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白と黒の狭間で ~現冥境奇譚~  作者: 白杉裕樹
第一章
19/35

第16話 乙女達の暴走喫茶へようこそ

「ん~っ! 晴れてよかったぁ~!」




 今は午前9時50分。


 場所は中華街の関帝廟。

 そこでみんなと待ち合わせをしている。


 鮎美は時計を見ながら、自分の服装のチェックをしていた。

「変に乱れてるところはないよね」

 今日はみんなで、お茶会をすることになってる。


「おっはよぉ~!」

 恵ちゃんとけいちゃんが元気に手を振って近づいてきた。

 その後に、いつもの男子3人組がやって来た。

「おはよう~」

「マジでまだ眠いぃ~」

 目をこすりながら、しょうちゃんがやって来た。

 どうやら夜中まで弟とゲームをしたたらしい。

「喫茶店って、あんまり行ったことないからなぁ~」

 少し不安のみのるくん。

「大丈夫っ! スタバやマックと同じだよ!」

 そう言いながら、恵ちゃんが笑っている。


「おっはよぉ~!!」

 なほちゃんがやって来た。

「あとは……」

 鮎美が少しため息をついた。

 後、集合していないのは終のみ……


「そういえば藤塚君、暫く学校に来なかったよね」

 恵ちゃんが少し心配そうにいった。

「だよなぁ……迎えに行こうとしても、あいつの住んでるところ施設だからさ。行きにくいんだよなぁ……」

 けんくんが遠い目になりながら言った。


「あと、10分待ってみようよ。それで来なかったら、メッセージで連絡とってみるから」

 なほちゃんがそう提案した。

「だな……」

 ドリンクを飲みながら、けんくんが言った。



「そうそう、ここが関帝廟であるネ」

 どこか聞き覚えのある声がした。

 いつもお世話になっている、不動産会社を経営している劉さんだった。

「おぉ、鮎美ちゃん。おはようあるネ」

 劉さんが声をかけた。

「あっ、劉さん。おはようございます!」

 元気に鮎美が挨拶をする。

「今日はお出掛けかネ?」

「そうなんです。天照さんとこの喫茶店にみんなで行こうかと思って」

 何故か、鮎美が照れてる。


「そかソカ。楽しんできてネ! と言う訳で、終君。ここが関帝廟だヨ」

「ありがとうございました、助かりました」

 終が素直に礼をした。

 劉さんが、終の肩をたたきながら言った。

「大丈夫。こっちも恩あるからね」

 そうして片手を上げるとにこやかに去っていった。

「向こうの件は心配ないヨ。うまくやっておくからネ」



「みんな、遅れてごめん……道に迷ってしまって」

 終が改めて、みんなに軽く頭を下げた。

「なんだぁ~、迷ってたんだなぁ。 心配したぞ?」

 みのるくんが終の肩を笑いながら叩いた。


「さて、みんなが揃ったところで……目的地へ行きましょうっ!」

 元気に鮎美が片手を上げて笑いながら叫んだ。


「「「おぉ~!!」」」


 それに合わせて、みんなが片手を上げて叫んでいる。


「ママぁ~。あれなぁにぃ?」

 周囲から見たら、何やらおかしな集団に見えたのだろうか。

「駄目ですよ、指さしちゃぁ……」

 子供が指をさしているのを、お母さんが子供を引っ張るかのようにその場から離れていた。

「あの人達と目を合わせたら、ダメダメですからねぇ~」 




 目印は鮎美の家でもある欧州雑貨・家具店「インカローズ」。


「今日は出かける予定じゃなかったのか?」

 玄草が店番をしながらアクセサリー等に使用出来る宝石たちの鑑定を行っていた。

「今日はね、天照さんの喫茶店でお茶をする予定なの!」



 なるほどね。


 それで朝から天照さんが色々と準備していたんだ。

「人数多いから、大丈夫かなぁ……」

 他のお客さんの邪魔になってもいけないし……

「それなら大丈夫よ。今日のお茶の時間(ティータイム)は 貸し切りにしてあるから」

 奥から天照が威張ったように声をかけてきた。


「ありがとう、助かるわぁ~!」

 ああ見えても、天照さん……ちゃっかりと営業しちゃうんだろうなぁ。

 鮎美が苦笑いしながら、みんなの所に戻った。



「今日は貸し切りにしてくれてるから、全然問題ないってっ!」

 いつものメンバーが、それぞれ楽しんでいるみたいだ。



「みんな、こっこでぇーすっ!!」

 まるで北欧(フィンランド)のお店のような雰囲気を醸し出した、可愛いお店だ。



Flos conciderunt/時の花(ときのはな)


 中に入ると、客席のテーブルセットにトロリーテーブル。

 食器を納める大型のキッチンボードに、茶器を納めるカップボードが備え付けられていた。

 みんな、目を点にして店内を見渡していた。

「すっごぉーい……」

 なほちゃんが手を前で組みながら、周囲を見渡している。

 眼鏡の奥で、何か妄想が始まったみたいだ。


「中華街に北欧喫茶店……ありかも」

 そう言いながら、みんなよりも頭一つ高いみのるくんがキョロキョロとみている。

 他の皆も、物珍しそうに見ていた。

 

 大きめの出窓には清楚なレースのティーカーテン。

 出窓の棚を飾る北欧雑貨。


 絵本に出てきそうな雰囲気で、窓から見える風景が中華街であることを忘れそうだ。


「これ、私が選んだんだよ~」

 そう言いながら、キッチンカウンターに置いてあった小さな硝子の花瓶に活けてある小さなブーケを見せびらかしていた。



「あら、賑やかそうね。皆さん、いらっしゃいませ!」

 店の奥から出てきた人物に……みんな、目を疑った。


 いや、疑って当然だった。

 

 長髪の淡い金髪が似合う、濃緑色のメイド服に身を包みこんだ少女。

 見ただけなら、可愛いお人形にも見えるだろう。

「俺達と……歳が同じ……?」

 どう見ても同じ年にしか見えない。


 しかし、同じ年なら店舗を開く事はともかく、働く事すら難しいだろう。

 

「うんうん、最初は私もビックリしたもん」

 鮎美が両腕を組みながら、頭を上下に振っていた。



「え……えと、この店の方で……?」

 ショートカットの恵ちゃんが身を乗り出しながら、目の前の少女を見ていた。

「あっ、私はこの店のオーナー兼店長を務める天照よ。今日のティータイムは貸し切りにしてるからゆっくりとしていってね」

 みもるくんが恐る恐る禁断の台詞を言い始めた。

「あ……あのぉ、大変申し訳ないですが……天照さんて、何歳ですか?」

 みんなの顔色が変わる。

 女性に対して、年齢を聞くなんて……

「私? 私は20代前半ですよ~」


(あ……天照さん、ごまかしてる)

 鮎美がボソリと呟いた。


 そういえば、あんまり気にしてなかったけど……私も聞いたことないもんね。

 唯一、お兄ちゃんが5歳の時にはあの姿だって言ってたから……


 今は20代後半……?



 やめやめっ!! 考えるのはやめよう。

 鮎美が軽く、頭を左右に振った。 



 その時、恵ちゃんが私の背中を突いた。

「ひゃぁいっ!!!」


 ビックリして、思わす声にならない声を上げちゃった。

「あ~ゆ~た~ん」

 恵ちゃんがなにやら含み笑いをしている。

 この時って、あまり良くないんだよなぁ……


「あゆたんのお兄さんって……今日は、ご在宅?」

 この質問に女性陣がピンッときたのか、みんな手を止めた。

「えっ、お兄ちゃん……?」

「うんうん」

 恵ちゃんが、満面の笑みで鮎美をみている。

 さっき店番をしてたから、まだ店番をしてるはずだが……

「お兄ちゃんなら、横のお店(うち)で店番しているよ?」 

「うそぉ~。今日、いらっしゃるの!?」

 言い終わる前に、恵ちゃんの後ろでめいちゃんまで両手を合わせて喜んでいる。


「う……うん」

 鮎美が苦笑いしながら答えた。

「こうしちゃいられないわっ! お隣の様子、見てくるねっ!」

 女性陣が我先にと、隣のインカローズに向かって突撃していった。


 呆然とする、残された男性陣。



「あのクソガキャァ……っ!」


 天照が包丁を手に激怒していた。

「全く、もうすぐ料理が完成するのに……どうしてくれるっ!」

「ま……まぁ、落ち着いてください」

 健くんやしょうちゃんといった男性陣が、必死に天照をなだめようと悪戦苦闘していた。

 鮎美も一緒に、天照をなだめていた。


「天照さん、のんびりいきましょうよ……のんびり」

 もう、天照さんをなだめるの大変なのに……




「……ん? その鏡に興味あるの?」


 突然、天照が奥の方で鏡を見つめていた終に声をかけた。

「あっ、すみません。少し気になったもんで」

 終が頭を下げると、鏡から離れ静かに席に着いた。


「藤塚君って言って、彼が前に話した瘴気が見える子なの」

 鮎美が簡単に終の自己紹介をしていた。


 確かに言われてみれば他の子と違う雰囲気……いや、彼から異質な魔力を感じる。

「ふぅ~ん。あの子がそうなんだ……」

 さっきまでの喧騒も忘れたかのように、注意深く終を眺めていた。

「今年の5月に転校してきたんだよ~」

 天照に色々と説明しながら、鮎美は彼女が怒りを収めたようでホッとした。



(まさか、あの鏡に気が付く子がいるなんて想像してなかったわ。)

 あの鏡にはノルド様も私も、これでもかといわんばかりの偽装とプロテクトを厳重に施している。

 並大抵の魔術師では、気が付かないはずである。


 あの鏡は、日本支部の総本部への入り口でもあり、欧州魔術師ギルド本部へ行くための中継ポイントも兼ねている。

 もうばれたら厄介どころじゃ済まない。

 その為に、番犬の用意もするつもりなのだ。

(早めにフェン(フェンリル)を連れてこないといけないわね……)






「たっだいまぁ~!」


 天照が少し不安げに考えてると、外から賑やかな声と共に一団が入店してきた。




「いやぁ~、久しぶりに……いや、初めてイケメンというものを堪能させていただきました」

 帰ってきた女性陣の表情が、その言葉を物語ってる。

 みんな幸福感いっぱいの表情をしていた。


 アクセサリーを買った者や小さな宝石を買った者が戦利品の報告している。 

「けど、一番の収穫物はやはりこれですな……」

 女子陣がぐふふと下品な含み笑いをした。


 みんなが見ているものを横から見た鮎美が、ドン引きしたのも無理はなかった。


 何枚もの玄草の写真をフォルダーに保存しているのだ。

 一体、何枚の写真を撮ったのだろう。



「お兄ちゃん、疲労で死んでなければいいけど……」

 鮎美が腕を組みながら苦笑いしている。


「やっと帰って来たわね。ほら、待たせた罰として運ぶの手伝うっ!」

 天照が調理場から、色々な美味しそうな料理を出してきた。


「はぁあぁい!」

 女性陣の元気な声が、店中に響いた。




〇 今日のお料理<ティータイム編>


カラクッコ(豚肉と野菜詰めパイ)

冷製ヘルネケイット(えんどう豆のスープ)


飲み物

コーヒー or 紅茶(ミルク、レモン)


「……となっております♪」(天照談)




 天照がさらに付け加えた。

「特に、カラクッコは玄草くんがお気に入りの料理で~す」

 それを聞いた女性陣が、さらに黄色い声を上げた。


「どれもおいしそ~!」

 めぐみちゃんが天照に聞いてみた。

「天照さん、このお店は写真撮影は禁止ですか?」


「禁止になってないから、いい写真撮って宣伝してね!」

 ヘルネケイットに生クリームを細くたらしながら嬉しそうに言った。



「おいしそうな匂い……何だか、本当にフィンランドに居るみたいだ」

 みのるくんが匂いを嗅ぎながら、お預け状態の犬のような表情をしている。

「本当は、ケーキを出したかったけど間に合わなくて……みんなごめんね」

 天照がにこやかに謝った。



(天照さん、ケーキとかだと経費が掛かりすぎるから……お手軽にすませたわね)

 そう主張したげな視線を天照に送る。

(鮎美ちゃん。仕方ないでしょ……)

 天照が、鮎美に視線を投げ返した。


(今度、向こう(フィンランド)のお菓子とか……お願いね♪)

 にこやかな表情と共に、視線を送った。



「あはは……はぁ」

 うなだれる天照。

 やはり、鮎美には勝てないみたいだ。


 みんあのところに全てが並び終わったので、改めて見渡してみた。

 それぞれの席に、料理(カラクッコ)と冷製スープ、お好み通りにコーヒーか紅茶が並べられている。

「改めて見てみても、やはり美味しそうだよなぁ~」

「みんな、料理をいただく前に写真を撮るよ~!」

 鮎美がそう言うと、写真を撮った。

「鮎美ちゃんも、入ったら? 私が撮るよ?」

 天照がそう言いながら、鮎美のスマホを借りて写真を撮ろうとしている。


「はいっ、チーズっ!」




本日のFlos conciderunt/時の花(ときのはな)は、陽気に誘われた少年少女達の笑い声が絶えまなく続いた。









「うぅ~、もう女子軍団は懲り懲りですよ~」


 ただ一人、元気な女子中学生達の餌食となり、全ての力(接客サービス)を使い果たし疲労感MAXで店番をしている玄草を除いて……。

この作品は、基本的に火曜、金曜にアップしていきます。よろしくお願いします♪


次回は、10月4日0時にアップ予定です。


乞うご期待ください

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