雪兎【WEB】
雪兎
「こんとしは雪が降らんねぇ」
「そんやねぇ」
「いっとき降りそうやったのにねぇ」
「ほんまやねぇ」
ぴょん! ぺっちょん!
ぴょん! ぺっちょん!
ぴょんぴょん!
ぺっちょん! ぺっちょん!
「何やろねぇ……? お外でぺっちょん! ぺっちょん! 音するわね……?」
「そんやねぇ……? 何ぺっちょんぺっちょん! しとるんやろなぁ……?」
すううううぅ〜〜〜〜……とましろな霞なのか霧なのか……。
ましろな靄が静かに静かにすううううぅ〜〜〜〜っと舞い降り、静かに静かに街中を覆ってゆきます。
ぴょん! ぴょん!
ぺっちょん! ぺっちょん!
ぴょんぴょん! ぺっちょんぺっちょん!
ぴょんぴょん! ぴょんぴょん!
ぺっちょんぺっちょん! ぺっちょんぺっちょん! ぺっちょんぺっちょん! ぴょんぴょん! ぺっちょんぺっちょんぺっちょん! ぴょんぴょん! ぺっちょんぺっちょんぺっちょん! ぴょんぴょんぴょんぴょん! ぺっちょんぺっちょんぺっちょんぺっちょんぺっちょんぺっちょんぺっちょんぺっちょんぺっちょんぺっちょんぺっちょんぺっちょんぺっちょんぺっちょん! ぴょんぴょん! ぺっちょんぺっちょん! ぺっちょんぺっちょん! ぴょんぴょん! ぴょんぴょん! ぺっちょんぺっちょんぺっちょんぺっちょんぺっちょんぺっちょんぺっちょんぺっちょんぺっちょんぺっちょんぺっちょん……。
ガラガラと開けた格子戸の向こうに、雪の菟が何処へゆくやら、南天の赤い実の目、ゆずり葉やら椿の葉の緑の耳をゆらしながら……しろく霞む冷気の靄を携えて……ぴょんぴょん! ぺっちょん! ぺっちょん! 雪の菟が何処へゆくのやら……ぴょんぴょんぴょんぴょん! ぺっちょんぺっちょん! ぺっちょん! ぺっちょん! はねてゆきました。
「……」
言葉も吐くことなくその光景を……ただ呆然と眺めておりました……。
そんな不思議な事のあった日の翌朝……ドカッと100年に壱度の大雪が、たあ〜んとたんと降りましたとさ。
「なあなあなあ! 聞いてえなあ! きんのう雪の菟があそこんとこぎょうさんはねとったわ! びっくりでしたでぇ! なあ!」
「何言うてまんのんや?」
「ほんまやて! わてもいっしょに見たんやって!」
「はいはい! そんな夢見たいな事ゆうて、油売っとらんで外の雪すかしてんか? 商売にならしまへんわ!」
「あんた見たな!」
「この両目でたあ〜んと見たで!」
「あてだけとちゃ〜うんやな!」
「だべっとらんで、はよすかしてんか!」
「へぇ〜い! すんまへ〜ん! すぐすかしまぁ!」
「ほんでもなあ? 外、雪の壁やけど? 何処すかそかな?」
「今日は商売ならんよってな? 適当にやっとこ!」
「そやな!」
「どうせやったら達磨作ろか!」
「折角やから雪の菟の達磨作ろうや」
「ええなあ!」
「達磨の下の玉作っといてんか! 耳のゆずり葉の葉と、髭の松の葉と、南天の赤い実ぎょうさん集めて来るわな!」
「はなコロコロしとくわ!」
「頼んだでぇ!」
「どえらい馬力で行ってもうたわ!」
「コロコロするほうが楽やと思うんやけどな? 言い出したら鉄砲玉やからしゃあないか かまくらもできそやな! よ〜しやるでぇ!」
疲れて果てて、寝静まったその日の夜。
雪の菟の対の達磨の前に雪の菟がぴょんぴょん! ぺっちょんぺっちょん! 集まり夜通しはねておりました。
粉雪がこの街の周辺だけに、しんしんと降り積ってゆきました。
とある冬の日の出来事でした……。