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これは“世界”を救う物語。  作者: 高平めめこ
ヒトトセヤクロトイフモノ
67/260

0-2-60 英雄の実力

 魔術協会四階会議室はそのどれもが魔術によって空間を拡張されており、一番奥は今代のクローディア含む凡そ全てのクローディアが空間拡張や防御結界を張り巡らせている部屋だ。

 クローディアさんが言うご自由にとは、つまり何をしてでも新しい英雄アルマの事を信頼しろらという命令だ。ただの話し合いならその辺の飲食店で済むし、なんなら王城の一室を借りるのも手だ。


「五分前行動だが、向こうはもう着いてるみたいだな」


 現在魔術で算出した時間は八時五十五分。

 魔眼で見るに扉に誰かが触れた残滓が残ってるから、アルマは先に来たと見ていい。これで他の人間ならそいつは魔術協会に潜む何者か、という事になる。

 魔力の色はやや白い。戦闘時じゃないから輝きは薄いが、あらゆる祝福を受けているってのは本当らしい。これは“魔法”使わないとダメかもしれんなぁ。


「ヤクロ殿、私も加勢しようか?」

「おわ、メンヒさんか。いやいいよ、これは俺一人で見なきゃ納得できないしね」

「そうか、では」


 そう言うとメンヒさんは消える。


 魔力の流れとしては俺の隣に佇んでいるみたいだが、そんな人死にが出る様な話し合いなんかじゃあない。これは俺が信頼出来るかどうかの、大人のお話し合いに過ぎない。


 さて、ご対面と行こうか。


 扉を開けると一本の剣を背に掛ける青年が此方を向いて立っていた。

 この世界では比較的珍しい金髪碧眼の、全てが整った美青年の様に見える。無駄に大きく作られた訳でも、痩せ細っている訳でもない体格はトレーニングの賜物なんだろう。漏れ出る魔力は静かなモノで、この青年が落ち着いていると見れる。

 向こうは二十歳。此方の方が一回り近く年上だから、此方から声を掛けさせて貰おう。挨拶は大事だと古事記にも書いてあるとは誰の言葉だったか。


「初めまして。俺はヤクロ・ヒトトセ。ここ魔術協会に特別枠で雇って貰ってる職員だ」

「初めましてヒトトセさん。俺はアルマ・クロイツフェルト、民衆からは英雄なんて言われてるけど、やりたいのは黒の魔人を止めることなんだ」

「そうか、お前は黒の魔人を止めたいのか、なら――」


 魔力を可能な限り展開して一本だけ『速い魔力の矢』を放つ。それと同時に『夢現』を掛ける。

 突然の事にも関わらず対処できたのはこの部屋について知っているからか、クローディアさんから俺が忌み名狩りに没頭してると聞いたからか、理由は分からないがコレに対処出来るなら一応は不意打ちにも対応出来ると見ていいんだろう。

 戦闘は何も正面から始まる訳じゃあない。どんな手を使ってでも殺しに来る輩だっている。それが己の命が掛かっているのであれば当然だ。俺が殺した忌み名達もそうやって生きていたし、今尚生きている忌み名も当然そうするだろう。


「完全に不意を突いたんだがなぁ。まさか避けられるとは」

「……追撃しないんですね」

「お望みならくれてやる。だが、忌み名相手には充分戦えると判断した」

「手を合わせなくて――ッ!!」


 ほお、『夢現』も見破るか。

 この魔術は万能だが、全能ではない。声の位置や気配、姿を誤認させるが、ある程度の違和感は残る。その違和感を感じ取るのは野生に身を置いた奴や、魔力操作に秀でて自分が魔術を掛けられたと認識出来る奴など多岐に渡る。

 アルマの場合はどうだろうか。一応音は出さない様にしていたが、空気の流れでも読めるのかな?


「貴方程の実力なら、確かに大抵の忌み名は狩れますね!」


 鞘に収めたまま剣が振るわれる。それをナイフで防ぐがアルマの方が膂力があるのか弾き飛ばされる。二十代の若さが羨ましいね。


「俺相手には剣を抜く必要もない、ってか」

「実力を試されているだけなら、俺が貴方に剣を向ける理由がない」

「ほぉ、甘いな。だがその甘さ、嫌いじゃない」


 舐められたモノだ。

 一応黒の魔人を除けばこの世界で唯一の“魔法”の使い手なのだが、そうか、ならばその剣を抜かさなくてはならないな。

 こんなんでも戦えるんだぞーって見せないと、俺が前線に出られないじゃないか。それではアイツに合わせる顔がない。


「魔術じゃあ埒が開かないか、ならば埒を開けようじゃないか」


 展開した魔力を一つに集め漆黒の輝きを灯す。

 魔力圧縮の限界点を越えて尚圧縮された『魔術』を越えた“魔法”の発現。これにはアルマも見た事がない為か距離を取る。

 不確かなモノから距離を取る。実に人間らしい行為だ。その人間性を俺は褒め称えたいが、“魔法”にソレは悪手だ。


「今からお前を殺す。魔術ではなく、“魔法”で」


 明確な殺意を魔力に乗せて伝える。


 先程までとは打って変わってアルマの顔は真剣そのもの。鞘に手を掛けており、俺が“魔法”を放てば剣は抜いてくれそうだ。

 そうだ、出し惜しみをするな。黒の魔人は俺よりも高位の“魔法”を使うかもしれない。今此処で“魔法”をその身に刻み、その恐怖を忘れるな。


 これは俺からのエールだ。


「“旭連天千手砲”」


 千手の名に恥じない砲撃の弾幕。

 放たれる無数のソレはアルマから剣を抜かせる。その刀身は輝いており、上段に構えるとその輝きが増す。“魔法”の隙間を縫って此方に届く光は眩く、民衆の憂いを晴らしてくれそうだ。


「クレイヴ・ソリッシュ!!」


 たった一つの斬撃で千の“魔法”が砕かれる。


 俺の見た限りで言えるのは剣からは一条の斬撃が放たれた。それだけでレーザーみたいになって、アルマを貫かんと収束していた“魔法”が全部掻き消されたって感じかな。

 なんて迫る白い輝きを前に呆然と考えていたが、不思議と死の気配はない。腕で防げばどうにかなりそうな感じがしたし、魔眼で見てもこの斬撃はもう死んでる。


 予想より消耗していたのか白い輝きは俺の手前で消え去り、この青年の圧倒的な実力をその身で体験した。

 恐怖を刻もうとしたらこっちが恐怖したよ。これは、かなり期待の出来る英雄だと思うと同時に、己の力不足を悲観してしまう。


「ヒトトセさん!!」


 なんだ、此方の心配をしてくれるのか。


「俺、怖くて全力で放って……お怪我はありませんか!?」

「生憎目の前で光は霧散したよ。全く、恐怖を与えようとしたらこっちに跳ね返ってきた。認めるよ、アルマは凄く強い。勇者とクローディアさんと一緒に黒の魔人を倒してくれ」

「……ヒトトセさんは手伝ってくれないんですか?」

「俺ァ力不足だ。とっておきの“魔法”も砕かれた。精々が斥候、その程度だな」

「実は――」


 アルマが何か言いかけた時会議室の扉が勢い良く開かれる。見てみると警備員さんと職員さんだ。何か問題でもあったのだろうか。


「何か問題でも?」

「何か問題でも? じゃありませんよ! ヤクロさんの魔力で計器が狂ってるんです!!」

「あー、それは問題だ」

「早く直して下さいね! 私達だけじゃ足りないんですから! あとアルマ様も凄い魔力でしたね、手伝って貰いますからね!」


 職員さんに俺とアルマは腕を引かれて魔術協会の計器直しに励んだ。今度クローディアさんに魔力を遮断する結界を張るように頼んでおかなくては。

 アルマは何か言いたそうにしてたが、英雄の悩みを解決出来る程俺も生きちゃいない。ムキになって剣を抜かせようとしたし、俺もまだまだ子供なんだよ。

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