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白と黒の狭間で ~現冥境奇譚~  作者: 白杉裕樹
第一章
14/35

番外編1話 初依頼

 今日は土曜日、学校もなく寮の図書館で本を読んでいた。


 各務さん達も今日は静かだ。

 こんな日は、のんびりするに限る……が、そうもいきそうにない雰囲気が漂っている。



「藤塚君、少しいいかな?」


 ふいに室外から、ローブを着た男(岩倉誠二)に呼ばれた。

「何ですか、岩倉さん」


 岩倉誠二……姫の宮グループの活動の一角で異能者の救済活動を行っているが、異能者を束ねるリーダーでもあった。

 姫の宮グループの裏の実働隊の指揮もしている。



 小さな応接室に通された終は、岩倉が勧めるようにソファに座った。

「藤塚君は、何かお好みの飲み物はあるかね? コーヒーや紅茶、ジュースとか何でもいいぞ」

 相変わらずの豪快さである。

 彼の笑顔を見ていると、何故か自信がつきそうだ。


「じゃぁ、紅茶でお願いいたします」

「遠慮しなくていいからな? ついでに何か軽く食べるか」

 そう言って、岩倉が電話した数分後……



「さぁ、藤塚君。遠慮なくやってくれ」

 両手を広げて、いつもの笑顔で笑っている。



 いれたてのコーヒーに紅茶が入ったソーサー

 ハムや卵、サラダが入ったサンドイッチに葡萄等の果物もあった。


「じゃぁ、遠慮なくいただきます……」

 そう言って、終は居れたての紅茶を一口飲んだ。


「……美味しいですね。これ」

 お世辞でもなく、本当に美味しかった。

 いれた人が相当慣れた人なのだろう。


「だろ? 本当に美味しいから、遠慮するな!」

 ガハハハッと笑うと、コーヒーを飲みながら、サンドイッチを一つ食べていた。

 この岩倉って人、すごい食欲だ。

 もうサンドイッチを3人前を食べている。


「腹が減っては戦は出来んからなぁ……」

 満足したのか、岩倉は最後の一切を口に入れると、満足げにコーヒーをすすっている。


「岩倉さん、自分を呼び留めるなんて、何かあったんですか?」

 終がサンドイッチをひとくち食べる。

 卵とレタスがよく合っている。

「相変わらずだなぁ~。藤塚君は」

 岩倉は頭をかきながら笑っている。


「いやね、藤塚君にお願いがあって来たんだ。今日、これからの予定は?」

「これからは……何もないですね」

 サンドイッチを食べ終わると、予定がない事を答えた。


「それは良かった。実は……」

 急に岩倉の表情が硬くなる。 

 声も少し、小さくなった。周囲に聞かれたくないのだろう……


「藤塚終君、君のその力を貸して欲しい。ダメならダメでいい……君はまだ幼いからね」

 自分に白羽の矢が飛んでくるって……


「よほど、人手不足なんですか?」

 岩倉が苦笑いしながら言った。

「お恥ずかしい話だが、全くその通りだ。ある人物を助け出してもらいたい」



 真剣な眼差しで、終を見ている。

「これはお遊びではないからね。もしかしたら痛い思いをするかもしれない……」

 さらに岩倉は続けた。

「命を落とすかもしれない……とても危険な依頼だからね」

 岩倉がコーヒーを一口飲む。

「勿論、こちらも君のバックアップは全力で行う。これは俺が保証する」


 岩倉の目を見た。


 真剣そのもので、全くの嘘偽りもないまっすぐな目をしている。

 この本気の目を断る理由が見つからなかった。


 こんな自分を信用してくれるのか……少し、終は嬉しい気分にもなっていた。



 今まで、自分を信用してくれる人物はほとんど皆無だった。

 ここまで言われて、断れないし。


「判りました。自分でできる範囲でしか出来ませんが、よろしくお願いします」

 岩倉の表情が、パアァっと明るくなった。


「そうかっ!! やってくれるか!」

 子供みたいに喜び勇んでいる。


「じゃぁ、今日の夕方の6時にここに来てくれ。いいな、夕方6時だぞ?」





 それから数時間後……

 ついに、その時間がやって来た。


 この部屋には岩倉と、何かを探している異能者が2人いる。

「駄目です、まだ彼を見つけることが出来ません……」

 焦る異能者が、川崎を中心に探索している。

「おぉ、よく来てくれた。紹介しよう、彼が藤塚終君だ」

 終が頭を下げる。

「よくいらして下さいました。以前、模擬戦の時にお会いして以来ですね」

 一人の異能者がにこやかに手を差し伸べてきた。


(そうか、模擬戦の時に計測班に居た人か……)


 終の記憶の中で、その人物の顔が一致した。

「よろしくお願いします」


 そう言いながら、現在の状況を聞いた。

 岩倉が険しい顔つきで話始めた。

「とある依頼をした男が、未だに合流地点に現れなくてね……目下、行方不明中だ」

 

 岩倉から写真を受け取った。

「この写真の男性を見つけ出して欲しい」

 短髪で40代、やはり姫の宮グループに所属している異能者だという。

 異能者に次々と指示を出しながら、岩倉が詳細を話し始めた。


「つまりその不明者を探し出せばいいの?」

「そうだ。本来なら失敗するはずがないが……もしかしたら、相手の異能者に追跡を食らってるのかもしれない」

 岩倉の説明を聞きながら、出発の準備をしていた。



 先程からある一点が気になって仕方がなかった。

「うまく説明できないけど……まがまがしい雰囲気を感じる場所があります」

 そこは、異能者達が探索している場所から東へ600m、雑居ビル群がある場所だ。


「岩倉さん、そこから捜索してもいいですか?」

 そう言われた岩倉が、終に向かって終の頭の上に優しく手を置いた。

「藤塚君、無理はしちゃいけないぞ……あくまでも確認だけだからな」

 岩倉が更に言った。

「確認出来たら、すぐに戻って来るんだ。対処はこちらでやる」

 終が頷いた。


「じゃぁ、行ってきます。岩倉さん」

 自分の探査能力をフルに発揮し、雑居ビル群の手前50mの所に転移してみることにした。

 そこしかない……間違ったら、また探せばいい。



“「我が望む場所へ飛べ……空間転移!

(Eitilt go dtí an áit a theastaíonn uait ... metastases spáis)」”



 終が消えた後、岩倉は少し迷っていた。

 

 やはり依頼をしない方が良かったんじゃないか。

 自分が行けば良かったんじゃないか……彼は、まだまだ中学生。



「無事に帰ってきてくれ……」

 岩倉は祈るように、救援隊の編成を急がせた。





 全てが寝静まった街の夜、とある雑居ビルの屋上に転移すると、終は確認のためにこのビルの一番高いところに移動した。

 この周辺に異変を感じだが……周囲は一面の闇。


 終の横には、騎馬に乗った女武者が薙刀を持って出撃の指示を待っていた。

 以前、模擬戦の時に召喚した騎馬武者よりも、より人間に近い雰囲気とオーラを醸し出していた。


「お久しぶりです、主」

 女武者が微笑みながら終わるに向かって言った。

「前回はすまなかったな……中途半端なお前を形成して」


「いえ、気になさらず。我は主の忠実なしもべ……いかようにもお使いください」

 そう言いながら、出撃の時を待った。


 終が手を地面に当てると、魔法を詠唱し始めた。



“魔力感知っ!

(Ciall draíochta !)” 



 今までの暗闇の視界が一転、目の前に戦闘結界の淡い光が周囲を囲んでいる。

「もしかしたら、この戦闘結界の中に……」


 更によく観察してみると……

「いたっ!」


 やはり、周囲を異能者に囲まれている。

 もう一刻の猶予もない。



 まずは、あの男を何とかしなければいけない。

 あのままだと、なぶり殺しにされるのを待つだけだろう。


 終は手を掲げると、魔法を唱え始めた。



“「あの者を、元居た場所へと飛び立て……空間転移

(Eitilt go dtí an t -áit a bhí ann roimhe seo go dtí an t -áit a bhí ann roimhe seo ... Metastases Spáis)」”



 遠距離ではあったが、今回は時間が優先される。

 どうやら、術は成功したようだ。


 男の姿が見えなくなったのと同時に、囲んでいた男たちが騒ぎだしている。

 巴も、これで自由に戦えはずだ。



 

 終が巴に出陣の時を告げる。


「行こうか、巴……」

「御意っ!」



 終と巴が、初めての殺伐とした場所(戦闘空間)へと舞い降りた。

この作品は、基本的に火曜、金曜にアップしていきます。よろしくお願いします♪


次回は、9月16日0時にアップ予定です。


乞うご期待ください

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