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これは“世界”を救う物語。  作者: 高平めめこ
召喚された十三人の勇者
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0-3-2 勇者になった日

 コバルトさんが言った通り様々な知識が頭に流し込まれる。まるで夢を見てるみたいな感覚で、ちょっと不思議。

 流れる様に知識が入ってくる時間は終わり、なんだか冷たい床に寝転がっていたみたい。起き上がると巫女みたいな人とその後ろにフードを被った人、後はなんだかローブみたいなのを着た人が立っていた。


 神様からの恩恵で基礎的な身体能力の向上と魔術適正の向上がされてるのは知識で分かるけど、あんまり身体が軽くなった様な感覚はない。そんなものなのだろうか。それとも私だけなのかな。


「ここが異世界なんだ……」

「冷たい、牢屋?」

「地下室みたいだね」


 みんなが口々に無事を確認しているのが分かる。

 強制的に奴隷みたいな扱いを受けるとかだったら困った物だけど、コバルトさんがくれた知識ではこの世界で奴隷は少ないみたい。一応これも「勇者召喚」という異世界転移に分類されるみたいだし、悪くは扱われないと思う。

 これからどういう事をしていくのかは大体分かるけど、それは大まかなレールでしかなくて。私達が直近ですべき事は何一つとして分かっていない。ゲームみたいに「勇者よ、魔王を倒してくれ」と言われても魔王の情報なんてこっちは知らない。

 なんて事を考えているとみんなが私達を召喚したかもしれない法衣の少女に目線が行っていた。周りに本が浮いてるから魔法――この世界では魔術だった。そんな力がこの世界では当たり前なんだと確認出来た。


 みんなどうすべきか迷っている。こういう時って普通向こうから「ようこそ勇者諸君」とか言われないものなのだろうか。それともこっちから何か言うべきなのかな、チラリと須藤くんの事を見ると、一歩前に出て真っ直ぐに姿勢正しく法衣の少女に向き合っていた。


「コバルトって神の言う通りなら、此処がアテナ王国、でいいんですか」


 法衣の少女が何かを口にしようとした時、フードの人が前に出てくる。そのフードを取ると、私達――少なくとも私には見慣れた人が、少し背が高くなって登場した。

 変わらない姿、少なくともトラックに轢かれてこっちの世界に来たとは思えない前世のままの姿。コバルトさんは魂ならあるって言ってたから姿は変わってるものだと思ったけど、見間違えるはずなんてない。


「や、夜黒!? 神様は確かに居ると言ってたが、まさか此処で会えるなんて思ってなかったよ。トラックに轢かれたって聞いた時はびっくりしたんだ」


 夜黒くんだ。

 でも、あの人は私の知る夜黒くんでいいのかな。

 私は知らない間に、眠っただけなのに別の世界みたいな、パラレルワールドに来たのに、彼が私の知る夜黒くんであるなんて偶然はあるのかな。


「……そうか。だが俺はこうして元気にこの世界で生きてるよ。冬美、時間があれば話したい事がある」

「え、あ、はい」


 咄嗟の事に返事が短くなってしまった。

 まだしゃべりたい事はあるけれど、今此処でする様な話でもないし……夜黒くんもこうやって関わってるって事はいつか話せる機会は来ると思って良いのかもしれない。

 背が伸びてるし、少し老けたかな。夜黒くんはこっちの世界に来てどれくらいの時間を過ごしてるのかな。こんな大掛かりな事に参加出来るなら二、三年は居るのかもしれない。


 考えごとをしてたら須藤くんが進行の為に声を上げた。


「此処から先は俺達も理解してないんだ。夜黒と、そこのお嬢さんとお兄さんが案内してくれるのかな?」


 そういうとローブの人が前に出てくる。


「私はアテナ王国宰相のエドワード・スプラウト。エドワードで構わない。君達勇者を管理するのは我らが国王様であるが、基本は私から命令を下す。命令以外では自由にして貰って構わない。縛り付ける理由がないからな」


 法衣の少女と夜黒くんは横にズレて黙って聞いている。夜黒くんのあの顔は真面目に聞いてない時の顔だ。多分聞こえてすらいないか、自分で簡潔にまとめようとしてる。十数年の付き合いだから分かる。あれは、そういう顔。


「俺達の目的はなんなんですか?」

「君達の目的は『黒の魔人』を討滅することだ。黒の魔人はこの世界で忌み名として広く知れ渡っている。忌み名という制度について君達は理解しているかな」


 コバルトさんが事前にこの世界での一般常識はくれたから問題はないけど、私の黒髪黒眼はどうなるのかな。一部では嫌われてる要素の一つみたいだけど……エドワードさんが何も言ってこないなら安心していいのかな。


「許されない行為を沢山したら忌み名をつけられるくらいとしか認識してないですね」

「それで構わない。黒の魔人は幾つもの村を滅ぼしている。初代クローディアが人類の指針を決めて以来こんな悪行は初めてだ。故に君達を召喚した」

「エドワードさん、少し時間を貰ってもいいかな」

「構わないよ」


 そう言うと須藤くんはこちらに向き直る。

 すると斎藤くんと本城と話始める。クラスのリーダーがこの世界に来てくれたのは心強い。きっとこの三人が主役となって黒の魔人を倒すんだろうなぁ。


「どうやら死ぬかもしれないって言うのは本当らしいな」

「とりあえず聞きたい事は何かあるかな。みんなの意見を聞きたい」


 そう言うと私や秋音ちゃんの近くにいた金糸雀色の髪をした吉良々ちゃんが声を上げる。彼女もこの転移した人達の中では発言権を持ってる人だ。秋音ちゃんもそうだけど、私はそういうのが苦手だから、尊敬できる。


「今後の方針と、私達が今日すべき事は聞いておきたいな。勇者を必要とする世界が悠長に何かをさせてくれるとは思えないから」

「そうだね、ならそれを聞こうか」


 再び須藤くんがエドワードさんの方を向く。もう彼が私達と異世界の人を繋ぐポジションを確立している。リーダーシップってこういう事を言うんだろうなぁ。


「これからの事と、今日何をすべきか聞いても良いですか?」

「勿論。それは此方からも説明しようとしていた。これから君達が先ずする事は国王様との謁見……と言っても謁見の間で魔術適正を測る程度だ。国王様は一言述べられたら退室なさるだろう」

「何か礼儀作法は必要でしょうか」

「その場に立っていればいい。余計な貴族は入れていないから、余程愚かな行いをしなければ問題はない」


 そこで一つ区切りが生まれ、エドワードさんは私を見る。


「そこの黒髪の少女はフユミと言ったな」

「は、はい」

「君に向かって馬鹿な発言をする者はいない。気楽にしてくれて構わないよ」

「あ、はい。ありがとうございます……」


 良かったぁ。夜黒くんはフード被ってたから少し心配してたけど、宰相のエドワードさんが言うなら大丈夫かな。宰相ってなんだか偉そうな響きだし、こっちの世界通りなら総理大臣みたいなポジションだよね。


「話を戻そう。これから君達は七騎士やクローディアといった世界最強を名乗る存在から指導を受けてもらう。戦闘訓練は明日より行うが、苦手な者や魔術適正によっては柔軟に対応する」


 戦闘が苦手ならちゃんと別の道も考えてくれるのね。余程劣悪な環境で育った日本人でもない限り戦闘なんて経験した事ないから、これは有難い措置かもしれない。

 須藤くん達も話を頷きながら聞いてるから、分からなくなったら彼等に聞こう。夜黒くんならきっと情報は大事だって言うと思うし。

 私は、そうだなぁ……回復役とかになれれば良いかな。戦うとかは想像出来ないし、そういうのは秋音ちゃんの方が得意だろうし。私に出来る事を頑張ろう。


「その後は各々の得意を伸ばし、機を見計らってダンジョン攻略をしてもらい、その繰り返しで黒の魔人を討滅してもらう」


 ダンジョンもコバルトさんからの知識で分かる。アテナ王国には近いダンジョンが幾つかあるみたいだけど、簡単とかは冒険者ギルドが発行した調査結果を基にして分けてるのだろうか。

 なんだか一時期役に立たない人が一人だけダンジョンに取り残されて成り上がるみたいなストーリーを読んだ気がするけど、そんな事は起こらないよね。ダンジョンは攻略されても有用性はあるみたいだから、きっと起きないと思いたい。


「それでは謁見の間へと案内する。私について来てもらおう」


 エドワードさんが移動するとみんなが自然と階段を登っていく。なんとなく最後尾になった私だったけど、夜黒くんから紙を渡される。日本の紙とは違って厚みのあるゴワッとした紙でなんとなく異世界要素をみんなより先に手に入れた気分だ。

 突然の事だったけど取りこぼす事なくソレを受け取って遅れる事なく集団に着いて行った。チラリと後ろを見ると夜黒くんと巫女服の少女が話していて、なんだか胸が少し痛い。夜黒くんは、もうこっちで素敵な人を見つけちゃったのかなぁ。

 なんだかモヤモヤしながら、私は後に続いていった。

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