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白と黒の狭間で ~現冥境奇譚~  作者: 白杉裕樹
序章
1/35

いきなりっ!とある男のお葬式!?

見渡す限り人、人……そして、人。



 こんなに大勢の前で、私は司会が出来るのだろうか。

 逃げ出したい気分が半分、もう半分は……



『お父さんの希望としては質素な式を希望してたけど……』



 私が提案した途端に、こんなになっちゃって……


 司会をする羽目になった後悔と失敗しないかと言う不安……

 そして、色んなものがゴチャゴチャになってミキサーにかけられて、悪臭漂い不気味な色をしたミックスジュースを差し出された気持ち。、



 大規模な場での司会が苦手なのに……


 なのに、今回の進行役を私に押し付けたのは、お母さん。


 式が始まる前、お母さんから、

「貴女が周囲の意見に流された結果でしょ? それに……」

 表情は笑っているが、瞳は相変わらずの真剣そのもの。


「いつか……本当に『黒い扉』が現れたときは、貴女が指揮をとるのよ?」


 この言葉の真意を知る為には、もうしばらくの時間が必要なのだろうか……

 今の私には「黒い扉」よりも、あの壇上の方が強敵に見える。



 ハンカチで汗を拭き、メガネの位置をなおす。

 意を決したように、みんなの視線が集まる中、壇上を目指し歩き始めた。


 参列者の中には、欧州を含む各国の魔術師ギルド関係者はもとより、この国の大臣やその経験者、経済界からの参加者の姿もチラホラと見える。

 壇上から見える光景に、さらに不安が増大する。



 柚葉が壇上に立つと同時に、無数のフラッシュが輝く。




 いよいよ始まりだ。




「本日は父の葬儀に、これだけの方々の……」

 深くお辞儀をすると同時に、ピタッと言葉が止まった。


(ひぃ~。カンペがないぃ~!)


 彼女が冷汗をかきながら、必死に次の言葉を思い出そうとしている。

 ポケットの中にも、メモ帳の間にも挟まっていない。


 幸いにも、頭を下げると客席からは壇上から彼女が見えない状態になる。

 お辞儀をしたまま、周囲をキョロキョロと眺めた、


(誰か教えて~っ!? 助けて~っ!)


 悲鳴に近い心の声が響く。


 舞台の裏側では、慌てたスタッフが総出でカンペを作っている。

 それを横目で見た柚葉は、感謝で苦笑いをするしかない。


<皆様のご参列に、父も大変、喜んでいると思います>


 ボードを、スタッフの一人が持ち上げた。


 そして、タイミングよくボード(カンペ)をめくっていく。

 助け船が来たとばかりに頭を上げ、マイクを持ち直して進行を続けた。

「皆様のご参列に、おとう……父も大変、喜んでいると思います」

 さらにチラリと横を見る。


 スタッフの一人が、腕時計を指さしていた。

「では、お時間になりましたので……」

 もう、汗でびっしょりだ。

 早くシャワーを浴びて、湯船にゆっくりとつかりたい気分……ふぅ。



「に、日本魔術師ギルド代表であり」

 あ、嚙んじゃった。

「父“藤塚終”の葬儀を始めたいと思います」


 ふぅ、何とか挨拶が無事に終わった。

 後は隅の方からの司会だから、台本を見ながらでも問題ないわね♪



「なお、喪主の藤塚鮎美は、体調不良の為に式は欠席いたします。母の替わりに式の進行を私、藤塚柚葉が務めさせていただきます」


 キッと、無意識的にモニターを睨みつけた。





(あら私、柚葉ちゃんに睨まれたのかしら?)


 モニター越しの柚葉の表情には、どこか緊張感と悲壮感が漂っている。

 笑顔が引きつっているし……

 モニター越しから伝わる殺気をさらりとかわすと、美味しそうな湯気をたてているお茶をすすった。


 あぁ、やはりこのお茶は美味しい。

 式が終わったら、みんなに出しましょう。


「天照さん、柚葉ちゃん、頑張ってね~♪」


 モニター画面に向かって小さな旗を振っているのは、長髪の白い髪が美しい初老の女性。

 勝者の余裕を醸し出しながら、少女みたいな表情でほほ笑えんでいる。


 本来なら、妻である私がやるべきなんだけど……

 まぁ、『じゃんけん』に負けた方が悪いわよね。


 私は、体調が悪いと言って、ここモニタールームで観戦している。

 慣れない司会を、柚葉ちゃんも頑張ってるし……


 うんっ、私も全力で応援しよう!


 モニター画面も、異常なし。

「鮎美、お茶菓子を置いておくぞ?」

「いつもありがとう、貴方」

 テーブルの上においてくれたお茶菓子がおいしそう。


老維新(ろういしん)のパンダまん』と『聚楽(じゅらく)馬拉糕(マーライコ)


 さすが私の旦那様。

 ナイスチョイス!!


 これで、お茶とお茶菓子のスタンバイもOK!!



 モニターには、あいさつ後に続く、故人の思い出が映し出されていた。

 どの話も、私にとっては懐かしい思い出……


 あっ、お兄ちゃん(各務玄草)だ!


 何だか懐かしい気持ち……





 最初こそ、年相応の姿でと思ったが

「やめやめっ!!」

 やはり、この姿が落ち着く。

 黒で統一されたロリータ服を着て、鏡の前でくるっと回って見せる。


 誰から見ても15歳くらいにしか見えない少女……


 玄さんと出会った時と、何も変わらない。

 しかしその結果が……


 受付で止められる天照。

「あら、お嬢ちゃん。迷子かしら?」

 受付にいた受付嬢……意外と力が強く、私を見つけると、手招きというよりも、強引に受付案内所まで連れていかれた。

「今、館内放送でご両親を呼んであげますからね~♪」

「あ、あの……本当に大丈夫ですから」

 私が拒否をしても、聞く耳持たずでマイクのスイッチを入れている。



 このアマァ……迷子の連絡したくて、無視してんじゃねぇだろうなぁ……

 マジでしばいたろうか……このブサ猫っ!!



「迷子のまいごの子猫ちゃ……失礼いたしました。迷子のお子様のお知らせをいたします」

 自分に向けられた視線など気にせずに、イキイキとした表情でアナウンスを始めた。


「全身黒のロリータ服を着た『背がひくぅぅぅい』14~15歳の女の子が、館内入口の受付でご両親かご親族の方を探しております」

 参列者の子供か孫と間違われ、迷子のお知らせを館内全体に放送されてしまった。

 しかも、妙に背が低いことを強調してやがる。


「鮎美ちゃん、聞いて笑ってるなこれは…」

 暫くすると携帯電話で連絡がきたのか、会場内まで案内された。

 ムスッとした表情をしながら、壇上に飾られた花飾りを見ている。


 そういえば、携帯の向こうで大笑いしている声が聞こえたっけ……




「あぁ…玄さん」



 アヒル口をしながら、天井を見上げると、今でも鮮明に若かりし頃の玄草が蘇る。

「居なくなってから、随分と時間が過ぎたというのに」

 ふと見ると、柚葉ちゃんがモニターとにらめっこをしながら、式の準備をしている。

「まだ転生した様子もないし……」



 しかし、終君もよくこんな事できるわよね。

 私には無理無理無理。

 店を開けるために、ちゃんと戸籍もあるけど……


 ふと、良からぬ思考が、天照の脳裏に浮かぶ。



 こんな葬儀(ちゃばんげき)、ぶち壊しちゃおうかしら……




 彼女の中に悪戯心が芽生えた時、小悪魔の微笑みを浮かべていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんちは、はじめまして。 白猫さんの所から来ました。自分も書き物をしてるので読む方はゆっくりとなりますけど楽しませて頂きます。 ところで「藤塚終」名前は何と読んだらいいのでしょうか?
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