0-3-23 二回戦目
二戦目が開始され、既に数分が経ったかもしれない今、私と加祝さんは戦う事なく前衛二人の戦いを見ていました。
本来なら戦い合う予定だったのですが、加祝さんが初手にミスをしてしまい近接も出来る私が速攻で加祝さんを『拘束』した事により呆気なく魔術戦闘は終わりを迎えました。因みに初手のミスはデスサイズを出していた私に対して『魔力砲』を放った事です。大人気ないかもしれないけれど勝負は勝負。勝たせてもらいました。
「冬美さん、これ解いてもらえる?」
「そんな事したらまた戦う事になりますよね」
「いやーしないしない。流石にそんな不意打ち通用しないだろうし。身体が無理矢理固定されるのって好きじゃないんだよね」
「攻撃しないと誓いますか?」
「勿論」
「では、解除」
私の言語魔術による『拘束』は何パターンかあり、その中でもそこそこ拘束力の高いその場に固定するモノを使わせてもらっていた。解除すると小柄な彼女は「ふいー」と息を吐きながら背伸びをする。
本当に嫌だったんだなぁ。それなら一番強い拘束の魔術にすれば良かったかもしれない。だけど今度は見えにくいって言われたかもしれない。その辺の加減が中々難しい。今度魔術の開発でもしようかな。
「冬美さんて春夏秋冬くん以外に興味とかないの? 正直クラスでかなり綺麗な方だし、私と違って胸もあるし……」
加祝さんは小柄だ。下手をすると小学生にも見えなくもない彼女はクラスのマスコット的存在だけど、発育に関して思う所があるよう。私は言われるほど胸も大きくないし、夜黒くんは良く膝枕を要求してきたからその辺は良く分からない。
それに新しい人を、なんていうのは暫くは考えられない。別に夜黒くんなら怒らないと思うけど、私は未だに夜黒くんが好き。この熱が冷めるまでは、例え行き遅れとなっても良いとさえ思っている。そう考えてるって言ったら、夜黒くんは怒りそう。
「今は、そういうのは考えてないかな」
「そっかぁ……私の好きな人はクラスに残る選択しちゃったから困ってたんだよねぇ。もう会えないかもしれないのは悲しいけど、新しい人を見つければいいかなーって。そしたら春夏秋冬くんが死んじゃって、冬美さんは私より辛い感じになって……えーと、何言おうとしたんだっけ。あはは、分かんなくなっちゃった」
加祝さんなりに励まそうとしてくれたんだと思う。
夜黒くんは確かに私と秋音ちゃん、鮫太くんしか懐に入れてなかったと思うけど、比較的このクラスの人とは仲良くやっていたと思う。それこそ加祝さんとも話したりしていたのを見た事がある。その時は確か身長を弄っていた気がする。
夜黒くんは人によってはかなり付き合い辛いタイプの人だと思う。だけどこのクラス――特に異世界に来た人とは交流を持っていたと思う。須藤くん達三人とも話してたし、ここに来た女子とは週に二回くらいは何かしらの話をしていた様な気がする。
でもそれがこの世界に来た人達と合致しているかは分からない。何故か私と夜黒くんは別の世界線の存在で、私は未だに以前のクラスとの微妙な違いに馴染めていない。
その一つが妙に私とみんなが仲が良い事。私はあまり喋らないし、夜黒くんの陰に隠れていた存在だ。なのにこの世界に来た人達とはそこそこ仲が良い設定になっている。
秋音ちゃんに聴きたくても、彼女も私の本当の妹ではなくなってしまっている。別の世界線の四季秋音なのだ。そんな事聞ける訳がない。仮に聞いたら余計話がややこしくなると思う。
「須藤くんとかどう思う? 咲ちゃんの事に気付かない朴念仁。横取りとか出来そうじゃない?」
「しませんよ、そんなこと。そういう加祝さんが狙ってるんじなないですか?」
「あはは、私はいいかなぁ。須藤くんは強いし頼りになるけど、一緒に居たいとは思わないんだよねぇ。それだったら米俵くんの方がいいかな。顔はタイプだし」
そんな米俵くんは行方くんと戦っており、フェイント塗れの攻撃に翻弄されている。多分この混合訓練で一番経験値を貰えるのは行方くんとの戦闘だと思う。須藤くんとの戦いも強者との戦いで良い刺激になるだろうけど、紋土くんにして見たら弱い七騎士との戦闘で面白みはない、と思う。
此処に夜黒くんが居てくれたら何て声を掛けるだろうか。この戦況で、夜黒くんならきっと――
――なんで攻撃しないんだ?
だと思う。
そうだ。加祝さんには悪いけど、私も言語魔術を磨きたいから少しだけ紋土くんに嫌がらせをしよう。
「『雷よ』」
「ちょ、冬美さん!?」
「私は拘束されてませんので。それに加祝さんは戦闘しないって誓ってくれましたよね。二人の体力を残すのも大切かと思って」
「いや、まぁ、いいけど。いきなり撃つのはびっくりするよ」
須藤くんに攻撃したタイミングで雷の魔術を放ち、紋土くんの動きを阻害する。この世界の雷系統は当たると痺れる。予想外の一撃に紋土くんは固まっている。
「四季ィィィ!!」
「こわっ」
「やっぱり加祝さんも紋土くんの事怖いんですか?」
「当たり前でしょー! 他校の生徒何人も病院に送ったって噂聞いてからは席替えで近くにならない事を願う程だよ」
どうやらそんな噂がこの世界線では流れているらしい。因みに私の世界線では上級生を吹っ飛ばしただけである。噂でも何でもなく、事実として。
だけど私に注意して良いのかな? 相手はどんな手でも無理矢理力で解決出来る須藤くん。余所見は致命的なんじゃないかな。
「ぐぅぅぅ!!」
「セイッ!」
次第に押され始めた紋土くんが首筋にて寸止めされた剣を見てその場にドカッと座り込む。悔しさから何か叫んでいるけれど、言語になっていないから聞き取れない。
行方くんと米俵くんの戦いももうそろそろ決着が着きそう。あの二人は純粋な力なら拮抗してるから長引くと思っていたけれど、米俵くんが須藤くんの接近を見て両手を上げて降参していた。
思ったより早く決着が着いてしまい、向こうの戦いは魔術の雨が降っているみたいでとても綺麗だけど、最後の戦いについて考慮してるのだろうか。
「フユミちゃんは強くなったねぇ。もしかすると七騎士の誰かには勝てたりして」
「赤騎士さん……それは無いと思いますよ。私には戦闘経験が無さ過ぎますので」
「そうかなぁ。今度暇があったらおじさんと戦おうか?」
「遠慮しときます」
赤騎士さんはまだ向こうの戦いが終わらないのを見て一人一人に講評をしていた。加祝さんには未知への相手に基礎魔術は有効な一手だけどその後を考える様に、米俵くんには魔力を感じ取る訓練をしてどれが本命に近いのかを見極める様に、紋土くんには他所からの攻撃に冷静になる様に。
私達三人はさっきと変わらず特に何かを言われる事はなく、全員で向こうの戦いが終わるのを見学していた。
これから戦うのは齋藤くん、濃松さん、魚沼さん、真紀ちゃんの四人。珍しく齋藤くんも魔術の側に立って全員後衛を務めている。秋音ちゃん達の作戦が上手くはまったのか魚沼さんから始まって全員が倒されていた。
齋藤くんは今日は刀は使わないのかな? 帯刀はしてるみたいだけど、抜く気配がまるで無かった。もしかすると最後に取って置くみたいな感じなのかな。
向こうも終わり、五分の休憩が挟まれる。
「それじゃあセイギ達は向こうに行ってね。フユミちゃん、頑張るんだよー」
何故か私は赤騎士さんに気に入られてしまっているみたい。
前に話した時から向こうは関心を持ってるのか会う度に話している。勇者には優しいけれど騎士には厳しめな彼は多くの人から慕われている。
強くて、優しくて、頼りになる。
七騎士のリーダーとも言える存在が未だに倒されていないのは世界にとっても大きな価値があるのかもしれない。
向こうの広場に移動しながら、会話が始まる。
「さて、見るからに疲弊している四人をどうやって片付けようか」
「演技かもしれないだろ?」
「それはないなぁ。齋藤くんなんて見るからに疲れてる。女子三人も、魔術を扱い過ぎて体力が減ってる。魔術と体力に相関性はないけど、二回も魔術頼りな戦法をした反動だろうねぇ。僕も魔術の使い過ぎでああなった事は何回かあるよ」
「ふむ、四季さんはどうする?」
「私なら確実に一人ずつ拘束していきます。射線が重なる様に動けば、仮に奥の手を持っていても向こうは手の出し様がありませんからね」
ここで一つ沈黙。
行方くんは何やら考えているみたいで、須藤くんは向こうのチームを気に掛けているみたいだ。私は言うべき事は伝えたからこれ以上は必要ないと思って沈黙している。
「最後の五分休憩です。悔いの残らない様にお願いしますね」
クローディアさんがそう言うと、魔力で編まれた大きな時計の秒針が進んだ。
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