第13話 復讐戦1
「で、あるから……」
心地よい日差しが静かな教室の中を温めている。
聞こえてくるのは英語教師の、念仏のような声だけだった。
これでは真面目に授業をしろという方が苦痛ではなかろうか。
半数の生徒がウトウトしながらの授業で、隣の席の各務さんにいたっては、夢の中に行ったきりだ。
(確かに、今日の日差しは心地よいよなぁ……)
教師の声を聴きながら、のんびりと外を眺めていた。
あまりにも心地よすぎる……
岩倉さんから言われた言葉を思い出していた。
「しばらくは期間を開けて、藤塚君に依頼をお願いするかもしれない。学業が優先だけどな!」
つまりこれから、ああいった依頼を頼まれることがあるんだな。
終は、ため息をつきながら顎に手をのせた。
「まさか、何か起こる前兆なんじゃないかな……」
終が苦笑いしながら、思い切り否定した。
「まだ、この前の戦闘の気分が残っているのかな」
そう思いながら、教室を見渡した。
「藤塚君、よそ見はいけませんよ……!?」
急に教師から注意を受け、ビックリしながら立ち上がった。
「は…はいっ。すみません!」
その行動があまりにも滑稽だったのか、教室中に笑いが起こった。
「笑うことないだろぉ……」
照れながら椅子に座ろうとしてると、笑い声で目が覚めたのか各務さんが自分の方をみていた。
「あははは、あの先生はよそ見には厳し……」
キュイイイイィィィィィン……!!
鮎美が終に向かって話をしている途中、急に景色が単色になったかと思うと聞き慣れた音が鳴り響いた。
「戦闘結界っ!?」
周囲を見渡すと、今まで居たクラスの皆も担当の先生も、そして他の教室から聞こえてた声も聞こえなくなった。
どうやら、自分を目標とした戦闘結界が張られたようだ。
“戦闘結界っ!”
終も教室の床に手を当てると、真っ白な魔法陣が浮かび上がった。
そして、そのまま巨大化していくと学校…いや、学校の敷地全体を結界内に閉じ込めた。
「对全组织员结束联络了。(全組織員に連絡終わりました)」
連絡員が劉に報告をした。
劉はうなずくと、連絡員がその場から立ち去った。
「例え欧州でも華僑でも、日本でも……復讐だけはいけないヨ……」
中華街で不動産業を営む劉は、寂しそうに言った。
「今回だけだヨ……」
学校方向に見える戦闘結界をみながら、劉は店の中に消えていった。
マディソンに華僑から連絡が入った
連絡用の式神が要件を伝えた。
。
『華僑、今回の件に関与せず……』
式神は要件を伝え終わると自然に発火し、燃えてなくなってしまった。
「くくくっ……これで、邪魔する物は何もなくなったわけだ」
マディソンは今回、学校を舞台に選んだのも理由があった。
あの少年は式神使いで、騎馬武者を行使していた。
自立していて強力な騎馬武者ではあるが、あの小僧の式神はそれしかないはず。
学校という建物は、騎馬武者みたいな機動力を主戦力にするものにとっては動きにくい構図となっている。
しかも、薙刀を振り回すには広さが足りない。
機動力を封じたままで、自分達の優位に戦闘を行う。
これが当たり前だと言いたいのだろう。
マディソンの口元が緩んでいる。
「狭い通路に上下への階段……あの式神はもう使えないぞ」
式神を封じてしまえば、如何に尋常ならざる術者でも所詮は14歳の子供。
子供相手に7人もの大人相手では結果はわかりきった事。
学校の一階の教室には新しく調達した術者も待機させている。
以前は不覚をとったが、今回はそうはしない。
今回は全員で7名。
術だけじゃなく、銃や手榴弾なども用意してある。
もう少年であろうと容赦はしない。
全力でその首を切り落としてやる……!
「ゲーム開始だっ!」
マディソンは、魔術師全員に号令をかけた。
「結界内のいる奴は、皆殺しにしろ……女子供容赦なく殺せっ!」
全員が頷くと、それぞれのフィールドに散っていった。
無人の教室から出てみると、やはり2階は誰も居なかった。
式神を使うか……しかし、この障害物の多さや狭い個所では、騎馬武者の能力をフルに発揮できない。
かと言って、相手の事が判らない以上むやみに移動も出来ない。
「けど、ここに籠るのも危ないか……」
不利な状況ばかりが、浮かんでは消えた。
ここだと、前後から挟み撃ちにされる場合がある。
“魔力感知っ!
(Ciall draíochta !)”
魔力を持つ者は7人。
どうやら、3階と2階は2人一組のペアで行動している。
1階には3人……どうやら1階の職員室にいるみたいだ。
『主よ。俺達が相手してくるぜ?』
終が持つ護符から、自信満々の男達の声が聞こえた。
「じゃぁ、頼むね……」
終が札を取り出すと、上空に札を4枚投げた。
“我の名において命ずる。我に従いし者よ……その命持って 我の前に現れよっ!”
終の召喚に応じるように、4人の忍者が現れた。
「主よ、今回は我々にお任せあれっ!」
全渋柿色より黒に近い服装で短剣を装備している。しかし、前に出てきた忍者は濃紺(正藍染)色の忍者服を着ていた。
「我らは上の階より制圧してまいります」
そう言うと、終の目の前からその姿を消した。
「よろしく頼むよ……」
そう言いながら終も教室を出た。
学校の構図は、終の方が良く知っている。
「毎日通ってるもんなぁ……」
苦笑いしながら、理科室を拠点とする事にした。
理科室はL字型に曲がった通路の端にあり、近くに階段もなく頑丈に作られた部屋だ。
「さすが実験とか危険物を扱う部屋だよな」
1階が美術室、3階が音楽室となっている。
床と天井も、他の部屋と比べたら簡単には崩落しないだろう。
そう思いながら、壁一面に“魔法防壁”を張った。
と、その瞬間。
ガガガガガッ!!
ライフル銃の乱射する発射音と、魔法が爆発する爆発音がどこからか聞こえ始めた。
ついに戦闘が開始されたみたいだ。
さて、こちらも行動に移るか……
式神に護符をつける……ここはなりふり構ってられない。
忍者達に、魔法防護と物理防御の護符を挟持させた。
「おぉ、主からの防護護符を頂いたぞ……かたじけないっ!」
これで、式神の忍者達も相手からの攻撃に耐えることが出来るだろう。
本来の護符の使用方法でなないのだが……
2本のクナイが、3階に到達した2人の術師達の陰に突き刺さった。
スパンッ!
スパンッ!!
「秘技、影縫いっ!」
忍者を知っている者なら、気合で回避できると知っているが、外国人の彼等には効果的な猛撃だった。
「なっ、なんだ!! 足が動かないぞ!!」
一人の術師がさけんだ。
「少年からの攻撃かっ!? それとも罠……?」
先でゆらりと影が動いた。
「リーダーの話だと、あの小僧の式神は騎馬武者のみと言ったはず!」
まるで足元が麻痺したかのように、動くことが出来なくなっている。
ガガガガガガッ!
あまりの恐怖心に、少しでも動く雰囲気があればライフル銃を向けた。
“水の精霊よ。氷の刃となりて全てを突き刺せっ!……氷牙の槍っ!
(Spiorad uisce. Bí i do lann oighir agus pierce gach rud……Spear fang oighir)”
一人の魔術師が魔法を詠唱して、周囲に攻撃を加えていく。
銃弾や氷の槍によって無数の窓ガラスが粉々に飛散していく。。
整列されていた机や椅子も、無残に飛び散っていった。
“ディスペル!”
魔術師の一人が足元に向かって、魔法解除魔法を唱えている。
「駄目だ、魔法が効かないっ!」
“|防御結界!《Domhan cosanta》”
魔術師が自分達の周囲に防御結界を張った。
これでしばらくは、相手の攻撃に耐えることも出来る……
「ん……? 何だこれは……」
魔術師の一人が、地面に刺さっているクナイを見つけ、魔法の杖でクナイを地面から引き離した。
「おぉ! 動くようになったぞ!」
やはりもう一人の影の部分にクナイが刺さっていた。
「これで反撃が出来るぞ!」
魔術師達は先ほどまでの劣勢から何とかなると思えた。
そうしていると、下の階から何者かが登てくる足音が聞こえた。
この作品は、基本的に火曜、金曜にアップしていきます。よろしくお願いします♪
次回は、9月23日0時にアップ予定です。
乞うご期待ください