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これは“世界”を救う物語。  作者: 高平めめこ
召喚された十三人の勇者
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0-3-9 不吉な予感

 魔術訓練や体術訓練を交互に見学しながら空いた時間でお菓子を作る生活はついに二週間目となった。今日もそんな日が来ると思っていたが、緊急招集が掛けられ私を含む勇者全員と青騎士さん、赤騎士さん、クローディアさん、アルマさんが王宮に集められた。

 緊急招集の内容は各自己の武装を持って謁見の間にやってくる事。あまりにも物騒な内容だけれど、なんとなく私は察しが付く。だけどそれには余りにも早すぎる展開ではないだろうか。


「なんだろうね?」

「良くない事なのは確かだね」


 吉良々ちゃんと真紀ちゃんが小さな声で会話をする。

 勇者は勇者で、七騎士は七騎士で、クローディアさんはアルマさんとに別れ、それぞれの固まりとなっている。二人の声はクラスメイトにはギリギリ聞こえる大きさだ。


「黒の魔人が出たとかじゃないかな。俺達を呼ぶ理由はそれくらいしか思いつかないね」


 その言葉に須藤くんが応える。

 私もそうだと思ってはいるけれど、私を呼ぶ理由が分からない。私は非戦闘要員な筈なんだけど、何かあるのかな。


「生憎俺達は黒の魔人と戦える程成長はしてないがな」


 須藤くんの言葉に本城くんが応え、齋藤くんも頷いている。私の見た感じだとこの二週間でみんなは、特に男子は目覚ましい成長をしたと思う。女子も強くなったけれど、近接と魔術を扱える須藤くんを筆頭に男子は地球のアスリートも吃驚な身体能力を手にしている。

 それでも届かないと感じるのは世界最強の人達に指導されているからなんじゃないかな。そんなに黒の魔人が強大な存在なのだろうか。

 確かに、神様を経由してこの世界に召喚されたと考えると黒の魔人は所謂ラスボスだ。たった二週間で、実践経験もない高校二年生の日本人が殺し合いが出来るかと言われれば、それは漫画の世界の話だろう。


「ふゆみん、やーさんいないね」


 私は隅っこの方で静かにしていたが、秋音ちゃんが話しかけてくる。


「夜黒くんも忙しいんだよ。きっとその内会えると思うから、今日会えなくても――」

「ふゆみんはもっと自分に素直に生きなよー。やーさんに会いたくないの?」


 そんな事を言われたら会いたいに決まってる。クラスメイトと称しているけれど、この妹を含めて全員が別世界の人物なのだから。唯一同じ世界の夜黒くんに会いたくない訳がない。

 勇者達、というか私達はそれぞれ仲の良い人とヒソヒソと話しながらケーニヒ様が到着するのを待っていた。


「王の御前だ」


 エドワードさんがそういうと男子を前列に、女子を後列にして七騎士、クローディアさん、アルマさんの脇に並ぶ。この並びはエドワードさんが考案した正式なケーニヒ様の前で取る整列だ。


「此度の招集に応えてくれて有難く思う。要件は23代目クローディアが話す。前へ」

「はい」


 クローディアさんが数歩前へ出ると此方に振り返る。巫女の様な、それでいてゆったりとした袖や裾の服は流れる様にその動きに付いていく。


「王都から最も近い村にて黒の魔人による被害が出ました。現在は協会員を派遣して調査していますが、黒の魔人による被害を勇者様方に知ってもらう為、念の為七騎士二名と私が護衛に付いて現地に向かおうと思います」


 その一言で背中に冷たいモノが流れる。

 協会員って誰? 召喚の時に居たはずの夜黒くんが今日居ない理由はその為? 念の為に過剰とも思える戦力を派遣するのはそんなに黒の魔人が強いの?

 疑問は尽きない。

 だが私達が黒の魔人による被害を知らなくてはならないのも事実だ。後の話は上手く入ってこなかったけれど、どうやら今からその被害のあった場所に移動するらしい。場所は王都から出て一時間半の場所らしく、馬車が複数台だされるそうだ。


 王城を出て馬車に乗り込む。女子は七人いるから、三人と四人のグループに分けられた。七騎士とクローディアさん、アルマさんは護衛だから外に出ているそうだ。

 私は四人の方に配属され、中には濃松さん、魚沼さん、加祝さんがいる。


「それにしても、黒の魔人はなんで人を襲うんだろうね」


 馬車での移動は珍しいからと遠足に行く様なテンションになりながら濃松さんが話題を切り出す。

 確かに人を襲って何の得になるのかが分からない。大都市を占領して我が物とするでもなく、無差別に規模の異なる村を襲っていると聞いて、私達はあまりその脅威度を正確に認識出来ていない。


「人殺しが好き――なら昔の行動と辻褄が合わないよね」


 魚沼さんが自分の意見を自分で否定する。

 私達は黒の魔人に関する、この世界が得ている情報を開示されている。『忌み名』という指名手配犯である事や、かつては村を救ったりもしていた事は周知の事実だ。


「私達で、止められるのかな……」


 加祝さんが不安げに呟く。

 きっと彼女は黒の魔人という存在を恐れている。実際に体験した事ないのに、その怖さをなんとなく理解できるのが彼女の得意とするものだ。


「流石にこの人数で相手にすればなんとかなるでしょ」


 濃松さんがそう締めくくり、馬車の中は再び静寂が訪れる。此処に秋音ちゃんがいれば、と思うがない者ねだりは出来ない。

 あと少しで目的地に着くという時に、馬車に揺られるのも案外悪くないと思っていたらクローディアさんが先に行きますと告げて飛んで行ってしまった。七騎士からも青騎士さんが先行すると告げられる。


 少し遅れて目的地に着き、馬車から降りた私達四人、というか私を除く三人は直ぐに動いた。


「もしかして黒の魔人!?」

「冬美さんは私達の陰に!」

「魔力の展開とかしといた方がいいかな」


 どの馬車のクラスメイトもいつでも戦える様に構えている。赤騎士さんが警戒しながらクローディアさんと青騎士さんの進んだ方向に行く様に指示を出す。アルマさんは特に喋らないけれど、真剣な顔付きだった。


「前衛が出来る奴は前に、後衛は素直に下がれ。前に出られる程君達は強くなってない」


 襲われた村に到達すると死体が散らばっていた。

 人間のパーツが彼方此方に飛散しており、建物はまるで巨大かつ鋭利な刃物で斬られた様な壊れ方をしている。とても一人の人類種が引き起こした現場とは思えない。

 血の匂いや、多分肉が焼ける独特な香りに吐き気が催される。みんな顔を顰めているからコレの凄惨さは私だけが感じているモノではないらしい。


 村の奥に広がる森からクローディアさんが浮遊しながら出てくる。青騎士さんが出てこないのは見張りでもしているのだろうか。


「派遣した協会員――夜黒さんとの『念話』が途切れました。直接転移しようにも強力な結界に阻まれて中に入れません」


 やっぱり夜黒くんだった。

 クローディアさんでもどうにもならない結界なんてどうすればいいの? 夜黒くんはまだ生きてるの? なんで一人で行かせたの?

 嗚呼、また疑問が浮かび上がってくる。

 もしこれで夜黒くんの身に何かあったら私はどうなってしまうのだろうか。一つの怪我もなく帰って来てほしい。だって夜黒くんは生還した前例があるから。


 前例があっても、今回ダメかもしれないよ?


 冷静な私が最悪な質問をしてくる。

 今はみんなが森の結界前まで行く事になったみたい。心臓がバクバクとなり耳が音を拾わない。

 私は一番後ろに着いて足手まといにならない様にしなくちゃいけない。私に出来るのはお菓子作りと、稚拙な魔術だけだから。


 森の中に入り少し進むと、青騎士さんが斧槍を振るっていた。ソレは何かに弾かれている様で、中に何も通さない結界が広がっていた。


「どう攻撃しても揺らぎすら出来ない。魔術の域を超えてるよ」


 青騎士さんが諦めた様に呟く。


「やはり黒の魔人は魔法を使ってますか」

「クローディアさん、その魔法ってのは何々だ?」

「魔法は夜黒さんと私、もう一人が観測した魔術を超えた魔力行使の技術です」


 クローディアさんが魔法について語る。

 魔術を超えた技術なんて、危険な予感しかしない。


「通常魔力の圧縮臨界点は白色ですが、魔法による魔力圧縮はそれを超えた限界点があり、黒色に輝きます。資料に載せるには情報が少なかったので省略しましたが、その威力はただの魔力の爆発で既存の結界を何層も破れる程です」


 その言葉で私はもう既に泣きそうだった。

 夜黒くんは逃げられない結界を張られて七騎士がどうする事も出来ない魔法という技で戦われている。あんな凄惨な光景を見たら、夜黒くんもそうなってしまうのかもしれないと不安が募る。


 何か出来ないのか、打開策はないのか、そう考えていると青騎士さんがどうやっても反応しなかった結界が崩れ始めた。


「これなら!」


 赤騎士さんと青騎士さんが綻びに武器を差し込んで一刻でも早く結界を破壊して事の起点へと全員で向かう。

 森の木々に慣れない私達はなんとかその勢いに負けない様に走った。夜黒くんがそこに居るかもしれない。その一心で私は得意じゃない駆け足をした。


 そこには黒い球体があった。


「あれは――ッ! 下がってください!」


 クローディアさんが神域という謎の単語を呟くと黒い球体が上から崩れて行く。ガラスにヒビが入る様に崩れたソレから、やがて何かが見える。黒い尻尾でナニカを持ち上げ、黒い翼を生やしてそれを隠す若い女性が其処に居た。

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3月11日は投稿をお休みさせていただきます。

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