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これは“世界”を救う物語。  作者: 高平めめこ
初代クローディアの偉業
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0-4-1 降り立つ

 世界の門を開けた“ⅱ”はとある世界の上空に居た。

 東と西の大陸に分断された原始的な生活を行う弱い惑星。『魔術』はとある一族――亜人に分類されるエルフ秘伝の技らしく普及はしていない。勿論科学なんてモノは発展しておらず、剣と槍などが人の主力となり、領土を取っては奪われを繰り返す愚かな世界。


 精神体となった“ⅱ”の瞳は、それでも遍く全てを見通す。ただ一人の未来を除いて、この世界のみならず全ての世界を分け隔てなく見通す。

 今の不安定な状態であっても、ある人物の未来以外は全て“ⅱ”の思うがままに書き換える事は容易であり、ソレをする事に“ⅱ”は戸惑いはない。何故なら彼は永き時を生きた“完成した存在”だから。ある意味で全知全能な彼は人の都合を考えたりはしない。

 その全ては“世界”の為に。例えその結果一つの世界が滅ぼうと、“ⅱ”は“世界”の為に動く。何度も繰り返した結果、この世界のとある人間がその礎として最も適しているというのは、“ⅱ”が緻密な計算を繰り返して導き出した答え。


 “ⅱ”の眼下では今も争いが行われている。


 今の時代ではない。

 “ⅱ”の欲する人間は今から約二万五千年後に生まれる事になる。なら何故今“ⅱ”が顕れたのか。

 それはこの世界を起点として“魔法”を使うには些か魔力が足りないから。人間達は日々の生活で魔力を無意識に魔力を垂れ流しているが、それでは魔力の気が足りない。魔力に染まった世界でなくては世界の置換は出来ない。

 勿論強引に行う事も出来るが、その際“世界”がどうなるのか分からないから“ⅱ”は強引な方法は避けている。“完成した存在”の行動は不可逆。故に“ⅱ”は仕込みを欠かさない。


「そうだな……二人、いや三人と言ったところか」


 “ⅱ”が己の中に眠る大量の“白痴”を取り出して三人の人型を形成していく。一人は黒い外套に身を包んだ青年、一人は純白髪の巨躯、一人は猫耳の生えた黒に近い藍色の髪をした中性的な少女。


「それぞれに魂を与え、後は――こいつだけは縛りを付けて好きにやらせればいいか。猫には私に対する敵愾心を植え付けておこう。きっとあの子の役に立つ」


 巨躯と猫の身体を押して適当な位置に飛ばす。

 なるべく人気のない所に飛ばしたから目覚める頃には偽物の記憶が支配しているだろうと“ⅱ”は笑う。


「残ったお前には、ダンジョンで生きてもらおう。どのダンジョンにも偏在的に存在するよう“魔法”をかけた。これで条件を満たした者がくれば自動的にお前の出番になる。よろしく頼むよ、“魔法”使い」


 そういって森のある方向へ押し出す。


「おっと、忘れていた。“緩やかな魔への歩み”」


 長い時間を掛けて魔に傾くように仕向けられた“魔法”。

 “ⅱ”の計画では使わなくともどうにかなるが、やっておくのとしないのとではかなり変わってくる。何らかの異物によって科学の発展した電気に溢れる世界で“魔法”を扱うのは改変作業がかなり面倒である為に行う“ⅱ”の楽する為の措置。


 これらは遥か上空で行われた事だから誰も見ていた者はいない。“ⅱ”の優れた視力で眼下を見ると未だ人類種は争っている。余程土地が欲しいらしい。様々な人類種がいるが、片方は純粋な人間、もう片方は亜人類とも呼べる純人間ではない存在。

 多くの屍が出来ており、“ⅱ”はゆっくりと降りていく。“隠匿”という“魔法”を使って姿を隠して一つの死体に近寄る。周辺には魂が浮いており、“ⅱ”はソレを取り込む。


 そして、一人の人類種に“ⅱ”が入り込む。

 灰色がかった髪は漆黒に染まり、生気の無かった乾いた瞳は黒色から碧眼となり、刺され斬られた傷は既に塞がり、“ⅱ”は立ち上がる。

 急速に痩せていき、髪も伸びたその姿は、その辺の死体だったにも関わらず、まるで“ⅱ”の“絶望”を模したかの様な姿となる。顔の造形も変わっており、違いは牙があるかないか程度に収まる。


「“私は輪廻の蛇”」


 その言葉で全員が“ⅱ”の方向を見る。

 死体からは少し離れた位置が最前線となっており、死体だと思っていたモノが動いた事に全員が驚くと同時に、死の気配を察知する。

 野生の如き生き方をするから感じ取れた濃密な死の気配は、ゆっくりと歩み寄る。屍の山を踏み躙り、“ⅱ”は魔力を撒き散らしながら戦線へと近寄る。


「“見果てぬ夢に己を殺し”」


 そして全員がアレは異物だと認識する。

 生きていてはいけない存在だと本能で悟り、誰も動けない中勇敢な亜人の一人がかつて仲間であった筈の動く死体に斬り掛かった時。

 全員がその動きが緩慢であると感じた時、揃った牙が覗く口は開かれ、最後の言葉を発せられる。


「“世界を正す”」


 その瞬間その場に居た全てが目に見えない力――魔力の渦に飲み込まれ、濁流に耐え切れなかった生命体の悉くがしめつしていく。その肉体さえも魔力に変換され分解し、その場には何も残されない広場が出来上がる。

 血に塗れた地面も綺麗なモノとなり、一つの戦争は終結した。その結果は誰も見ておらず、戦地から一時離脱していた兵士が戻ってくると何もない事に驚き、直様国へと報告に戻って行った。


「さて、エルフを見つけよう。この近くにそろそろハイエルフが生まれる集落が有った筈だ」


 “ⅱ”はこの世界で魔力を浸透させるべく、エルフの神秘を暴く。その結果この世界がどうなろうと構わない。試行回数に拠ればこの方法が手っ取り早く、最も成功に近い結果を得られている。ならば、そうしない手はない。


 “ⅱ”はそのまま浮遊し、近くの森の中に入る。

 『魔術』の気配がする素晴らしい森だと内心で嗤い、その結界を解いていく。


 “ⅱ”は“魔法”の知識こそあれど、『魔術』の知識は無い。

 そもそも“完成”した技術を扱えるのだから未完成のモノに興味が無い。しかし“ⅱ”はこの世界と呼ばれる全てに魔力の概念を齎した存在てある。見てしまえば、どういう流れで、どういう技なのかは解ってしまう。


 人避けの魔術が張られた森を進み、武装したエルフの男性が“ⅱ”の前に立ちはだかる。


「何者だ!」

「……クローディア、と名乗っておこう」

「此処より先は神聖なる土地。邪な存在を入れさせる訳には――」

「うるさい」


 “ⅱ”が指を横に動かすと、それだけで武装したエルフの首が切断される。頭部は勢いよく飛んでいき、身体からは夥しい量の血が噴出する。浮遊する魂を取り込んだ“ⅱ”はその一部を身体に流し込む。

 “ⅱ”は首を拾って身体に“接着”させると“魔力糸”で身体を操り人形の様にして男を前に立たせる。


「ようコソ」

「ま、こんなもんだろう」


 そのまま死体に案内させ“ⅱ”はエルフの里に辿り着く。

 自然のあるがままを受け入れる彼等は家というモノを持たずに暮らしているのか全員が局部を隠すのみの原始的な姿をしている。奥には木で組まれた家らしきモノがあり、其処の前には武装したエルフが二人立っている。

 魔力の流れからしてこの村で最も強いのだろうと“ⅱ”は思う。そして、其処に居るであろう今後の弟子に会おうと動こうとした時、一人の村人が寄ってくる。


「ザルバ! その人は……?」

「問題ナイ」

「顔色が悪いな、後は俺にまかせてくれ。お前は……あっちで休んでろ」

「分かっタ」


 用は済んだ。故に“ⅱ”はザルバと呼ばれた存在の魔力糸を切って、その場に放置する。勿論自然に眠ったと思われる体勢を取ってから。


「ザルバが人を通すなんて珍しいな。あんた名前は?」

「クローディアだ」

「そうか、俺はアルル。クローディア、今は王妃様の出産でいそがしくてな。もてなしてやりたい所だが、それが終わってからだ。すまないね」

「構わないとも」


 “ⅱ”はその場に幻影を残してアルルに従う様に行動させ、姿を隠したまま二人の武装したエルフの前に立つ。そして、“隠匿”を解除して虚を突いた隙に二人の首を刎ねる。今度は首が飛ばない様にして同時に接着させ、魂だけ回収して殺す。


「トオレ」

「許ソウ」


 死体となり“ⅱ”の“魔力糸”で操られる二人は道を譲り、木の建物へと入っていく。


「だ、誰だ!」

「此処は神聖なる建屋。何人も入れるなと命じていた筈……」

「王妃を守れ!」


 その瞬間、全員の首が分たれる。

 ベッドに横になる腹を膨らませた女性はその光景に恐怖し、エルフに伝わる魔術――神秘を発動しようとするも、“ⅱ”がそれを相殺させる。


「母体は要らない」


 エルフの王妃の魂を抜き取り、腹を開く。


「……初めまして、になるな。二代目」


 臍の緒を取り払って赤子を“魔法”で強制的に改造していく。ハイエルフに分類される千年に一人と言われる希少なエルフの赤子に手を加え、魔力の増大、属性、出力向上、射程延長などを本来の“魔法”の出力ではないから魂を見て体術の才能を犠牲にして様々な改造を施す。赤子の内が最も伸びやすいソレらは“ⅱ”好みのモノへと変化していく。

 “ⅱ”は生まれたての子供に対する優しさ等は持っていないが、子育ての経験ならある。勿論“ⅱ”なりの方法で、かなり雑なモノだが。


「人類種は面倒な方向に進化したな。まあ、私達がそうさせたに過ぎないが。卵生の方が楽だろうに」


 小学生くらいにまで強制的に成長させ、その頭を掴む。


「あーー」

「少し、黙れ」


 脳に直接知識を叩き込み知恵熱を起こさせ無理矢理鎮圧する。その際自身が親ではなく先生であるという知識も捩じ込む。子供のあやし方はコレに限ると頷く“ⅱ”は“魔法”で無理矢理知恵熱も取り除く。眠気に逆らえない生後間もない存在はすやすやと寝ている。


 今の“ⅱ”は“完成した存在”ではなく、本来の“魔法”を発揮できるパフォーマンスはない。この死体が本来生きたであろう魂を直接利用して使っているに過ぎず、その出力は本来の百分の一にも満たない。“魔法”は“ⅱ”にのみ許された技故に。


 子供が目を覚ます。白髪翠眼、死体に入る前の“ⅱ”と瞳の色が違うだけで多少似ているが、“ⅱ”の輝く純白髪とはいかず髪の毛は輝いてはいない。

 “ⅱ”はその姿を見てかつて愛した神との間にもうけた我が子の事を思い出し、思わず頭を撫でる。


「先生、私の、名前は……」

「お前の名は後で決める。お前が成年となる百年しか私は存在できない。故に、この百年を有意義に使って貰う」

「……分かりました」


 物分かりの良い存在は好ましいと“ⅱ”は軽く頭を撫でてやると、一つの命令を下す。


「先ずはこの集落を滅ぼしてみせろ。お前になら、それだけの力がある筈だ」


 その日、人知れず一つの集落が姿を消した。

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