0-3-5 探り探り
昨日の夜色々考えたけど答えは見つからなかった。けれど、訓練に参加したら何か見つかるかもしれないから今日の魔術訓練には出席してみようと思う。クローディアさんも参加するのは自由だって言ってたから参加するのは悪い事では無いと思いたい。
なるべくみんなの邪魔にならない様に隅っこの方で大人しくしておこうかな。昨日の感じだと適正の高い人が来ると思うから訓練の進行を遅らせるのは、憚られる。
あれ、でも魔術訓練ってどこでやるんだろう。
昨日クローディアさんはどこでやるかまでは言って無かったはず。王城でやるのかな。
部屋に置かれた時計は朝の五時。こんなに早い時間からは始めないと思うから遅刻はしないと思うけど、呼び鈴でメイさんに聞いてみようかな。
呼び鈴を鳴らすと扉がノックされ、どうぞと声を掛けるとメイさんではない燕尾服の白い腕章を付けた執事さんがやって来る。
どうやらこの時間帯はまだ夜勤の時間らしい。メイさんが来るのは八時になってからだそう。
「今日行われる魔術訓練ってどこで行われるんですか?」
「朝の担当がソレを告げる様にと言われてましたがフユミ様はこんな時間に目覚めてはきになりますよね。魔術訓練の場所は王城ではなく魔術協会で行われるのですが、案内はクローディア様がして下さるそうですよ」
ここでやる訳ではないのね。
魔術協会が何処にあるのかは分からないけれどクローディアさんが案内するなら案外近くにあるのかもしれない。それか夜黒くんみたいに魔術で移動する可能性もある。
「分かりました。ありがとうございます」
「いえ、それでは失礼します」
朝の担当さんが連絡するなら一番早くても八時に連絡が来る事になる。あと三時間もあるけれど、何をして待ってようかな。
昨日は結局寝ちゃったから少しだけ今後について考えるのも悪くないかもしれない。みんなは魔術師か騎士になれるけれど、私はそんな力は持ってない。他の人よりも沢山考えないといけない。王様は直々に何をしても良いと言ってくれた、だけどそれに甘えるのは、何というか性に合わない。
とりあえず私に出来る事は今のところ何もない。
普通の娘と変わらないのが現状だけど、それでも出来る事はあるだろうか。
例えば魔力を操作してみる。
オーブに魔力を込められた様に私達は魔力の動かし方というモノを理解させられている。コバルトさんのお陰で出来る事だけど、やってみないと分からない事もある。
魔力の操作は簡単で、私から黒い魔力が立ち昇る。ソレを一箇所に集めて、魔術をイメージするけど……魔術を習ってないから何が出来るのか分からない。知識はあるから、ちょっとだけ試してみようかな。
魔術と魔法には明確な違いがある事も分かっている。魔術は世界に広く知られる技術の大半の事であり、世界では魔法とも呼称される事もあるそうだけど、魔法はただ一人にのみ許された専門技術だそう。
コバルトさんのくれた知識ではその程度しか分からないけれど、私達が使っている魔力操作などは魔術に分類されるらしい。
魔力を集めるって、結構大変。
私の魔力は黒い。身体から漏れ出る魔力を一箇所に集めるのがこんなに大変だなんて思ってなかった。これは確かに魔術の適正は低いと見ていいかもしれない。
なんとか時間を掛けて集めた魔力。どうするかは考えてなかったけれど、周りに被害が出ない程度の魔術って考えると、何があるかな……。
「うーん、と……発火!」
適当に集めた魔力に炎のイメージを念じる。
すると想像してたよりも遥かに大きな発火が起こり、下手をすれば部屋が火事になっていたかもしれない。私でこれなら他の人達はもっとすごいんだなぁ。
黒の魔人がどれほど強大な存在なのかは分からないけれど、少なくとも私ではどうにか出来る存在ではないのは確かだ。
「うーん、水だったら大惨事だったなぁ」
魔力操作は出来るだけであって、これを極めれば少ない魔力量でも十分な魔術となる、らしいが……私が前線に出ることは無いだろうからこれは却下かな。
折角やってみたけど私より適正の高い人は多くいる。それなら魔術訓練に出るよりもお城のお仕事を手伝えばいいんじゃないかと思った。
これは、名案かもしれない。
夜黒くんは春夏秋冬家の長男。春夏秋冬の家は特別な仕事を国から請け負う、知る人ぞ知る名家だ。当然優れた教育を幼い頃からしていて、許嫁もいる。それが私。
四季家は春夏秋冬家と昔から仲が良いだけの、季節的な名前の繋がりだけの関係だけど同学年に私と夜黒くんが生まれた事で許嫁が私に決定した。その為幼い頃から習った家事全般は普通の人より優れていると思っている。
「メイさんに聞いてみようかな」
チラリと時間を見れば六時半くらい。
魔力の操作は意外と時間をかけていたみたい。
「八時まで暇ですね……」
何をして時間を潰そうかな。朝の連絡があるから八時までには部屋に居ないといけないと思うから、それまで何をして過ごそうか。
こういう時夜黒くんなら、きっと王城探索とか言うのかもしれない。近場を見て回る分には八時までに部屋に戻れると思うし、悪い事はしないから堂々と見て回ろう。美術品とか有ったからそれを見るのも楽しそう。
早速部屋の外に出たけど、どっちに行こうかな。
迷子になったら困るし、右手に進んでみますか。帰る時も同じ手で帰れば良いしね。夜黒くんはよく新しい場所に行くと右手側から回ってたなぁ。
「壁も高そう……本物の銀細工かな。金じゃなくて銀なところにセンスを感じる、気もする」
壁伝いに歩いていると早速一つ目の美術品を発見。青と白の焼き物かな? 壺で、一輪だけ花が生けてある。見たことのない花だからこの世界特有の花なのかもしれない。
花の香りはしない。だけど紫の花が鈴蘭の様に挿してあるのは何か意味があるのだろうか。少なくとも渡された知識の中にこんな物はない。つまり生きていくのに必要ではない、という事だろうか。
「うーん、美術品は日本でも見たけど私には分からない領域だなぁ。作品の良し悪しってどこで見るのかな。夜黒くんならきっと――」
――そんな物よりあっちに猫がいるそうだ。行ってみないか?
「こう言うだろうなぁ。夜黒くん猫には優しいから」
この世界にも猫はいるのかな。王城だと動物の飼育は禁止されてるのだろうか。もし飼えるのなら飼ってみたい気持ちもある。夜黒くんと二人で一匹の猫に名前をつけて、それから一緒にお昼寝したりして。
私は夜黒くんの魂があるからっていう結構不純な理由で此処に来たけれど、こんなに早く会えるとは思ってなかったからいつもより浮かれてる気がする。落ち着かないと。
「他には何があるかなぁ〜」
続いて歩いて行くと一つの絵画に辿り着く。
一人の女性が灰を謁見の間に広げる奇妙な絵画。書かれているのは確かに私達が居た謁見の間だからいつかの時代の誰かの視点を描いた絵なのだろうか。
こういうのって裏に描いた年とか書いてありそうだけど、額が豪華だから触りたくない。傷を付けたらとんでもない値段でした、なんて事もあるかもしれないから怖くて触れない。
二、三歩下がった位置で鑑賞してみたが、謁見の間の奥に座る人はケーニヒ様じゃないし、勿論エドワードさんもいない。もしかしたら、なんて思ったけどこの絵の中にクローディアさんはいない。
うんと昔の状況を模写したのだろうか。デジタルな感じではないけれど、精密に描かれている。
「うーん、背景とかは少し今より新しい感じがするから結構昔なのかなぁ。いつ誰が何を描いたのか分かれば楽しめるんだけどなぁ」
絵画も私には良く分かりません。春夏秋冬家の嫁になる為にしたのは本当に家事全般なのだ。こんな教養はもちあわせていないし、異世界の芸術にも明るい人はそうそう居ないと、思いたい。
「次は――」
ここで王城から、というかどこかの鐘が音を鳴らす。きっとこれは八時の合図だ。二つしか見れなかったし、そんなに時間を掛けたつもりはないけれど、時が経つのは早いものです。
ちゃんと来た道を戻ると部屋の前で台車の隣で固まっているメイさんを見つけた。
「おはようございます、メイさん」
「あ、フユミ様! 返事がないから困ってたら、外に出ていたんですね」
「早起きしちゃいまして、廊下の観察をしてました」
部屋への扉を開けて貰い、中に入る。椅子があるから私はベッドに座ったが、メイさんは立ったままだった。座っていいのに。
「お食事になります」
「あ、ありがとうございます」
白いパンにビーフシチューの様な汁物。付属する食器はスプーンのみ。
作法は知らないけれど自由に食べていいならパンを千切ってビーフシチューに付けて食べていく。本当のコース料理ではそれ一品が完成しているからこんな真似はしないって何処かで聞いた気がするけれど、スプーンしかないならコレは間違っていないと思いたい。
なんでコバルトさんはこういう知識をくれなかったのかな。人前で恥をかかない知識も欲しかったよ……。
「お聞きしましたが、魔術訓練に参加されるんですか?」
全て食べ終わり、メイさんが食器を下げながら質問してくる。申し送りとかちゃんとしてるんだなぁ。
「しようと思いましたが、私に魔術は合わないのでお城のお手伝いをしようかなと。これでも家事は一通りできるので、教えて頂ければ少しは役に立つかな、と」
「……メイド長に聞いてみましょうか」
勇者を働かせて良いのだろうか、という間を感じたけれど私にはそれ位しかやる事がないので構いません。大人しくメイド長の所まで案内して貰いました。
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