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白と黒の狭間で ~現冥境奇譚~  作者: 白杉裕樹
第一章
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第12話 それぞれの終わり

「ちぃっくょう~っ!!」




ガシャァァァン!




 投げつけた水差しが壁に当たって割れた。


 その音にビクッと怯える回復師。

 回復魔法を唱え終わると、そそくさとその場を急いで退場していった。


 

ハァハァ、ハァハァ……



 肩で息をするように男は荒れていた。




 無理もない、後もう少しというところで負けたのだ……



 負けた……負けた……負けた……?



 俺達は、勝っていた。そう、あの異能者なんぞ相手にならない位に勝利が目前だった。



 ……あの騎馬武者(式神)が現れるまでは。



 悔しいなんてもんじゃない。

 式神一体に、俺のチームが手も足も出なかった。



 俺達は欧州魔法学院(アカデミー)で色々な事を学んだはず。


 それなのに、未開の地でもある日本の異能者なんぞに負けるのだっ!!

 戦闘結界を張ったコーサスに至っては、何も出来ずに一刀両断されて即死だ。



「聞いてねぇぞ!! あんなバケモンが居るなんて!」


 俺の両手も切り落とされたが、奇跡的に治癒魔法が効き、何とか動かせるまでに回復した。

 しかし、魔法を行使するにはしばらくのリハビリと訓練の時間が必要とされた。


「ちっ、開店休業中かよ……」


 周囲には、他の助かった者達が治療を受けてた。

 メンバーも回復するまでに、しばらくの時間を要するだろう。




 燃え盛る炎の中、騎馬武者と一緒に居た少年。


「あいつは、いったい何者なんだ……」

 リーダーの男は、忘れる事のできない記憶を思い出していた。

「あんな異能者、アカデミー内でも聞いたことがないぞ」


 思い出すだけでも悔しい。

 リーダーの男は唇を強く嚙みしめ、血が滲み出ていた。



「次に会った時には、絶対に殺してやるっ!」



 コンコンッ……



 入口の方からノックと共に、声が聞こえた。

「ヴァル・ミュール・アディソン中級魔術師。ちょっとお話がしたいのだが……いいかな?」

「魔術師ギルドの調査委員様かよ」


 アディソン(リーダーの男)が、ぶっきらぼうに答えた。


「今回、君たちは独自で受け持った仕事を失敗したそうだね」

 調査委員と呼ばれた男は、ニコリと笑顔を作りながら今回の件を調査し始めた。

「相変わらず気持ち悪いな。ニコリとしながら声は無機質だ」

 

 アディソンは水を一杯飲みほした。

 机の上に、叩きつけるようにコップを置いた。

「ああっ、そうだよっ!! 失敗しましたよっ!」


 男が概要を伝えた。

「データ奪取のために侵入した男を一時は取り押さえたが、新しく介入してきた人物によって男を逃がされたと」

 ページをめくって、さらに進めた。


「その人物が使役した式神によって、君たちのチームは敗退したと……」

「その通りです~」

 もう、怒る気も失せたとばかりに、調査委員に背を向けた。

「君が両手切断、コーサス術師が即死。他メンバーも、軽傷だと報告が来ているが」

 調査委員の男も何があったかを推測しているようだ。


 改めて聞くと、情けなくなる位にボロ負けだったのか……



「そうそう、付け加えといてやるよ。俺達が負けたのは14歳位の子供(小僧)だってね」

「えっ……貴方が、子供に負けたんですかっ!?」

 ビックリするのも無理はなかった。


 大人の術師……しかも、本格的な修行をしてきた男5人が1人の少年に負けた。

「それは……貴方達も、相手が子供だって油断していませんでしたか」


 ギルドやアカデミーでも、そんな少年は存在していない。 

「不意打ちをくらったとか、他にも周囲に術師が居たとか……」


 調査委員会の男の言いたいのもわかる。

 最初は少年と油断したか、相手をなめてたかもしれない。


 が、結果はこれだ……

 改めて現実に聞かされると、屈辱と羞恥心で暴れだしそうだ。



「これは、ギルド上層部(ノルド様達)にも報告しなければ……」

 調査委員の男が、慌てるように病室から出ていった。



 アディソンはスマホを取り出すと、ギルドにネットコール(テレビ通信)を送っていた。

<こちら欧州魔術師ギルド、極東方面担当情報調査室です>

「報告した少年に関する情報が欲しい」


<今回の事件は、貴公達の依頼失敗に関する情報のみ公表できます>

 マディソンはイラついた。

 事件の事を知りたいんじゃない。あの小僧の事を知りたいだけだ。


「俺達を負かした、少年に関する情報だ」

<マディソン様、今回の件に関してギルドはこれ以上の行動を慎むことを願います>


 ギルドは、何もするなって言いたいのか!?


<これ以上に関しては、ギルド規則に則る「私利私欲や私怨による私闘、復讐の禁止」条項に反します>

(この堅物どもめが……っ!!)

 マディソンの口調がさらに悪くなっていく。


「うるさい! 俺の希望する情報だけ出せばいいんだ!」

<ギルドへの脅迫は、先程の規則違反と併せて累積され、その結果次第では罰せられる場合がありま>


「俺の要求も出来ないで、何が世界最大のギルドだ! さっさと情報を……よこせっ!!!」

 あまりの怒りと腹立たしさで、スマホを壁に向かって投げた。


 壁に当たったスマホの画面には、更に追加文章がギルドから報告された。



<警告します。貴公達のチームを『禁止事項に係る行動による監視対象団体チーム』として認定されました>


 そして、いよいよスマホが寿命が尽く。

 マディソンが最後の一言を聞く前に画面が真っ暗になってしまった。


 ちっ!

 本部でふんぞり返っていやがる、当てにならない団体だ。

 けど、あれもこれも全て、あの小僧のせいだ……あの小僧が居やがったせいで、俺は大金を受け取り損ねた。

 

「あの小僧には……たっぷりと大人の怖さを教え込んで、なぶり殺しにしてやる……」




 アディソンの病室に、一人の男が入って来た。

「おぉ、マークスか。そっちはどうだ」


 マークスと呼ばれた金髪の男は、腕を回しながら答えた。

「こっちはぁ、軽症ですうんだよぉ~」


 手にもつ資料を握りしめながら吠えた。

「まったくあの小僧ときたら……ぎったぎたに切り刻んでミンチの機械に入れてやりたいくらい~!」


 いつもはチャラい仲間も、今回ばかりは本気で怒っているみたいだ。

「どうだ、何かわかったか……」

 マークスが両手を広げて、ため息をついた。

「ダメダメぇ~。どの組織も、あの子供の情報は全くナッシングだよ~」


「くっ!」

 アディソンは、舌打ちをした。


「しかしね、面白いところから情報をみつけたぁの~」

 マークスは腰に手を当てて、持っていた紙を見ながら報告を続けた。



 今まで、何件もの組織情報を調べてもこの前の男に関する情報も全くなかった。


 つまり、どの組織にも所属していないし、接触もしてないという事なのだ。

 それなら話がわかる。


「あんなデータァを持ってて、どことも接触してないのも変だしぃ……」

 あの男のけがの状態を思い出していた。

「転移魔法を使ったなら、帰る場所があるはず……」  

 

 色々な組織で情報がえれなかったという事は、そこに居ないって事……

 もしかして、『姫の宮』にいるのか?



 姫の宮は、表立って術者の組織を持っていない。

 しかし、それを信じる者は誰も居ない。

 何故なら、多額の支援が異能者に流れているとの話をよく耳にするからだ。


「もしかしたら、以前のあの男ってぇ……姫の宮から資金援助してもらってたのかもぉ」



 そこで、姫の宮グループの本部施設を偵察中と情報収集を行うことにした。


 その最中に、監視中の式神に出会ったらしい。

 どうやら隠れて取材するジャーナリストと間違えたみたいだ。


 その式神が「撮影許可があるか」と尋ねてきた瞬間に催眠攻撃をくらったらしい。

「そぉしてね、。その催眠術をカウンターしてあげたんですよぉ~」

 マークスが笑いながら先を説明した。


「思い切り催眠効果がカウンターして、相手の術師を短時間だけど乗っ取れたわけ」

 アディソンの前に、一人の少年の資料を投げた。

「そしたらヒット! やっぱり知ってたの……あとは学校の資料からだけど、これだけで十分だよねぇい?」




 藤塚終……14歳、横浜市立相馬中学校2年

 姫の宮グループ支援施設「かがやき」入居中




「これで十分だ。よくやった、マークス!」

 久しぶりにアディソンの顔に不気味な笑いが浮かんだ。



「よし、2週間以内に外部から術師を集めろ……大人の怖さを思い知らせてやる」





  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 

「ふぅ……疲れた」



 やはり、いつ思い出しても初めての戦闘は緊張する。



 周りからもいっぱい褒めてくれたけど、何だろうこの気持ち。

 すごく嬉しいんだけど……何かモヤモヤする。



 布団を頭からかぶると、身体を丸めるようにした。



 前の施設に居た時は寂しさのあまり、よく動物を召喚してたっけ。


 終は、一匹の動物を召喚した。



「久しぶりだな、終。元気ないけどどうした?」



 二本足で立ち、駅長の服を着た黒い子猫にしては、さらにサイズが小さかった。

 人の言葉をしゃべる……手のひらサイズの小さな猫だ。



「また寂しがり屋の終になっちゃったのか?」

 猫がクククと笑いながら終の頬に小さな前足が振れた。



「昔からそうだったもんなぁ……あれ()を所有しても、全然変わんないじゃないか」

 前足を頬に当て、反省のポーズをとっている。


「寂しいと泣いて、俺様に縋り付いてきたのってこの前だったし」

 相変わらず口は悪いが、肉球が柔らかい……



「うるさいな……けど、初めて実戦をしたよ」

 終がそう言って、この猫と人差し指でじゃれあってた。



「ほう、どうだった? 怖くて逃げ出したか?」


 ケラケラ笑っている。

 乱暴だけど、この声を聴いていると落ち着くんだよな。

「疲れてるからもう寝ろ。時間まで一緒に居てやるぞ」

 

 ありがとうなぁ……何もかも忘れて寝るとしよう。





 おやすみ……

この作品は、基本的に火曜、金曜にアップしていきます。よろしくお願いします♪


次回は、9月20日0時にアップ予定です。


乞うご期待ください

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