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白と黒の狭間で ~現冥境奇譚~  作者: 白杉裕樹
第一章
18/35

第15話 復讐戦3(改)

 もう少しだ……もう少しで、瓦礫と化したが下の階へと降りられる。




 周囲が煙と風の壁が吹き荒れる3階ともオサラバできる……

 下に降りれれば仲間と合流して、1階まで下りてしまえばいい。


 

“風よ、我に翼を与えよッ!(Gaoth, tabhair sciatháin dom!)”



 魔術師が魔法を詠唱すると、2人の身体がふわりと浮いた。

 そして、急加速すると何も考えずに、階段のあった瓦礫の山を下り2階の外側の壁に身体をぶつけながら停止した。


「ぐはっ! い、痛いっ!」

 壁に当たった2人は、思わず転げ回った。

 しかし、痛みがあるという事は3階から抜け出した証拠だ。


回復師(ヒーラー)、急いで治療だ。敵が来るかもしれないぞっ!」

 その命令に、すぐさま治療を開始する回復師。

 その光と温かさが心地よかった。


「報告する。3階には忍者と思われし式神が4体、活動中っ!」

「なにっ、4体の忍者だとっ!?」

 ビックリする回復師。


 周囲を警戒している魔術師が、思わず生唾をゴクリと飲み込む。


 現在は、式神の鎧武者4体を周囲の警戒につかせている。

「相手は異能者の少年と騎馬武者ではないのか?」


 息も絶え絶えに、魔術師達は荒く呼吸していた。

「はぁ……はぁ……あれ……何だ、いったい。あんな自立した式神は初めてだ」

 もう一人の魔術師も付け加えるように言った。

「ありゃぁ式神じゃねぇ。本物の忍者だっ!」


 少年だけと聞いていたが、他にも強大な魔術師が傍にいるんじゃないか……

 そう考えずにいられないほどの状況だった。


「バラバラで対処するんじゃなくて、まとまった方がいいっ!」



 一体、あの少年は何体の式神を操るのだ……


 前回が騎馬武者といい、今回が忍者4体。

 どれも個々に自立行動している。


 マークスは嫌な予感がした。

「もしかしたら、自分達はヤバい奴を相手にしてるんじゃないか……」

 頭を左右に振ると、必死に考えを否定した。


「よし、ここを放棄して下の階に降り、リーダー達と合流する」

 それが一番いい方法だ。

 マークスはそう思った。

「誰か治療中の2名に肩を貸してやれ」

 そう言いながら、下の階に居るマディソン達と合流するために移動を開始した。



「ちっ……逃がしたか」

「相手もそれだけ、雑魚じゃねえって事だよ」

 煙が晴れた後、魔術師達が居た場所を捜索する忍者たち。


 鎧武者の乱入がなければ、一気に攻め込めたかもしれない。

 それも、あくまでも可能性に過ぎないのだが……

 


「ここは、相手を褒めるしかないな」

 忍者の一人が笑いながら言った。

 確かにそうだ、まさか手りゅう弾まで使って、爆発を煙幕にするとは思わなかった。


「我らも、主の元に戻ろう」

 濃紺(正藍染)色の忍者服を着た忍者が、そう言いながらその場を消えるように離れた。

「御意……!」

 そう言いながら、残りの忍者もその場を離れるように消えていった。



「お疲れ様、みんな」

 終はそう言うと、リーダー格の忍者から報告を聞いた。


「……そなんだ。やはり、向こうも色々と対策を取ってきてるみたいだね」

「はっ、式神も行使できる異能者が参加しているようです」

 その最中、終は忍者達にそっと言った。

「ありがとう、みんな。とにかく誰も欠けることなく戻ってきてくれて、ありがとうね」

 忍者達は片膝をつくと、嬉しそうに笑った。


「主のお言葉、ありがたき幸せに存じます」


 とにかく、今は少し回復させるとよいとばかりに、全員を札に変換させた。

 忍者達を札に戻すと、休憩しながら思考を巡らせた。 

 これからは、集団対個人といった感じで戦いになるかもしれない。


「向こうは7人で、こちらは自分だけ……か」

 地の利を考えても、圧倒的に不利な状況だ。

 もう個別で動いてはくれないだろう。



 どうすればいい……


 こちらの式神を質よりも数にするか?

 いや、駄目だ……そうしたら、式神達の損失が増えてしまう。

 先程の行動は、完全に裏目に出てしまったみたいだ。


「今回の失敗を次回に……なんて悠長な事を言ってる場合じゃないよな」

 終は軽く笑った。


「今回を切り抜けないと、次回がないからなぁ」

 こんな時に、ふと来週の予定を思い出していた。

「そういえば、各務さんがお隣さんの喫茶店に行くと言ってたよな」

 家の横に、北欧風の喫茶店がオープンしたらしい。


 みんなで喫茶店に行ってお茶をしようと言ったけど…

 何故か、それを思い出すたびにクスリと笑顔がこぼれだす。



 まずはこの絶望的な状況だな。


 

「さて、どうやって突破しようかね」

 対魔術と対物理防御用の護符は、幸いにしてまだまだ残っていた。


 しかし、もう小手先な行動は通用しないだろう。

 むこうも素人じゃない。


 欧州魔法学院(アカデミー)出身だと聞いた。

 つまり、相手は欧州魔術師ギルドの所属魔術師なのだ。

 自分と相手では、アマチュアとプロの差があるのかもしれない。


 この差をどうやって埋め、超えていくか。



 終の心の中で、先程まで潜んでいた絶望という言葉が消えていった


 どう生き延びるか……今はそれだけ。



 式神達は今回は出番は無しだ。

 そうやっても、消えてしまう場合が大きすぎる。


 消えるなんて嫌だから。

 しかし、当の式神達は考えが違っていた。


「主よ。我々も一緒に戦わせてくだされ」

 式神の符が、カタカタと震えた。

 終の意識下に、彼らの声が流れ込んでくる。

「主を失うと我らは存在意義が無くなりまする。是非とも、ご一緒させてくだされ」

「我らはまた新たな符を頂ければ、主の元にはせ参じることが出来まする」


 次々と流れ込んでくる、式神の意思。

 これはもう、式神を行使するといった常識が通用しない。 

 しかし、グランドに出れば広範囲対決になるから騎馬達も活躍できるだろう。

 そこまで行かせてもらえれば……の話だが。 




 その時、物凄いプレッシャーと共に、全ての思考を遮るかのような声が学校中に響いた。



『我らは欧州魔術師ギルド本部直属の討伐パーティーである』



 身動きが出来ないまま、終はその声を聴くだけだった。


 つ……強すぎる。


 全身から汗が止まらない。

 今まで経験したことのないプレッシャーだ。



『これより、この戦闘結界内において活動を開始する』



 私闘を邪魔するかのように割り込んできた欧州魔術師ギルド……


 マディソンは苦虫を嚙み潰したような表情をして、声の方向を睨んだ。

「ち……ちくしょう。これからだったのに。後、もう一歩だったのに……」

 トーマスがリーダー(マディソン)のそばに行って、小声で問いかけた。

「リ、リーダー。討伐パーティーって……」

 その表情は、不安を超えて泣きそうな雰囲気だった。

「ああ……あの上級魔術師で構成された、討伐パーティーだ」


 声の方向を見ると、うっすらと集団が上空に浮遊しているのが見える。

「全部で……か、見えるだけで8人もいやがる。地上にはもっといるかもしれないな」

 

 どうする……?

 ここで復讐を続行しても、ガキを殺す前に俺達が全滅するだろう。

 それほど、あのパーティーとは能力の差がありすぎるのだ。


 何か詠唱が聞こえる。


「あいつらは本気かっ?」

 マディソンが焦るのも無理はない。


 聞こえてくる詠唱は、現存する魔法でも最上級の魔法「神々の鉄槌」の詠唱に違いない。


「逃げるぞっ!」

 マディソンがそう叫ぶと同時に、上空に魔法陣が浮かび上がった。



“大いなる全能神たるゼウスよ。かの地に巣くう者達をその力を持って神の鉄槌を与えよ、神々の鉄槌っ!!

(Is é Zeus, Dia mór uilechumhachtach. Tabhair a gcumhacht do na daoine atá ag neadú sa cheantar casúr Dé a thabhairt don casúr Dé。Casúr na ndéithe!)”



 襲いかかる無数の稲妻。

 防護結界も関係なく、無慈悲に全てを引き裂いた。


 さらに、落ちた稲妻の中を無数の氷の刃が巨大な竜巻となって暴れ回った。



 戦闘結界の中は、もう地獄絵図の様な状態だった。

 崩壊していく学校。



 学校の建物は、ほとんど原型をとどめてなかった。




 破壊しつくされた学校には、もう誰も生き残っていないのではないかと思われた。

 しかし、終の張った戦闘結界がまだ発動している。


「ほう、あれの中でまだ生きていたか」

 討伐パーティーの一人が感心するように言った。


 ただし、終も無事とはいいがたい状況であった。

 対魔法や対物質の防護符も消え去り、護符の一部が残っているだけであった。


「……何……故……」

 全身傷だらけで立ってるのもやっとの状態で、意識もほとんどなかった。

「殺……」


 よく見ると、左足や左手の骨の角度がおかしな方向に曲がっている

「す……」

 大量の出血のまま、終は真っ赤な眼をしながら討伐パーティーと対峙していた。



 無言で無事な片手を上げると、上空に真っ赤な無数の魔法陣が出現した。

「……! “神々の鉄槌”だと!!」

 明らかに目標は自分達、討伐パーティーだった。


 一人でこの魔法を発動させることが出来るのは、ギルドでも数人の魔術師のみだ。

 我々も何人かの詠唱サポートを受けて発動が出来る代物なのだ。


 それを無詠唱で行っている。

 無言の恐怖がパーティを包み込んだ。



“火炎の魔槍!(Spear draíochta lasair!)”


“爆裂大火!(Tine pléascach!)”


 討伐パーティが次々と魔法を詠唱し始めた。

 無数に飛び交う魔法が一点に向かって突き進んだ。


 防御も避けることもない。

 ただ、全てを受け止めようとしていた。


「やったか……っ!?」

 これだけの魔法を喰らって、生きている方がおかしい。

 そう誰もが思った瞬間だった。

 強力な防御結界が終を包み込み全ての攻撃を無へと還した。


 当の終は、不意に後方から不意打ちを喰らい……気絶した。


 


「この辺で、手打ちにしないかネ……相手、違うヨ」

 いつの間にか、終の前に小太りの劉が立っていた。

 周辺には劉の配下が多数、潜んでいる。


「この子は、あなた達が相手違うヨ。もう逃げていないあるヨ……」

 劉が低い声で、威圧的に話している。


 討伐パーティーのリーダーが一旦、全員に攻撃を止めさせた。

 確かに、我々は私利私欲で戦闘を行ったマディソン達のパーティーを束縛するために来た。


 計算違いは、もう決着がついてるものと考えたのだ。

 しかし、現実は違っていた。

 だから途中で戦闘を中断させる方法を取ったのだ。


 本来ならマディソン達のパーティーの束縛だけだ。

 しかし、自分達を目撃した終も抹殺しなければいけなくなった。


 討伐パーティーの戦闘を目撃した者は全て排除すると言った掟がギルド内にあるからだ。

 

 しかし、目の前にいる相手を攻撃することは、自分達の問題を超えてギルド全体の問題となってしまう。

 相手は華僑ギルド……世界中にネットワークを張り巡らせている一大ギルドでもあるからだ。

 そんな中国や台湾の出身である華僑の魔術師ギルドが敵となって紛争が起きるとなると国際問題に発展しかねない。


「続けるなら、我ら(華僑)がお相手しなくちゃいけなくなるヨ……」


 流れる沈黙と時間。

 劉にしてみれば、これは賭けでもあった。

 討伐パーティーが華僑関係なく攻撃してくれば、相当数の犠牲もでるだろう。

 そうなれば、全面抗争にまで発展してしまう。


 掟とギルド抗争……どちらを選ぶか。



 討伐パーティーのリーダーが口を開いた。


「我々も、華僑全体と対峙することはギルドとして有益な事ではありません」

 ギルドとしても、今は全面戦争など避けたいはずだし、望んでもいない事だ。

「ここは、我々が一時撤退しておきましょう」

 そう言いながら、討伐パーティーは“空間転移”の魔法を使い撤退した。



「この子、本当に不憫な子ネ……」

 劉が配下の回復師に指示を出すと、応急処置を施した。

「すぐに医療施設に運ぶヨ」



 そう言いながら、終の戦闘結界が解除され、元の学校の風景がその場に現れたのだった。


 戦闘がおこなわれる前までの行為が、何の疑いもなく再開された。

「あははは、あの先生はよそ見には厳しいからね。だからみんな昼寝するんだよ」

 鮎美がこっそりと、隣にいる「はずだった」終に向かって語りかけた。


「あれっ? 藤塚君、今日学校に来て……さっきまで居なかったっけ?」

 首をかしげる鮎美。




 机の上には、先程まで開けていた教科書が閉じられたまま主の帰りを待っていた。

この作品は、基本的に火曜、金曜にアップしていきます。よろしくお願いします♪


次回は、9月30日0時にアップ予定です。


乞うご期待ください

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