、願いは叶えられたのか? セシリアよ」

「いいえ。私は。他の者も、叶えられるような願いはなく」

「ふむ……条件か何かが問題になるのかの。ポーターちゃんはどうしたんじゃ? 城主になりたかったのだろう?」

「あんな奴に願いを叶えられたら碌なことにならない。夢が穢れる」

「なるほどなるほど……」


 相変わらず神の魔物・ローレンシアに対しては敵視する姿勢を変えないのか、名無しは首を振りながら国王を見つめていた。

そんな名無しの様子に、国王はしきりに頷いて見せ……そして、またセシリアらを見る。


「……『神の魔物』か。何が居た?」

「サキュバスが。目的は本人が言っていた通り、『訪れたものの性欲と夢をかなえる事による欲望』かと」

「それだけ聞くと、そこまで問題のある様な奴に思えんのう。神の魔物である故、あんまり放置するのもアレじゃが……」

「はい。ですが今のところは無害に近いかと。少なくとも私達に対し、敵意は向けませんでした」


 セシリア視点で見れば、殺せば殺せた相手ではあった。

けれど、自分の願いを一度は叶えようとして、けれど叶えられず、落ち込んでいた姿を見て、そして、その上で自分の知る限りの情報を与えてくれたりと、少なくともすぐさま敵に回る様な存在のようには思えなかった。


「みすみす討伐するよりは、放置して冒険者たちの貯えにした方がよい、という事かのう?」

「難易度的には決して楽なものではありませんから、一概には言えませんが……しいたけも存在し、私とそこのシェルビーが呪いにかけられましたし」

「なんと、しいたけが!?」

「なんと恐ろしい……よく無事に戻れたものだ」


 周りの兵たちが口々に驚きの声をあげる。

そうしてそれを、王が手をあげ制する。また、静まり返った。


「ほほ、その割にはぴんぴんしておる」

「後から加わったこの……シャーリンドンが、私達を救ってくれました」

「あ、あの、お初にお目にかかりますわ、陛下……」


 セシリアから紹介され、おずおずと声をあげるシャーリンドン。

けれど視線はまだ下を向いたままで、顔を見ようともしない。

いいや、できないのだ。


「……よい。顔をあげてよいぞ。シャーリンドン」

「あ、はいっ……それでは」

「そっちのシェルビーは単にワシの顔を見るのが怖くて下を向いてるだけじゃろうが、お前はそうではないようだな? 貴族の礼儀をよく弁えておる」

「彼女は、没落こそすれ貴族の出のものです。妹とも友人だったようで」

「そうなのか。いや、世間は狭いものじゃのう。ま、どこの出かは聞く気はない。没落したものは、没落するなりの理由があるんだろうからのう?」

「う……はい。その通りでございます、陛下」


 このような場だからこそ、そんな事は言うべきではない。

言外にそのような意味合いが含まれているように感じて、シャーリンドンはまた、視線を下に落とした。


「――ま、結果的に我が騎士団の有望なる副団長が無事帰還できた。そうして、探索の成果も上がった。あのダンジョンの内実も明らかになった。報告内容としては、十分じゃな」


 一旦下がった壮年の男にまた手をあげて呼び出し、膝をつきながらに「褒美をここへ」と告げる。


「……こほん。騎士団副団長セシリア卿及びその仲間達よ。陛下より、金と褒美一品を遣わす」


 ぱち、と法衣の男が手を叩くと、それに合わせ、奥の方から従者らが現れ、人数分の宝箱を置いていった。


「陛下からの格別の計らいである。遠慮なく受け取るといい」

「ありがとうございます。陛下」

「あ、ありがとうございます」

「ありがたく頂戴いたしますわ」

「ありがと、王様」


 述べる感謝は立場により様々だが、開けられた宝箱の中身は、どれも輝かしいものであった。


「これだけあれば、しばらくは飲み代に困らんなあ……いやあ、ツケのない生活ができるのはいいなあ」

「私も……これなら、婆やに苦労させずに済みそうですわ。でも、後からきた私がこんなにもらってしまっても……」

「気にすることはない。ダンジョンというのはそのような場で、PTというのはそのようなものだろう?」

「陛下の仰る通りだ。貰っておくんだ、シャーリンドン」

「はい……ありがとうございます」


 慎み深いシャーリンドンは一瞬迷ってしまったが、王とセシリアの言葉で安堵したように、その報酬を受け取る。


「……さて、一番の貢献者は当然ポーターちゃんだと思うが」

「異論はありません。沢山の荷物を持ってくれましたから」

「罠の解除は俺が一番頑張ったけど、ま、荷物持ちは重要だもんなあ」

「あの、私もそこは特には……」


 話の流れが急に変わった感じがして、シャーリンドンは首をかしげていたのだが。

隣のシェルビーの「うわあきたよ」という小さな独り言が聞こえて、なんとなく嫌な感がしたのだ。


「ポーターちゃん! 何が褒美で欲しい!?」

「おしろ! じょーしゅになりたい!」

「はっはっはっ、よし! ならばポーターちゃんは、今日からこの城の城主じゃ!!」

「えぇぇぇぇぇっ!?」


 突然の決定に、シャーリンドンは思わず大声をあげてしまったが。

兵たちの「おめでとー」「がんばってくれー」「新王様ばんざーい」という喝采の声に掻き消されてしまった。


「ボク、超がんばる」


 ふんすふんすと鼻息荒く何度も頷く名無し。

セシリアは兵たちと一緒になって「おめでとう」と素直に祝福し。

そうしてシェルビーは「うわやっぱこうなったよ」と、深いため息をついていた。


 そんな、謁見の間での出来事であった。


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