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これは“世界”を救う物語。  作者: 高平めめこ
ヒトトセヤクロトイフモノ
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0-2-54 山登り

 旅を始めて数週間が経った。

 歩くよりも圧倒的に楽ちんな『飛翔』で巡る世界は美しく、特に現代日本でも滅多にお目にかかれない様な大自然を観光で見るのは心が動く物があった。

 今まではエルフ探しとかでしか自然を見れていないからのんびりと見れるのは何気に初めてだったりする。


 そう考えると今までは仕事のしすぎなのだろうか。


 なんだか魔術協会のブラックな面を感じてしまいそうだから思考を切り替えるが、兎に角自然は心を清めてくれる。マイナスイオンを感じるのと同様、澄んだ魔力の下で瞑想をすると体内が浄化された気分になる。


「にゃはは、猫人の里による?」

「良いのか? 俺を招いて」

「にゃふん! 僕が居れば何の問題も無いよ! それに、結界そろそろ張り直さないと黒の魔人が見つけそうな予感がしたからね」

「そういう事なら向かおうか。マメネコの国……もふもふしてそうだな」

「にゃはは、みんなマメネコになれるけど基本は人の形してるよ。まあ、手の平サイズではあるけど」

「そうなのか……」


 マメネコに群がられる自分を想像したのに、そうか……人型なのか、残念だ。マメネコは戦闘で使い捨ての如く扱われているが、個人的にはこの世界で一番かわいいと思う生物だ。

 凍結案件で南の雪原に赴いた時にはペンギンが俺を仲間だと認識して大行列を成していたのも、かわいかったな。


 猫人の国は、国というだけあってかなり広大らしい。北の大地を広々と確保しており、箱庭の様に防衛魔術を掛けているそうだ。外の世界へ、という欲求は薄く、悪意のない人間が偶に迷い込むから世話をさせているのだとか。

 人口はそんなに多くなく、数千。人の掌に乗れるサイズだから住処も小さいそうだが、猫の家――王様らしいから城――は普通の人類種と変わらないそうだ。


「にゃー、帰るのは久しぶりだなぁ」

「少なくとも十数年は帰ってないだろう?」

「にゃはは、あの祠にはうんと長く居たから、忘れちゃったや」


 面白い事が好きなこいつがうんと長くあの祠に居たのか。果たして何年程なのか気になる所だが、こいつの記憶は殆ど寝ていたくらいしか語らない。

 なんであの祠に居たのかも何年か前に書いたが、はぐらかされてしまったし。触れられたくない部分は人ならばある、その一つがそれなんだろう。


 北の大地は山脈を越えなくてはならない。

 アルプス山脈みたいなのが自然の壁として反り立っており、北は特に発展もしていないから、トンネルもなければ、ロープウェイもない。つまり、国もない。


 標高は猫曰く平均一万二千メートル。

 低酸素が気になるが、魔術で周囲の空気を操作すればどうにでもなる。魔術師にとって環境の変化は敵ではなく観察対象だ。西大陸への進出を考える人が殆どだから生まれた言葉だな。

 だがそれは俺にも出来る事で、問題はない。特別な技術は必要無いのがこの魔術『恒常的な空間』の利点だ。魔術学園の子達でも五分は発動できる。長時間作用させるには大量の魔力が必要となるだけで、基本的な魔術の一つだ。


 現在地は東大陸の中でも比較的西に位置する森の中。

 科学文明が発展していないから自然は多く残されている。その中でもこの森は一等清らかな森だと言える。

 魔眼で見ると精霊の痕跡が至る所にある森だ。神聖さは地元民にも知れているのか、あまりこの森には人が入らない。


「ここからなら、全速で迎えば麓には今日中に着くだろうな。見たいものは見れたし、俺としてはそっちを優先して良いんだが」

「にゃー、それなら一気に行こう!」







 現在は北の大地手前の山脈――モンス山脈。頂上は残念ながら夜間という事もあって見えないが、その麓へとやってきた。北は寒いと思ったが、この世界はそうではないらしい。

 現在は休息を兼ねての睡眠時間だ。見張りは俺が担当。

 猫は寝袋の中に収まっており、スヤスヤと寝息を立てている。この辺りは魔物もあまりいないから結界を張って一緒に寝ても良かったが、なんとなく今日は起きていようと思った。


「黒の魔人、ねぇ……」


 この世界では様々な出会いを繰り返しているが、あの子程鮮烈な出会い方をしたのは……いや、メンヒさんも鮮烈と言えるかも知れない。この二人は別格な出会い方というか、なんというか。


「メンヒさんは何してるのかなぁ」


 あの子の事も気になるが、メンヒさんも気になる。

 あの人は精霊王で、嘘偽りなく悟りを開かんとしていた人だ。仏教は、というより宗教は詳しくないが、メンヒさんは既に悟っていそうな空気を出していたが、本人ならではの違いがあるのだろう。

 ほんの少しとはいえ、行動した知人だ。この世界では、そんなのはそれこそ猫しかいない。気になる――ッ、誰か来たな。人避けの結界を無視して来るって事は、猫を起こす必要が……あの法衣に護符と笠で見えない人なんて一人しか知らない。


「やあ、ヤクロ殿。お呼びかな?」

「メンヒさん、あんたなんでここに」

「ヤクロ殿が私の名を呟いたから、では駄目かな?」

「フットワークの軽い精霊王だ……」

「ははは、精霊は自由に生きてこそさ」


 どうやら俺の魔術を真似てエルフの里を渡り歩いていたそうだ。閉鎖的な空間だからこそ得られる知識もあり、存在について深く考える様になったそうだ。

 生憎俺には全く分からない話で、適当に相槌を打つしか出来ない。それで良いとこの人は言うけれど、本当に良いのだろうか。


「そう悩む事でもないよ。ヤクロ殿はヤクロ殿のしたい様に生きれば良いのだから」

「俺のしたい様に、ねぇ」

「あまり考えても答えは出てこないものだよ。最悪を想定しても、果たしてその通りになった事はどれくらいだろうか? その程度なのさ。人の世も、精霊の世も」

「ますます分からんな」

「ははは、悩みもまた空虚なものさ。あると感じるから辛くなる。それはヤクロ殿が生み出した空虚なもの、真に考えるべきは幸せとは何かではないかな。君は少々、囚われていると見える」


 なんだかより一層この人の事が分からなくなってきた。

 だが、囚われているのは、なんとなく分かる。俺はこの数年炎雷の使い手と遭遇することばかりを考えていた。

 今も、現実逃避みたいに出会った人の事を想って紛らわせていたに過ぎない。この人、なんだか本当に悟りを開きそうだな。


「少し考えすぎたかな……」

「うむうむ、気を抜く事も大事だよ。ヤクロ殿は精霊に振り回されそうな体質をしている」

「あんたに振り回されてるよ」

「なんと」


 メンヒさんは戯けた様に笑う。

 そこで、ふと疑問に思った事を聞く。


「そういえばメンヒさんは何の属性なんだ?」

「私かい? 私は司る属性はないよ。私は無を支配しているに過ぎないからね」

「無属性って訳じゃ無いんだな」

「如何にも」


 そんな他愛もない話で夜を明かした。

 交代時間になっても猫は起きなかったが、メンヒさんと話せて良かったと思う。

 猫は起きたらメンヒさんが居て大層驚いてた。朝起きたら眼前に護符塗れの顔があればそうもなるわな。 


 朝の支度を行う。

 猫は特にないが、俺は『洗浄』で身体を清める。朝はコレをしないとすっきりしない。

 メンヒさんは杖を虚空から取り出して浮遊する。


 全員の支度が整った所で、『飛翔』を使って山登りを大幅にショートカットした。この魔術は限界高度があり、その高度はどれだけ適正があろうが、今のところ人類種は一万メートルが限界らしい。


 俺も猫も例に漏れず一万メートル付近で飛べなくなり、徒歩での登山を強いられた。普通であれば登山初心者の挑む高さではないが、残り二千メートルあるかないかなら、なんとかなりそうではある。

 『恒常的な空間』のお陰で、高所でもパフォーマンスを落とす事なく、坂道を歩く感覚で進めるが、この状態で魔物に襲われたら一溜りもない……とは言っても今回は乱入者はいない。この高さで生息する魔物は観測されていない。


「にゃはは、登山は楽しいねぇ」

「この高さともなれば子供らも来ないみたいでな、飾りは外させてもらうよ」

「澄んだ空気だ……登山も悪くないな」


 三者三様の意見。


 メンヒさんが笠と護符を外すと、以前と変わらない純白に輝く髪が現れる。前より少し伸びただろうか。元々長めの紙だから差は分からないが、伸びた気がする。


「精霊も見た目は変わるのか? 前よりメンヒさんの髪の毛伸びた気がする」

「私が特別なだけでね、他の子達は変わらないよ。この髪も切っていいんだが、切ると管理が面倒でね」

「管理?」

「人類種には関係のない話だよ」

「そっか」


 精霊にも色々あるらしい。というか精霊王なら見た目が変わるのか、この人だから見た目が変わるのか。精霊は信仰対象だから研究者は少ない。精霊こそ調べるべき対象だと思うが、世界の考え方は色々だ。


 登山の方は順調だった。

 雪山という訳でもないから、足場にさえ気をつければ少しずつ山頂に近づく。魔術のお陰で酸素不足も心配ないが、これは確かに維持するのは大変な魔術だ。魔力消費が他の魔術の何十倍もある。

 この魔術の改善が進めば西大陸の調査もかなり進むだろうが、これを発展させるなら魔力濃度を薄めた方が生存圏も確保できるわな。その考えは妥当だと思う。


「にゃー、雲よりたかーい」

「お、ほんとだ」

「子供達への良い土産話が出来るな」


 猫に言われて振り返った景色は、所謂雲海が眼下に広がっていた。絨毯みたいなその光景を生で見れるとは、登山の魅力にもっと早く気付きたかったが、魔術なしの登山は辛そうだからなと色々考える。


 太陽光を受けて煌めく雲は、もしかすると乗れてしまうのではないかと思ってしまう程だ。絶景とはこういう景色を指すのだろう。

 なんだか色々考えているのが馬鹿らしくなってきた。今は存分にこの景色を堪能しよう。考える事は、極論いつだって出来る。


 およそ二千メートルというのも中々の距離で、登るのに大分時間をかけてしまった。太陽は真上を通り越して、大体三時頃の位置にある。

 山頂に着いたという事もあり、軽めの休憩に入る。

 猫は雲の切間から見える景色を眺めて、岩々の上を飛び回っていたりしてる。街が見えるのか手を振ったりしているが、多分見えないぞ。メンヒさんは太陽を眺めており、下山に備えて護符やらを巻き直していた。


「そろそろ行くか」

「にゃー、そうだね。下に降りれれば良いけど、今日は山で野宿かなぁ」

「であれば二人とも出立を急ぐ必要もないだろう。私が見張りをするから適した場所で休むといい。人間なら尚更休養が必要だろう」

「そうだな。俺の魔力、結構使ってるからそうするよ」

「にゃ? メンヒは夜寝ちゃうよね?」

「ははは、あの時は人を模そうとしたからね。本来なら睡眠はいらないよ」


 行動が決まれば後は実行するのみ。

 俺達は下山を開始した。

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