表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白と黒の狭間で ~現冥境奇譚~  作者: 白杉裕樹
第一章
25/35

第22話 出会いと共闘4

あまりにも強大な魔力が流れ込んでくるのが判る。


 上級? いや、さらに上の力の持ち主だ。

 討伐パーティーの一人が、生唾を飲み込む……


 パーティーの一人が、威圧感に耐えられなかったのかその魔力の発生源に対して魔法を詠唱し始めた。

「まてっ……!」

 リーダーが制止しようとしたが、その前に玄草とほぼ変わらない青年が声を震わしながら言った。


「Cén fáth nach bhfuil an draíocht i ngníomh!?(なぜ、魔術が発動しない!?)」

 あまりの状態に、つい母国語でしゃべっている。


 魔法が使えない……?

 そんな馬鹿な。誰も“詠唱封印”を唱えていない。


 しかも、式神も反応しないという。

 全ての行動を封印された討伐パーティーは、なすすべもなく立ちすくむだけだった。



 それは、終も同じだった。

 全く魔法が詠唱できなくなり、護符の効力も失せている。



「うるさいのです……安眠妨害も大概にしてください」

 不機嫌そうな声が響く。

 怒鳴っているわけでもなく、甲高いわけでもない。

 耳朶に吹き寄せる、風の如き静かな声だ。


「睡眠は美容にも大事だっていうのに、この騒ぎは何なの?」


 ハッキリと姿が見えるようになった途端、3者三様の行動をとっていた。


 討伐パーティーは、この圧力の主が半分寝ぼけた喋り方のプラチナブロンドの少女だと知った。

 この少女が以前、各務さんに連れて行ってもらった喫茶店の店主(オーナー)だと気付き、終は少し驚いたような表情をした。

 全てを知っている玄草は、笑いを嚙み殺しているが……喉元に上がる悲鳴を押し殺していた。


 無理もなかった。

 その眠そうな目でありながら怒りの色を湛え、LEDランタンの淡橙色の光を手にして立っている姿は、おどろおどろしい空気を醸し出しているのだ。

「天照さん……眠いのは判りますが、もうちょい殺気を抑えてください」


 終が玄草のそばに近づいていった。

 玄草は落ち着きを取り戻したところで、その少女に笑顔で声をかけた。

「あらやだ、そんなに殺気漏れてた?」

「ええ、駄々洩れもいいところです」 

 天照と呼ばれた少女は、さっきまでの迫力とは打って変わって、少し困った表情で答えた。



 討伐部隊が張った戦闘結界はいつの間にか強制解除されており、先程まであれ程、森を飲み込もうとしていた火焔は消失していた。

 その替わりに、先程までの戦闘時に出来た焼野原から一転、夜目の効く猛禽鳥の鳴き声が聴こえる程度の森の日常に戻っている。


 一体、誰がこの戦闘結界を解除したんだ……

 相手が解除したとは思えないし。

 

 もしかして、さっきの人が?


 余程の魔力と術に関する理解がないと出来ない行為だからだ。

 終は、改めてすごい人がいるもんだと思った。



「玄くん、メッセージありがとうね……お陰でこの件の調査も出来たし、場所のトレースも素早くできたわ」

「いえ、こちらこそお手数をかけてしまって」

 玄草と少女が会話している途中に、ふと自分に話を降られた。

「ところで……これって、君の?」

 天照は、手に持っていた紙を少年に差し出した。



「いいえ」


 終は首を横に振り否定したが……現実は違った。

 明らかに式神の符であり、その紙も見覚えがあった。 

 その紙は習字の半紙を厚手にしたようなものだが、その2枚の紙には複雑な文字にも見える記号のような物が書かれている。


 だからこそ、言葉などに注意した。

 しかし、よく見ると墨の色とは違った不自然に焼け焦げた跡も見られる。


「玄くんのメッセージを受け取った後に、戦闘結界の周辺で不自然な飛び方するカラスを見つけてね。石をぶつけたらコレが落ちてきた」

 そか、彼女が式神を堕としたんだ。

「カラスが紙に化けたんですかね……」

「逆だと思う」

 真顔でボケる玄草に、天照が冷ややかに突っ込む。

 終も少し冷めた目で玄草を見る。


 おいおい、真面目に言ってるのか……この人は。



「この紙に残留する気配は……戦闘結界のあった辺りには見当たりませんね」


 何かを探るように紙を手にして目を閉じた玄草は、静かに目を開けると終に向かって微笑んだ。

「君を探るヤツも居ないようだよ。安心していい」


 少女が何かに気が付いたのか、式神の符に向かって術を発動させた。

「この紙の大元には偽情報流してるから、戦闘継続中だと思われてる……あら? 君って」


 よく見ると、どこかでこの少女を見たことがあるような……

「鮎美ちゃんのクラスメイトの?」

 そう言われて、確かに会った事があった。

 各務さんが連れて行ってくれた喫茶店の……

「あっ}


 思い出した。

 そうそう、喫茶店をやってるって言ってたよな。



「先々月ね……鮎美ちゃんがクラスメイトを連れてきてくれて、ウチでお茶会したでしょ」

「ああ、そう言えばそんな事も……」

 渋い顔をした玄草をみて、確かに女子が大挙して押し寄せたもんな……

 あれは確かに酷かった。 


 終も渋い顔をするしかなかった。

「その時のお客様だったのよ、彼」

 天照が改めて自己紹介する感じで、終を紹介した。


「そうだったんだ……鮎美がお世話になっています」

 玄草はあの騒動を思い出したかの様な渋面を崩して笑顔で会釈してきた。


「こちら……こそ」

 終がぽつりと答えた。


 この人が各務さんのお兄さんか……

 同じ両親からと疑ってしまう位、兄妹で外見がここまで違ってくるのか。

 しかし、どことなく雰囲気は似ている。やはり兄妹だ。

 


「今回の事は気にしないで。見て見ぬふりしてたら……俺、鮎美から呪われると思うんだ」

 玄草が苦笑いしながら言った言葉に、終がため息をつきながら


彼女(各務さん)ならやりかねないな……)


 そう思った。



 その時、後からやって来た女性(少女?)のスマホからバイブレーション音が聞こえた。

 こんな時間に着信って……終も、戦闘が一時停戦様態になった今、少し離れたところから討伐パーティーと玄草達のやり取りをみていた。



「ノア・フラナガン討伐部隊隊長……って何方どなたですか?」

 そして、少女(どう見ても、自分と同じに見えるから!)からスマホを受け取った討伐隊の隊長らしき人物が、スマホで何かを話している。



 色々とスマホで話している隊長を見て、どうやらこの戦闘も終わるみたいだ。

 隊長の声が聞こえている部下達の空気がどよめき始めたからだ。


 会話が進むうちに隊長も納得したのか、先程まで慌てていた口調も落ち着きを取り戻したようだ。

「……で、貴方達はどうするの?」 

 電話が切れたのか、隊長が少女にスマホを返却すると、少し眠そうな雰囲気を隊長に質問をしていた。



「上から撤収命令が出た以上、我々は従うだけです」

 隊長がそう答えると部下達の処に戻り、撤退の指示を改めて出していた。

「そう、判った」

 彼女の発していた威圧感が失われえると、普通に同世代にしか見えないのに終は驚いた。



「今度日本にくるなら、是非ともプライベートでね」

 撤収準備を指示していたノアが、彼女の言葉に振り返った。



「この国は仕事抜きで愉しめるところだから」

「ふむ……検討してみます」

 さすがに一部隊を指揮するだけの事はある。

 先ほどまでの口調から一転して、今は部下に対して的確な指示を出している。


 終が、そんな隊長を見ていると、こちらに振り返り、自分の方に近づいてくるのが見えた。

 緊張が走った。

 停戦中とはいえ、何が起こるかが判らないからだ。

 

 先に声を出したのは隊長の方だった。

「やぁ、少年。君の魔法力にはこちらも苦戦させられたよ」

 声にはもうお世辞も卑下もなく、落ち着いた優しい感じの話し方だった。


「君は強い……いや、強すぎると言っていいだろう。我々全員と、互角に一人で戦ったからね」

 終はただ、黙って聞いているだけだった。

 隊長の瞳にはもう、先程までの戦闘的な瞳は無かった。

「年齢的に力がありすぎると、今以上に厳しい戦闘が今後、君に降りかかるだろう」

 そして、別れ際に隊長が言った。


「……過酷な茨の道だ……負けるなよ」

 聞いた終は、隊長の背中に向けて一礼をした。


 その後は、どうやら玄草さんと何かを話していて、そのまま撤収命令を全員に出したみたいだ。



 この戦闘も終わり、静寂だけが残った。



 ここに残るのは、自分と玄草と少女のみとなった。




 戦闘が終わったせいか、彼女が片肩掛けのナップザックからステンレスのカップを取り出すと、ペーパータオルで軽く拭いて終に手渡した。

 水筒の中に用意されていたアールグレイが良い香りを漂わせている。


 そういえば、戦闘中は何も口にしてなかったっけ……


 しかし、全く得体のしれない人物と、こんなにのんびりとしていいのだろうか。

 これが姫の宮にバレたら……


「偵察の担当者さんに"偽情報"は流れ続けているから大丈夫……貴方は未だに“戦闘中”として認識されている」

 終の焦りを見透かしたかのように、少女が周囲を確認すると答えた。



「店でお会いした時はしっかり名乗れてなかった……喫茶店 Flos concideruntの店長の天井(あまい)天照あまてる……欧州魔術師ギルドの魔術師」

 安心感を齎す微笑を湛えて少女が自己紹介をした。

 天照の微笑は不思議と安堵感を持たせた。


「店の化粧室への通路で"大鏡おおかがみ"を見つめている貴方を見て、ただ者じゃないとは思ってたけど、貴方も術師だったのね」

 天照が感心したように終に言った。


 納得がいったかのように玄草も差し出された紅茶を啜った。

「鮎美が言ってた“瘴気が見える同級生”って、君の事だったのか」

 そして、改めて玄草も自分の自己紹介を始めた。


「さっきも言った通りだが、俺は鮎美の兄……各務かがみ玄草げんぞう。商業高校の2年生で、天照さんの喫茶店の隣のインカローズの手伝いしてたりする。天照さんとは実力差が在りすぎるけど、俺も欧州魔術師ギルドの魔術師だよ」

 確かに、各務さんとはにていないや……黒髪くらいか?

「鮎美とは似ていないだろうけど……」

 そう言いながら、玄草も苦笑いをすると、終もつられるように微笑んだ。



 監視の件が無ければ、もう無言でいる必要もないだろう。

 それに、各務さんの家族ならなおさらだ。


藤塚(ふじづか)(おわる)です。相馬中学校2年生です」

 終も自己紹介を終わらせると、ほっと一息をついた。


 それをみて微笑んでいる、玄草と天照。


「藤塚君、か。よろしく」

「終くんって呼んでいい?」

 みんな、一段落ついてくつろいでいるところだった。

 終も、こんなにくつろいだのは初めてだ。


 口々に、終の呼び名を言い合っているうちに、玄草がさらに口を開いた。

「鮎美の話を聞いた時は不憫だと思ったけど、今回のを見てると“不憫の一言じゃ片付かない”な」


 何が討伐パーティーを終に向かわせたのか。

 それは、その者しか知らないだろう。



「討伐部隊の人たちはもう、終くんを狙わない事にはなったけど……」

 ふと、天照が思い出したように言い始めた。

「それだけでも一安心ですけど……要因が解らないと何とも片付かないでしょう、彼等も」

 玄草もこの問題の根本的な部分が判らないでいた。

 これが判らない限り、解決とは言えないだろう。

 

「終くん以外の"誰か"を追っていたって考えるのが自然よね」

 紅茶を啜りながら、天照が夜空を見上げた。

 玄草も肯定するかのように頷く。

「天照さんも俺と同じ考えですか……藤塚君に心当たりはあるかな?」

 玄草が終に向かって質問をした。


 少し考えるが……

 どう考えても、最初のあのパーティーしか思い浮かばなかった。


 機密資料を盗み出した男性を救出した時に居たパーティー。


 そして、学校で起こった戦闘……これらは、関係しているのか。

 今はまだ判らなかった。



「学校が襲われたのが関係していると思います」



 討伐パーティーと出会ったのは学校だ。

 華僑の劉さんに助けられた事件だ。


 その答えに、玄草が固まった。

 天照もナップザックから取り出した“お茶請け”のロールケーキを取り落としかける……

 が、幸いにして置いてあった紙皿にキャッチされ、転がることは無かった。


 周囲の香りに、おいしそうなシナモンの香りが森の空気に追加された。



「学校が……って、藤塚君が通っている?」

 それは、鮎美が通っている学校と同義。

 終はそれを首肯した。


「そ、そんなテロのようなニュース、聞いたことない」

 天照が慌てるように言った。 

「俺もです……鮎美からも聞いたことありません」

 顔を見合わせる玄草と天照。


「それは、全てが戦闘結界の中で起こっていましたから」

 終が淡々と説明をしている。


 全てが戦闘結界内で起こった出来事。

 魔術師や術者……異能者と称される者のみが入る事ができ、その中で起こる戦禍を外部に漏らさない結界。

 戦禍が漏れるとすれば、その戦闘結界を張った者が気を失うか、死亡した場合だ。

 良識のある魔術師同士であれば、双方が戦闘結界を張るのが定石である。



「そうなると……魔術が使えない鮎美が何も知らないのも不思議じゃないのか」

 玄草が夜空を見上げた。

 いつ見ても、星が煌めく光景だ。


「でも、それって何時いつの事かな……」

 天照が終に向かって問いかけた。

「各務さんたちとお店にお邪魔した少し前です」

 紅茶を啜りながら、終が答えた。


「先々月かぁ……」

 天照はスマートフォンの画面をタップして、欧州魔術師ギルドのデータベースへと情報照会をかける。



「あ、これかな……討伐部隊が動いた形跡がある」

 天照がスマホの画面を操作しながら、該当懸案がヒットしたようだ。

 慌てて、玄草も自分のスマホを操作して検索していた。


『アジア極東の日本国、神奈川県横浜市に於いて、当ギルドメンバー複数名による私闘発生。

 被害を受けたのは、術者と思われる少年1名であり、この件で重傷を負った模様。

 当ギルド本部は討伐部隊を差し向け、該当メンバーの処分を行うように指示したが、一味は逃走。

 一味が引き起こした私闘の原因は、私怨によるものと思われる。


 討伐部隊が負傷者の少年に目撃されたため“排除”を敢行するが、華僑仙術師ギルドの介入により“排除”は阻止された。

 尚、現在も処分を逃れた一味は逃走中……』


 天照が読み上げる最中に、玄草が苦虫をかんだ表情をしている。

「こう言うのは、ギルドメンバーで共有する事件でしょうに。俺のギルドIDで、その件はヒットしませんでしたよ」


「上層部としても汚点は漏らしたくなかったんでしょう。でも、私のIDで見れたと言う事は、私も知っておかなければいけなかった事なのよね……」

 玄草と天照は盛大な溜息を吐いた。



 もう……なんだか、とばっちりを受けて"排除と言う名の抹殺"をされかけた藤塚君に土下座して詫びたい気分だ。

「これだから組織ってヤツは……」


 不思議な光景だった。

 同じ欧州魔術師ギルドなのに、こうして自分達の組織を平然と批判している。

 

 姫の宮内ではありえない光景だった。

 みんな、総帥の声には絶対服従な雰囲気だ。


 自分もそうだ……こうして自由に動くことは今までもなく、これからもないだろう。

 少し羨ましい気持ちだ。

 


「藤塚君、本当に済まない」

 突然、玄草が終の方に身体を向けると、頭を下げた。

「何が、ですか?」

 あまりの突然の行動に、終も内心はビックリした。


(この人たちは、本心で謝っている……他の人の替わりに謝罪するなんて、誰にでもできる事ではない……)

 終は、ふと鮎美の事を思い出した。

 確かに彼女もそうだった。


 自分ではない誰かのために、一生懸命に謝っていた。



(やはり、こんなひた向きなところが兄妹なんだろうなぁ……)

 


「私怨による闘いを禁じられていながら君を害そうとした連中。そんなヤツを生み出したギルドに代わってだ」

 こんなにも、ひた向きな人物は他にはいないかもしれない。

 悲痛な表情を浮かべている玄草は、まだ頭を下げていた。


「許してくれなんて言えない。藤塚君が被った事態は余りにも酷すぎる……」

 確かに最初は、欧州魔術師ギルドを恨みかけた時があった。


 ギルドの人間は、自分達以外の異能者を見下しているのか……と。

 全てにおいて力でねじ伏せようとする姿に、怒りすら覚えたこともあった。

 

 しかし、ここに居るギルドの人は違っていた。

 これだけ一生懸命に謝罪している玄草を見ているうちに、怒り等はもう過去のものに思えてくる。


(自分も単純な性格なのかもしれないな……)

 もう、全て過ぎ去った事なのだ。

 自分はこうして生きてる。

 玄草達を非難する権限は、自分には持ち合わせていない。


「もう過去のことです」

 終は、許す許さないのレベルじゃなく……そう言ってくれることで、全てを水に流すことが出来た。



(こちらこそ、ありがとうです……玄草さん、天照さん)




 しかし天照を見てみると、まだ何か納得いかない感じだった。

「私だったら恨んで呪う……」

 そう呪うように言い放つ天照に対して、玄草が必死になってなだめていた。

「天照さんが他者を呪ったりしたら、洒落にならない事になりそうです」

 確かに、彼女はどこか他者とは違う雰囲気がある。

 終もその言葉に同感だった。


 あの威圧は、並大抵の術者では出すことが出来ない。

 姫の宮内でも誰も出せないだろう。例え、姫の宮総帥自身であっても……


 天照の言葉が続いた。 

「幼い、儚い、凛々しいは正義」

 天照は、さも当然の事のように言ってのけた。


「そんな尊い存在を多人数で寄ってたかって潰そうとするなんて、万死に値する……だから呪う」

 天照の言葉に、玄草が必死になだめようとしている。

 

 天照の言葉からしたら幼い、儚い、凛々しいは「正義」だから、許せないとの事。

 もしかしたら、鮎美の学校の件も自分が知らなかった事が含まれてるのかもしれない。



「今はやめといてください。欧州魔術師ギルドが壊滅したら目も当てられませんから」

 しっかりと言っておかないと、この人は本気でやりかねない……それほどまでに、ギルドに対して怒りを思えているのか。

 この天照さんといい、玄草さんといい……多種多様な人達がギルド内に居るんだな。

 終が思っていた事と違い、しっかり言っておかなければ本気で欧州魔術師ギルドを破壊しかねない。

 そんな悲痛めいた表情をしながら玄草が続く。


「魔術師ギルドの人全てが腐ってるわけじゃないから……」

 玄草の言葉に、思わず終が割り込むように答えた。


「そうですね、玄草さんのような人が居るとわかりました」

 終の答えを聞いて、思わず天照がショックを受けた表情とポーズを取っている。

「え、私は?」

 まさか、自分の名前が呼ばれなかったことにショックを受けてるみたいだ。

 どれだけ本当かどうかは本人しかわからないが……



「別の意味で腐ってますよね」

 玄草の一言で、今度は天照がムッとした表情になり、少し影がかかった厳しい笑顔を浮かべている。

 どうやら地雷を思い切り踏んだようだ。


「痛っ! 天照さん、マジで痛いです!!」

 天照は両拳を玄草の左右のコメカミに当てて、グリグリとねじ込んでいる。

 涙目になりながら玄草が止めるよう訴えているが、その言葉は無情にも無視された。

「玄くんをそういう事を言う子に育てた覚えはない」

 さらに力を加える天照と、涙目の玄草……両人にはかなりの体格差があると言うのに、大の男の方が痛がる光景は余りに滑稽だった。

 終は思った。

 こんな環境で各務さんで居たら、確かに今の性格になるよな……終は苦笑いしながら2人を見ていた。


「わ、解りましたからウメボシの刑は……ああああっ! ギブです、ギブアップ!!」

 天照の両拳には相当の力が込められていたようで、玄草は涙目になって地面を叩いてタップしている。


 こんな光景がしばらく続いた後、天照が満足したのか腰に手を当てて勝利のポーズをとっていた。

 その足元には、こめかみを抑えながらのたうち回っている玄草の姿があった。


「さてと……」

 天照が玄草の腕時計が付いた腕を持ち上げると時計を見た。

 もうすぐ午前3時になるところだ。


 あまりダラダラと戦闘の映像を流しても、不審に思われるかもしれない。

「偽情報を流し続けるのもタイムリミットかな……」

 天照は思案気に言った。


 それでも、討伐部隊がボロボロになりながら撤退していくといった状況や、フラフラになった終の姿と言う映像情報の偽装も抜かりはないらしい。



「こういう悪戯イタズラは得意だから」

 天照が得意げに言った。 

「この手でギルド本部を騙した事は何度も……って、何でもありません。はい」

 玄草の余計な一言を一睨みで黙らせる天照。

 本当に、一言余計な事が多いんだな……各務さんのお兄さんって。


 そう考えていると、天照が近付いてきて全身を確認するように軽く叩いている。

 今回はそんなに怪我もなく終わったから、どこも異常はないはずだ。

「ケガもしてないようだし」

 これで良しっといった感じで終を見る。

 立ち上がった玄草も、改めて終に異常がないか尋ねた。



「何だったら、俺たちのキャンプに来たらどうかな?」

 玄草が思いついたように言ってきたので、丁寧に断る事にした。

「あ、それは遠慮します……」

 もしかしたら帰りがあまりにも遅いと、今度は人員をよこすかもしれない。

 その時に、各務の皆さんに迷惑がかかるだろう。


「じゃあ、まだ暗いし……気を付けて」

 玄草が少し屈んで目を合わせてきた。


「はい、本当にありがとうございました」

 もうこの人達には、十分に助けてもらった。

 自分が受けたこの恩を、十分に返せるかどうかわからない位に……


 礼儀正しく一礼した。




 もう、この人達と戦う事はないだろう。

 それに、戦ったとしても勝てるという確率が微塵もないだろう。


、頭を上げると姫の宮の宿舎に向かって、転移魔法を唱えた。











「……と言う感じです。」



 遠見を行っていた式神使いがリーダーのアディソンに向かって報告していた。


「目標ほ他に、2名の男女が合流したみたいです。双方ともに異能者ですな」

 更に付け加えるように……

「どうやら討伐部隊は、最後に女性が参加したことによって、撤収が決定したみたいで……」



 本来ならば、双方ともにもう少し戦闘を長引かせて、疲弊してくれれば良かったのに。



 そう思っても、都合よくいかないのが現実だ。

 現に、2度目の学校襲撃は後一歩のところだったのに、邪魔が入ってしまった。


 討伐部隊が戦わずして撤収するくらいだから、その男女は相当な術師だろう。

「ちっ……余計な事になったもんだ」

 そう言いながら、マディソンが仲間に向かって報告を説明した。

 余計に雇った日本人の異能者6名を含め、メンバーは12名となっている。


「Even a psychic can use it a little.(異能者でも、少しは使えたな)」

 報告を受けたマディソンは、母国語で吐き捨てるように言い放った。


 まだ時間はある。

 いつ仕掛けるかはもう少しゆっくりと、考えてもいいだろう。




 そう言いながら、復讐者リーダーのヴァル・ミュール・マディソンが全員に撤収命令を下した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ