0-3-27 会議と会話と
転移魔術で王城へと飛ぶと、魔術協会の人が王城の一室を漫画とかに出てきそうな作戦会議室みたいに様々な紙を貼ったり広げたりして部屋を作っていました。
中には既に他の勇者と赤騎士さんが集められていて、ウィルスと戦っていた私達が到着するのを待っていたみたいです。魔術協会の人はお辞儀をすると退室してしまいました。
黒の魔人は人類の生存圏たる東大陸の南から侵攻を開始し始めました。既に南の帝国ヘルメスは滅んでおり、次はその上にあるエレボスが標的になり、ヘレナ、アテナと順に狙われるだろうとクローディアさんは解説しています。
黒の魔人はどうしてこの世界をこんな風にさせたいのか、私には分かりません。力があるのであればクローディアさんと共に歩む未来は無かったのでしょうか。どうして、人を簡単に殺める事が出来るのでしょうか。
私達勇者も力を付けた。さっきのウィルスには多少の加勢しか出来なかったけれど、黒の魔人になら――そう思っていた矢先に相手は国を滅ぼせる存在だと知らされた。
少なくとも私達のチームは私を除いて意気消沈といった様子です。七騎士の三人も渋い顔をしており、クローディアさんもかなり真剣な顔付きをしている。
あと、行方くんは体調不良でこの話し合いに参加していない。運が良いのか悪いのか、病に罹ってしまったそうだ。
「先ずは先遣隊に須藤さんのチームと七騎士三人で向かってもらいます。出来るだけ疲弊させて下さい。そして機を見て――というより明日の午後から残る勇者様方と私、アルマ様で叩きます。まさか過去の遺物との戦いの隙を狙ってくるとは思いませんでしたね。ヘルメスが残っていれば楽な戦いは出来たと思いますが、今はエレボスに戦力を集める事にしましょう」
「了解。直ぐに向かうよ」
赤騎士さんがそう言うと続く二人の騎士と須藤くんのチームが退室する。もしかしてこのタイミングが七騎士の崩壊なのだろうか。だとすれば黒の魔人との戦いはエレボスになる事は確定したと言ってもいい。
やっぱりクローディアさんは頼りになる。誰が死ぬか分からないのに最適解を示せる。勿論これが正しいとは私は思わない。死人が出ない方が良いとは思ってるし、別れも辛い。だけど七騎士三人が死力を尽くせば須藤くん達は生き残って、差し違える結果になりそう。三人との別れは嫌だけど、私の力があれば転生体に会う事は出来る。
救う事は出来ないけど、魂を見る事は出来る。そしてその魂が何に由来して、善悪のどちらの属性に傾いているのかは判る。七騎士の三人とまた会える。記憶はない、だけどきっとまた仲良くなれると思う。
「流石に黒の魔人も今日の内に滅ぼすなんて事はしないでしょうし、エレボスに今向かって貰えれば間に合うでしょう。ヘルメスが滅んだ事はエレボスも承知しているでしょうし、態勢は整えている筈です。飛翔の魔術を全員に覚えさせたのは正解でしたね」
「今日行動しないってのは何を根拠に言ってんだ」
「紋土さんなら一国を滅ぼして直ぐに他の国に向かいますか? 戦闘態勢の整いつつある一つの国に」
「……俺ァ、危ねぇと思うけどな。須藤達のチームは魔力が切れても戦えるが、飛んで行くには距離がある。魔力の回復はそんな直ぐに満タンにならねぇ。下手すっと、全滅もありえるってのが俺の意見だ。あと、素直に下から攻めて来るとも思えねぇ」
国と呼べる程に集まりを見せているのはヘルメス、エレボス、ヘレナ、アテナの四国。後は何にも属さない集落の集まりが点々とあるのがこの世界の在り方。
植物に侵食されているが、しっかりとした造りの石垣が森の中で見つかる事もあるから、以前はもっと沢山の人が居て、国が有ったのかもしれないけど、私達が知っている国と呼べる程に大きな集まりはこの四国しかありません。
流石にいきなり此処を攻めて来るとは私には考えられない思考ですが、紋土くんはどうやら此処に来ると思っているようですね。どこからそんな考えが湧いて来るのか不思議です。私だったら素直にエレボスを攻めますけどね。力なんて持った事ありませんからそういう思考になるのでしょうか。
するとクローディアさんは壁に貼られた地図を剥がす。
彼女の中で答えは決まっているみたいですね。
「仮に黒の魔人が此処に攻めて来るのであれば――」
クローディアさんがテーブルに広げられた資料を魔術で回収していく。そして最後の一枚が丸まって彼女の腕に収まる。
「私が全力で相手にしましょう」
その時クローディアさんから僅かに漏れ出る魔力からは狂気とも取れる感情が混じっていました。普段はそんな事しないのに、何故そんな感情を乗せているのか。私には分かりませんが、黒の魔人はクローディアさんにとっても倒したい敵なのだと分かりました。
今日はこれで解散となり、エレボスに向かったクラスメイト以外は各自自由に過ごすように言われ、部屋へと戻る。そこには夕食を持って来ていたメイさんがおり、私は久しぶりにまともにメイさんと話せる機会が出来ました。
部屋の中に入る様に促して、私は椅子に座る。
「フユミ様も戦われるんですよね……」
私から何を話そうかと思っていたら、珍しくメイさんの方から話題が振られる。基本的に女中さんや執事さんは自分から話さないのに、今日は珍しい日だ。
「そうですね。力に目覚めた以上は戦わなくてはなりませんから」
「逃げたいとは、思わないのですか? ヘルメスは西大陸の開拓に力を入れる強かな国です。そんな国がほろぼされて、怖くないのですか?」
「怖いですよ。でも、私は戦わないといけません」
「そう、ですか」
メイさんは怖いんだと思う。
私は夜黒くんから力を貰って、“死神”になったから大抵の相手は殺す事は出来る。相手を生捕りにしろと言われたら困ってしまうけれど、殺していいのであれば私は恐らくクローディアさんと並ぶ戦力に成り得るとさえ思っている。
私は基本的にウィルスの様な特化した存在でも無い限り、私に害を成せないという事を知っている。“完成した存在”とはそういう理不尽な存在であって、どうしようもない存在なのだ。
埒外、そう形容した方が早く、理解する事は出来ない存在。“死神”は魂を見て己の矜持に従って相手を殺すか生かすかを決める狡い生き物だ。かつては多く存在していたらしいが、今では私一人らしい。
「……一緒に、逃げませんか?」
「え?」
「フユミ様さえ良ければ、黒の魔人も目につけない様な小さな集落に――」
「私には、黒の魔人を倒さなくてはならない理由があります。もしソレが無かったら頷いていたかもしれません。ですが、今の私には戦わなくてはならないんです」
「なら、私達を守ってくれますか……?」
「それは――」
勿論、とは言えなかった。
私の“死神”としての力でいつ誰が死ぬのかは完全に分からなくなってしまった。以前までなら知れたのに、まるで大きな力が働いて阻害された様に、知る事は出来なくなっている。
「あはは、気にしないで下さい! 久しぶりに話せて楽しかったです。勿論、私は最後までフユミ様をサポートさせて頂きますよ! それでは、失礼します」
メイさんがわざと元気な口調で話す。怖くて仕方ないだろうに、プロは凄いなと思った。逃げたいのは本心でも、逃げられないのは、きっと怖くて堪らないだろう。
今日はご飯を食べて、もう眠って明日に備えよう。私達も明日から移動が始まる。今日は英気を養っても良いだろう。
そして、私は次の日目覚めると、沈痛な表情をするメイさんから須藤くん達が死んだという情報を聞きました。不幸中の幸いは、七騎士が生き残っている事、らしいです。
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