第四話 散策日和に
専用のリムジンバスは、快適だ。
軍用馬が牽き、速度も出る。王都の中心から郊外まで、一時間程で出ることができた。
それからはリムジンバスを降り、あらかじめ用意された優雅な馬車で小高い丘に登る。丘に絡みつくような小川からはせせらぎが聞こえ、花が群生する様は別世界のようだ。
ここはアルベルトがお気に入りの散策コースで、幼い頃は時折訪れていた場所である。街道から外れており、滅多に人も来ない場所であるため、気兼ねなくゆったりできる。
足を伸ばして林を歩けば、澄んだ湧水の出る泉もある。
「ーーいやあ、いい所だね」
アインホルンが背伸びをする。
「そう言ってもらえると嬉しいよ。小さい頃に時々来ていたんだ。懐かしいな。最近、来ることがなかったから」
アルベルトが言う。
ポテトも、郊外に出れて嬉しそうだ。にこやかに二人と会話を弾ませている。
「……」
アンジェリーヌも、嫌々付いて来たものの風が爽やかで気持ちが良い。
幕を立てて日陰を作り、テーブルセットの配置が絶妙で、お茶が美味しい。リラックスできる、空間だ。
たまには、こんなとこもアリだなー、とアンジェリーヌが情景に浸っていたところ、
「細目だな」
「いや、糸目だ」
と爆弾発言がーー。
(ひ、ひぃぃぃ! バッドエンディングへのスイッチ発言が!)
アンジェリーヌは、一気に現実に戻った。
この『糸目』というセリフは、地雷になる。油断し過ぎて、アンジェリーヌは地雷を回避出来なかった。
ゲームでは、王都郊外の散策でエリーゼがアルベルトの瞳を見て一言。
『切れ長で、涼しげな目元ですね』
その言葉を聞いたアインホルンが、アルベルトに軽口を叩く。
『糸目だろ』
その場は笑い合って済ますが、両者にはしこりが残る。アインホルンが留学を終えて数年後、両国が戦争までに発展してしまうのである。
なお、その際にもやはりアンジェリーヌにはバッドエンドが待ち受ける。
(ふぉ、フォローをぉぉ! てか、『糸目』発言ごときで戦争すんな!)
アンジェリーヌはあたふたするが、良い考えなど浮かぶべくもない。
そもそも、ゲーム内切っての憎まれキャラであるはずのアインホルンが、なかなか本性を出さないのである。初対面からキレッキレの嫌なヤツであるはずが、未だに猫かぶりなのだ。
「……おい、酷いな! 人が気にしてることを! デコボコ頭!」
アルベルトが怒り出す。
「な、なに!? いくらアルでも聞き捨てならないぞ!」
ポテトも声を上げた。
「おいおい、そんなに怒るなよ」
アインホルンが宥める。
「ーーん?」
アンジェリーヌは首を傾げた。
そう言えば、会話の流れは不明だが(ボーとして聞き流していた)、先程は『細目』とアインホルンが言い、続けて『糸目』はポテトが発言していた。
(『細目』は許せて、『糸目』は許容範囲を越える!? ……じゃなくて、セリフを言う人物が変わった?)
アンジェリーヌは状況把握に頭を働かせる。
「うっさい、ワカメ髪!」
「そうだ、青色の髪がワカメみたいなんだよ!」
アルベルトとポテト。
「な、なんだとーっ!」
アインホルンが激高する。
「ギャハハハ!」
「ダハハハ!」
アルベルトとポテト、爆笑である。
「ーープッ、ククク。アッハッハッハ!」
怒ったアインホルンも、釣られて笑い出す。
(な、なに、なんなの、こいつら……)
アンジェリーヌ、取り残される。
(わけワカメ……)
訳がわからず、口から魂が抜けそうだ……。
(しかし、仲良さそうね……。わだかまりなんて、これっぽっちもない? 別にアインも地雷を踏んでないし……。ーーポテトが地雷を回避した?)
放心するアンジェリーヌ。
少年三人は年相応にギャーギャーと騒ぎ出す。
(……なんだか、馬鹿くなっちゃう)
そんな三人を見て、アンジェリーヌもついクスクス笑い出してしまった。
「やあ、アンジェにも笑われたな」
アルベルトが、いち早く気付く。
「糸目のお陰か?」
ポテトが茶々を入れ、
「デコボコ頭のご利益か」
アインホルンも混ぜ返し、
「ワカメ髪の効能かもな」
とアルベルト。
「三人とも、仲がよろしいこと」
アンジェリーヌも、いよいよ可笑しくなってきた。
「……学院で皆と出会えて良かったよ。堅苦しくなく、気軽に接することができる。初めての経験だ。……一生の友、とは大袈裟かな」
アルベルトが照れながら、そう口にすると、
「俺もだ。ブクマ王国に来て良かった。信じられないくらい、充実している。この時間が続けばいい、なんて思うよ」
アインホルンが応じた。
「俺も楽しいよ。まさか、こんな話が出来るようになるとは、予想もつかなかった。アンジェもだけどね」
ポテトがアンジェリーヌに振る。
「……!?」
アンジェリーヌは、話を振られて思わず目を白黒させる。
「私も、ですか?」
「そうだよ? 何故かアンジェとは気軽に接することができる」
「別に悪い意味じゃなく、ちゃんと女性として見てる。だけど、他の女性と何か違うんだよ」
「二人とも王子だからなー。アンジェみたいな女性はなかなか周りにいないんだろ」
アルベルト、アインホルン、ポテトの順でアンジェリーヌに言う。
(んんっ??)
アンジェリーヌが首を捻ると、
「俺もそうだけど、アンジェはアルとアインを王子様と見てないんだよ。対等に、一人の人間として接してるからさ」
ポテトがニヤッ、と笑う。
「ま、王子というより、糸目だし」
「ワカメ髪より、マシかな」
アインホルンが茶々を入れ、アルベルトが返しを打つ。
「デコボコ頭よりいいんじゃない?」
ポテトも重ねる。
「あら!」
クスクスとアンジェリーヌも笑ってしまう。
「糸目にワカメ髪、デコボコ頭……!」
「「……」」
あんまり笑うアンジェリーヌに、少年たちは憮然となりつい一言を放つ。
「「アンジェのペチャ鼻」」
「な、なんですってーッッッ! 小僧ども~!」
激昂するアンジェリーヌ。
……アンジェリーヌにとって『ペチャ鼻』は禁句であった。
小僧ども、説教される――。




