第19話 出会いと共闘1
「くそっ……、本当にひつこいな」
今日だけで2件目。
どれだけの人数がこの地に来ているんだ。
“爆裂火球”で相手の動きを止めた。
「“沈黙の領域”! 今だ……っ!」
詠唱を封じ込められた魔術師の背後に忍者が現れると、そのまま全身を切り刻んだ。
ぎゃぁっ!
声にならない声を上げ、そのまま倒れた。
「ふぅ……ご苦労様」
「いえ、ありがたき幸せ……では、これにて」
後ろに控えている忍者に礼をいうと、護符に消えていった。
「さて、このままじゃ駄目だから……と」
“「我が望む場所へ飛べ……空間転移!
(Eitilt go dtí an áit a theastaíonn uait ... metastases spáis)」”
そのまま倒れた魔術師を彼の記憶を元に、元居た場所に送り返した。
残るは、この結界解除のみ。
戦闘結界を解除すると、先程まで焼野原だった木々も元の美しい状態に戻っていた。
「ふぅ……もうこんな時間なんだ」
時計を見ると、12時近くになっていた。
只見駅そばの定食屋さんに入ることにした。
「いらっしゃいませ~」
この店の店員らしい年配の人が、声をかけてきた。
「おや、この辺りでは見かけない人だねぇ~。旅行かぃ?」
お冷を差し出しながら、興味深そうに終を見ていた。
「ソースかつ丼を一つ、お願いいたします」
申し訳なさそうに注文をすると、奥にいるのはこの店の亭主なのだろうか元気に答えていた。
2011年7月の新潟・福島豪雨による路線の被害により電車が走れなくなり、バスの折り返し運転を行ってから11年。
「本当に長いようで短いような……これも、皆さんのおかげなのよねぇ~」
この店の奥さんらしい人物が、お盆を持って話を続けた。
10月には、この駅を通る只見線が全面開通するらしい。
「只見駅の前に、只見のいいところが一杯の『只見線広場』が出来るからよ、また来て下され」
カツを揚げた衣を噛む音が、サクサクと店内に響いた。
「ごちそうさまでした」
代金を渡すと、店の人が手を振って見送ってくれた。
「……美味しかったな。また、来てみたいかな」
素朴さと人情味溢れた人とのちょっとした交流が気持ちよかった。
会場に戻ると、会場設営の準備も順調に進んでいた。
「おっ! おかえりぃ~!」
一人の丸坊主の少年が手を振っていた。
「仁志君も、こっちに来てたんだ」
終が久しぶりの再会に喜んだ。
「おぅ、どこも人手不足やからな。小遣い稼ぎや!」
あははと笑いながら椅子の移動とかを行っている。
「終君も手伝いで?」
「う、うん。まぁ、そんなところかな」
苦笑いしながらその場を去ることにした。
会場の一部は宿泊施設も兼ねており、終は個室を与えられていた。
他の会場関係者は4人で一部屋の相部屋で、異能者などの会場警護関係者と上級の立場の人は、それぞれ個室になっている。
布団に寝転ぶと、今日の戦闘を思い起こしていた。
どの敵も、今回は単体での行動が多かった。
これは何かの前触れだろうか。
現在、行方不明になっている復讐者と名乗るパーティー。
そして、その復讐者達を追う討伐パーティー。
その討伐パーティーは、目撃者も抹殺するという。
で、目下追跡しやすい自分を対象にしているわけだ。
同じ欧州魔術師ギルドだから、共通の情報システムがあるのだろうか。
しかし、どうして自分が此処に居るのが判ったのだろう。
今日だけで、全国各地5か所で同時に開催されているはずだ。
疑問が疑惑になる。
あまりにも都合良すぎる。
姫の宮内部の誰かが、欧州魔術師ギルドと繋がってるとしたら……
戦闘結界は異能者の素質があると、本人の意思にかかわらず内部に取り込まれる。
つまり、仁志達適合者も戦闘に巻き込まれる恐れが十分にあるという事だ。
「それは困るな……よし、やってみよう」
時刻は夜中の2時を過ぎたところだ。
目が覚めると、準備をする。
何故か胸騒ぎがする。
護符を持つと、そのまま静かに部屋を出た。
終は何かを決心すると、外出許可をわざと取って会場を後にした。
自転車で移動中、“魔力感知”を行うと……やはり、式神が周囲に居るみたいだ。
只見駅を背にして、只見川が流れる橋を渡るとすぐそこに広い公園がある。
そこで休憩することにした。
すぐ後ろは山がありキャンプ場もあると教わっている。
川の向こうは只見の町だ。
横浜と違い、どこか前に居た施設のある街に似ている。
周りを山に囲まれ、のどかな風景だ。
来るのは復讐者か討伐パーティーか。
終は、静かに待つことにした。
この作品は、基本的に火曜、金曜にアップしていきます。よろしくお願いします♪
本編である「出会いと共闘」編は事情により毎週火曜日の投稿となります。
金曜日は閑話が不定期に入る予定です。
次回の「出会いと共闘2」は、10月18日0時にアップ予定です。
乞うご期待ください