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これは“世界”を救う物語。  作者: 高平めめこ
召喚された十三人の勇者
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0-3-6 王城勤め

「勇者様はお好きな様にお過ごし下さい。人手は足りてますし、メイナードが抜けても問題はありません」


 メイド長と呼ばれる人がそう言う。

 メイさんと制服は変わらないけれど、黒い腕章みたいな物を付けている。メイド長の部屋に入る前にメイさんから小声で執事長は白の腕章を付けている事も聞けた。今日の朝会ったあの人が執事長なのかぁ。優しげな顔立ちで若そうだったけれど、キャリアはバッチリなんだなぁ。


「巻き込まれたとはいえ、フユミ様も勇者の一人。メイドと同じ扱いにする訳にはいかないので服は自由にしてもらって良いです。王城にやってくる貴族方の中には黒髪黒眼を良しとしないお方もいます。メイド服を着ていれば何か言われると思いますので、なるべく人目の付かない所を担当してもらいます。それでも、構いませんか?」

「はい!」

「それでは厨房の掃除などを頼みましょうか。料理人とも仲良くなれますし、人目に付かない。フユミ様には適した場所だと思います。メイナード、貴女はフユミ様と共に行動する様に。貴女の穴埋めは此方で手配するので気にしないように」


 その言葉を受けて。


「わかりました!」


 私とメイさんの声は重なった。

 多少ズレるかもと思ったが、ピッタリと重なり絶妙なハモリが生まれる。やっぱりメイさんとは良い友達になれそう。メイさんに習ってお辞儀をした後、部屋を退室する。


「メイド長から言われた通り、私が行動を共にしますね」

「はい、よろしくお願いします」

「それでは厨房まで向かいましょう!」


 メイさんに手を引かれ、厨房まで案内される。この歩く方向だと、王城の西端に厨房は位置しているみたい。自分の部屋から向かうとかなりの時間が掛かりそう。比較的西寄りのメイド長の部屋からでも十数分は掛かっている。

 改めて王城の大きさを感じる。時間があれば外から王城を見てみるのも悪くないかもしれない。その時メイさんは来てくれるのかな、それとも私の一人行動かな。


「ここが厨房です」

「料理人さんは白い制服なんですね」

「そうですね。女性はメイドの制服から黒のエプロンを取っただけですけどね」


 中では仕込みをしているのか様々な具材を切ったり焼いたりしている料理人さんが多数見える。王城に勤務する人達の料理をここで作っているそうで、メイさんも朝食は支給されているみたい。

 私と同じ物を食べたそう。王族はもう少し豪華な食べ物が出るそうだけど、調理のコストを下げる為にケーニヒ様、というか殆どの王族は同じメニューを食べるそうだ。


「それではどうしますか? 私達メイドの仕事だと厨房には入らずにここら辺の掃除になりますが……厨房で働きたいのであれば料理長にも話さないといけませんね」

「料理も気になるので、料理長さんに話が出来るならしたいのですが、メイさんの負担になってませんか?」

「とんでもない! これも仕事ですから。気を遣ってもらうと逆にやりづらいというか……まぁ、あんまり気にしないで下さい」


 メイさんが厨房の扉を開けると料理人さん達が一斉に此方を見るが、直ぐに仕事に戻る。

 今の感じだと来客は珍しいのかな。直ぐに仕事に戻るところを見るとプロなんだな、と思った。


 メイさんが厨房の端を歩いていくのでソレに従って後ろをついて行く。一番大きな調理台を一人で使用する黒の腕章を付けた人物が料理長なんだろう。

 見た目は筋肉質な大柄な人。整えられた髭がファンタジーのドワーフみたい。この世界にもドワーフとかはいるのかな。そういう亜人類にも是非会ってみたい……クローディアさんの耳が尖ってたからエルフだったのかな。今度聞いてみよう。


「料理長、お時間宜しいでしょうか?」

「……よし、終わった。どうした? おっと、勇者様もいるのか。初めまして俺はアテナ城の料理長だ。よろしくな」


 ワイルドな見た目だけどとても丁寧な人だ。

 名前は書かなかったけど、きっと名前を聞かれる事が少ないからかもしれない。確かに料理長は一人だけだもんね。


「四季冬美です。えっと、この世界だとフユミ・シキかな」

「それでメイドと揃って何用で?」


 こういう人なら真正面から話した方が早いかな。豪快な感じの人は迂遠な話し方は嫌う傾向にあるし……。夜黒くんも遠回りな喋りは嫌ってたなぁ。


「実は空いている調理台が有れば借りたいんです。余った材料で簡単なお菓子とか作りたいと思って……」


 その言葉に料理長さんは少し考えた様子を見せる。確かに勇者の一人とは言え厨房を無条件に貸すのは無理があったかもしれない。もう少し自分の立場を考えないといけないかもしれない。私はどこか浮かれていた部分があった気がする。


「……時間と材料を貸してやるから一つ菓子を作ってみてくれ。流石に無駄にされるのはこっちも困るんでな」

「はい! メイさんは材料が何かの説明をしてくれますか?」

「余程特別な物でもない限りは私にも分かるので……それではフユミ様、頑張りましょう!」


 場所は料理長の隣の調理台を貸してくれるみたい。普段は此処も使うそうだけど、いきなり用意できるのは此処くらいしか無かったそう。

 王城での料理人募集はかなりの倍率らしく、働きたい人は他国にも居るそうだ。アテナ王国が凄いのは知識で知ってたけれど、そんなに此処は魅力的な職場なのね。


「どれが砂糖かなぁ」

「これですね」


 メイさんが調理台に置かれる砂糖を取って渡してくれる。塩も少しだけ皿に出しておく。


「バターは……」

「二種類ありますね」

「どっちが日本に近いかな」

「少し切り取って食べてみては?」


 色はどちらも黄色だ。右の方が若干薄くて、左の方が若干濃い。食べてみると色の通りというか、分かりやすく味が違ったがどちらも日本らしくはないから、混ぜて使う事にした。

 そこまでバターに拘りはないけれど、これから厨房が使えるかの試験なら手を抜く訳にはいかない。


「小麦粉は――」

「五種類ありますね。どうしますか?」

「うーん……」


 どれが良いかなぁ。小麦粉なんて日本じゃあんまり拘ってないけれど、五種類もあるならどれかが何かに適した物なんだよね。


「メイさんはクッキーを作る時どれを使いますか?」

「そうですね……これでしょうか」


 渡された小麦粉をボウルに出す。見た感じ薄力粉な感じがするし、間違いではなさそうかな。最悪違ったら、日を改めてまた挑戦だ。


「卵は……」

「赤と白と青がありますね」

「ここは青を使ってみようかな」


 日本らしさに拘ってはいるけれど、異世界の人の好みもある。あまり日本らしくしては受けが悪い可能性もある。現地の材料だからそんな事は起こらないとは思うけど、一応念のために、というやつです。

 ここはオーソドックスに卵黄のみで調理していきましょう。卵白は……勿体ないけど今日は使わないから取っておこうかな。もし使わせてくれるならメレンゲに使うかもしれないし。最近品質を低下させない貯蔵庫が発明されたみたいだから、そこに入れておこう。


「アーモンドパウダーがあればいいのですが……」

「アーモンド?」

「ナッツの一種なんですけど、お菓子作りに入れたりするそういうのありませんかね」

「ああ、それなら此方だと思いますよ」


 茶色の粉がでてくる。やや粗く製粉されているから、食感を良くするのに適していそう。色はこれで着いちゃうかもしれないけれど、茶色でもいいかな。


「よーし、後は作るだけだー」


 材料を目分量で混ぜていく。お菓子作りはきちんと測った方がいいけれど、ここまで素材が揃えば目分量でもどうにかなる程度には作ってきてる。デジタルな機械がないなら自分の手で測るのが一番しっくりくる。


 適当に作業をして、クッキー生地が出来上がる。


 麺棒もあるみたいだからそれを使って薄く延ばす。かたぬきを探すと丸い型抜きがあったからそれでクッキーを型取っていく。縦四横四の計十六個が出来上がり、オーブンに入れる。

 するとオーブンが勝手に起動する。メイさんは中に入れた物を適切な温度で焼き上げると言っていた。変なところは便利だなぁ。


「焼き上がりまでどのくらいかなー」


 多分十二分くらいで出来上がるかな。

 それまではオーブンの前で待つしかない。


「フユミ様はお菓子作りに手慣れているのですね」

「うーん、この世界だと分かんないけれど前の世界では沢山作ってましたからね」

「……あ、そろそろ焼き上がりそうですよ」


 チンッという音が鳴る。もしかして地球の人が開発に関わってたりするのかな。


「出来ました〜」


 出来立ての荒ぶってるクッキーも、それはそれで美味しい。冷ましてから食べるのも良いけれど、出来立ても悪くはないのだ。


「どれ、一つ頂こうかね」

「あ、はい! どうぞ!」


 料理長さんが食べると私とメイさんはその様子を見守る。二人してドキドキしてると思う。

 料理のプロは私のお菓子を認めてくれるだろう。


「悪くないな」

「本当ですか!?」

「ここ、貸してやるから暇な時は来な。その前に材料の勉強が先だろうけどな」


 メイさんと顔を見合わせてハイタッチをする。

 これで夜黒くんとクラスメイトにお菓子を作れる様になりました。良かったぁ。

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