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これは“世界”を救う物語。  作者: 高平めめこ
ヒトトセヤクロトイフモノ
68/260

0-2-61 エンカウント

 英雄アルマの実力をその身で体験してから二週間が過ぎた。この間に勇者達はこの世界についてと得意な武器や魔術をその道の最高峰から学び、転移の恩恵をフル活用してそろそろダンジョンに挑もうとしている、そうだ。

 俺も少しだけ関わったが、本当に一日だけ関わって、調子はどうだとか、魔術のコツとか、冬美の現状とかを聞いて終了した。


 そんな俺は今、メンヒさんと二人で黒の魔人の被害にあった村を訪れていた。東大陸一の面積を有するアテナ王国は辺境に行くほど村の数や森の面積が増える。だが此処は王都に一番近い村。王都に仇なす可能性もあるという理由で先んじて調査に来てる次第だ。


 もう少しすれば黒の魔人による被害を見る為にこの村に勇者達とクローディアさん、手の空いてる七騎士の誰かとアルマが来るであろう、そんな感じだ。


 ここ最近――といっても数年は村を救うなんて事はなく、壊滅させている。生き残りも少なく実際は報告よりも大きな被害が出ているという見解がギルドや協会でも出ている。大きな都市ではなく、小さな村を狙っているが、騎士を複数人派遣した村も壊滅しているから小悪党なんかではない。

 今や黒の魔人はこの世界で誰もが知る魔王の様な存在となっており、民間の間でも悪い子は黒の魔人に襲われるなんて言われてるくらいだ。


「残滓は、あっちの方向が濃いな」

「ヤクロ殿、子供達が言うには魔力を消して移動している可能性が高いらしい。追跡は困難だろう」

「確かに、ある程度進むと残滓は消えてるな。漆黒だから転移なのか飛翔なのか分からないが、奴は自在に好きな所に転移出来る感じだったし……どこにいるのやら」


 とりあえず被害に遭った村の死体を丁寧に埋葬して、一度手を合わせてから、村の近くにある森の中に入る。もしかしたら此処で、なんて事もある。その時はクローディアさんに念話して全力の足止めを敢行してクローディアさんとアルマの二人の到着を待つ形になる。


 森の中に荒らされた形跡はなく、此処も潜んでいる場所では無さそうだ。黒の魔人が居れば、ある程度荒らされている事が多い。残滓も残っており、魔眼で見れば一発で分かる。あいつの魔力はどこまで行っても漆黒にしか染まらない。

 そう考えていると、肌が何かを感じ取る。違和感の様なモノで、何かを考えようとメンヒさんに声を掛けようとしたが、メンヒさんが一本の低い木を指差す。


「ヤクロ殿、あれを」


 木につる下げられたコート。

 間違いない、黒の魔人のコートだ。俺があの時上げた神からの贈り物。見間違える筈がない。


 念話でクローディアさんに連絡しようとしたが、発動しない。こういう時にも備えがあるが、果たして機能しているかは運に任せるしかない。そして、その場からできる限り離れる。


「なんだ、避けるのか。コートに気を取られて――なんて事を期待したが、なに、やっぱり意味がないだと? いいじゃないか、やってみても」

「……同じ手は喰らわない」

「もう夜黒が生きてる意味はない。だから精霊王と一緒に死んでもらう」


 そう言うと黒の魔人は魔力を噴出させる。

 その魔力だけでもかなりの圧があるが、魔力に呑まれない様に此方も魔力で対応する。メンヒさんは黒の魔人の魔力を透明にして対応しているが、メンヒさんの支配よりも多く、速く噴出させており、徐々に世界が黒に染まる。


「先ずは精霊王から頂こう」

「『炎の精霊よ』」


 メンヒさんが言霊を唱えると膨大な熱量の炎が黒の魔人を包み込む。かつて手合わせした火の精霊よりも遥かに火力があるから上位精霊による攻撃なのだろうが、メンヒさんはどこからソレを捻出したのか。

 黒の魔人は黒鉄大剣を両手で持った姿で現れる。魔術師殺しとは良く言ったもんだ。精霊王の言語魔術か精霊魔術を力だけで粉砕しやがった。


「私は精霊王ユグドラシル。無を支配する私に我が子の力が扱えぬ道理があるだろうか」

「どんな道理だか知らないが、あんたが消えれば精霊も消えるってのは“ⅱ”から聞いた。面白そうな力だ、是非欲しい」

「下賤な民にくれてやる力ではない! 『氷の精霊よ』」


 メンヒさんは精密にコントロール出来るのかやや前にいる俺を凍らす事なく空間を凍結させるが、全身を魔力で覆っていた黒の魔人はソレを熱に変えて溶かす。“魔法”にもそんな使い方があるのか。俺は爆発力ばかりに目を取られて、自己強化系や間接攻撃系には注力しなかった。

 今から“魔法”を組んでも、お粗末なモノしか出来ない。なんとかこの場を凌いで次の為にしなくてはならない。


「ヤクロ殿は退避を! 此処は私が――」

「逃げられないし、まだ誰も此処にこれない。外が騒がしいのは夜黒が原因かな」


 クローディアさん達はもう此処に来てるらしいが、どうやら入れないらしい。さっき感じた違和感がそうさせているのか。

 いずれにせよ大規模な“魔法”を行使している事に変わりはない。“魔法”とて技術。マルチタスクはいずれ脳がパンクする。それを待つか、此処で倒してしまうか、その二択となった訳だ。


「アイツの魂、返してもらうぞ!」

「……ああ、シュレディンガーの魂か。忘れてた、そういえば、そうだったな」


 挑発のつもりなのか、本当に忘れていたのか。

 黒の魔人の背後には五つの黒い魔力塊が浮いており、かつてアイツを切り裂いた光景が想起される。ナイフで心臓を刺してやりたい気持ちを抑えて、魔力を展開して“魔力砲”を放つ。


「拙い“魔法”だ。魔術を磨いた方が幾らかマシ、だそうだ」

「“魔弾の雨”」


 メンヒさんを巻き込まない様に上空に放った魔力の塊から無数の魔弾を降り注がせるが、背後に展開した一つの塊が傘の様な形を取って防御される。

 同じ“魔法”でも此処まで差があるのか。俺では奴に手が届かないのか。そんな時、メンヒさんが動いた。


「『無の領域』」


 俺の魔弾も、黒の魔人の背後に展開してあった魔力塊も無色透明となり何にも害せないモノとなるが、黒の魔人はソレを待っていたのか黒鉄大剣を構えた。

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