0-3-4 一時
女中さんに連れられる事で王城の入り口に着いた。
私の部屋から歩いて十五分くらいの距離で、道中は高そうな物が沢山置かれていて、自然と真ん中を歩いていた。王城って凄いんだなぁと思った。
「此処を出て行けば正門ですので。お帰りは何時頃でしょうか」
「えっと……」
「分からなければ分からないで結構です。衛兵の方が案内して下さると思うので」
「はい。それじゃあ、行って来ます」
「お気を付けて」
お城の外に繋がる門を通ると正門が目に入る。
そこには黒い外套に身を包んだ夜黒くんが立っていて、駆け寄る。いつから待ってたのかな。もう日が暮れてから大分経ってる気がするけど。
「夜黒くん……」
この呼び方で正しいのだろうか。私はちゃんと貴方の知ってる四季冬美で良いのだろうか。
疑問はあるけれど、夜黒くんならきっとそれに応えてくれると、私は思っている。これから話していけば何か掴めるのかもしれない。
「やあ、冬美。ここじゃあなんだから、場所を移そう。衛兵さん、また来るよ」
「お気を付けて」
衛兵さんと仲が良いんだなぁと思っていたら手を握られる。私の知ってる夜黒くんの手より少しだけ硬くて、筋肉のついた手の感じだった。
すると一瞬で、ベッドと机の置かれた簡素な部屋だけど、何かしらの資料が沢山置かれた部屋に景色が変わる。
「これが、魔術……」
日本でならばあり得ざる技術だ。
転移、でいいのだろうか。クローディアさんから色々習うのは明日からだからこの魔術の凄さはきっと明日知るのかもしれない。
「酔ったりしてないか? こういうのって酔うパターンとかありそうだけど」
「ううん、大丈夫。夜黒くんは、魔術の適性が高いの?」
「まあ、人並みって所だ」
嘘だ。
夜黒くんは嘘を吐くとき、決まって視線を合わせてから直ぐに外す。その癖は変わらないんだね。
言ったら直してしまうだろうから私は絶対に言わない様にしている。この夜黒くんと関わってきた私も同じ考えだったみたい。
私が落ち込めば、少しは分かるかもしれない。夜黒くんはちょっと人の事を考えない所があるから、私を思って、逆に傷付けるなんて事もよくある。
「私は……普通の人と変わらないって言われた」
「気にする事はないだろ。冬美は菓子作りとか得意だから城で菓子でも作ってみんなを待てばいい。それも、立派な務めだ」
騎士の才能も無い事が分かっているのか夜黒くんはそんな事を言ってくる。多分、傷付いて欲しくないとか思ってるのかもしれないけれど、私としては勇者として守る為に来たのに、守られる側に回っては意味がないのに。
でもなんだか、この夜黒くんは私の知ってる夜黒くんな気がしてきた。こんな簡単に信じられるなんて思ってなかったから、少し不思議。
「突然だが冬美は、そうだな――生まれつき黒髪黒眼か?」
「えっと……」
聞きたい事は分かるけど、言葉に窮してしまう。
「質問を変えよう。黒髪黒眼が基準の世界線から紛れたのか?」
変わってない気もするけれど、夜黒くんも私が夜黒くんの知る四季冬美だと確信を得たいのもしれない。
そうだよね。髪の毛とかがカラフルになった私達を見れば、私以外の私も当然考えられる。ここは何も隠す必要もないから素直に話さないとだね。
「……うん。起きたらみんな漫画みたいな髪の毛で、それに夜黒くんがトラックに轢かれたって。秋音ちゃんは前日に鮫太くんみたいに突然消えたって言ったのに、次の日にはトラックに轢かれたそうだなんて言って、私にはもうなんだか分かんないよ」
とりあえず纏まってないけれど私の持ってる情報を全部夜黒くんに伝える。夜黒くん自身は秋音ちゃんの隣で消えてる訳だからトラックに轢かれた夜黒くんならこの人は私の知らない夜黒くんになる。
どんな答えが返ってくるのか、怖いけど、気になる。もし私の知ってる夜黒くんならこんなに嬉しい事はない。鮫太くんもこの世界の何処かにいる事になる。それなら秋音ちゃんもやる気が出るかもしれない。
「秋音の前で何人も俺が消えるとは思えないからな。貴女の恋人の、春夏秋冬夜黒だよ。もう三十一歳になったけど」
秋音ちゃんの前で消えてくれた、私の知る夜黒くんで良いんだね? 私はもう貴方しか頼れる人なんていない。クラスメイトも実質他人だから、夜黒くんがそう言ってくれて、私は少し泣きそうになったけど、最後の一言にびっくりした。
「おじさん?」
その一言に夜黒くんが顔に手を当てて深いため息を吐く。
あんまり言ってはいけない話題だったのかな。でも私より十五歳も年上になったのに、見た目はあんまり老けてないのは美容に気を使ってるのかな。夜黒くんだからそれはなさそうだけど。
「やめてくれ、クローディアさんから結婚しないのかとか言われてるんだから。そっちは俺が消えた翌日みたいだな。世界間で時間の流れはこんなに違うのか」
そんな事言われてるんだ。
私はてっきり夜黒くんとそういう仲になってると思ってたから少しだけ意地悪に返答しようと決めた。
「クローディアさんて、あの巫女みたいな人だよね。一緒にいるから、私の事忘れたのかと思って――」
「俺が責任を負うのは冬美との付き合いだけだよ。それ以外は考えられない。三十越えたおっさんになった今もそう思ってる」
鮫太くんとの間で口癖にみたいに言ってた言葉。ちゃんと付き合う事になってから言うようになったその言葉に、つい私は夜黒くんの事を抱きしめてしまった。
普通なら私なんて忘れて他の人と結ばれておかしくないのに、この人はそれでも私の事を想ってくれてる。喪失感からの思いがけない再会で、もう私は感情がどうにかなってしまいそう。
数分間静かに抱きついていたけれど、段々恥ずかしくなってきた。顔が熱くなるのが分かる。
チラリと夜黒くんの事を見たけど、表情に変化はない。だけどこれは残念に思ってる顔だ。きっと、そんなに時間は取れないんだね。
「さて、あんまり勇者を拘束するのも外聞が悪い。さっきみたいに送るよ」
あ、そっか。
私が外に出てるのは王様の耳にも入るから、夜黒くんの事情っていうよりも、私の身を案じての事なのね。
「また会える……?」
「勿論」
夜黒くんに手を握られ、再びさっきの魔術で王城の正門に飛んだ。絶対夜黒くんは魔術適正高いよね。
さっきの衛兵さんが突然現れても表情を変える事なく出迎えてくれる。ドッキリとか仕掛けても不動な感じだ。
「ヤクロ殿、お早いですね」
「お互い知らない仲じゃないからな。聞きたい事は今の所一つだったし」
「成る程、それでは私は勇者様を案内しますので」
衛兵さんに連れられて王城に向かう。後ろを振り向くと夜黒くんが手を振っていたから振り返した。
「ヤクロ殿とは恋人なのですか?」
「え! えーと……」
いきなりの事で返答に困ってしまったが、この衛兵さんはそれで察したのか笑っている。
「あはは、ヤクロ殿は魔術協会でも人気のあるお方ですが、浮ついた話を聞かないのはこんなに可愛らしいお方と結ばれているからですか」
「え、衛兵さん!」
「城の門を守る者として様々な人の関係は抑えておきたいだけですよ」
むぅ。
「あんまり人の事について調べると、バチが当たっちゃいますよ」
「ははは、それは困った。暫くは大人しくしておきましょう。それではこれより先は執事かメイドが対応してくれると思うので、私はこれで」
「はい、ありがとうございました」
衛兵さんが鎧をガシャンガシャン鳴らしながら門へと帰って行った。それを見送ろうとしたが王城の門は勝手に閉まり、私一人が残される形になった。
「あ、呼び鈴」
鳴らそうとした時、左の廊下から誰かがやってくる。メイさんだったら嬉しいけれど、そんな都合の良い展開はないかなぁとか思っていたら。
「フユミ様、お帰りなったのですね。部屋まで案内しますよ」
「あ、メイさん」
なんとメイさんでした。
部屋まで案内してくれるそうだから素直に従って、メイさんの後ろをついていく。
「夜の勤務はまた別の人になるので、運が良かったです。私も後少しで帰宅、というか別棟に行く所だったので」
「お仕事作ってしまって、ごめんなさい」
「気にしないで下さい! 私達使用人は楽しくやらさせて貰ってますから。勇者様のお友達になるって意気込む子もいるくらいですよ」
そんな人も居るんだ。
だけど私は巻き込まれただけの一般人。勇者の素質がない、ただの弱い娘。夜黒くんとはまだ付き合ってるって認識で良いのかもしれないけれど、それは何の力にもならない。
私が何かを出来る力が無くてはこの世界ではきっと生きていけない。だからメイさんには少し申し訳ない。勇者じゃない、所謂ハズレ枠を担当して貰うのだから。
「私は……」
「フユミ様はフユミ様にしか出来ない事があると思います。巻き込まれたというのはとてもお辛い事だと思いますが、とりあえず目につく事をやってみるのも良いのではないでしょうか」
「……そうですね、何か見つけてみようと思います」
メイさんと話していたらいつの間にか部屋に着いていた。メイさんは綺麗なお辞儀をして去って行った。部屋にあるベッドに倒れ込んで今後どうしようかを考えていたら、いつの間にか眠っていた。
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