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これは“世界”を救う物語。  作者: 高平めめこ
召喚された十三人の勇者
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0-3-28 終幕

 昨日会議した部屋にメイさんに案内され中に入ると、わたしが最後だったのかクローディアさんが此方を視認すると話を始める。


「既に通達されていると思いますが、勇者四人が殺されました。エレボスに向かう途中のヘレナの森の中で殺された事から、紋土さんの言う通り下から順にという訳ではなさそうですね。そうと決まった訳ではありませんが、黒の魔人と見て良いでしょう」

「なら次はどうする? 須藤達が死んだってんなら次は俺達が行った方が良さそうだな。四季のチームは近距離をどうにか出来る奴が少ねぇ。行方は風邪だから置いてくか」

「戦力の逐次投入は避けたいのですが、七騎士が生き残っているなら可能性はあります。至急向かって下さい」


 クローディアさんも考えていなかった事態なのか頭を抱えて悩んでいる。七騎士が無事なのは良いけれど、何故勇者だけが殺されたのか。夜間の寝込みを襲った? 考えられない。黒騎士さんは確かに寝てるそうだけど、三人が一斉に眠るタイミングがあるとは思えない。

 何か仕掛けがありそうですね。


「安易に行くのは不味いのでは? 七騎士三人の目を掻い潜って須藤くん達が殺されるなんて、あり得ません。何かタネがあるはずです」


 一応発言して何かありそうだと伝える。


「そのタネを明かす為に俺らが行くって言ってんだ。基本的に七騎士から離れない様に気をつける。それで良いだろ」

「細心の注意を払って下さい。私にも予測の付かない事態になって来ましたから。せめて死体があれば助かるのですが、何も無いそうなので」

「気をつけるよ。行くぞ」


 そう言って行方くん不在のまま三人は出て行ってしまいました。

 クラスメイトが死んだというのに、私は除くとして何故みんなはこんなにも平然としていられるのでしょうか。確かに毎日は色濃く、私達は日を追う毎に強くなっていますが、まだこの世界に来てから半年も経っていません。むしろ四半期すら経っていません。


「クローディアさん、私達も――」

「駄目です。私達は動けません」

「そんな! どうしてですか!」

「七騎士が相手にしている現状、私は動けません。そして現在七騎士に次ぐ戦力の勇者が補填されました。黒の魔人が何らかの手段でこの国を落とす可能性を考慮して、戦力の集中は避けたいのです。私達の不在を狙われると、私達は恐らく死ぬ可能性すらあります。攻撃を続けて圧力をかけなくてはならないのです。そうしなくては、初代クローディアの“魔法”が使われるかもしれませんので……」


 何か訳があるみたいだけど、初代クローディアが何故ここで出てくるのか分からない。二万五千年も前の存在が、ウィルスとは違い死んだとされる存在が今更何かを出来るとは思えない。


「クローディアさんはこの国を――というか戦力の分散を避けたいんだね」

「そうです。本来なら全員で叩きたいところですけどね」


 今、七騎士は生き残っている。

 だけど今回も生き残る保証はない。“死神”として知れた情報では今の七騎士三人は同時に死ぬ。今ではもう誰がいつ死ぬのか分からないけれど、この知識は間違っていないと思う。


 なら私に出来る事はクローディアさんに従って黒の魔人を倒すこと。七騎士三人から正式に救援要請が来たら、クローディアさんはアルマさんと共にその場に飛んでいく。勿論私達も連れて。


「みなさん、決戦の時は近いです。気を引き締めて下さい」


 その時、クローディアさんの懐から一枚の紙が飛び出す。

 それは七騎士からの応援要請。

 これが意味するのは本格的な戦闘の始まりであり、黒の魔人が姿を現した事を意味する。


「私は預言者ではないのですが……これは、不味いですね。アルマ様を呼んで来ます。みなさんは此処に居て下さい」


 クローディアさんが転移魔術で飛んでいくと、直ぐにアルマさんを連れてこの部屋に戻ってくる。転移魔術は便利だなぁと感心していると、全員が円を描く様に手を繋いで転移魔術が発動される。


 飛んだ先には、胸を黒い刃で貫かれる七騎士三人の姿があった。応援の要請を受けて間もないというのに、三人が死んでいる。紋土くん達は今出た所だから、此処に居ないのは頷ける。辺りを見る限り、ここは何処かの国だろうか。

 避難は完了しているのか人の気配はない。


「流石に七騎士三人は面倒だった……」


 捻じ曲がった角、漆黒の翼と尻尾、人類種のどれにも該当しない異様な姿は魔人と呼ぶに相応しい見た目をしている。


「次の相手は私達ですよ」

「戦力の逐次投入……愚かとしか言いようがない、だそうだ」

「そうですか」


 クローディアさんが魔力を展開して、無数の魔術を放つ。私のチームも魔術を放っており、黒の魔人に視界を埋め尽くす魔術が飛来する。

 煙の晴れた其処に黒の魔人は居らず、クローディアさんは直ぐに魔術による探索を行うも、背後から凄まじく、しかし静かな殺気を感じた私はデスサイズでその一撃を防ぐ。


「防がれるとは……“死神”? 怖い名前だな」


 そう言う黒の魔人目掛けてアルマさんが斬りかかる。


「カルマ! どうしてこんな事をするんだ!」

「アルマァ……お前には分からないだろうな。寵愛を一心に受けた、愛された英雄には分からないだろうさ」


 その時殺気とは違う何かを私達は肌で感じました。

 だから私は離れ、クローディアさんとアルマさんが黒の魔人の近くに居る状況を作ってしまいました。


「神域展開」


 クローディアさんとカルマさんが包み込まれる。私も遅れて発動しようとしたが、向こうが完成させてしまい、手遅れとなる。


 黒い球――神域はデスサイズでもどうにもならない。

 恐らく“完成”している。こうなっては私達は見守るしかない。せめて二人とも無事であって欲しいけれど、黒の魔人がどんな神域なのか分からない以上、運に頼るしかない。


「ふゆみん、クローディアさん達、勝てるかな……」

「アルマさんもいるから大丈夫だと思います。二人を信じましょう」


 黒の魔人による神域が作られてから私達はいつ出てくるのかうかがいながら待機した。もしクローディアさんとアルマさんが殺されているなら、私の神域で黒の魔人を狩る。


 待つ。

 待つという事は、少なくとも私の様な初見殺しではないと分かる。もし二人が負けた時の事を考えて私が前に立ってデスサイズを構える。


 どれだけ待ったか分からないが、神域に亀裂が奔る。


 神域が割れた中から見えた景色は、アルマさんが黒の魔人の首を刎ねた姿が写っていた。


 黒の魔人が倒された。

 アルマさんとクローディアさんが成し遂げた。

 これで、私達の戦いも終わった。そう思った時、黒の魔人の血が文字を描く様に流れる。


「――ッ!」


 クローディアさんが魔術を放つも、其処には結界があるのか弾かれる。


『漸くだ……』


 聞き覚えのある声が辺りに木霊する。どこから発せられているのかは分からないけれど、その声は確かに私達の耳に届いている。

 いつも私を優しく包み込んでくれた彼の声。

 だけど、どこか機械的で、かつて見せていた優しさは欠片も感じられない。


『漸く、世界を正せる』


 黒の魔人の肉体が溶けていくと、その場所はいきなり空間が変わったのか、砂の地面と石の椅子が置かれている。石の椅子にはミイラみたいな何かが置かれており、溶けた黒の魔人の肉体が足から伝う様にその肉体を満たしていく。

 萎んだ風船が再び膨らむ様にしてその存在は肉付きが良くなる。目は閉じられているが、例え純白の毛髪となってもあの顔は見忘れる訳がない。


 突如現れたその肉体の背後に抱き込む様にして立っているのは、淡く蒼に輝く、その肉体と同じ顔をした人物。


『“肉体への帰還”』


 スルリと蒼の存在がその肉体へと入ると、石の椅子が崩れる。そして、地面の砂は彼を捕らえようと足元から侵食していくけれど、一息吹き付けるだけで全てが消えていく。


「古い封印術だ」


 開かれた瞳は碧眼。

 純白の長髪をはためかせる姿は優雅であり、完成した美しさが其処にはあった。そして、そんな彼は、夜黒くんにそっくりだった。


「貴方は――」

「初代クローディアと名乗った方が、この世界では有名かな?」

「黒髪碧眼だと聞いていますがね」

「仕方ない事だ。その姿こそが私の本来の姿なのだから」


 そう言うと初代クローディアと名乗った存在は私達四人を見ると、手を伸ばす。


「“断界”」


 青紫の巨大な壁が現れ、クローディアさんとアルマさん、私、チームだった三人に分たれる。薄く透き通ったこの壁は向こうの様子が見え、クローディアさんが何かを喋っているみたいだけど、全く聞こえない。

 壁との間に一箇所だけ丸く空いた空間があり、その真ん中に明後日の方向を見る初代クローディアが座っている。何をする気なのでしょうか。


 秋音ちゃん、真紀ちゃん、濃松さんの三人は彼岸花が狂い咲く空間となっている。最後まで見ていたいけれど、此方も何か変化があるかもしれないから気は抜けない。


 いつ何が起きても良い様にデスサイズを構えていた私は、背後に気配を感じてそのまま斬りかかろうとしましたが、その存在の首を刎ねる前にその刃を止める。


「やぁ、冬美」


 其処には、夜黒くんがいた。

 初代クローディアの変装なんかではない。“死神”としての私が目の前の存在は夜黒くんであると知らせてくる。


「魂を返して貰ったんだ。だけど、条件があってね」

「なに!? なんでも、なんでも言って!」

「……それは、言えない。戦いながら探ってくれ」


 そう言うと夜黒くんは魔力を展開して此方に基礎魔術を放ってくる。殺す気はないのか殺意は感じられない。私を殺す事を第一に動いていれば、多少なりとも殺意は乗る。

 夜黒くんの魂を解放する方法を戦いながら探る。

 こういうのは、夜黒くんの得意分野。私には向いてない。酷すぎる。折角会えて、魂も輪廻に返せると思ったのに、こんな仕打ち。夜黒くんの事をデスサイズの持ち手で遠くに投げて壁を斬りつけるが、弾かれる。


『真の“魔法”は斬る事すら叶わない。君はそこで戦っているといい』


 夜黒くんと同じ声で、そんな事を言うのか。


「あれは“完成した存在”……冬美も成ったなら解ると思うが、アレは本当に埒外の化物だ」

「夜黒くんは、私がそう成ったって分かるの?」

「中で見てたからな。あいつの中には無限の世界が広がってる。そんな存在、たかが“死神”じゃあ殺せない。だから、俺が出てきた」


 だから……? つまり夜黒くんの今の立ち位置は初代クローディア寄りなのだろうか。あの存在に私をどうにかする様に命じられているのだろうか。


 それは、少し、悲しい。


 だったらデスサイズで一思いに斬り殺してあげるのが夜黒くんの為になるのだろう。それなら私は、愛しい人をこの手で殺す事も――


『因みに夜黒の魂の大元は未だ私の中だ。デスサイズで殺したら輪廻にすら組み込まず消し去ってみせよう』

「冬美、戦うしかないんだよ」

「くっ――」


 夜黒くんから放たれる無数の魔術。その全ては基礎魔術でしかないが、無限に放たれるソレは下手な応用を効かせた魔術よりも厄介でしかない。“断界”とは違って夜黒くんの魔術は斬る事が出来る。このまま捌いていけば、いずれ答えは出るのかもしれない。

 だけど夜黒くんは手を抜けないのか攻め方は本気だ。七騎士よりも強いと思わされる猛攻は、殺さないで相手にするにはかなり厳しい。デスサイズを振り抜いた直後の僅かな隙を見つけた夜黒くんはそのまま私を射抜こうとする。


「『太い魔力の矢』」


 避けられない。

 斬ろうにも、デスサイズは振り抜いている。

 受けるしかない。


「ぐぅうう」


 “死神”の衣は『復讐者』の衣服よりも頑丈だ。だから貫かれるなんて事はないけれど、好きな人からの攻撃は、肉体よりも精神に来る。私を押していた魔術が霧散した今は解放されるも、夜黒くんはいつの間にか移動していたのか私の事を『魔力砲』で圧してくる。


 強い。


 “完成した存在”になった私をこんなに圧倒出来るなんて、夜黒くんはやっぱり強い人だ。デスサイズで殺してあげられないという縛りはあるけれど、それを抜きにしても強い。

 本当なら黒の魔人を倒せたのではないだろうか。アレは相対してみて分かった事だけど、“完成した存在”をどうにか出来る程ではなかった。流石に戦闘に慣れていない私よりも弱いとは評価出来ないけれど、開戦があと一年遅かったら私でも良い戦いが出来たかもしれない。


「強いね、夜黒くん」

「お前の方が強いだろうに。デスサイズで殺さない様にすれば良いだけで、斬っちゃいけないなんて事は言われてないだろう? 使えばいい」


 それは、出来ない。

 夜黒くんを解放するのに痛い思いはさせたくない。だけど、もし夜黒くんを解放するのにデスサイズの刃が必要なのであれば、迷いなく振るう。


 どうすれば――そんな考えばかりが浮かんで、戦闘は終始夜黒くんが此方に魔術を放つ形となる。私も被害は抑えているけれど、完璧な隙を突かれた攻撃は受けるしかない。


「夜黒くん……」


 魔術が吹き荒ぶ中私は呟く。

 もしこれが“魔法”だったら、私は死んでいる。夜黒くんは“魔法”を使えるらしいけれど、使って来ないのはなんでだろう。魂を握られていると使えないのかな。


 夜黒くん。

 私の愛しい人。大好きな人。偶に私を困らせては面白そうに笑う実は楽しい人。揶揄うのが好きで、驚かすのが好きで、懐に入れた人にはとびきり優しくなる人。


 素敵な人。


 私は思う。

 “夜黒くんになら殺されてもいい”。


 ――ありがとう、冬美。


 そこで私の意識は、無限の魔術に包まれて消え失せた。

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