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これは“世界”を救う物語。  作者: 高平めめこ
召喚された十三人の勇者
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0-3-18 “龍”との戦い

 月白の“龍”のなりそこないとやらが此方に迫る。

 速いが、見えない訳ではない。七騎士の方が、速い。特に青騎士さんの素早さと比べたらまだ遅く見える。

 石造りの身体に刃を当てつつ避けるも、先程とは違ってただ当てただけでは刃が刺さる気配はない。その身体は硬度が増していると分かる。厄介な事に変わりはないけれど、当てた感触としては斬れない訳では無さそうな気がする。

 捻れた角、引き締まった硬質な身体、人間らしい造形。

 “魔法”が『魔術』を越えた“完成”した技術であるなら、“龍”という存在については分からないけれど、まるで人間の“完成”した姿がそうである様に見えなくもない。


「グルァアアアアア!!!」


 速度を上げて突撃してくるが、余りにも真っ直ぐなソレはどれだけ早くても七騎士との訓練で鍛えた私には避けられないモノではない。だが攻撃出来るかと言われれば、さっきまでの竜と違って、余りにも能力が向上しているから、無理だ。出来て精々刃を当てるくらい。

 大きく回る様にして、速度を落とす事なく再び体当たりを繰り出す“龍”に紙一重で躱して直撃を免れるけれど、掠めた左腕が痛む。何かが伝う感覚があるから、恐らく切れているのだろうが、見ている余裕はない。


 今度はその場で体操選手みたいな回転をしてそのエネルギーを殺す事なくそのまま加速して迫ってくる。両腕を開いての突撃は恐ろしく見えるが、その場で屈む事で避ける。

 少し髪の毛が切れたかもしれない。


「グルゥ」


 “龍”が再び此方に突撃しようとしてくる。その前に動員出来る全ての繊維を漆黒の刀へと集め切れ味を増加させる。この際見た目の羞恥など気にしていられない。

 今度はただ当てるだけではなく、その刃をしっかりと差し込もうとした時、刀が形態を変える。それは鎌の様で、私はそんなイメージをしていないにも関わらず繊維は大鎌へと変形していく。右腕の鎖も溶けたのか鎌に巻き付く様な形で私の腕と鎌にその名残が見える。


「ほう」


 メルリヌスさんの面白いモノを見た、と言う様な呟きが耳に入るが無視して鎌を構える。大鎌の扱い方なんて分からないけれど、振ればどうにかなるという事だけは分かる。

 これが自分の力を基にして出来ているのだから、なんとなくわかるだけで、私は錬装士ではないけれど多様な武器を扱える様に目覚めたのか――いや、きっとこの大鎌が私に適した最高の武器なんだろう。

 事実これまでの漆黒シリーズは、ある物をそのまま、若しくはイメージした物をなんとなくでしか扱っていないだけで、この大鎌だけは無意識に作られたにも関わらずその扱い方が分かる。

 高校生という年齢だから、この姿は封印するだろうけれど、奥の手として取っておくのは悪くない。


 大鎌を見ていたら“龍”が此方に迫っているのを忘れていた。


 大鎌を後ろに引いて、その愚直な突撃に合わせる。動員出来る繊維は全て回した。完璧に避けなくてはまた傷が増える。スタミナを回復させる為に魔力を使っているから回復系統を使えない訳ではないが、そんな器用な真似が出来ない。

 しかしさっきので学んだのか思いっきり足で地面を陥没させる程に踏み込み、進路を変えてくる。図ったのか、図らずか、地面が陥没した所為で此方の姿勢が崩れる。

 咄嗟に防御をしようとしたが、向こうの方が早い。


「がはぁっ」


 その身体が私に当たるが、何とか引き寄せた大鎌で何とか防げたから即死は免れた。口から酸っぱい物が床に吐き出されるが、見た目を気にしていてはこの“龍”は殺せない。

 痛む身体に鞭を打って微量な魔力を纏わせた大鎌を投げて“龍”の身体に突き刺す。そのまま私が持ち手を掴んで縦に斬り裂くが、石は再びくっついて再生する。どうやら切断しなくてはいけないらしい。


 動かれても困ると思い距離を取ろうとしたその時、“龍”が再生きながらアッパーを放つ。


「――ッ!」


 普通再生中は動かないものじゃないのか、というツッコミを心の中で入れながら大鎌を手繰り寄せ“龍”の拳をガードするも、その威力で身体が後ろに飛ばされる。翼を展開する余裕は全て大鎌に回している為、ない。地面に大鎌を刺して後退する身体をなんとか押し留める。

 目を見開いて“龍”と相対する。こいつ、ワンアクション毎に速度が増している。着いていけない訳ではないが、此方の硬直を狙って動く知性は中々厄介で、その所為で何度か攻撃を貰ってしまった。


 早い。

 強い。


 此方が攻めようにも向こうの方が遥かに速い。さっきの一撃は偶然に過ぎないのだと思い知らされる。

 このままでは同じ様な事を繰り返すだけで時間が過ぎてしまう。それでは何も得られずにこの時間が終わってしまう。それだけは避けたい。この『復讐者』が何なのかを知らなくては、私は帰りたくない。


「ゥゥウウウウーー」


 “龍”が遠吠えを上げると、それに呼応して地面の石材が隆起して一振りの大剣が作られる。“龍”の様な月白な物ではないが、簡単に斬れない事は想像できる。

 その姿がかつての黒の魔人と重なる。

 まるで此方の琴線に触れて来る様だが、そんな安い挑発には乗らない。此処で少しでも理性から外れた行為をすれば簡単にやられてしまうのは目に見えている。


 大鎌を構えて突撃してくるのを待つと、“龍”は大剣を引き摺る様にして駆ける。ある程度タイミングは掴めている。後は“龍”がどう動くか。

 大鎌を振るう為に後ろに引いて、後二、三歩といった所で“龍”が真上へと跳ね上がる。その際の力を利用してか大剣は振りかぶる姿勢となっており、真正面から受け止める事は余りにも不利に見えるが、向こうは軌道を変える事は、恐らくない。


 徐々に学習はしているみたいだけど、そこから軌道を変える事まではまだ学習してはいない筈。



「フッ!!」


 “龍”の一撃を躱して、大鎌を振るってその片腕を斬り落とす。

 大剣との隙間を縫った私の一撃はなんとか通用した。これで相手の戦力は大きく削ぎ落とせたと思う。後はこいつが学習する前に全ての四肢を削ぎ落としてしまえば、此方の勝利。


「グルァアア」


 斬り落とした腕が粘土みたいにぐちゃぐちゃとなり切断面に向かってのびていく。そのまま“龍”はその腕で此方へラリアットを行う。面積の増大、故に避けるのは困難で、鎌も振り抜いた姿勢で、此方は硬直している。

 苦し紛れにその場に倒れ込む様にして回避する。なんとか直撃は免れたが、避け方がいけなかった。


「グルァアア!!!」


 “龍”の足踏みを察知してその場から転がる様にして距離を取る。直撃していたら間違いなく死んでいただろう。こんなところで死ぬ訳にはいかない。

 私には夜黒くんの仇を取るという使命がある。それまでは、例えこの身が朽ちようと死ぬ訳にはいかない。持てる全てを動員して目の前の脅威を何とかしようと踠く。


「グルゥ!!」


 跳躍した“龍”が放つ拳の圧で身体が地面に押される。

 此処に来て出力の増大。もう笑っても良いだろうか。“龍”とはこんなにも理不尽な存在なのか。

 馬乗りになる形で押さえつけられ、“龍”が私の顔面を殴ろうとした時、時間が間延びした感覚に陥る。走馬灯は起こらず、ただそのゆっくりと迫る拳を眺めていた。


 死ぬ。


 夜黒くんの仇云々の前に死んでしまう。


 嫌だ。


 惨めに負ける。


 抗えずに、死ぬ。


 こんな所で……。


 こんな所で!


 “死にたくない!”


 そう思った時、“龍”がたたらを踏んだ。

 私からは目に見える謎の力が溢れ出て、それが私の姿を変えていく。繊維で出来た大鎌は両腕の鎖を飲み込んで金属製のモノへと変じていき、最低限にしか身につけていなかった衣服は黒い衣で全身が覆われる。指輪は二つが一つとなって背中に周り、ソレは髑髏を模した何かとなる。その髑髏は浮いており、それで飛行能力が身に付いたと分かる。

 溢れ出る力が収まり、様々な知識が頭に流れてくる。それは目の前の“龍”のなりそこないの事であったり、この世界の事であったり。それでも頭痛は起きない。まるで全てを知っている事が当たり前の様な感覚に陥る。


「これは――」

「“死神”。死を忌避した存在の極地。生を渇望した“龍”と対を成す“完成した存在”の一つ。『復讐者』の様な器だけの未完成なモノは強く願う事で“完成”へと至る」


 メルリヌスさんが石の椅子から声を投げ掛けてくる。

 “龍”は未だに攻めて来る気配がしない。此方から一歩を踏み出すとまるで恐怖した様に後退る。


「これでは戦いにならないな」


 怯える“龍”を見てメルリヌスさんはため息を吐く。


「仕方ない、私が戦おう」


 メルリヌスさんが自壊と言って石の短杖を振ると“龍”はその身体が砂へと変わり、崩れていく。

 メルリヌスさんは椅子から立ち上がると魔力を迸らせ、此方へ殺意を向けてくる。こうなってからはより明確に殺意が分かる様になった気がする。

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