第29話 激闘、只見戦!6
(落ち着いて見るのです。相手の行動や息遣い、そしてその人物が醸し出す感情を……)
「そうだね。慌てても何も起こらないからね」
以前、伊織から教わったことを思い出していた。
(立ち向かう恐怖に打ち勝つのです……そして、止まった時に「一歩」を踏み出すのです)
「出来るのかな、自分に……」
魔術師と言えども、向こうは戦闘を何度も経験をしてきたベテランだ。
こちらの行動も把握済みかもしれない。
伊織の訓練をうけた結果なのだろう、自分でも驚くぐらいに冷静でいられる。
それに身体が軽く感じる。
慌てることもなく、相手の行動を見ている終。
向こうの戦闘も、もうすぐ終わるだろう。
巴や忍者群達、天照さんも居るのだから問題ないはずだ。
相手の本陣はこちらか……
初戦は相手の油断からの勝利だった。
次は、討伐隊による攻撃で中断になってしまった。
……ここで、勝負が決まる。
天照さん達が勝っても、自分が負けたら何の意味もなさない。
「行こうか」
終の表情が変わった。
復讐者パーティーで最初に動いたのは、ハンクス・キンバリーだった。
彼は全身にシールド、持っていたナイフに“魔力硬化”と“魔力強化”そして“麻痺毒”を付与したマジックアイテムを所持していた。
アカデミー時代でも接近戦を得意としており、接近戦の講座でも優秀だった。
キンバリーは、俊足を生かして近距離まで詰め寄り、魔力を帯びたナイフでの攻撃がスタイルだ。
「よう、接近戦だと大きい剣が不利な場合だってあるんだぜ?」
そう言いながら、“俊足移動”の魔法で一気に終に近づいた。
例え剣が当たっても、シールドでの防御は完璧だ。
いつもやっている通りにすればいい……
いくら剣を持とうが、それを使いこなす技術が無ければただの棒にも等しい。
キンバリーは余裕だった。
プロを相手にしても必ず成功していた。
いくら魔術が優れてても、接近戦でガキに後れを取るはずがない。
全ては完璧だった。
後方に回って、首筋にナイフを突き立てる……後は行動を行うだけだった。
キンバリーが終の後方を取ろうとした時、彼は信じられないようなモノを見たかのように大きく目を見開いた。
メキメキ……
「ごふっ!!! ぐわぁぁぁ!!!!」
動きが止まったのは、キンバリーの方だった。
終の瞳は冷酷なくらいに冷静だ。
冷静に彼の動きを見定め剣を構えると、遠心力も加わった力で剣を振った。
終の剣がまるでバターを切るかのようにシールドを切り裂き、そのまま彼の腹部に刀身を叩き込んだのだ。
「ぐぅぅぅぉぉぅ……」
腹部を抱えながら、倒れ込むキンバリー。
シールドが無効化され、魔術師は生身で剣圧を受ける形になったのだ。
何本か肋骨が折れる音がした。
崩れ落ちるように倒れたキンバリーに対して、止めとばかりに彼の後方から剣を振り下ろした。
「ぐふっ!……」
意識を失い、倒れるキンバリー。
どうやらまだ生きてはいるが、早急に回復治療しなければいけない状態だ。
「まず一人」
切る日本刀と違って血しぶきが飛ぶことが無い反面、叩きつける事によって内部へのダメージが大きい。
終がキンバリーを足で転がすと、マークスを次の獲物とばかりに駆けだした。
「わ、わ、わわわ。こ、こっちに来るなぁ~!」
あのキンバリーが何も出来ずに倒さた。
次の標的が自分だと判ると恐怖で両手で顔を塞ぎ、その場にしゃがみ込んでしまった。
マークスに近付こうとすると、後方から“氷柱の槍”や“獏炎の槍”の魔法を足止めとばかりに打ち込んでいる。
しかし、そのような攻撃魔法も終の一振りで消滅してしまった。
剣が攻撃魔法の魔力を吸収してしまったのだ。
怯む復讐者達。
ラムスが慌てて、防御の魔法を唱えた。
そしてさらに、足止めとばかりに“大地の防壁”や“炎の柱”と言った、防壁が終の足を止める為に立ちはだかった。
マークスも今のうちに逃げようと、その場を離れようとした。
「バケモンかょぉ。あい……あ、あれ……?」
そう言いかけた瞬間、マークスは腹部に鈍い痛みを感じた。
腹部に手を当てると、ぬるりとした感じの血が掌一杯にこびり付いている。
「ひぃぃ! なんだこりゃぁ!!」
マークスは自分の腹部を直視した。
終の剣先が腹部から突き出ている。剣が腹部を後方から貫いていたのだ。
貫かれた部分から、大量の血が噴き出すように流れだしている。
「な、なぜ……防壁類が足止めしているはずじぁ……」
疑問だらけのマークスに、すぐ後ろまで接近していた終が呟いた。
「あんなもん、いくらでも切り裂けるよ。無いと同じだよ」
終が笑った。
「大丈夫、殺しはしないから……」
「ひぃぃぃ……っ!」
マークスはその笑顔に恐怖した。
この時、終の表情を初めて見て思った。
自分達が相手にしたのは、バケモンじゃない悪魔そのものだと。
人間の自分が相手になるはずないと……
「その顔、人間の顔をした悪魔だねぇ……」
マークスがそう呟くと、意識を失った。
魔法による防壁を「切る」事によって、魔力が保てなくなり崩れ去る防壁。
そして、終の足元に崩れ落ちるマークス。
アディソンには何が起きたのか理解が出来なかった。
上空に浮かんでいた発光球体から何かが落ちてくると巨大なクレーターが出来た。
そして、その中心に突き刺さっていた一本の剣。
そして、その次に覚えているものは次々と倒れていく仲間達。
「な、何が起こって……大丈夫かっ!」
慌てて大声で仲間を呼ぶが返事がない。
やられたのか?
そんな不安がよぎる中、不意に背中から少年の声が聞こえた。
「あなたで最後です……」
終の言葉に振り向くアディソン。
彼の後ろには、血を流し倒れた仲間達。
回復師も、血を流しながら倒れている。
前線を失った後衛ほど脆いものは無かった。
唯一の攻撃でもあり防御でもあった魔法が全く役に立たないのである。
シールドを張っても簡単に切り裂かれ、攻撃魔法を撃っても打ち消されてしまってはどうすることも出来ない。
「はは、ははは……」
アディソンの口から出たのは笑いだった。
もう笑うしかなかった。
あれだけいた仲間が全滅してしまったのだ。
しかも、中級魔術師と言っても、上級魔術師に負けない自信があった。
そんな仲間が全滅したのだ。
「あはは! ははっ、これは笑うしかないだろうっ!」
もし、アディソンの魔力が可視できたならば、ある異変に気が付いたはずだ。
異変とは……魔力にわずかながら、黒いシミの様なものが見えただろう。
そう、彼の魔力に魔障が取りついていた。
そのような事態だったが、アディソンは気が付いていなかった。
「楽しいなぁ、少年よ。今のお前もそうだろ?」
問いかけられても終は答えなかった。
ただ黙って彼を見ていた。
「同じ匂いがするぜ? 殺しあう世界でしか生きられない同類の匂いがっ!」
そう言いながら、アディソンが腰に持っていたベレッタ92Fを取り出し、終の方に向けた。
ためらうことなくトリガーを引くと、アディソンが視点から外れるように崩れた建物の陰に隠れるように移動した。
打ち出された弾は先端に“強化魔力付与”を付けた特別製の弾で簡単なシールドなら貫通してしまう代物だ。
終の肩と左ひじを弾がかすめた。
それでも動かない終。
「この距離では接近戦は無理……か」
相手との距離を考えても約3メートル。
この剣では届かないが遠距離でもない。
終がアディソンとの距離を詰めようとすると、彼は後方に移動し距離間隔を保っていた。
どうやら剣の威力を警戒しての距離だろう。
魔力を中和しシールドを切り裂いても、距離に関しては普通の剣と同じだ。
無理にあのガキと接近戦しなくても、この手持ちの火器があれば大丈夫だ。
銃弾の飛距離は剣よりもリーチが長い。
さらにベレッタを撃つアディソン。
戦闘結界内に銃声が響く。
巴達、左側の戦線では一足先に、雇われた日本人異能者を撃破したところだった。
忍者群の一人が、異能者達の捕縛依頼をしに後方へ行っているところだ。
その聞きなれない銃声音に不安になる巴……だが、そんな巴に忍者群が励ましの言葉をかけた。
「大丈夫でござるよ。我らの主を信じましょう」
その言葉を聞いて、不安を払しょくする巴。
「確かにな。そなた達の言う通りだ。我が主を信じなければな……しかし、あなた達に励まされるとは思わなかったわ」
笑いながら、巴は後続部隊の到着を待つことにした。
彼女の足元には、倒れた雇われ異能者が倒れていた。
命の別条はないみたいだ。
もうすく後方に居たみんなが来るはずだ。
巴は終が戦っている方面を見続けた。
この作品は、基本的に火曜、金曜にアップしていきます。よろしくお願いします♪
次回は、12月20日0時にアップ予定です。
乞うご期待ください




