0-3-13 進めダンジョン
三階層、四階層は魔物の群れでのフィールドだった為第一階層でのゴブリン達と同じ様に巨大化させた指輪を横回転させながらすり潰しました。
続く五階層に向かう前に小休止を挟んでいる最中です。五階層や十階層などは節目となって強力な敵が出現しやすいという事で、濃松さんは持って来た魔力回復のポーションを呷っていました。青色の液体のソレは即効性があるのか濃松さんの魔力が増えたのが目視出来ました。時折、というか見ようとすると魔力が見えるのは夜黒くんの力を貰ってからです。
夜黒くんが何かしらの力に目覚めていたのかもしれませんが、確認する手段はありませんし、オンオフが効くなら非常に便利な力です。色と輝きである程度の強さが測れるのは、黒の魔人を討つにも適している事でしょう。
「フユミ、お前の力は魔力は関係ないのか?」
黒騎士さんが声を上げました。
言われてみれば、確かにこの力は何で動いてるのかは気になりますね。いきなりガス欠に陥っては困ります。
「不思議な事に何を原動力としているのか分からないんですよね。後でクローディアさんに聞いてみようと思います」
「ふむ、倦怠感もないのか」
「ありませんね」
それだけ言うと他二人の準備が整い、立ち上がりました。
齋藤くんは腰に差した刀に手を添えて、濃松さんは既に魔力を集中させていました。ベヒモスを倒せたのならば、この後出てくる敵も私たちが息を合わせれば倒せない事は無いと思います。
次の階層への扉が自動で開くと漆黒の蛇の様な、翼を持った存在がそこには居ました。
「五階層で黒竜……本当にお前達はついていないな」
黒竜。
竜種の中で最強とされ、この世界の生態系の頂点。その外皮は魔術を通さず、鱗はあらゆる攻撃を弾くと言われていますが、このダンジョンの黒竜からはそんな覇気は見受けられません。あの程度の存在ならば倒せるかもしれませんね。
黒騎士さんは過保護なのかもしれません。やや突き離す様な口調ですが、これがいわゆるツンデレというものなのでしょうか。
「気付かれる前に一太刀入れて、同時に濃松の毒で弱らせる作戦で行こう。ベヒモスみたいに小さくなられては堪ったもんじゃない」
「毒は継続性のものね、分かりました」
二人で作戦を話しているが、私の役割は二人のサポートだ。黒竜の機動性が分からない以上私が出来るサポートは指輪を黒龍の尾に締め付けて移動を阻害すること。
指輪を気づかれない様に近寄らせ、齋藤くんが斬りかかると同時にその切れ目へと濃松さんが魔術を放つ。
「『持続する強い毒の魔力の矢』
応用を三種類盛り合わせた大打撃。
少しでも間違えれば齋藤くんが危険に晒される行為だが、知ってる限りの情報で行くとその外皮は魔力を通さない。ならば肉体に、というのが作戦の内容。
「風刃!!」
「グォオオオオオオ!!!」
齋藤くんがその身を切断するそのではなく、横に裂いた。
翼が生えているだけで東洋の竜に見えるその身体は太く、齋藤くんが風の力を集約させた一撃は肉体を裸出させ、濃松さんの魔術がその裂け目へと吸い込まれた。
注射器の様に魔力の矢が注がれていき、その全てが注入された頃には黒竜はその血を固め、筋肉で裂け目を圧縮して疑似的な再生を果たすが、濃松さんの毒が回れば死に至るでしょう。
後は消化試合、そう思った時。
「――ッ! 齋藤くん、避けて下さい!」
私が叫んだ瞬間、黒竜が齋藤くんの真上にその首を持ち上げ、真下にブレスを放つ。黒い炎のソレは此方までその熱が伝わってくる。魔力を見た限りでは、齋藤くんの淡い緑色が炎の合間から見える。何かしらの手段で防いだと分かり、安堵する。
ブレスの跡には、青々とした木々が炎を防いでいた。
緑色の魔力による植物の変性と成長。
あの一瞬の内にそれだけの事を成し遂げたのは、びっくりした。黒の魔人を見てから魔術訓練にも顔を出していた彼はそんな芸当も出来る程に成長していたらしい。
そして私は戦闘態勢を取った黒竜を見て、先程の覇気がないという思考を投げ捨てる。
アレは充分な脅威だ。
「二人とも、アレはベヒモスより強いです! 濃松さんの毒が回るまでアレは私達を攻撃するでしょう。全力で行きましょう」
「ならもっと毒を挿れましょう」
「濃松、口は俺が作る。任せたぞ」
齋藤くんが再び風を剣に纏わせる間に濃松さんは更に強力な魔術とすべく魔力を練る。私も少しは加勢出来たら良いけれど、鎖で縛るくらいしか貢献できる事がない。
こんな時夜黒くんならどうするんだろう。限られた力の中で、夜黒くんは何を思い浮かべて、何をする? きっとそれは簡単な事なのかもしれない。案外強引な魔力行使でどうにかする絵面が思い浮かぶ。
「齋藤くん、切断出来そうな箇所を輪切りにしてください!」
「……任せろ!」
口から魔術を捻じ込まれば簡単なのかもしれない。けれどそんな事は簡単には出来ない。それなら尻尾から直接身体に叩き込む。血液も失い、毒は身体を巡り、生態系頂点と云えどやがて死ぬだろう。
齋藤くんの剣は一太刀ごとに魔力を練らねばならない。
魔力量はそこそこにある齋藤くんだが、連続使用はいずれガス欠になる。早急に切断出来そうな場所を見つけて濃松さんに其処へ魔術を放って貰いたい。
齋藤くんが狙われ無い様に尻尾に巻き付けた指輪も動員して黒竜の視界を覆う様にして行動を阻害する。眼球に叩き込んだけれど、硬い膜に守られていて眼は潰せなかった。
鎖で黒竜の上体を雁字搦めにし、口も開かない様に鎖を絡める。限界射程は未だ不明なこの鎖はまだまだ巻き付ける余裕があるけれど、必要な分だけを巻き付けるだけに済ます。何があって必要となるか分からないのに、無駄な事は迂闊には出来ない。
齋藤くんが何撃か斬り込むがその全てが切断とまではいかない。硬い骨に邪魔されているよう。勿論その隙間には濃松さんの魔術が刺さり毒を注入されていく。濃松さんはとっておきを残しているけれど、無限に打てる訳ではない。そろそろ見つけて貰わないと此方が決め手に欠けてしまう。
「ここだ! 風刃・烈!!」
今までとは違い暴風を纏った一撃が叩き込まれる。
全長十数メートルは有った黒竜の身体が切断される。痛みに上体が反応して縛り付ける鎖が軋む。このままでは私が持っていかれかねないから全ての鎖を解いて尻尾の切断面を濃松さんに向ける様に鎖を幾重にも巻き付ける。
「『太い猛毒の魔術の矢』」
上位の応用はそれだけ魔力を消費するが、濃松さんは迷う事なくその一撃を放ちその場にへたり込む。魔力の欠乏した人は貧血の様な症状が出るとは聞いていたが、これで濃松さんは使い物にならなくなった。
指輪を二つ巨大化させて濃松さんを包み込み黒騎士さんの側へ移す。これで私と齋藤くんの二人で戦う事になった。けれど、流石の黒竜も毒を摂り過ぎたのか、その動きは弱々しい。初めに見た頃よりは覇気はあるが、大分弱っている。
「『炎よ』」
一度だけ顔を出した魔術訓練で測り直した魔術適正で見せた漆黒の魔力に、オーブを割る程の魔力量。クローディアさんが驚いていたのはとても印象深い。
そんな私が身に付けたのは『言語魔術』という技術。言霊を利用して魔術と成す一昔前に流行った魔術の使用方法。私はそれに高い適性を有していた。一日中それに打ち込み、後は全てを体術間に費やした。
私が放つ言語魔術ははっきり言って災害の様なものでした。魔力量に物を言わせた豪快な魔術。
一言唱えるだけで魔術訓練が一時中断される程であり、クローディアさんからは弱くする様に言われたが、一向に弱まる気配が無いから体術訓練に行ったと言っても過言ではない。
「グォオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!」
熱で喉が焼けたのか酷い声で黒竜は咆哮を上げる。
「四季! まだ俺が居たんだぞ!」
「あはは、大丈夫ですよ。狙いは上の方なんで」
「あははで済むと思うな!」
「『雷よー』」
「俺を巻き込もうとするな!」
ついでに雷を降らせて黒竜の全身を貫く。齋藤くんが何か言っていますが、きっと無傷で合流出来るので関係ありません。
「グゥゥゥ――」
やがて毒も回ったのか黒竜は静かに倒れ、ダンジャンに還元される。黒竜が居た場所には紅色の拳大の宝石の様なモノが残されていました。齋藤くんは私に文句を言っていますが、無視して指輪でソレを回収して黒騎士さんの下へと歩み寄った。
黒騎士さんは黒竜戦を振り返ってくれた。
「ベビモスを越える魔物がこのダンジョンに出るとは思わなかったが、良く討ち取った。三人とも戦闘体制にない格上への油断が見て取れたが、最終的には倒せているから良しとしよう。だが、毒に頼るのは辞めておけ。魔物は毒への強い耐性を持っている可能性も高い」
確かにその点は全く考慮してなかった。ベヒモスに毒が通じたから勝手に黒竜にも毒は効くと思っていたが、その可能性は大いにあった。魔物への知識も訓練の合間に聞いているはずだった。
浅慮、そう言われても仕方ない。
魔力を多く使った為今日は五階層までしか進めない。今日は六階層前の空間に簡易的な寝具を広げて、念のため見張りのローテーション――濃松さんには寝てもらうけれど――を組んでその日は終わった。
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