第五話 死亡フラグなんて、ない?
「またこの展開か」
アンジェリーヌは白けた。
定例(?)となった金曜午後のお茶会である。その場で、翌日は滝を見に行くことに決まった。アインホルンが、アルベルトの提案した『滝』という言葉に反応したのだ。
さて、王都の南側には豊かな森林が広がっており、その森林の中程には、滝がある。大きめの滝で、水量もあるため見応えがある。
ポテトが大まかなタイムスケジュールを決め、集合時間等をまとめる。
アンジェリーヌは黙って聞いておく。アンジェリーヌの参加は、決定事項なのだ。
(小僧ども~。レディを気軽に連れ回しおってからに~)
扱いがぞんざいな気もするが、断る理由もなく、アンジェリーヌも散策が嫌いな訳ではないので参加はするが……。
「じゃ、明日は乗馬の出来る服装で」
ポテトがそう言って締め括った。
「へ? う、馬?」
ーーアンジェリーヌはポテトを二度見した。
――翌日、王都南側の森林近くにて。
やや広めの道を、四騎の騎影が走る。
「ひ、ひぃぃぃ! 馬、早ッ!」
アンジェリーヌは、レディにあるまじき形相で手綱を握り締めた。
「アンジェ、よく乗れるね。伯爵令嬢と言えば、乗馬なんて出来ないものだけど」
ポテトが感心して話しかけてくる。
(じゃあ、乗馬に誘うな! てか、乗れとらんわ!)
とアンジェリーヌは心の中のツッコミはしっかり入れつつ、
(思い出した! この場面は、アインホルンが気紛れで自分の馬にエリーゼと一緒に乗って『身体が密着、エリーゼって華奢で、良い匂いがするんだな。ドキッ』のシーンだ! 私の匂いを知ってどうする!? てか、誰も乗せてくれないぃぃぃ!)
と悲鳴を上げた。
ーー少年三人は見事に軍馬を乗りこなし、笑いながら先行するのであった。
休憩時、アンジェリーヌは目を回していた。
身体がガクガクして、宙を浮いてる気分だ。用意された飲み物が冷たく、酸味が心地好い。さすがにアルベルトのお出かけなので、休憩時やコースの要所にさり気なく人員が配置され、散策はスムーズだ。
そこでは、ギブアップしたときのため、馬車が続いていたことにようやく気付くアンジェリーヌ。
(一言、伝えとけ! もう少し早くギブアップしたのに!)
心の中で悪態をつくアンジェリーヌに、アルベルトやポテトが乗馬を教えようとしてくるが、丁重にお断りした。
その後は馬車に合わせて、目的地の『滝』まで順調に進む。
「わあっ……!」
ーー滝は壮大で、アンジェリーヌは思わず息を飲んだ。
幅五十メートルはあるだろうか。
高さ二~三十メートルの崖から水が流れ落ちる様は迫力がある。さらに滝を形成する崖の先に洞窟があり、差し込む光のグラデーションが、見る者を引き込む。
「素晴らしいな……」
アインホルンも気に入ったようだ。
一同、しばし見惚れる。
「やるじゃないの、糸目」
「こら。……子供の時は、こういった所にも時々来てたんだ」
アンジェリーヌの称賛の声(?)に、アルベルトが答える。
アンジェリーヌも、先日の一件から吹っ切れてタメ口をきき、軽口を叩くようになった。
「人気はないんだなーー」
「そうだな。誰か来ると、互いに気を使うしな」
アインホルンとアルベルト。
明らかに貴族とわかる一行がいたら、普通の者は気を使ってしまう。
「その点、俺は楽だったかな。どこに行っても領民から気を使われることなんてなかったからな」
と、ポテト。
「そりゃ、いいな」
「ある意味、うらやましい」
アインホルンとアルベルトが笑う。
(……あ、ポテト。こいつが原因だ)
アンジェリーヌは、突然理解する。
アンジェリーヌが前世にハマったゲームと展開が全然違うのは、ポテトの影響が大きい。ポテトがいるから、アルベルトとアインホルンは親友になれた。ーーアンジェリーヌも、すんなりと輪に入れた。
(人の心を繋ぐんだ)
ポテトの特質である。
何となく、少年たちもわかっているのだろう。アルベルトも、アインホルンも、ポテト自身も。
ーー良くもまあ、アルベルト、アインホルン、ポテトが巡り合ったものだ。
今の状況は、ゲームとは異なる。主人公のエリーゼがいないのに、ゲームの主要な場面は発生する。まるでアンジェリーヌが主人公で、悪役不在の内容だ。
ーーアンジェリーヌはポテトを見つつ、首を傾げた。
(私、このままでも死亡フラグ立たない?)
楽観視は禁物であろう。
だが、将来の不安を脇に置き、少年たちとの友誼を深めたいと感じている。
今は、少年たちを信じて……。




