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恋が実りますように

作者: 冬本桜

騒がしい街中、灰色の雲からぱらぱらと落ちてくる雨、ところどころに見えるビニ傘。


スーパーで折り畳み傘とタバコを買い、少し涼しかった店内から蒸し暑い外へ足を踏み出す。

傘をさし、そばにあった電柱の影でタバコを吸った。

ポケットからスマホを出し、起動させる。

最後に鳴った通知の音からまだ5分前しかたっていないと知り、自分が思っているより緊張していると知って驚く。


『じゃあ言ってくるわ 告白の結果、教えてやるよ』

『あざーす 良くても悪くても褒めてやんよ』

『草』


通知音の音量をまた確認してしまう。もうすでに3回目くらいだ。何をしてても聞こえるほど大きい音になっていて、自分に呆れる。


特に何もすることがなくなって、とりあえずタバコを吸う。

自分の口から出る煙は数秒間ぼんやりと残り、やがて消えた。

雨が少し強まってくる。コンクリートに打ち付ける水の音がやけに大きく聞こえてきた。

横を向くと車道があり、ちょうど車が走っていった。車のライトに照らされた道に降り注ぐ雨の量を見て、思っているより降ってるんだなぁと思う。

そしてまたタバコを吸う。


ぴろりん


突然聞こえてきたその音に、一瞬びくっとなってしまった。

ズボンのポケットから急いでスマホを取り出し、ロックを解除する。

時間を見ると、最後の会話から15分たっていた。つまりさっきスマホを見た時から10分たったのか。はやいようで遅いような時間の流れにイラっとする。


『言ってきた』


画面の上に指を滑らせる。


『へぇ どうだった?』

『どうだったと思う?』

『それ…なんて言って欲しいわけ?』

『たしかにな』

『んーまぁそうだな』

『フラれた』


…なんなんだこいつ、自分で聞いといて答えは遮るのかよ。

呆れながらも、きっとどうやってどのタイミングで言ったら良いのかわからなかったんだろうなとも思った。

そして、自分に嫌気がさす。

心のどこかで、この展開を望んでいる自分がいた。


『なんなんだよお前 乙』

『あぁ、青春の幕があっけなく閉じる_____』


思わず苦笑する。


『なんて言われたのさ』

『「ごめん、好きな人いるから…友達でいたい。ありがとう」的なこと』

『あぁ定番…でもまぁ良い人じゃん』

『それな』

『告白後の感想は?』

『なんか思ったより大丈夫かも 多分こうなるって知ってたからかな』

『あーね まぁたしかに期待していくよりかはましなんかな』

『思った』


なんとなく会話が終わったかなと思い、スマホをポケットの中にしまう。

画面の向こうのあいつは、今どんな顔をしてこの文を打ってるんだろう。

想像できなかった。きっと、見たことない表情だ。

どんな顔をして、告白したんだろう。

これも、想像できなかった。

きっと、いや絶対、一生見れない表情なんだろう。


ぴろりん


まだ何か言いたいことでもあったのか?不思議に思いながらスマホを起動させる。


『なんか…さっき思ったより大丈夫っつったけど』

『言ってたな』

『なんつーか大丈夫なんだけどすごい、大丈夫じゃないかもしれない』

『は?』

『よくわかんない』

『こっちのセリフなんだけど』

『思ったよりちゃんと好きだったわ。あいつ』


文字を打っていた指を止める。

そんなん、なんて返せば良いんだよ。

不意に泣きそうになる。この感情が自分に向けられることはないと、知っている。


『へぇ』

『もうちょい興味持てよ』


何言ってんだ、何にも知らないくせに。

興味しかねぇよ。


『なんて言って欲しいんだよお前めんどくさいな』

『今度カラオケにでも一緒に行って欲しい』

『しゃーないなぁ』


意外と落ち込んでるらしかった。スマホをポケットに入れる。

上を向くが、目から溢れ出そうな水を止められそうになく、下を向きながらさしていた折り畳み傘を丁寧にしまう。

タバコを口にくわえ、ライターで火をつけようとするが、しけってしまっているらしくなかなかつかない。カチッカチッ、という音がやけに響く。

これはもうつかないなと思い、諦めて火が付いてないタバコをくわえたまま、また上を向く。反動で、目から水滴が飛び出した。

さっきより強くなった雨が額を打ち付ける。

周りには変人だと思われてるんだろうな、と苦笑する。


無性に、叫びたいと思った。

ああ、どうか、どうか_________


どうか?

あいつのいつか始まる新しい恋が実りますように?

それとも…自分の恋が?


もう、何を願いたかったのかすら、わからなくなっていた。


顔を流れる沢山の水滴の中、目から出てきた水滴が、新たに頬を伝っていった。

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