第24話 激闘、只見戦!1
「じゃぁ、また施設でな」
仁志がバスに乗りながら、終に向かって手を振った。
「じゃぁ、また後で……」
手を振りながら、帰宅の途に向かうバスを見送っていた。
見えなくなるまで手を振ると、見送った反対側を向いた。
「さてっと……」
周囲を見渡すと、先程まであれだけ賑やかだった光景も元の静かな佇まいに戻っていた。
これからの行動予定表では、藤塚終が、このグループの最終確認を行い、撤収予定となっている。
もし、これらが流出しているのならば、改めて一人となった時に仕掛けてくるはずだ。
相手も無知じゃない……相手にとって、最良のタイミングで戦闘結界を張って来るに違いない。
しかし、どうして自分の情報を流出させているのだろうか。
誰が……?
どんな目的で……?
姫の宮が流出させているのなら、なぜ監視を行う?
自分はそこまで信用されていないのか。
疑問を持ったり、自分で考えてはいけないのか。
(悪いけど、今となってはそこまで盲目的になれない……)
色々と疑問が浮かぶが、もうすぐ戦いが始まる。
今は余計な考えは捨てよう。
監視は……相変わらず姫の宮側の異能者が放った式神1体か。
少し離れた電柱の上で、ジッとこちらを見ているカラスがいる。
「あれが、監視役か……」
終が視線を向けないようにしながら、昨日の事を思い出していた。
天照……さんといったけな、彼女が行った偽情報の割り込みと術者の洗脳を同時に行い、監視機能を無効化したあの方法……
「今度、教えてもらおうかな」
終がふと笑みを浮かべながら言った。
「生きて帰ってこれたら……かな」
復讐者達は、討伐パーティーが撤退してから、一度も姿を見せていない。
余程、慎重に行っているんだろうな。
その時、独特な音を発しながら戦闘結界が頭上に展開してく。
キィィィィィンン!!
周囲に戦闘結界が張られようとしている。
この結界に包まれると、先程まで居た町の人々が次々と結界の外へ隔離されその姿が消えていく。
戦闘結界内の只見の町には終と復讐者達以外誰も居ない。
「さぁ、始めようか……!」
まずは、邪魔な第三者から退場してもらいましょうか……
そう言って、終が魔力を発する者全てに小声で魔法を詠唱し始めた。
手のひらに小さな竜巻が発生すると、その竜巻に監視を行うモノ全てを排除するように命令じる。
音もなく姿を見せることなく、監視しているカラスに一直線に向かいその体を一刀両断に切り裂いた。
カラスの姿を保てなくなった呪符は元の姿に戻り、燃えて地面に落ちていった。
「これでよし……と」
少し時間が戻り、数時間前。
最後のバスを見送る姿を遠目で監視していた式神使いから、予定表通りに向こう側は全員撤収していった。との連絡が入ったところだ。
アディソンは、監視の継続を命じた。
「昨日の2人一組は……偶然?」
アディソンの脳裏をかすめた。
「いいや、あの様子なら俺達の行動も推測し、同行するはず」
必ず、どこかの場面で参加してくるはずだ。
だから予定通りで実行する。
そう確信していた。
昨日の乱入していた2人組が、まだ姿を現さないのが腑に落ちないところではあるが……
予定表では、この「藤塚終」といった少年が最後尾の護衛で単独行動をとることになっている。
これまでの戦闘でアディソン達が目撃した式神は……全部で2種5体。
騎馬武者に忍者と言ったところだ。
異能者(魔術師)の能力に加えて、式神使いを持ち合わせている。
上級魔術師でも詠唱が必要な超上級魔法も、彼はどうやら理解さえすれば無詠唱で攻撃が可能になるみたいだ。
前回の戦いで、討伐部隊が使用した超上級魔法“神々の鉄槌”がいい例だ。
その魔法を今回、あのガキは無詠唱で使いやがった。
魔法や物理的な攻撃を無効化する防御結界でも、上級魔法を数発喰らったらその威力を吸収出来ずに破壊されろだろう。
シールドと言った防御魔法も同様である。
これらを使われたら、単独戦ではまず勝てない。
複数人数でも勝てる可能性は低いだろう。
パーティー人選をしっかりしなければ勝てない状況なのだ。
先ほどの戦闘を見ていて、そんな少年に欠点があるとすれば……
そう、防御と攻撃の連携がとれていないのである。
こればかりは魔法学院みたいな専門施設でなければ、中々教わることが出来ない。
戦闘中に学ぶにしても、その前に死が訪れる。
後は……大人と子供の体格差をモノをいわせた接近戦(格闘戦)くらいか。
アディソン達が彼を攻略する方法としては完璧な回答だろう。
「ガキだと言う認識は危険だ。例え卑怯と言われようが、勝たなくては意味がない」
自分自身にそう言い聞かせながらも、これから起こる戦闘にニヤリと笑みをこぼしている自分が居る事に気が付いた。
(あの小僧が、俺の欲を満たしてくれるというのか……面白い!)
怒りで我を失っているわけでもなく、自信喪失して自棄になっている訳でもない。
(面白くなってきやがった……!)
アディソン自身の感覚に、異常なほどのアドレナリンが放出されているのが判る。
「行くぞっ! 戦闘開始だっ!」
終も戦闘結界を張った。
只見駅を中心とした、半径300mの広大なエリアが戦闘空間となる。
敵の姿はまだ見えないが、終がまず動いた。
“我の名において命ずる。我に従いし者よ……”
終の前に呪符が数枚浮かび上がると、符の前にそれぞれに五芒星が浮かび上がった。
“その命持って 我の前に現れよっ!”
次々に現れる終の式神達。
騎馬に乗り、優雅に薙刀を構える巴御前……
それぞれ身軽に動き回り、終の前で片膝をつく忍者たち。
長弓を構えて、颯爽と現れる那須与一。
召喚された過去に活躍し名をはせた強者達。
その時代に活躍した強者かどうかは判らないが、普通の式神と違って個々に表情が豊かである。
忍者達は無駄口が多く、何かを話しあっていた。
それを見て、苦笑している巴。
那須与一は、何やら終と会話している。
誰からの命令されずとも自分の意思で行動する。
「主殿、もう戦は始まっているでござるか」
忍者の一人が、主と呼ばれた終に向かって声をかけた。
「そうだね。戦闘結界が張られている以上もう、開始されていると思ってもいいだろう」
終が印を唱えると、一斉に護符が光りだした。。
「これで、護符がしばらく攻撃を防いでくれる。後は、みんなの動き次第だ」
それぞれの後方で複数枚の護符が後方で淡く輝いている。
「と言っても、あまり前線を勢いだけで伸ばさないようにね。孤立しちゃうかもしれないからさ」
戦闘で攻撃を受けた場合、身代わりとなって護符がダメージや殺傷力を吸収してくれる優れものだ。
ただ、この護符も無限に吸収し続ける訳ではない。
吸収した威力によって護符が焼けていき、最後は燃え尽きて消滅してしまう。
護符が消滅した後は、新しく護符の供与までは防御結界やシールド等の個人魔法等で防ぐしかない。
式神達は呪文を詠唱することが出来ないので、護符が重要な役割を果たすことになる。
式神の防具は式神使いの質が大きく影響してくる。
護符の有るなしで随分と状況が変わってきてしまう。
「みんな、なくなりかけたら、必ず教えてほしい。いいね」
終が与一に向かって言った。
「与一、後方拠点を頼む」
「御意。お任せあれ!」
そう言って、与一と2名の忍者が後方に移動していった。
「前方に魔力感知っ!」
全員が少しずつ距離をとった。
「いくぞっ!!」
終の掛け声に、全員が無言でうなずく。
片手を前に出し……先制の魔法攻撃を始めた。
“我の名において命ずる。全てのモノの頭上に等しき死の制裁を……メテオダウンウォール!
(Ordaím i m’ainm. Smachtbhannaí an bháis, atá comhionann le ceann gach rud……Meteor Downwall!)”
差し出した片手を頭上に掲げると、戦闘結界内の大空一面に、巨大な魔法陣が出現した。
“神々の鉄槌”と同じく、超上級大魔法に分類される攻撃魔法だ。
はるか上空に漂う岩石を捉えると、そのまま地上に落としてしまうシンプルな魔法だ。
魔法陣から次々と現れてくる強大な質量をもつ岩石が真っ赤に焼けただれながら降り注いだ。
地面に隕石が落ちるとはこんな風なのか……と思わせるくらいの質量と膨大な熱量をもった破壊力が襲いかかる。
最初の一撃で脱落者が一人も出ないのは、さすが中級魔術師。
しかし、この一撃で随分と魔力と体力を削ることが出来た。
相手は反撃に四苦八苦しているみたいだ。
後方支援の魔術師が破れかけた防御結界を貼りなおしている。
アディソンはすばやく回復師に“回復”を命じた。
その間にも復讐者に向かって、絶え間なく“爆炎の槍”が広範囲に降り注いでくる。
攪乱や陽動、威嚇するよりも、とにかく中級以上の魔法を絶えず繰り出し複数人数を同時に疲弊、もしくは負傷による戦線離脱をさせるほうが先決である。
終も、休みなく魔法攻撃を繰り返している。
迫りくる魔法や式神等は、与一が迎撃している。
お互いの大規模攻撃の打ち合いで、建物や只見駅、そして展示してある「蒸気機関車C58 244号機」をはじめとした数々のモニュメントが熱や衝撃によって壊されていく。
全てを破壊しつくす大規模戦闘に、マディソンは何故か笑っていた。
「そう、俺が求めてたのはこれだ……形あるものが脆くも崩れ去り、全てが瓦礫と還っていく……楽しいじゃないか!」
マディソンは見えぬ終に向かって叫んでいた。
「この程度の攻撃が限界じゃないだろう! もっとお前の力を見せて見ろ!」
仲間にも、さらなる攻撃を命じた。
「いけぇ、全力で全てを壊し尽くせっ!」
反撃とばかりに、次々と打ち出される“爆炎の槍”や“終焉の竜巻”、“疾風の矢”。
もう相手が一人だという認識はない。
広範囲魔法に膨大な魔法の攻撃回数、数十人もの魔術師が一斉に魔法合戦をしている雰囲気だ。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……何よ、全然物足りないじゃない! こんなに安く思われてるの?」
式神の数を数えている巴が、憮然とした表情で忍者に文句を言っている。
「ははは。巴殿、そうカリカリしていると足を掬われますぞ?」
そう言っている忍者も、どこか余裕を感じられる。
「妾達も軽く見られたわけね。それなら、それが間違いだったと言う事を思い知らせましょうか」
ニコリと微笑む巴。
彼女の愛馬も、やる気満々で前足を上げている。
「もう二度と、主を失う事はしない。絶対に……」
彼女がボソリと呟くと、忍者群も無言で頷いた。
意思を持たない式神の騎馬武者と武士が、次々と押し寄せようと迫って来る。
「妾は木曾の巴、巴御前であるっ! 命なき者共よ、いざ参るっ!」
そう声高らかに宣言すると、騎馬武者や武士の大群の中にむけて一心不乱に馬を走らせてた。
大混乱の乱戦となっている場所がある。
その中を華麗に駆け抜ける巴御前。
迫りくる式神の武者や騎馬武者を次々に切り裂いていた。
その間にも、式神使いが次々と式神を繰り出している。
忍者も負けてはいない。
視界を奪い、その間に式神の核を的確に切り裂いていく。
「これで何体目?」
忍者の一人が、巴に向かって怒鳴るように言った。
「さぁね、もう何体切ったかなんて数えてないわよっ!」
嬉々として薙刀を振るう巴。
会話している間にも次々と切り裂いていった。
終の感覚に、あの感覚が蘇った。
「やはり来たか!」
そういいながら復讐者達に向かって“神々の鉄槌”を放ち、一時的な時間稼ぎとして“岩の壁”を展開した。
復讐者達にも、新しい侵入者が来たことは知られているだろう。
そして、それらが彼等にとって敵だという事も。
「凄まじいですね。外とは打って変わって瓦礫の山が続いてますよ」
「結界内で良かったわ」
そう言いながら、防御結界を張りながら結界内を移動していた。
凄まじい光景が広がっている。
建物という建物が崩れ落ち、あちらこちらに火災も起きている。
しかし、この結界内は誰も居ないから消火を行う人もいない。
玄草と天照は呆然とした。
どうすれば、ここまで破壊できるのだろうかと。
突然、周囲に煙が立ち込めたかと思うと不意に声が聞こえた。
「何奴! 新たに我が主に仇為す者達か?」
11/8 本文の一部訂正を行いました。
11/29 ご指摘により訂正を行いました。
現在、この作品は物語の進行上関係で、毎週火曜にアップしています。
よろしくお願いします♪
次回は、11月15日0時にアップ予定です。