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白と黒の狭間で ~現冥境奇譚~  作者: 白杉裕樹
第一章
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第8話 姫の宮(改)

<2学期のテスト、おっつかれ様でしたぁ~!! 無事に終了したし、後は夏休みを待つばかり……!(by鮎美)>




 スマホで音楽を聴いている途中、グループメールからメッセージが届いた。

 そか、この前に各務さんが登録したって言ってたっけ。


 夏休み……って、まだ1か月以上も先の話だぞ?

 そんなことを思っているうちに、新着メールが届いた。


<みんな、今日はフィンランドから来たお兄ちゃんの知り合いが、隣の空き店舗に店を出すって!(by鮎美)>

<へーっ、それは楽しみだねっ!>(byけんじ)

<どんな店だすのかなぁ~!>(byめぐみ)


 次々と送られてくる新着メール。

 最初はうっとおしいと思ってたが、慣れてしまえばあまり気にならなくなる。


<簡単な軽食と喫茶店を兼ねてるって!(by鮎美)>

<おしゃれだといいなぁ~ww(byなほ)>


 会話はまだまだ続く。

 まるで教室で会話しているみたいだ。


<敷居が高そう……(>_<)(byけんじ)>

<大丈夫だと思うぞ~♪ 気にするな!(byしょうま)>

<まだまだ色々と準備が必要みたいだから……オープンしたらみんなで遊びに行こうよっ!(by鮎たん)>



<了解いたしました(by藤塚)>

 メールを見ながら、返事を打ち込む。

 待ってたかのように次々とのメールの着信音がうるさく鳴り続いた。



<<<おっけーっ!!!(by一同)>>>



「ふぅ……」


 スマホをテーブルの上に置くと、終は部屋のベットに寝転がった。

 

 ほぼ毎日と言っていいほどに事務連絡のメールが通知されている。

 学校関係の通達メールに混じって、鮎美のグループメールも通知されるようになった。


 事の始まりは、いつも突然にやって来る。



「藤塚君、グループメール、入ってる?」

 学校連絡でも使用されているグループメールだから、入学時に強制的に加入させられたのを覚えている。

「もちろん、学校で必要だから入れてるけど……」


「なら、今スマホ持ってる? グループリストに登録するから……ちょっと貸してっ!」

 鮎美はそう言うなり、終の胸のポケットからスマホを奪い取った。

「おー、最新型のスマホじゃん!」

「いいなぁ~。私なんか、親からのお下がりしか持てないんだよなぁ」

 泣く仕草をみせる川上稔(みのるくん)。しかし、まだまだ新品に見えるから物持ちは良い方なのだろう。


「はいっ、藤塚君。これで私達のグループに参加出来たから、いつでも参加してきてねっ!」

 呆気に取られてる終に、スマホを返すと早速、メッセージを書き込む鮎美。



<なんと、藤塚君がグループリストに登録されましたっ! みんなも登録よろしくっ!(by鮎美)>



 メールを受け取った面々が、終に対してOKサインを出した。

「よろしくね、藤塚君♪」

 なほちゃんが自分のスマホを見せながら、笑顔を振りまいている。




 学校での出来事を思い出しているうちに、うとうとと眠りに落ちようとしたその時……


 電話の着信を知らせようと、思い切りバイブレーター機能の振動音と音楽が鳴り始めた。

 

 相手は……

 財団事務局の佐々木さんからだった。


「お疲れのところすみません。藤塚終君の番号でよろしいでしょうか」

「はい、藤塚です」

 財団からの連絡は、この佐々木さんが連絡してくれることになっている。


「本日この後、午後3時より姫の宮様が直々に面談を実施されるので、応接室までいらしてください」

 そして、電話を切る瞬間に一言。


「姫の宮様との面談の時には、くれぐれも粗相がないよう気をつけてくださいね」

 そう要件を伝えると、電話が切れた。


 総帥自ら面談か……



 声しか知らない職員だが、いったい何人の職員が居るのだろうか……。

 あまりにも財団関係者が多すぎて、誰か誰だか、いまだに名前も顔も知らない人が居るに違いない。




「姫の宮グループ ~児童養護施設、支援ユニット~」



 姫の宮グループ……

 日本でも有数の児童養護施設を経営しており、他にも、人材派遣や外食産業、不動産産業にも複数の会社を持つグループである。

 大元は寺院であるが、現総帥の代で事業を拡大していった。


 横浜郊外にある本部棟のそばには、終も入居している養護施設「かがやき」があり、このような施設を全国に数か所運営している。

 グループで働いている従業員も千人を超える。


 異能者(魔術の能力を持つ人……ヨーロッパでは魔術師と呼ばれる)に対する社会の受け入れや待遇に関しては、まだまだ日本では他国と比べても劣っている。

 その為に、非合法に手を染める者も増加しており社会問題になるのも時間の問題と言われている。


 姫の宮グループは異能者への就業や居住の斡旋と言った支援も行っているみたいだが、このグループ自体が異能者を集め、非合法の活動を行わせたり、支援をしているとの噂だ。



 本部棟の横にある養護施設「かがやき」は全24部屋、食堂と娯楽施設があり、他の養護施設とは違い、周囲のガードも固く、簡単に撮影や取材も出来ないようになっている。

 この施設の内部を取材したり、内部写真などの資料が流出、公開された事も一度もないのだ。

 唯一、パンフレット等で掲載されている検閲、更正された写真だけが公開されている。


 終も、普段はこの施設内で過ごしている。

 門限もなく外出などは自由だが、行先の提出は必須となっている。


 その為だろうか、高校生の年代の子はアルバイトに行っているのか、施設に居ない場合が多い。



 部屋を出ると、今まで空室だった隣の部屋で賑やかな声が聞こえてくる。


「へぇ、こっちの施設は個室なんやな! 管理人も居ないし住みやすそう!」

 説明をしている職員も苦笑いをしていた。

「あ、あのね妻木君。ここは施設なんだから周囲に迷惑をかけないようにお願い……」


「全く、言ってる傍から動き回るんだからっ」

 説明している途中で部屋から飛び出した男の子(妻木 仁志)に、ため息をついている職員。。

「お隣さん? 俺は妻木……妻木仁志て言うんよ!」


 ショートカットより、坊主に近い髪形で、背は終よりも少し高いくらいみたいだ。

「自分は藤塚終。少し離れている相馬中学校に通っています」

 差し出された手を握ると、僅かに魔力が流れ込んでくる。


(そうか、彼も異能者なんだ……)


「ちなみに15歳で、根岸南中学校に電車で通ってるんよ!」

 元気でよく笑う子だ。

 終からしたら、どうしてここまで笑えるのだろうか……不思議でしかなかった。

「生まれは関西なんだけど、ここだと生活費も学費も全部タダって言われてね」

 あっけらかんと話を進める仁志。

「うちは貧乏だから、父ちゃんや母ちゃんに学費とかで迷惑かけれんからなぁ~。それで、ここの話を受けたんよ」

 腕を組みながら、うんうんと頷いている。


「だから、姫の宮様には感謝しかないでっ!」

 あははと笑う仁志。

 つられて、終も笑う。

「それに、藤塚君も異能者でしょ? ここに居る人はみんな異能者の素質がある子ばかりなんだってね」

 それで家庭が助けられるなら一番だと、仁志が話した。

 彼にとって、異能者としての素質が両親の助けになるのなら本望なのだろう。


「こらこら、そのような話は大声でしないのっ」

 担当者と思われる職員が、仁志の肩を叩いている。

「えーっ、施設内だからいいでしょう?」

 担当者に笑顔を振りまいている。


「ほらほら、部屋の片づけを済ませるっ!」

 苦笑いしながら、職員が部屋を指さしている。


「ところで、藤塚君はこれから用事でも……?」

 そう質問する仁志に対して終がこれからの理事長との面談の事を話した。


「すげぇ……姫の宮様自らの面談なんて羨ましいじゃんっ!」

 興奮したように答えた。

「そうそうお会いできないもんなぁ~」


 その子(仁志)は、どうやら面談は職員が行っているみたいだ。

「俺も姫の宮様とお話がしてみたいもんだよっ!」


 簡単な話だが、嬉しそうに終に手を振っていた。


「また、話が出来たらいいよなっ!」

 そう言いながら、その子は職員と一緒に部屋の片づけを再開している。


「賑やかな子だな……」

 廊下を歩きながら、終はくすくす笑いながらこれからの生活を想像していた。





 廊下の端に、一際大きく豪華なつくりをした両開きの扉があった。

 ここが応接室だ。


 応接室の扉の前に立った。


 ふぅ…っと一呼吸すると、終が扉をノックした。

「藤塚終です。入ります」


この作品は、基本的に火曜、金曜にアップしていきます。よろしくお願いします♪

次回は、9月6日0時にアップ予定です。


乞うご期待ください


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10/27 文字の訂正が行われました。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] それで家庭が助けれるなら→助けられるなら 「ら」が抜けてました~
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