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これは“世界”を救う物語。  作者: 高平めめこ
ヒトトセヤクロトイフモノ
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0-2-58 勇者召喚

 シュレディンガーが亡くなってから二年が経った。

 俺は相変わらず魔術協会の特別職員と変わらないが、今では黒の魔人を追う所謂「忌み名狩り」の一人となっていた。お陰で黒の魔人呼びが定着してしまった。

 狩れた忌み名はそこそこおり、そいつらとの戦闘は非常に為になった。“魔法”の使い方を学ばせて貰った。生きる為なら手段を選ばない。不意打ちも、騙しも、なんでもありだ。忌み名達はそれぞれが独自のネットワークを有しているのか大半の忌み名情報は持っていたが、黒の魔人に関してはどうやっても出てこなかった。


 そんな激動の日々だが、アイツのいない日常はつまらない。


 今ではメンヒさんも共に行動をしており、相変わらずメンヒさんと居ると周りの精霊が活性化するが、真面目な時は無邪気な子供達もその雰囲気に呑まれて何もしてこない。


 そんな俺は現在、クローディアさんに呼ばれてアテナ王国の王城地下一階の広場にやってきていた。


「この魔術陣になります」


 クローディアさんが数日かけて描いた魔術陣。

 それは異世界から勇者の資質を持つ存在をこの世界に呼び寄せる黄泉比良坂の巫女としての秘術も用いられた位相置換の魔術。


 黒の魔人による被害が増えていく事を脅威に感じた各所の人々が遥か太古に用いられた勇者召喚を頼って、再び世界を元に戻してもらおうというのが狙いだそうだ。

 此方に来る際は任意となり、見つかるまで無限永久に発動するこの魔術は莫大な魔力が必要となるが、俺とクローディアさんがいれば暫くは持つ。

 強制的に異世界人を連れてくるから必要最低限の知識が入る様に構築されており、クローディアさんは昔の文献を手繰り寄せて遂に完成したのがコレになる。


 俺も傍で手伝ったが、どこに黄泉比良坂の巫女の力を使ったのか見当も付かない。それだけ、クローディアさんにとっては解析されたくない力だと思える。カルマを追う俺もクローディアさんと並べる程度には強くなったと思ったが、まだまだ先は長い様だ。


「23代目クローディアよ、これでこの世界に本当に勇者が呼べるのであるな?」


 この人はアテナ王国の現王様、ケーニヒ・アテナ様だ。俺はクローディアさんの小間使いみたいなもんだから発言は許されていない。王への進言は王の許した者のみの特権。初代クローディアはアテナ王国を起点として“魔法”を行使したらしく、その地位は特別な物となっている。

 勿論他国でも通用する地位だが、此処アテナ王国ではより一層強まる名前らしい。初代の使用した“魔法”がなんなのか気になるところだ。

 余りにも古過ぎて文献には残されていないそうだが、未だ解読中の十二冊の魔導書には記されているかもしれないというのが全クローディアの総意らしい。


「ええ、後は私達が魔力を注げば発動します」

「では余は王座にて待つ。期限は設けぬ。エドワードは此処で行く末を見る様に」

「かしこまりました」


 因みにエドワードさんは宰相。総理大臣みたいなもんで、ケーニヒ様の代わりに色々やってる仕事人だ。ケーニヒ様の役割はその血を絶やさぬ事、国家間のトップでの会談など。政治は俺には分からん事だが、一国民としては知っておくべきだろうか。

 こんなんでも三十一の良い年したおっさんだからな。魔力のお陰か身長が少し伸びた程度で見た目に変化はあまりない。前にも言ったかもしれないが、今が全盛期みたいなもんだ。高齢冒険者が強い理由は魔力にあるのかもしれない。


「それでは夜黒さん、いきますよ」

「了解」


 階段を背にして魔術陣に魔力を込める。メンヒさんは不可視化で俺の隣にいる。クローディアさんもそれは分かっているが、エドワードさんの手前明かす訳にはいかないと黙ってくれている。

 上司に気を遣わせて本当に、頭が上がらないよ。

 外套に着いたフードを被り、如何にもそれっぽい演出で出迎えようとする。クローディアさんも何も言って来ないし、此処のメンバーで知るべきは実質クローディアさんだけなので問題無い。


「召喚に応えよ」


 魔力を流し込むこと十五分。

 エドワードさんは「まだなのか」と呟いていたが、漸く勇者様が召喚される。その数は十三人。神の使徒としては不吉な数字だが、魔導書も十三冊だし、意外と良い数字なのかもしれない。


 召喚された勇者達は俯せとなっている。彩り豊かな頭髪をしており、日本人らしさはない。同郷に会えると思っていたんだが、残念だ。


 だが、一人が顔を上げると俺は驚いた。


 頭髪、瞳の色こそ違えど、俺のクラスメイトだった存在の顔だ。制服も同じだし、名前が独特だから未だに覚えているだけで、そこまで親しくもないが、確かにクラスメイトの男子だ。確か名前は須藤正義(すどうせいぎ)

 まさか俺のクラスメイトの別世界線が召喚されるとは思ってもみなかった。顔を見合わせてお互いを確認している様子を見守っていると、その中には黒髪黒眼のままの冬美、俺の彼女の姿もあり、なんて声を掛けて良いのか分からなくなる。


「コバルトって神の言う通りなら、此処がアテナ王国、でいいんですか」


 声を上げたのは正義だった。


 コバルトなる神も知らない――そういえば俺を此処に寄越したあの神が友達とか言ってたか? 然程重要じゃない記憶は薄れてしまう。兎に角こいつらも神の恩恵を得ているのは今の発言で確認出来た。


 確かにこのクラスなら正義が表に立って行動するだろう。こいつらは仲良し三人組だが、ちゃんとトリオで来たらしい。他にも顔見知りが此方を向いているが、俺はフードを被っているから認識されていない。


 話を円滑に進める為にフードを脱ぎますかね。


「や、夜黒!? 神様は確かに居ると言ってたが、まさか此処で会えるなんて思ってなかったよ。トラックに轢かれたって聞いた時はびっくりしたんだ」

「……そうか。だが俺はこうして元気にこの世界で生きてるよ。冬美、時間があれば話したい事がある」

「え、あ、はい」

「此処から先は俺達も理解してないんだ。夜黒と、そこのお嬢さんとお兄さんが案内してくれるのかな?」


 エドワードさんはお兄さんと言われて若干機嫌が良いのか、俺が勇者達と知り合いという事を聞く事なくこれからの段取りを話す。

 

 簡潔にまとめると王様と謁見して騎士団の下で戦闘訓練をしてから各々の得意とする分野を伸ばし、簡単なダンジョン攻略をしてもらう。その後、黒の魔人を狩る。


 エドワードさんに連れられて勇者達が謁見の間へ向かう前に、未来固定を使って最後列に居る冬美に魔術で印字した紙を誰にも見られない様に渡す。

 勇者を見た限り、冬美だけは転移による恩恵を最低限しか受けていない。戦闘は出来ないだろうし、あいつらがカラフルな頭をしてるのに一人だけ黒髪黒眼な冬美にとある賭けをした。


 もしこれが的中すれば、冬美は孤立とまでは行かないが、自分の無力を嘆くだろうから、念の為の保険だ。あいつは何も出来ないならその中で出来る事を見つけ、決して諦めない女だ。

 制服だったから年齢は高校生。何年かは分からないが、俺と冬美は親の言い付けで幼稚園の頃から付き合いという物をしている。中学に上がって向こうから好きだと改めて言われたから、一応まだ付き合ってるはずだが、果たしてどうなる事やら。


「冬美という勇者様とは随分仲が良いのですね?」

「世界線が被っていたら一応彼女だからな」

「数奇な縁もあるものです。後はアルマ様と騎士団の方々に任せましょう。……個人的な事には目を瞑ります」

「はは、申し訳ない。だけど冬美だけ圧倒的に力が無かったもんでね」


 クローディアさんもソレには気付いていたらしい。


「恐らく彼女はこの世界での言語適正と、基礎魔術しか使えないでしょう。勇者様と言えど、それが許されるかは分かりませんね」

「保険は掛けておくに限る」


 クローディアさんは俺が以前より慎重になっている事について咎める事は一切無い。寧ろそうあるべきと勧めてくるくらいである。だからさっきの手紙も運良く渡せた。


「夜黒さんのしたい様にして下さい。勇者様はあくまでスペア。黒の魔人討滅はアルマ様と私で行いますから」

「俺も出来る事はするよ」

「ええ、是非そうして下さい。魔法は私にはどうしようもない技ですからね。未だに私には扱えないので」


 クローディアさん共に階段を登り、謁見の間へと遅れながら向かう。それが許されるのが彼女達クローディアという存在だ。

 改めてとんでもない人と仲良くなったと自分の運命を笑う。

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