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これは“世界”を救う物語。  作者: 高平めめこ
召喚された十三人の勇者
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0-3-11 七騎士との訓練

 夜黒くんの死を看取ってから一週間が過ぎており、その間私は魔術訓練に一度だけ参加し、それ以外はずっと体術訓練に顔を出していた。赤騎士さんは勇者の育成を優先する事に決めたのか、この前の黒の魔人遭遇時からずっといる。


 その間に私の戦力としての有用性をケーニヒ様に示して巻き込まれた者という扱いから正式な勇者としての扱いに変更されました。


 今日はいつもより開始に時間がかかるというか、赤騎士さんが全員整うのを待っていた。今日の訓練はもしかするといつもより苛烈なのかもしれない。 

 だが兜の付いていないその顔はいつもの大らかな彼とは違って、どこか重い雰囲気を纏っている。黒の魔人関連の何かがあったのかもしれない。


「本来ならそろそろダンジョン攻略に行って貰いたかったが、今日は残念な知らせがある」


 赤騎士さんは沈痛な表情でそう述べた。


「金騎士と白騎士がやられた。二人、同時に」


 その言葉に体術訓練に参加していた男子全員と私が驚愕する。金騎士さんの弓術と白騎士さんの魔術剣を以ってしても黒の魔人は刈り取れないのか。

 金騎士さんは一度だけ見た事がある。その際遥か遠くに設置された動く的を正確に射抜く狙撃術は凄まじく、近寄られた際の対処も完璧だった。白騎士さんは剣に魔術を宿して剣の威力を底上げするだけでなく、斬撃を飛ばしたりと多彩な攻撃を見せてくれたのが印象深い。

 七騎士二人を相手にしても跳ね除けてしまうなんて、魔人という言葉は誰が付けたのか、あの見た目も含めて本当にしっくり来るネーミングセンスだ。


「そこで俺を含む残された七騎士は、二人が訓練に、三人が黒の魔人に関する調査に、というローテーションを組む事にした。勿論この事実は魔術訓練でも伝えられている。今後は一層の精進を期待する」

「二人同時にって、本当なんですか……?」

「生き残った騎士がそう伝えている。目の前で殺された、とな」


 須藤くんは目標としていた白騎士さんが殺された事に大変なショックを受けているみたで、質問した後に剣を強く握りしめていた。

 私だったら崩れ落ちていたかもしれない。なのに男子は――特に須藤くんの瞳は強く輝いていて、希望を見失った訳ではないのが伝わってくる。


「そこで今後の訓練は今までとは違って一対一の真剣勝負に切り替える。男共の連携は纏まってきたから今度は一人一人の力を伸ばす時だ。そして今日の俺の相方は黒騎士だ」

「黒騎士と呼ばれている。ハルバードの使い手だが、その場にある物で戦うのも得意だ」


 黒騎士さんはフルフェイスの兜で顔こそ見えないけれど、低めの女性の様な声だ。女だと知られると舐められると思ってるのか、それとも顔にコンプレックスでもあるのか。

 そういう事に興味はない。今はただ私を強くしてくれるのであれば誰だって構わない。それが例え悪魔であっても。


「それじゃあセイギとフユミちゃんから始めようか。セイギは俺、フユミちゃんは黒騎士とだ」

「私が言えた事じゃあないが、女子が相手か……簡単に終わってくれるなよ?」

「ご指導、お願いします」


 修練場は幾つかのステージに分かれており、今回私は最も平なフィールドである土の間にて体術訓練を行う事になった。

 私の戦闘能力は今やクラストップと言っても過言ではないが、須藤くんと本城くん、齋藤くんを相手にするにはまだまだ力が足りない。魔術の方も自主的にトレーニングしているから鎖の威力は日々増大するのが分かる。


「どこからでもかかってこい」

「それじゃあ遠慮なく」


 左腕を払って右手の指輪を射出する。

 腕の遠心力の様な力で鎖は黒騎士さん目掛けて伸びて行き、右手から射出した五つの円環は巨大化して突き進む。


「中々面白い攻撃だ」


 ハルバードで鎖を巻き取りながら風車の様に回転させて円環を弾き飛ばす。そこまでは想定内だ。弾かれた円環を指輪サイズにして空中で軌道を変えさせる。ハルバードにも鎖が充分に巻き付いており、力を込めたらいつでも動きを阻害できる形となった。


「なるほど」


 黒騎士さんは力勝負する事なくハルバードを放棄し、加速した指輪を手に取る様にして防御する。その拳一つに五つの指輪を手にした黒騎士さんに対し、五つの指輪を顔面に向けて加速させ、黒騎士さんの動きを変えさせる。

 手にした道具がまさか未だ動かせるとは思っていなかったのか黒騎士さんは驚いた様な声を上げたが、それだけだった。


 けれど、それでいい。


 僅かな隙を生んだのは事実。

 この一週間で私は夜黒くんの力を手にして、体術訓練以外の時間をそれのコントロールに割いた。その結果得られたのは元々の私が持つ黒い魔力の純粋な暴力。

 クローディアさんが言っていた魔法に分類されるこの力を、何故か私は使えている。この一週間の間に魔術訓練に参加した際、オーブの再検査をしたところ墨汁をばら撒いた様な漆黒がオーブに奔り、割れた。


 そんな私の身体強化による一撃は、その鎧をきっと貫いて、貴女に届くと思う。

 俗に言うテレフォンパンチだけど、驚いた黒騎士さんは急に接近した私に手を翳して魔力障壁を展開するが、その全てを殴り貫く。本来なら指輪の加速も加えたいところだけど、生憎左手にはハルバードが収まり何もない右手で殴るしかなかった。

 今度からは左手の鎖を伸ばしたら左の指輪を射出しようかな。


「ハッ!!」


 私の一撃が黒騎士さんの手に当たり、少しだけ後退りをさせる。魔力障壁で阻まれていなかったらもう少し押せたかもしれない。


「正直見縊っていたよ」


 手を振って調子を確かめる黒騎士さんがそう呟く。

 黒騎士さんが魔力を迸らせ、両手を少し広げたポーズを取る。構えと呼ぶには人を向かい入れる態勢に過ぎるソレは、しかし私からは難攻不落の構えに見えた。その間に指輪を右手に戻して態勢を整える。ハルバードは遠くに投げて、左腕に再び鎖が巻き戻るり


 その場にある物を使って戦うのも得意と言うだけあって、素手でも充分な戦闘能力をこの人は有している。


 欲しい。


 私も貴女の様な強さが欲しい。

 私一人で黒の魔人を殺せるだけの力が欲しい。例えこの身が朽ちようとアレを打倒できるなら――そう思って生きている。


「どれ、少し体術を教えてやろうか」

「行きますっ!!」


 今度は鎖を使わずにその身一つで肉薄する。武器の扱いというよりも人型との戦いに慣れる必要がある。黒騎士さんは身体が柔らかいのか、体幹が鍛えられているのか、或いは両方か、とにかく他に足を着けてその場から動く事なく私の攻撃を捌いてみせた。


「攻撃が素直だな。もう少し人を騙してみせろ」

「はいっ!!」


 ならどんな事が出来るだろうか。

 例えば蹴りに見せかけて殴るとかかな。余りにも単純で分かりやすいのは駄目だろうから蹴りにも威力を込めて、寸止めする。

 片足の上がった黒騎士さんの隙をついて腹部へと掌打を叩き込む。魔力による強化をしていたけれど、黒騎士さんも全身を強化しているから余りダメージらしいダメージは通っていない筈だ。


「悪くはない。悪くはないが、黒の魔人には届かないな」


 そう言うと黒騎士さんの魔力が形を帯びて更に鎧を着けた様な見た目となる。


「マリオネット第一段階……先に言っておくが、マリオネットは第三段階まであるぞ」


 黒い光が駆けた。

 夜黒くんの力で底上げされたこの身体でもその残光を捉える事しか出来ず、恐らく背後に来るであろう衝撃に備えて方向を変えたが、地面を削るように旋回して背後から殴り飛ばされる。


 読みは合っていた。

 けれど方向転換が出来るとは思わなかった。まるで一陣の風の様な速度を自在に操れるとは此方は知らない。七騎士の理不尽な強さを改めて体感し、魔術を極めていけばこんな芸当も出来るのかと思った。


 次の一撃が来ると思い込み、痛む身体に鞭を打って黒騎士さんの居るであろう方向を向くと上半身だけの侍の様な見た目をした化け物が黒騎士さんを起点に存在していた。


「読みは良い。だが眼も身体もまだまだ足りない。確か、フユミと言ったな。お前は速度を求めろ。攻撃力は後から付いてくる。今は速度を磨け」

「は、い」


 痛む。返事がまともに返せなかったが、痛がっている暇なんて欠片もない。


「特別に見せてやろう。マリオネット第三段階、その一部だ」


 右手に刀を、左手に盾を持った黒騎士さんを包む薄紫色の化け物。大きさは三メートルを優に越している様に見える。

 マリオネットが刀を振り上げ、そのまま振り下ろされそうになった時、私とマリオネットの間に赤い光が差し込まれる。


「オグニイェナ・マリア!!」


 以前見た様に炎で形成された女性が黒騎士さんのマリオネットの一撃を、今度はその手で直接止める。以前は炎と同化する様な止め方だったが、今回の方が出力が高いと見える。此方に伝わってくる熱も、かなり高温だ。


「黒騎士、殺すつもりか!?」

「死にはしないさ。もし死んだらそれまでだ」

「手加減をしろ。それともそこまで追い込まれたのか?」

「……中々良い子だ。今のまま育てば一年あれば抜かされるだろうね」

「全く……フユミちゃんもごめんよ、悪気はないんだ」

「いえ、寧ろそこまで評価されている事にびっくりです」

「私は嘘は吐かないよ」


 黒騎士さんとの体術訓練が終了し、後は黒騎士さんが相手にする紋土くんと行方くんの稽古を見た。さっき言われた眼を鍛える為に外から黒騎士さんの速度を見てみたが、その速さは遠くからでも視認するのが難しかった。

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