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これは“世界”を救う物語。  作者: 高平めめこ
召喚された十三人の勇者
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0-3-19 “死神”というもの

 メルリヌスさんがいきなり目の前に現れるも、どう攻撃して来るのかが、手に取る様に分かる。身体能力も向上しているのか容易く避けられる。“龍”の方が強かった気がしますが、迸る魔力を見るに、きっとメルリヌスさんの方が速く、強いのでしょう。


 手刀、掌打、蹴り、投げ技など様々な方法で此方を攻撃してくるメルリヌスさんに対して私はその全てを躱すかいなすかして対応する。


 地上で行われるその全てが、どれも必殺の一撃である事はひしひしと伝わってくる。私の新たな感覚というか、第六感とも呼べる何かがその全てが()に繋がるのだと理解出来る。

 本気で殺しに来ている。そう分かるのに私にはその全てが拙く幼いモノに思えて仕方がない。メルリヌスさんの攻撃は確かに恐ろしいのだろう。だけど、私にはその全てが通用しない。


「ふむ、やはり“完成した存在”には私では手も足も出ないな」

「それなら此方から――」

「させる訳がないだろう。“柔らかな大地”」


 そう言ってメルリヌスさんが足で石の床を踏み締めると波打つ様にして衝撃に伴って地面が揺れる。言葉通りならこの床は今とても柔らかな物となっていると見て間違い無いでしょう。

 確かに戦い難いが、戦えない訳でもない。背中の髑髏から力を放出して空中に浮かびながら大鎌による一撃をメルリヌスさんに叩き込む。


 しかし展開されていた魔力障壁に阻まる。


「デスサイズ……“死神”の有する万物を断つ象徴的な武器。だが、“魔法”までは斬れない様だな」

「この鎌はデスサイズというのですね!」


 横薙ぎに振るうが避けられる。


「人によって異なる。剣、槍、斧……私の与えられた知識では無数の武器がデスサイズとして顕現している」


 “無数の魔力の矢”とメルリヌスさんは呟き、石の短杖の先から散弾銃の様に魔力の矢が射出される。デスサイズを回転させて弾くと、それを待っていたのか“魔力砲”が放たれる。

 直撃すれば死ぬ。弾く事も叶いそうにない。避けるにはやや遅い。

 ならば斬ってしまえばいい。“魔法”までは斬れないとさっき言っていたが、アレは本気の一撃ではない。デスサイズを振って、“魔力砲”を斬り裂く。


「まさか、斬れるとは……素直に驚きだ」


 魔力砲は魔力の矢を太くしてビームみたいにしたモノ。それを斬り裂いてしまえば、進路が二つに分かれて自然と軌道が逸れる。そして一度斬り裂いた箇所は埋まる事はない。普通であれば元に戻って再び斬らなくてはならないが、()()()という事実がデスサイズによって記録され、不可逆なものとなる。


 “完成した存在”。

 それはとても悍ましく、理解し難い生物だ。

 ある事象に於いてある意味で全知全能の存在となり、自らの行為は不可逆のモノとなってしまい、下手をすれば取り返しのつかない事態が起こってしまう存在。

 私が認識出来たのはそこまで。閲覧権限でもあるのか開示される情報は少なく、しかし私に使い方を間違えるなと念を押す様な情報の出し方に何かしらの、それこそ別の“完成した存在”からの力を感じる。


 今はメルリヌスさんとの戦いに集中しよう。


 彼は全身を黒い魔力で覆うと、その瞬間私の感覚が直撃すれば死ぬと告げて来る。アレは“魔法”による身体強化と見て間違いないでしょう。

 直撃で死ぬなら掠めた場合もかなりの傷を負うかもしれないのに、この力は生きるか死ぬかの二択でしか答えを示さない。便利ではあるが、もう少し分かりやすくして欲しいと思うのは人間の強欲さ故だろうか。


「ハッ!!」


 メルリヌスさんの放った蹴り上げを回避してデスサイズでその身体を斬り裂こうとした時、蹴り上げた足が勢いよく降り下ろされ、デスサイズの軌道が無理矢理地面に向けられる。

 万物を断つこの大鎌は地面の石材を削ぐ様に滑り、私はメルリヌスさんの攻撃に思わずデスサイズを手放す。するとデスサイズに絡まる鎖と私の腕に融合した鎖が伸びて、手元に引き寄せられる。


 もしかしてこの大鎌はずっと顕現しているのだろうか、と思うとデスサイズが消え去る。取り出し方は念じるだけだと分かり、メルリヌスさんの殴りを回避してから鎌を持つ手の形を作ってデスサイズを取り出し、急襲する。


「賢しい攻撃だ!」

「私なりのやり方ですよ。狡いとは言わせません」


 メルリヌスさんの伸ばされた左腕を斬る。次いでデスサイズを回転させて持ち手の先で彼の胸を強打する。

 よろめいた隙に更に鳩尾を追加で攻撃して、最後は刃の部分で斬りつけようとしたが、メルリヌスさんは煙の様にその場から消え去る。“魔法”は口に出さなくても使えるのかと学び、どこから襲われるのかを魔力を広げて探るが、その隙間を縫ってメルリヌスさんは私の真下から攻めて来た。


 右の足首を掴まれたけれど、左足でメルリヌスさんの腕を踏みつけて解かせる。


「触った感じでは、人とは異なる質感だな。ふむ、もうそろそろ時間だな。“死神”の力を解放し、私を斬り裂いてみせろ!」

「え? まだあと一日あると思いますけど」

「時間の流れに干渉させてもらった。後は冬美次第で終わりとなるだろう。見せてみろ、“完成した存在”としての力を」


 “死神”としての力と言われても、私は全ての力を出している。これ以上を求められても困ってしまうが、“完成した存在”には何か別の力があるのだろうか。

 分からない以上はデスサイズで攻撃するしかない。

 きっとメルリヌスさんが求めるモノとは違うのだろうけれど、生憎私はこれしか知らない。他の力があるのなら、こっちが知りたい思いである。


「座興を続けるのも悪くはないが、私としては早々に終わらせたいのだがね。知識を思い起こせ。答えは既に示されている筈だ」


 メルリヌスさんが此方を殴ってくるが、それを回避してカウンターで持ち手の先端で肩の辺りを強打する。あの辺りは力が抜けるポイントが有ったと記憶している。

 そのまま先端で攻撃を続け、よろめく隙に斬ろうとするが、刃は絶対に受けない様にしているのか、その時だけはメルリヌスさんは大きく距離を取る。


 何かないのか。


 何か。


 ……。


 ……神域。


 クローディアさんが黒の魔人と相対した時、初めに呟いた黒い空間の事。

 もしかしてメルリヌスさんはその事を言っているのだろうか。だとすれば黒の魔人は“完成した存在”なのだろうか。あの時見た限りでは、そんな気配は微塵も感じなかった。力の差が大き過ぎるから感じ取れなかった? いや、多分黒の魔人は普通の人類種だ。


 私に神域を使えというのメルリヌスさんの願いなのか。

 ならば使ってみせよう。

 彼との攻撃の合間に“完成した存在”としての知識を深掘りし、神域という存在についての知識に絞って情報を吐き出す。無い訳ではなく、初めに与えられていなかっただけで、数回の攻撃の間に見つけられた。


「神域展開」

「――ッ!」

死獄楽々(しごくらくらく)首狩絢爛(くびかりけんらん)


 私を起点として濡羽色の結界が広がる。

 それに呑まれたメルリヌスさんは何もせずに受け入れている。

 神域――それは己の得意を押し付ける圧倒的な自分ルールの世界。私の場合は黒の魔人をこの手で殺す事を目標としたからか殺傷能力の高い神域が完成した。


 効果は範囲内の生命の首を狩り、地面から伸びる槍で胴体と首を晒すだけ。


 範囲の内に入っていたメルリヌスさんはそのまま胴体頭部が分たれ、地面から伸びる槍に胴体と頭部が刺される。この神域に入った瞬間からこうなる事は決定していた。例えどんな存在であろうと、この神域からは逃れる事は出来ない。

 神域を解除すると槍に刺さったメルリヌスさんだった物のオブジェクトが出来上がっている。


「よく、私を殺した」


 それを見つめていたら背後から声がし、振り返ると露草色のメルリヌスさんがそこにいた。


「肉体を捨てる“魔法”があってな。これで契約は履行された。あとは時間を待つだけだ。そうだな、あと二階層といった所かな」


 その言葉はどこか嬉しげで、夜黒くんに少し似ているこの人がやると、似合わない。こんな元気な夜黒くんは見た事がない。


「あの、どうしてそんなに嬉しそうなんですか?」

「およそ二万五千年前に私は、とある条件で造られた。些細は語れないが、夜黒や冬美の事をずっと待っていた。“ⅱ”はこうなると分かっていたのだろう。その契約が終わり、晴れて私は輪廻へと帰れる。これ以上の僥倖があるだろうか」

「えっと、その“ⅱ”っていう人は――」

「済まない。私には語る権利がない。あの存在を倒してくれる事を切に願っているよ」


 “ⅱ”。

 “完成した存在”の一人。閲覧権限によって唯一見る事の叶わない謎の存在であり、メルリヌスさんを作ったらしい存在。

 こんな人を作れる人相手に、私はきちんと戦えるのだろうか。もしかしたら、戦わずに負けてしまうのかもしれない。そんな思いが込み上げて来る。


「……私に出来るんでしょうか」

「少なくとも奴は今の冬美より存在の格は低い筈だ。神域の押し付けあいに勝てば、どうにかなるだろう」

「どうして――」

「時間だ。さよならだ、冬美。もう二度と会う事がない事を願っているよ」


 そう言うとメルリヌスさんは消え去った。

 私の足下にも転移の魔術陣が現れてダンジョンの外へと転移される。目を開くと、黒騎士さんと齋藤くん、濃松さんがそこに居た。


「フユミ! 無事だったか!」

「えーと……色々ありましたが、なんとか」

「四季が無事で良かったよ」

「冬美さんなら大丈夫だと、思ってましたがこうして会えると嬉しいですね」

「さて、後は帰るだけだ。帰りは私がきちんと護衛をしよう。もうあんな不意をつく様な事は無いと願うがな」


 和気藹々としながら、王城へと帰還した。

 帰り道は黒騎士さんがいつも以上に張り切って護衛してくれたから敵は視認する前に消え去っていた。ダンジョンについて二人から話を聞いたけれど、黒竜の様なアクシデントはなく、後半は簡単だったそうだ。

 私も二人が無事で良かったと思った。

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