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その②

「さてと。多分これだけかな」


琢磨はそう言うと宿泊先のホテルから出る為の荷造りを終えた。

実際に荷造りといっても昨日のうちに学院の寮へ荷物を置いてきたから少し大きめのカバン一つで収まってしまった。


琢磨はホテルに備え付けてある時計で時間を確認した。

「そろそろ八時になるか…。もう行かないとダメだな。」


琢磨は椅子に掛けてあった制服を着ると荷物の入ったカバンを肩に掛けてチェックアウトするために部屋を出た。


ホテルを出て15分。琢磨は学院の校門をくぐり、職員室前に来ていた。

「今日から僕も月詠生か…。でも、この制服はかなり浮いてるかな。」


琢磨は独り不安そうつぶやいた。

それもそのはず琢磨が不安がるのも無理がない。何故なら、琢磨の制服は紺色を基調とした学ランの制服を着ている。しかし、月詠の生徒が着ている制服は白を基調とするブレザーだからだ。


おかげで琢磨は登校中に多くの月詠の生徒に注目を浴びてしまった。

結局、その視線に耐えきれなくなって職員室まで走ることになってしまったのだ。


コンコン…。

「失礼します。今日からこの学院に転校した。周防琢磨です。よろしくお願いします。」

琢磨はノックをして職員室に入ると同時に挨拶をした。

琢磨の一番近くにいた男が待ったいたかのように話し掛けて来た。

「君が周防君だね。私は君のクラスの担任になる石見忍です。よろしく頼みます。」

石見の顔には頬に大きな刀傷が一本入っていた。しかし、見た目は優しげな雰囲気をかもし出している。

琢磨が少し石見の顔をみていた。

そんな琢磨の視線を石見は感じとったのか笑顔で返した。

「私の顔の傷はあまり気にしないで下さい。若気の至りというものですから。」

琢磨は石見の一言で我にかえった。

「すいません、石見教官。」

琢磨はそう言うと頭を下げた。

「いいんですよ。みんな気にしちゃいますしね。さあ、周防君、時間がありませんのでそろそろ理事長室に挨拶をしに行きましょう。」

石見はそう言うと琢磨を誘導するように歩き出した。

背中を見せてはいるが全く隙の無い歩き方である。

そう思いながら歩いてると石見教官が琢磨に背を向けながら話し掛けた。

「君は洞察力が優れていますね。でも、あまり日常的に観察しない方が身のためですよ。誰にだって知られたくないモノがあるんですから。」

「ご忠告ありがとうございます。」

たしかに無意識ではあるが観察をしている。向こうにいたときの癖が抜けてないことを気をつけなければいけないと思いつつも石見に尋ねてみることにした。

「あの、ひとつだけ聞いてもよろしいでしょうか?」

「いいですよ。どうしました?」

「教官は戦争を体験してますよね。しかも、兵士として。」

石見のかもし出す穏やかな雰囲気が一瞬だけ消えた。だが、それは本当に一瞬のことだった。

「おや、やはり君は鋭いですね。君の推測どうり過去に一度だけ経験してますよ。」

「お答えいただきありがとうございます。もうこれ以上はなにも聞きません。」

「そうですか。なにか困ったことがあれば聞いてください。っと、もう着いちゃいましたね。」

石見はそういうと理事長室のドアをノックした

コンコンッ。

「理事長、石見です。新入生を連れて来ました。」

石見教官のドアを叩く渇いたノック音が琢磨の身を引き締める。

「入りたまえ。」

低く渋い声がドアの向こう側から響いた。

「失礼します。今日から月詠武術学院に転入しました。周防琢磨です。」

昨日と同じように琢磨は礼儀よく挨拶した。

「相変わらず礼儀がしっかりしておるな。」

本郷は数回ほどしか会っていない琢磨を随分と気に入ったようだった。

「そうですか。普通のことだと思いますが?」

琢磨は本郷のほめ言葉に対して謙遜するような口調でいう。

「そうやって己が普通だと感じているのは自信があるものだけじゃよ。琢磨よ。お前は中東の方では大活躍だったそうじゃないか。」

「いえいえ、自分はまだまだ未熟者ですよ。」

本郷は世間話をするのを惜しみつつ話を切り替えた。

「まぁよい。時間が無いのでな。そろそろ本題とするかの。」

本郷はいかにも理事長らしい雰囲気を醸し出し、話し始めた。

「我が校は創立して二〇年という短きものだが数々の実績を残しておる。創立者の名前は本郷 一徹つまりは儂の事である。この学院を創立したきっかけは君の知るとおり、衰退しつつある武術の復興と強い精神力をもつ日本人の育成である。主な校則は五つのみ。


その一   死人をだすな。

その二   日々の鍛錬を怠るな。

その三   試合は真剣勝負。

その四   友との協力

その五   常に最善の行動を心がけよ  


君はそれを承知の上でここへ来た。儂は他の理事の反対をおしきって君を推薦した。当然の如く期待しているんだがのう?」

 琢磨の横に立っていた石見教官が少したじろいだようにみえた。いや、見えたのではない。

本郷のたずねる目は獲物を狙う目であった。しかも、ここで「期待するな」と答えれば確実に殺されるほどの殺気を放っていた。

石見は次の言葉で彼の運命が決まってしまうと思った。だが、琢磨は本郷の殺気を無かったかのように微笑んだ。

「戦闘は期待しないでください。医療であれば誰ひとりとして死なせはしません。そのような覚悟が無ければここに座っていませんよ。」

この言葉だけで重苦しかった理事長室の空気があっという間に変わってしまった。

これに本郷は満足した表情をしていた。

「うむ、合格だ。我が殺気をこうも受け流すとは、ワシの愚弟の息子にしては骨がある。」

本郷と琢磨の意外な関係を知ってしまった石見教官は呆気にとられるしかなかった。

「理事長の弟さんの息子さんだったんですか…。」




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