0-3-24 訓練の終わり
三回戦目となる齋藤くん、濃松さん、魚沼さん、真紀ちゃんの四人チームを相手にするに当たって、四人の様子を見た須藤くんと行方くんがそれぞれ前衛をやると言い出して私は大人しく飛来するであろう多量の魔術を捌く係になった。
当初の予定とはことなるけれど、それで勝てるなら構わないし、負けても困らないから大人しく従う事にしました。須藤くんと行方くんは何やら試したい技がある様で、戦うのを楽しみにしていますが、相手方はもう疲労困憊といった様子ですね。
「誠には悪いが、直ぐに終わらせようかな」
「それでは最後の試合、開始です」
須藤くんが一言発したら試合開始となりました。
流石に何ヶ月も訓練してるから向こうのチームは魔術を発動出来ない訳では無く、大量の基礎魔術が飛来します。その隙間を縫う様にして須藤くんと行方くんは進んでおり、私は一応最低限の魔力障壁を展開させて安全性を高めた。
近寄る二人に戦線を下げる女子に対して齋藤くんだけはその場に留まり、腰を落として低く構えています。あれは『風刃』の抜刀型でしょうか。流石の須藤くんもソレには気付いていそうですけど、行方くんが前に出ました。
「行方か……」
「僕相手じゃあ不満かな?」
「正義に受けてもらいたかったが、仕方ない」
鞘にさえ目に見えて集まる風の力。
ゆっくりと抜かれる刃には竜巻の如き力が渦巻いており、齋藤くんは行方くんに向かって全力の一撃を放つ。それは黒竜の時に見せた技とはかなり違って、この短期間に更なる進化をしたのだと分からせられる。
「嵐旋刃!」
大地を抉る暴風の一撃が放たれ、咄嗟に魔力障壁を展開しようとしましたが、行方くんが後ろ手で私を制する。行方くんの言っていた面白い技というモノが披露されるのだろう。
齋藤くんも何かをされると分かり、再び風を集めている。
「『事象反転・虚』」
行方くんのその言葉一つで齋藤くんの暴風は一瞬で収まり、齋藤くんもその場に倒れる。行方くんも大幅な魔力行使に伴う疲労からその場に座り込んでいる。何が起きたのか全く分からないけど、とにかく一人は無力化出来た。
残るは近接の苦手な女子だけなので須藤くんが相手にしてくれるだろう。齋藤くんを倒せた時点で、勝ちは決まった様なモノだ。
「『強く太い魔力の矢』」
「『自己強化』」
「『強い風の魔力の矢』」
二本の強い魔術が須藤くんに向けられる。魚沼さんは私と同じく体術訓練にも顔を出す近接の出来る人だという事を忘れていた。中々その姿を見ないから『自己強化』を使って須藤くんに突撃する姿を見るまでは忘れていた。
二本の魔術に一人の突撃。
何も考えずに捌くのは簡単だが、一人を再起不能にしないという条件がその難度を引き上げる。須藤くんはどうやってこの局面を切り抜けるのだろうか。
因みに私の場合は持ち手の先で魚沼さんを突き飛ばしてデスサイズで二本の魔術を斬る位しか現時点では思い浮かばない。須藤くんの剣技は直接この目で見た事はあまりないから、是非とも参考にしたい。
「アシャ・ワヒシュタ!!」
赤騎士さんの様に炎が立ち昇り、赤騎士さんとは違って男の姿が模られる。その男性は魔術を掴むと業火で焼いて消し飛ばし、そのまま須藤くんが剣を振ると魚沼さんが熱風に煽られて飛ばされる。
思っていたより大分強引な解決方法で、余り参考にならなかった。そしてアシャ・ワヒシュタはそのまま須藤くんの隣に立って敵対する三人を見下す形を取っている。
濃松さん、魚沼さん、真紀ちゃんが顔を見合わせてから濃松さんが代表して一歩前に出る。
「……降参します」
かなり悔しそうだけど、もしかして全敗だったのだろうか。
「二番チームの勝利です」
「おい行方、誠、起きろー」
「須藤くんこれは少ししないと起きないよ」
「そうか?」
「そうです」
クローディアさんが『浮遊』させて行方くんと齋藤くんを運ぶ。赤騎士さんの方の試合は終わっていたのか全員がその場にへたり込んでいる。やっぱり継戦能力の低さは勇者の特徴かもしれない。全力で万全に戦えるのは恐らく最初の十分くらいだろうか。
力がついて来たとは言え元はただの高校生。ここまで戦える様になっだけ素晴らしい成長だと言える。赤騎士さんは暫くの訓練は体力の向上をメインにしようかと呟いていたし、私達は基礎を疎かにしていたのかもしれない。
幾ら強くなれる様にコバルトさんが力をくれても、基礎が弱ければ黒の魔人は倒せない。
私は既に“完成した存在”という別の存在になってしまったから実践経験を積むだけだが、みんなは未だ元高校生。平和な日本から来たのだから今は最低限の体力しかないと思う。
『浮遊』の最中に齋藤くんと行方くんは目を覚まし、されるがまま運ばれていた。私も人の『浮遊』で運ばれてみたいな。
「さて、これでみんな集まったね」
「一番勝率の高かったチームは二番の須藤さん、行方さん、冬美さんでした。景品を渡しますね」
そう言ってクローディアさんが虚空から取り出したのは三つのネックレス。須藤くんには赤色が、行方くんには青色が、私には透明な物が渡される。
何かしらの魔力が込められているのかと思い良く見てみるがそうではないらしい。これは一体なんだろうか。
「本当は全員分作ってありましたが、これから黒の魔人を捜索する際の勇者のリーダーを三人に指名します。それぞれお好きな三人から四人を選んでチームとして下さい」
「今ですか?」
「出来れば明日までに。今ここで決めても構いませんよ」
私達三人は顔を見合わせて少し話し合う空気になる。
「須藤くんは齋藤くんと本城くんは決まりでしょ? あと魔術で考えたら吉良々さんも入れた方がいいかな」
「良いのか? かなり偏りが出ると思うんだが」
「仲の良い人と組んだ方が連携も取り易いでしょ。それだと四季さんは四季の秋音さんに恵方さん、後は誰にしたい?」
「行方くんはそれで良いんですか?」
「僕は誰と組んでも構わないからね」
「それじゃあ、後一人は……」
誰にしましょうか。
残されたのは、先ず紋土くんは怖いから却下です。
となると後は加祝さん、濃松さん、米俵くん、魚沼さん。うーん、米俵くんと魚沼さんは私達姉妹と仲は悪くないけど今の組み合わせだと全員後衛の方が楽しくやっていけそうだし、私が前に出ればどうにかなると思う、という理由でこの前ダンジョンでもお世話になった濃松さんにしようかな。
「後一人は濃松さんにします」
「オッケー。それじゃあ僕は紋土くん、米俵くん、加祝さん、魚沼さんを貰うね」
行方くんは自分で決めてないけれど、それで納得行っているのだろうか。特に紋土くんなんかは扱いづらそうだけど……大丈夫かな。
「クローディアさーん、決まったよ」
「早いですね。それじゃあ誰が誰を選んだのか教えて下さい」
行方くんが私達の編成を告げるとクローディアさんは概ね読み通りといった表情で頷いていた。もしかすると今日の試合も私達が勝つと見越していたのだろうか。
いや、それはないかな。全員分用意していたって言っていたし、幾ら須藤くんがいるからってそんな事はないと思う。それか私が“完成した存在”であると知ったとか? 幾らクローディアさんとはいえ隠し事を暴く力まではないと思う。それに、そういう魔術が使われたら多分分かると思うし。
「それではこれからは三人が決めたチームで週毎に七騎士の索敵に加わって貰います。私が送迎するので安心して下さい。あと、食料や水は自分で用意してくださいね。それでは今日の訓練を終わりにします。ご苦労様でした」
そう言うと早速チームに別れて話し合いが始まる。吉良々さんは須藤くんと一緒になれてかなり嬉しそうだし、紋土くんは落ち着いているから行方くんも困ってなさそう。
「ふゆみん隊長! これからよろしくね!」
「冬美ちゃん、よろしく」
「四季さん……だと被るので私も名前で呼ばさせてもらいますね。冬美さんよろしくお願いしますね」
三人に挨拶されて私も挨拶をしようと思ったけど、ここはリーダーらしい挨拶が求められるのだろうか。それとも普通で良いのか。悩んで時間を使うのは失礼だろうし此処は適当に挨拶をしましょう。
秋音ちゃんからクレームが入るかもしれませんが、私はそんな大層な存在でもない。普通の挨拶が私には一番あっているだろう。そこに少し言葉を加えれば、それっぽくなると思うしね。
「リーダーになりました四季冬美です。私一人では見きれないことも多いと思いますので、皆さんよろしくお願いします」
「ふゆみん固いよ……」
「もう少し軽くても良いと思うよ」
秋音ちゃんと真紀ちゃんにダメ出しされてしまいました。
ならどういう挨拶をすれば良かったんでしょうか。不幸にも他のリーダー達は挨拶を済ませて、どうやって動いていくのかを話し合っているみたいで誰も参考になりませんでした。
私達も出来る事を話しながら王城へと帰り、今後加わるであろう七騎士による捜索の足手纏いにならない様に気を付け様と誓いました。
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