第21話 出会いと共闘3
「何だよ、これ……」
外見は外国人っぽく見えるが、流暢な日本語を話している。
終からしたら、突然の乱入者である。
これは、向こう側の人たちも同じように見えてるのだろう。
攻撃のタイミングに狂いが出たのか、反撃のチャンスだ。
“神々の鉄槌っ!”
終が片手を上げると、白銀の魔法陣が上空に発生しすると、包囲網を築いている魔術師達に向かって無数の雷と氷の刃を吐き出す。
急激な温度変化が巨大な竜巻を発生させ、地面を抉る。
「相手を減らせたか?」
そう思った瞬間、反撃とばかりに“爆炎の槍”何十本と降り注いできた。
防御結界が持つか……?
終がホッとした。
何とか結界が持ってくれたようだ。しかし、次の攻撃には耐えられないだろう。
護符の数も少なくなってきてるし……多少の負傷は仕方ないか。
「あっつっ!!……こん畜生、ハゲたら責任取らせるからな!」
侵入者の男が騒いでいた。
こんな状況下で、よく冷静でいられるよな……終の口元少しが緩み、そして再度、気を引き締めなおした。
討伐パーティーの面々が、詠唱を唱え始めた。
「この瞬間に貼りなおしできるか……?」
判断を決断しようとした時、目の前に新しいシールドが張られていることに気が付いた。
どうやら、あの男が張ったらしい。
「……助けた……自分を?」
目の前のシールドで、霧散していく。
相当な強固なシールドだ。
「君、大丈夫か?」
今はまだ、気を許す場面じゃない。
視線だけ男に向けた。
芯が強く優しそうな表情の男だ。
高校生か大学生か……二十歳は超えてないだろう。
今は目の前の男よりも、向こうのパーティーの方が優先だ。
さらに手を前に掲げた。
男の目の前で広がる、色とりどりの魔法陣。
無詠唱ならではの攻撃方法である。
“爆炎の槍”
“雷撃の矢っ!”
異なる魔法が次々と、パーティーに向かって絶え間ない攻撃を繰り広げている。
「こんなの……見たことない」
男はビックリするように終を見ていた。
ビックリするのも同然である。
無詠唱以外では、こんな攻撃の仕方は不可能だろう。
人数の差を攻撃回数でカバーする。
終にしてみれば、無詠唱が当たりまえだからこそ出来る行動だろう。
けど、その分だけ防御に対する行動が遅くなりがちなのだ。
「おっと……これはヤバい」
男が防御結界の補強を行った。
次の瞬間、全ての行動が声によって止まった。
「何やってるんですか、こんな時刻に!」
どこまでも響きそうな、澄んだ声だ。
終も、手を止めた。いや、止まったと言った方が自然だろう。
それは討伐パーティー側も同じだった。
男が前に歩み始めた。
所々で、木々がパキッっと折れる音がする。
その音も気にならない位に前を見ている。
『我々の戦闘結界に立ち入るのは何者か! こちらは欧州魔術師ギルドの討伐部隊である』
終の頭の中にも響くような念話が響いた。
そう、学校で聞いた声だ。
終は攻撃をしようと思ったが……出来なかった。
未知の部分が、終の攻撃する行動を抑えているのだ。
相手も、この男を見極めようとしていた。
『俺は欧州魔術師ギルド所属の各務玄草です。この戦闘は何ですか!』
この男……各務玄草と言った。
どうやら、同じ欧州魔術師ギルドの魔術師のようだ。
「やはり……敵?」
終が訝しがると、攻撃態勢を整えた。
しかし、あの男の雰囲気からは敵対するような感じではなかった。
むしろどこかで会ったような感じがする。
玄草はさらに念話を続けた。
『観光で近場に居りました。戦闘結界の反応を感知したので、来てみたところこの有様……』
玄草はどうやら怒っているみたいだ。
しかし、何に対して……?
終には理解が出来なかった。
今まで一人で戦ってきた終からしたら、自分を守ってくれる存在を考えることも出来なかったからだ。
『一体何があったのかを尋ねたいのはこちらです』
『同じギルド所属魔術師なら、御退場願おう』
終の困惑をよそに、討伐リーダーと玄草の対話が続いていた。
会話に友好が感じられないよりも、明らかに敵対している感じだ。
『我々は任務中である。貴公は直ちにこの場を去れ』
明らかに、討伐パーティーは玄草に対しても敵対心を見せていた。
『任務、とは。一人の少年を多人数で甚振るのが任務だと?』
玄草も冷たい目線を向けている。
『貴公には関係ない。立ち去らなければ我々を目撃した者として、抹殺の対象となるぞ!』
それを聞いて、苛立ちが抑えられないのか肩が震え念話の口調も震えていた。
『目撃者の抹殺ですか……目撃されたのは、貴方達の失態でしょうに』
ついに堪忍の緒が切れたのか、その眼差しは冷気を湛えており、戦闘結界内で炎に焙られた空気すら凍てつかせるほどだった。
終も戦闘が開始されるのももうすぐだと思い、護符にて回復を行っていた。
傷も癒え魔力も回復したが、それは向こうのパーティーも同じだろう。
「……何かすみません」
終に向かって、苦笑いを見せる玄草。
「この状況を見て見ぬふりなんて出来ないさ」
この男は……玄草は、そう言った性格なのだろう。
終は理解するのに時間がかかったが、この男は……今は敵ではない。
が、味方でもない。
今は、共闘していいのだろうか。
ふと、終の心の中に不安がよぎった。
しかし、今は味方でもいい。
『最後通告だ。貴公は何も目撃していない者として立ち去るがいい』
玄草が脅しととれる言葉に冷ややかに答える姿を見た。
『お断りします』
交渉は当たり前だが決裂。
これからは本当の戦いとなるだろう。
『後悔しながら死ぬといい』
討伐パーティーがその言葉と共に、戦闘準備に入った。
「俺は防御専門だから、心置きなく戦ってください」
玄草がそう言いながら、極めてコンパクトなシールドを終に唱えた。
「俺は、彼らに対して詠唱の妨害と君への支援を行う。いいね?」
玄草が早口で今回の戦闘方法を言った。
「判った?」
「判ったが……いいのか?」
終が再度、確認するように疑問をぶつけた。
「相手は、貴方と同じギルド所属だ。所属ギルドに剣を向けることになるよ」
玄草が自信ありげに言った。
「例え、同じギルド所属でもこの戦闘は向こうが間違っていると思う。自分がそう思ったから、君を助けたんだろうね」
終が驚いた表情をした。
「あはは、俺は大義名分や何かの旗のもとにって苦手でね」
玄草が苦笑いした。
「自分が信じた道を愚直に真っ直ぐに進んでいきたい」
そう言いながら、玄草が防御結界を詠唱した。
二人の周囲に貼られる結界。
「さて、君は自由に戦ったらいい。俺がサポートする」
「……お願いします」
終が困惑と恥ずかしさを浮かべながら、玄草に礼を言った。
玄草が張った結界の周囲に魔法が次々と着弾し爆発していった。
そのダメージや衝撃を吸収していく防御結界。
「この結界は、後2発で崩れる。攻撃準備はいい?」
頷く終。護符も新しく新調されて終を護ろうとしている。
今回は、さらに玄草のシールドも展開している。
「結界を解除するよっ!」
解除と共に、終が先頭に立って無詠唱で攻撃を開始し始めた。
「天照さんと違って、まるでモンスターだな。彼は」
玄草が冷静に終の戦い方を分析していく。
最良の時に、必要な魔法を詠唱する……指揮官タイプの人材でなければ出来ない戦闘だ。
「天照さん……と言うよりも、祖母ちゃんに近いかもしれない」
そう思いながら時折、相手に向かって“沈黙の時間”や“魔法解除”を唱え、魔法の詠唱タイミングを狂わせていく。
終も不思議な気分だった。
独りで戦っている時よりも、余裕すら生まれてきている。
彼のアシストも寸分の狂いもなく支援がやって来る。
炎の槍を何十本と繰り出す“爆炎の槍”や地割れを起こし、飲み込まれるような錯覚を覚える“大地の怒り”、氷の刃が舞う竜巻のような暴風が襲う“氷の暴風”といった魔法がタイミング良く発動させることが出来る。
むろん、相手も無知じゃないだろう。攻撃をする者や防御をする者、その後ろでは回復を行う者が支援している。
だから長時間にわたる消耗戦になるかもしれない。
玄草と言ったっけ、彼もそれは理解しているだろう。それを理解したうえで戦ってるだろう。
攻撃目標が増えた分、討伐パーティーから集中攻撃を喰らいにくくなった。
「玄草……だったかな。ある意味、感謝しかないな」
終は攻撃を回避しながら、そう呟いた。
ゴゴゴゴゴ……
地鳴りを伴う振動が宵闇の戦闘結界内に響いた。
まだ戦闘中の戦闘結界の中に、明後日の方向から物凄い魔力が流れ込んでくる。
討伐パーティーはこちらへの攻撃を一時停止し、接近する何かに注視した。
確かに、何かが近付いてきている。
凡てを威圧する物凄い魔力を隠そうともせず。
討伐パーティーは終達への攻撃を、一時停止し接近する何かに注視した。
終も討伐パーティーへの攻撃どころではなかった。
何かが近付いてくる。
生唾を飲み込むと、防御結界を構えた。
そして、玄草は……
「あっちゃぁ……物凄く怒ってるな。天変地異が起こんなきゃいいけど……」
そう言いながら、苦笑いを浮かべた。
接近する人物が誰か……物凄くよく、理解していたから。
彼女しかいない……いや、きっとそうだろう。