表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白と黒の狭間で ~現冥境奇譚~  作者: 白杉裕樹
第一章
30/35

第27話 激闘、只見戦!4

「何が起こってるんだ?」


 治療と回復のために、回復師(ヒーラー)に手当の最中だった。

 アディソンが雇われ異能者達の方向で繰り広げられている大混乱を不思議そうに見ていた。


 どうやら、天照の魔法もアディソン達の所までは攻撃範囲に入っていなかったらしい。


「どうやら、援軍の女の方がパニックになったみたいで……えと、魔法をぶっ放しているみたいだよぉ」

 少し前に届いた連絡をため息混じりに伝えるマークス。


「敵味方関係なく、向こうは大混乱みたいだねぇ」

 時々、アディソン達の所にも魔法が飛んでくるが防御結界で防御できるみたいだ。

「しかし、あのガキはさらに強くなっていやがる。式神に魔法だと? どれだけのバケモンだっ!」

 一進一退を繰り返しながらこれと言っての決定打がないのだ。


 人数的にもこちら側(復讐者達)が有利なはずだ。


 向こうは応援が来たとしても2人、後は式神だ。

 何が足りない……


「アディソンっ! 緊急だ。8km先で魔法反応があった。今も増大中だっ!」

 後方で治癒を行っていた回復師のガルムが一通のメールを受け取って確認した瞬間、表情に焦りが浮かんでいた。

「こんな時に!」 

 アディソンが苦虫を嚙み潰したような顔をすると、ぶっきらぼうに唾を飛ばした。


「確かな情報なんだな?」

「もちろん、ギルドからの情報だ。確かに魔法力が増えている。俺が確認した」

 情報提供者の情報が本当だとわかると、急に時間が失われていくような感覚に陥った。


「こっちも、これ以上は相手にできないっ! 一刻も早く、あのガキを潰すぞっ!」

 治療と回復が終わり、全回復したアディソンが自分の両手を見た。

 視線の先には、自分の拳があった。


 アディソンが何かを思いついたようにメンバー全員に命令を出した。

「全員、こうなったら接近戦を挑むぞっ! 少しずつでいいから、あのガキとの距離を詰めろ!」

 メンバーが全員頷く。



「確かに、接近戦なら子供と大人の差が出るよなぁ。魔法を纏わりつかせたりしちゃったらぁ、さらに面白くなりそうだぜぃ」

 マークスは腕を回しながらニヤついていた。

「回復師は全員にシールドをかけ、有効範囲ギリギリの所で回復を務めろ」


 防御結界を張り、魔法の攻撃を防ぎながら接近を試みる。


「大規模戦闘のやり方を個人戦に使うとは考えもしなかったぜ……」

 それほどまでに膠着状態が続いていたのか。

 まだ、始まったばかりだと思っていたのにな……復讐者の一人が囁いた。



 女のパニックによる攻撃は続行しているみたいで、防御結界を張ってもすぐに破壊されるみたいだ。

 その為に、回復師による回復も防御もままならず負傷者も続出しているとの事。


「向こうはほっておけ。それよりも、こっちに全力を尽くせっ!」

 アディソンは、他のメンバーにこれからの行動に集中するよう警告をだした。


「生半可な実力で勝てる相手ではないぞ」



 アディソンが全員を見渡した。

「よしっ、いくぞ!」







「何人か接近しているのか?」

 終が視界に入った人影がゆらゆらと動いている。


 そして、後方では玄草が爆風によって吹き飛ばされている光景が視界の片隅に入った。

「玄草さんっ!?」

 一瞬、玄草に意識が向いたためか、戦闘のアドバンテージが終から復讐者達へ移った瞬間でもあった。

「……ちっ!」

 相手からの魔法攻撃が容赦なく飛んでくる。

 玄草や与一が心配ではあるが、今は二人を心配している暇はなかった。


「相手からの攻撃や妨害がうっとおしい……何か、一手があればいいのに」

 攻撃は護符でも防御出来るが、麻痺や魔法詠唱封じ等はどうしても避けることが出来ずに喰らうか、相殺する位しか思いつかなかった。

 もっと戦闘経験や魔法に関して知識を持っていたら、もっといい方法があったかもしれない。


 しかし、終はそう言った知識も学んだ経験がない。

 全て独学で覚えたものばかりだった。



 あと一つ。


 何が足りない……?

 防御に徹しながら、終は考えた。


 今は玄草達の援護は難しい。

 接近してくる敵。


 接近戦を挑んでくるのは明白だった。



 接近戦に関しては、以前から伊織の武術指導を受けながら訓練はしてきたつもりだった。

 しかし、やはり格闘戦は大人と子供の体格差が大きく不利な状況になりそうだ。



 いったん後退するか……?



 しかし、ここで後退しても後方が混乱している限り余計に危険が増すだけだ。

 防御に徹する事しか出来なくなって、特攻しかない……そう思った。






 戦闘結界よりも更に上空。


 一筋の光が現れたかと思うと、その割れ目から光り輝く球体が現れる姿がはっきりと見えた。

「何だなんだ!」

 男が空を指さした。

「ママぁ、お空が光ってるー!」

 異変に気が付いた子供が、空に向けて小さな手を伸ばした。


 いきなり只見町全域の上空に光の球体が現れると、立ち止まっていた人々が何事かと上空を見上げた。



 魔術師ギルドの派遣部隊でも、混乱が起きていた。


「ノア上級魔術師殿っ! 只見駅上空に、い……意味不明の計測出来ない程の「発光球体」が出現してい……」

 報告をしていた下級魔術師がバタリと倒れた。

 あまりの圧倒的な圧力に、派遣部隊の半数以上が原因不明の力によって気絶をするという事態がおこっていたのだ。


「おっ、おいっ! 意識をしっかりと保つんだっ! 持っていかれるぞっ!!」

 ノアの悲鳴に近い命令が発せる中、次々と魔術師達が倒れていく。


 次の瞬間、姿が見えないのに圧倒的な威圧と威厳でその場にいる者全ての行動が止まった。



 それは戦闘結界内外関係なく、全ての者の動きが静止してしまったのだ。

 

 その中で動ける者は3人。

 玄草と天照、そして終だった。



 そして、何とか起き上がろうとしている玄草からみえるのは……光り輝く球体であった。

 まるで時間が止まったような空間で動く事が出来る玄草と天照では、見えているモノが違っていた。



 パニック状態から少し解放されたが、まだ自由に動かすことが出来ない身体を持て余しながら、天照が面白くなさそうな表情で上空の発光球体をを見つめている。

 天照には、終と同様にその発光球体の正体が見えていた。


 


 戦闘結界内の戦いをよそに、はるか上空から一人の女性が右手を降りながら笑顔で言った。



「はぁい、終。お久しぶり♪」



 終も彼女に向けて、満面の笑みをこぼしていた。

 少女が優しく声をかけた。 


「もう3年振りかしら……? これ……“貴方の剣”よりも劣るけど、必要かと思って持ってきてあげたわよ」


 終に対して、満面の笑みをこれでもかと振りまく彼女。 


「まぁ、何て優しい私なんだろう♪ 愛する人を救うために、一生懸命に剣の制作を依頼して……」

 何故か、ジェスチャー付きで一人芝居を始めている。

「そして、必要になる状態まで待って……ごにょごにょ」

 都合が悪い内容だったのか、咳き込むふりをして慌てて独り芝居を終わらせていた。


 戦闘結界内に居た復讐者達も動けるようになると、呆然としながら光り輝く球体を見上げていた。



 光り輝く球体の正体を見ることが出来たなら、その姿のアンバランスさに目を奪われるだろう。


 見た目の年齢は16歳位で頬にそばかすがついた、元気な米国の女子高校生と言った雰囲気だ。

 髪は金髪のショートカットで淡い水色のドレスを着ている。

 しかし、何より注目するのは背中から生えた片翼だけで全身を超える大きな神の翼だろう。


 その翼を羽ばたかせながら、大きく足を広げ片手で何かをジェスチャーしている風にも見える。

 もう片方の手には、何かがを大切に抱えているようだ……周囲には、光の中にキラリと光るものが見えた。


 女性が手にしていたのは……120センチ位の直刀だった。

 刃の中心部分には、見たことのない文字が刻み込まれていた。


「ロ、ローズ……本当に久しぶりだね」

 終の表情が引きつり、苦笑いしながら答えた。



 当時の記憶が蘇った。 

 それは、小学校5年生の海難事故で起きたあの時……


 後頭部に完璧なローリングソバット(プロレス技)を決められて、完全に意識を失ってしまった事。

 そのおかげで無事に生還できたのだが、気持ちは複雑だった。




 ローズと呼ばれたその女性……いや、あの駄女神は剣をどうやって渡すつもりなのだろうか。


 終の頬を、一筋の冷汗が流れた。

 彼女がすんなりと手渡しをするはずがない……伸ばそうとしていた手を押しとどめた。


「いっくよぉ~♪」

 ローズが剣を終に向かって投げようとした瞬間、天照が動いた。


「これ、やばくない?」

 天照がローズに向かって、渾身の一撃の気功弾を打ち出した。

 並の魔族や天使ならその威力に何も出来ずに当たって絶命するほどの魔法弾だ。


「あら……」


 天照の打った気功弾に気付くと、ため息を一つついた。

「これから私達のいいところなのに……はぁ。。。」


 ローズが気功弾に視線を向けると、まるで何事もなかったかのように天照の渾身の一撃(気功弾)が跡形もなく消滅してしまった。



 気功弾を打ち消されて、愕然とする天照。

 


 視線だけでやっちゃっうか……

 終が苦笑いしている。



「えいっ!」

 そう言いながら、剣を終わるに向かって投げた。


 そう、投げたのだ……落下速度も加わって、空気を切り裂くように剣の先が終に向かって突き進んでいく。


駄女神が投げた剣は二重の戦闘結界に触れると、最初の一枚を貫いて結界の外に繋がる異常事態となった。

さらに問題は、2枚目の戦闘結界が粉々に砕け散ってしまったのだ。


戦闘結界を貫通しても、落下速度が減速する事なく目標目掛けて突き進んでいった。


「ぐわぁぁ!!」


復讐者達の後方から、男性の悲鳴と倒れる音が聞こえた。


 その頃、渾身の一撃を瞬殺され落ち込みから立ち直れていない天照。




ドスッ!!!!



 地面に突き刺さる一本の剣。

 終の前髪の一房が空中に舞った瞬間、終のいる箇所を除き剣を中心とした大きなクレーターが完成してしまった。


 戦闘結界がなければ、この辺り一面に甚大な被害が出ていただろう。

 終は自分が立っている位置が安全だと確信していたのか、上空のローズに向かって大声をあげた。


「全く……危ないだろう! 刃物を投げちゃダメって、前から言ってるだろう!」


「あはは、ごめんごめんっ! ちゃんと手は抜いたんだけどさぁ~!」

 頭をかきながら、ローズが笑った。


「じゃぁ、ちゃんと届けたからね~! ()()()(貴方)に、感謝してねぇ~♪」


 動けるようになった復讐者の一部が、上空の発光球体(ローズ)に向かって魔法を繰り出している。

 しかし、どの魔法も彼女が何もしていないのに、魔法が自然消滅している。

 

 そんな彼らの攻撃を無視しながら、ローズが終に向かって囁くように言った。



「愛してるわよ……私が貴方をずっと護っているからね……」



 そう言いながら、彼女はこの広い大空に溶け込むように消えていった。

この作品は、基本的に火曜にアップしていきます。よろしくお願いします♪


次回は、12月6日0時にアップ予定です。


乞うご期待ください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ