第八話 王宮の庭園
――翌週。
定例のお茶会は、王宮にて行われた。
「やあ、胡蝶蘭とは凄いね」
「だな。アルにしては、高尚な趣味じゃないか」
「うっさい。全部俺が世話してるわけじゃないからな」
王宮の庭園にはアルベルト専用の区画があり、そこでは胡蝶蘭が栽培されている。
庭園にテーブルが置かれ、アンジェリーヌたち四人はお茶を楽しむ。アインホルンが感心してみせ、ポテトが茶々を入れた。アルベルトは、ぶっきらぼうに応じる。
アンジェリーヌは庭園を眺めながら、カップを口に運んでいた。
ーーそのお茶会の場でアンジェリーヌたち三人は、アルベルトからアラムについて説明を受けた。
アラムは時折、王都郊外に出ていく。
人のいない山や森で、動物たちと触れ合うためである。アラムは不思議な少女で、幼い頃から動物に好かれていた。
王宮の庭園にあるアラム専用の区画は、小動物が相当数生息している。
そして昨年、王宮の庭に天馬が降り立った。
騒然とする中、アラムが天馬を手懐けて自分の乗馬としてしまった。
ーーそれを聞いた王が、魔物使いの師をアラムに付ける。
動物に愛され天馬を手懐けるなど、アラムに魔物使いの才能があることは疑いようがない。
ーーあとは、制御のための技術を学ばなければならない。
アラムのような王族にとって、魔物使いの能力は不要で、危険である。魔物の制御を誤れば自己に危害が及ぶばかりか、周囲の人間が傷つくからだ。
アラムに付けられた魔物使いは、アラムに様々な技術や知識を教えようとした。
が、一通り魔物使いの知識に触れると、アラムがこれを拒否。
アラムに付けられた魔物使いも、首をひねった。アラムは、一般的な魔物使いと一線を画すようで、教えることがなくなったようだ。
もともと、魔物使いの技術体系は確立されておらず、個人の資質による我流が多い。力で従える、魔力で操る、フェロモンで惹き付けるなど……。
アラムはそのどれでもなく、他の魔物使いとなにかが違うようだった。
さて、そんなアラムは先日、天馬に乗馬して王都近くの森に不時着する。
天馬が暴れ、制御が難しくなったためだ。天馬を宥めて辿り着いたのが、あの森であり、アラムがその場で見たものが、シデンによるデーモンオーガの討伐であった。
デーモンオーガの強力な魔法攻撃を防ぎ、シデンがデーモンオーガを仕留めていた。
アラムは邪魔にならないよう、立ち去ろうとする。戦士が、魔物を斃すーー。アラムが口を出すことではなかった。
ーーしかし、アラムは気が付いた。
デーモンオーガの傍らに、小さく、震えている存在に。デーモンオーガの幼体であった。
シデンは、躊躇なくデーモンオーガの幼体を始末しようとした。
それを察知したアラムの内で、何かが灯った。アラムは、シデンの前に飛び出したーー。
「そこに、俺たちが出くわしたのか……」
アインホルンが、アルベルトの話を聞いて唸る。
(そんなことが……)
アンジェリーヌも、頭の中で状況を整理する。
「ふーん、大変だったな。しかし、お前のとこの妹、凄いな。そのうち、この庭園が魔物の棲家になりそうだな」
ポテトは軽い。
「うう……。否定できん」
アルベルトが頭を抱える。
「心配するとこ、そこ!?」
アンジェリーヌが思わず突っ込む。
「もしそうなれば、男爵領と伯爵領に溢れた魔物を引き取ってもらうか。それぞれ、相当数の負担を……」
「アホかーっ!?」
アルベルトの言葉に、慌てるアンジェリーヌ。
「うちは良いよ、広いから」
と余裕のポテト。
「おいおい、魔物の軍隊とかは勘弁してくれよ」
と目を剥くアインホルン。
「まあ、それは置いといて、今日はアラムも一言お礼を言いたいみたいで……」
アルベルトが言い終わらないうちに、歩いてくるアラムの姿が見えた。
一同は立ち上がり、アラムを迎える。
(ひぃぃぃ、展開が全く読めない……)
アンジェリーヌは、展開の速さにビクビクである。
当たり障りのない挨拶のあと、アラムが先日の一件について、アンジェリーヌたちに謝意を述べる。
怪我も完治したことが告げられ、アルベルトも改めてアンジェリーヌたち三人に謝意を述べた。
また、アルベルト同様にアラムに対しても、くだけた場では気軽に接してくれるよう求められる。
謝意を受け、
「いや、特に何もしてないからね……」
とアルベルトとアラムに、気にしないように伝えるアインホルン。
「俺もだ。活躍しそこなったな」
軽い口調のポテト。
「いえ、傷の手当てまでしていただいて……」
と、にこやかなアラム。
「そういえば、デーモンオーガの子供はどうしてるの?」
気軽にポテトが尋ねる。
「『デモデモ』ちゃんは、こちらに……」
言って、パッと自分のスカートをめくるアラム。
一同、ギョッとした。
アラムの膨れたスカート内には、デーモンオーガの子供――デモデモがいた。
アラムの足にしがみついている。
「こ、こら、アラム! 足を見せない!」
アルベルトが慌てる。
「あら、私としたことが。オホホホ」
とイタズラが成功したアラムはご満悦だ。
デモデモも、なにやらはしゃいでいた。
晴れた昼下がり、王宮の庭園には少年少女の笑い声が響く。
麗らかな陽射しが、心地よいーー。
「……あ、そういえばアンジェリーヌ様」
と、ふと思い出したようにアラムがアンジェリーヌに声をかけてきた。
「ひぃぃぃ、あ、いえ。はい、アラム殿下。なんでしょうか……」
「アンジェリーヌ様は、お兄様と御結婚なさるんですか? そうしたら、アンジェリーヌ様は私のお姉様ですね」
きゃっ、とアンジェリーヌの腕に抱き付くアラム。
「ひ、ひぃぃぃ!? とんでもない、そんな予定ございません!」
「ふむ……。俺も相手が決まってないし、アンジェが良ければ、伯爵に打診を……」
「や、やめてッ!」
「はは、アルが嫌ならイケヤ王国にどう? イケヤもいいとこだよ?」
「あ、アホーっ! 引っ掻き回さないで!」
「男爵でも大丈夫なら、うちは? 広さだけなら、辺境伯レベルだよ! 将来性を考えてみない?」
「ひぃぃぃ、あんたまで!」
(何を言い出すの、こやつら! 私は主人公か! はっ、それにしてもアラムのキャラってこんなんだっけ? ……えっと、もう訳わかんない~!)
慌てまくるアンジェリーヌ。
彼女の受難(?)は続きそうだ。
青い空の下、今日も平和なお茶会であった――。




