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これは“世界”を救う物語。  作者: 高平めめこ
ヒトトセヤクロトイフモノ
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0-2-55 猫人の国

「これが、北の大地……」


 一夜を明かして高度一万メートルを切ったタイミングで『飛翔』を発動する。タイミングが分かったのは常に使う事を意識していたから。

 薄く広がる雲の絨毯を抜けた先には、人の手が伸ばされていない大森林が眼下に広がっていた。


「此処は、子供達もよく遊びに来てるみたいだ。恥ずかしがり屋な子も来ているみたいだから、殆ど人類種はいないのだろうね」

「にゃはは、運良く他の人類種と離れられたんだぁ。ずぅーと昔に地殻変動が起きてね。今やここは猫人の楽園だよぉ」

「その割には黒の魔人を危険視するんだな」

「……“ⅱ”は規格外だからね」


 猫が真面目に語る。この数年で猫は“ⅱ”に造られた存在である事も、本人の話を繋げて理解した。

 猫曰く「以前のご主人様が死んだ」というのが今の俺と居る理由の一つだったはずだ。それが“ⅱ”という存在なら初代クローディアが何をしたのか知ってるかと思って聞いてみたが、その時には眠りに就いていたそうだ。


 猫の先導で進む事約一時間。

 全速力で飛行したからかなりモンス山脈が後ろに見える。側から見たら本当に壁だな。あれを登り降りしたと思うとなんだか偉業を成し遂げた気分だ。


 防衛魔術に触れた感触がした。


「にゃは、とーちゃーっく」


 隠された場所に入るには鍵となる言葉や動作が必要だが、この猫は猫人の王。白の短杖を掲げると防衛魔術が開き、景色が変わる。

 防衛魔術が開く時間は短いため手早く魔術の内側に入る。すると猫が丁度良いからと結界を張る。


「にゃー、『人避けの結界』」


 ごくごく簡素な魔術だが、猫は自然から魔力話汲み上げる術式を用いて結界を張る。猫の話を信じるのであれば、猫は二万年は眠っていた事になる。そして、万年単位で保つ魔術だからこれで理不尽な存在でもない限り侵入は不可能だろうとメンヒさんも太鼓判を押す。

 あれは魔力の輝きと色を見て判断するしかないが、辺りの木々に作用している事くらいしか分からない。注視しなければ結界がある事にも気付かないだろう。


 速度を落として進んでいると、やや先の方に森の一部がくり抜かれた場所が見える。猫もあそこを短杖で指しているから、あそこが猫人の国なんだろう。

 掌サイズの数千人、と言う割には中々広く場所を取っているな。某夢の国よりも遥かに広いが、そんなに必要だろうか。流れ着いた人もいるらしいから、その人達が開拓したのかね。


 飛行速度をさらに落として近づき、国の真ん中に立つ白い城の前へと降り立つと、俺達を感知していたのか沢山の猫人が群がる。


「おーさまおかえりー」

「にゃんだかひさしぶり〜」

「おしろのおそうじはちゃんとしてたの、えらい?」


 わちゃわちゃと群がるやる気のない猫人達。浮遊する姿勢も四肢をダラリと垂らしており、中には猫の頭に乗る猫人もいる始末だ。こんなにゆるいのか。猫も独特と言えばそうだが、猫人達はみなダウナーな感じだ。

 すると後ろの方から普通の人間サイズの存在が十数人現れる。その顔はどこか悲壮感を漂わせている。


「貴方が猫人族の王ですか」

「私達は世俗から迷い、ここに辿り着いた流れ者です」

「私達は人の世に戻るべきなのでしょうか」


 不安に塗れた声だった。

 彼等の王から出て行けと言われるのではないかと怯えているのが良く分かる。だが猫はそんな事しないと俺は知ってるいるし、猫が告げる。


「にゃはは、みんなと仲良くしてくれてるんでしょ? 此処にいなよ。僕は基本クロ、この人に着いて行くけどね」

「有難きお言葉……!」


 猫が許しを出したら皆が笑顔になった。

 やっぱり猫人の楽園に自分達が居てもいいのか不安になっていたんだろうな。確かにこの国に人間は似合わない。猫人は、猫を除けば人間とは大違いの存在だ。


 纏わりつく猫人を人間達に預けて猫の城に入ると、いきなり巨大かつ豪華なベッドの置かれた間取りになっている。見たところ城の形をしているだけで、この一室しか存在しない様だ。

 隠し扉とかも魔眼で見つけられるが、そういうのも無いから本当に寝室のみのワンルームキングダム。猫らしいと言えば猫らしい。


 メンヒさんは大き過ぎるという理由で猫の生み出したマメネコによる案内で外の小屋を宛てがわれていた。


「にゃはは、クロは此処で寝ていーよ」

「そうか、寝やすそうなベッドだな」

「にゃー、誰かとこのベッドで寝るなんて初めて」


 丁寧に整えられたベッドにダイブする猫。どうやら寝具は人間達や猫人達がこまめに天日干ししていたからか、猫はゴロゴロと音を鳴らし、器用に布団を巻き取って包まる。

 魔力も自然のモノが染み付いているから、きっとあの人間達は猫人の特性を理解して接しているんだろうな。猫も自然豊かな場所の方が元気だし。


 布団は一枚しかないが、ベッドに空きはあるから俺も横になってみる。布団もあれば最高だが、猫が使ってるから仕方がない。


 おお、これは中々、見た目に引けを取らない寝心地だ。


 猫が厳選したらしく、当時の職人を拉致して造らせたそうだ。その職人は可哀想だが、手を抜かないのが職人なこだわりなのかとても寝心地の良いベッドである。


「そういえば、あの人達はどうやって此処に来たんだ?」

「にゃー、それはね、此処の性質を利用して迷子になって帰る場所を失くした人達を山の向こうの森と此処を繋げて招いてるんだ。その逆で、猫人も外に行きたい子は山を登らずに向こうに出てるんだ」


 そうなのか。

 魔術の仕組みについて猫に問おうとしたが、猫が此方に向き猫耳をペタンと閉じる。これは眠くなってきたサインだな。


「にゃはは、国の案内とか考えたけど、もう眠くなってきたや」

「布団貸してくれよ」


 猫がベッドの上で左右にゴロゴロと転がるからこっちに向かって来たタイミングで抱き止め、布団の中に潜る。


「にゃ!?」

「良いだろ、別に」

「にゃ、にゃ……」


 何やら猫が言いたそうにしているが眠りに就いた。







 滞在して三日が経ち、精霊の恩恵が目に見えて受けられる様になった。猫人はエルフと違って精霊の活性化には興味がないらしく、特にお祭りとかはおこらなかった。


「にゃはは、僕くらいだよ、元気なの」

「そうだな。お前が異質なのはなんとなく理解してたが、此処まで違いがあるとはな」


 目の前では大きな桶の中に並々と注がれたお湯の中に入る猫人達が数百人いた。それに対して人間三人がかりで泡でマメネコ状態となっている猫人の身体を洗っており、メンヒさんも面白そうだと加わった。

 猫人の洗浄は此処に住まう人間の仕事の一つであるそうで、性別のない猫人達は全身を隈なく洗われていく。慣れた三人の手つきは病みつきだそう。

 因みに此処に住む全員はマッサージが非常に上手だった。疲労が見えると言われて受けたマッサージは確かに病みつきになりそうだった


 巨躯のメンヒさんが加わって四人で猫人を洗う光景はなんとも言えないものだ。

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